「班を二つに分ける?」
「ええ、流石に9人全員で行動するというのは大所帯過ぎますし、それだったら日によって互いに回る地区をある程度決めて4人と5人の二班に分けたほうが効率的に回れると思うんですが、如何でしょうか?」
二日目の朝、ホテルのロビーにて集合し終わると、リィンはそうロイドへと提案していた。
「うーん、確かに一理あるが……」
そうしてロイドは考え込むような仕草を見せる。理屈の上では確かにリィンの言うとおりである、9人もの大所帯となると通りを歩くのにも中々不便となるだろうし、二班に別れて行動するほうが効率という点で考えれば一番だろう。
(だけど、課長とそれと議長からもくれぐれも万一の事がないようにって釘を刺されているしなぁ……)
二手に別れるという事はすなわち戦力が分散するという事でもある。万一を考えるなら当然固まって行動するほうが望ましいのだが、そんなロイド達の思惑を察したかのように
「そう心配なさらずとも俺もクロウもアンゼリカも、それにジョルジュにしてもトワにしても自分の身は自分で護れるつもりですよ。これでも皆士官学院生ですので、戦闘に関する訓練は一通り受けていますし、この5人で魔獣退治やらをやったことも、もう数え切れない位ありますから」
「ま、信じて良いんじゃねぇかなロイド。なんたって5日目や6日目には警備隊との演習だって予定しているんだ、下手しなくても俺たち4人よりも強いって事も十分に有り得ると思うぜ。市外ならともかく、市内で流石におおっぴらに襲撃だとかが来るって事もないだろう」
もしもそんな事になったらそれこそすぐに警察本部や遊撃士がすっ飛んでくるだろうしなとランディはリィンからの提案に乗り気な様子を見せる。そうしてロイドは少しの間思案すると……
「わかった、それじゃあ班分けをどうするかだけど」
「もちろん私はティオ君とトワと一緒の班を希望する!!!異論は一切認めない、構わないだろうリィン!君は夏に散々二人っきりで帝都でデートしたんだ!今回は私に譲ってもらう!!!」
ロイドが言い終わる前に、鼻息荒く四大名門ログナー侯爵家の一人娘、貴族の中の貴族、令嬢の中の令嬢、そんな立場のアンゼリカ・ログナーが主張する。その様はどう見ても貞淑さとは真逆である。アンゼリカが女性だったから良かったが、仮に男だった場合にはそれこそどう考えても変質者のそれなので、ロイド達は真面目に捕まえることを視野に入れねばならなかっただろう。天の女神はこの女性の生まれてくる性別を間違えたようでいて、その実深い考えの下波風が立たぬように女としての生を与えたらしい。
「ヒュー、なんだなんだ真面目な堅物だと思っていたがそういう仲だったのかよ、お前さんも案外やるじゃないか」
「いえ、今回の留学の時のように臨時で帝都で働いていただけですよ、ある種の特別課外活動みたいなものです。それは単にコイツらがデートだ何だと言っているだけです」
そんな風に二人っきりでデートしたという言葉に反応して口笛を吹きながら囃し立てるランディにリィンは苦笑しながら応じる。実際には、レーグニッツ知事から休みを与えられて二人っきりで夏至祭を見たりしたという列記としたデートも行なっているのだが、リィンとトワの中ではデートに含まれて居ないためノーカウントである。
「なんだつまんねぇな、お前さんもせっかくの学生時代なんだからもっとこう学生のうちにしか出来ない事をだな……」
「やっていますよ、帝国でも最高峰の教官達から指導を受けながら、整えられた文献を思う存分に読み漁ることが出来て、と全力で自己の研鑽へと時間を当てられるなんて学生のうちだけですから。学べるという幸福を常に噛み締めて、日々精進しています」
もっと青春しようぜとでも言いた気なランディの言葉にリィンはどこまでも糞真面目に答える。言っている事はまさしく学生の模範とでも言うべき内容なのだが、あまりに模範的過ぎてなんというか聞いている方としては引くような内容である。案の定ランディは引きつりながら「あ、そうですか。それは良かったです」等と答えている。
「うーん、そういう事なら僕もティオちゃんと同じ班でも良いかな?」
アンゼリカの熱烈な要望によってアンゼリカとティオ、そしてトワの三人が同じ班となる事は決まったわけだが残りをどうするかと言ったところでジョルジュ・ノームがそう口を開く。
「ジョルジュ……お前まさか……」
「いや、違うからね。単に導力ネットワークの話とかそういうのを色々聞きたいなと思っただけでそういうんじゃないからね?」
「そういう事なら俺はティオすけの方に行くとするからね、その面子だと妙な奴らに絡まれんとも限らん」
ティオにトワは言うまでもないがジョルジュにしてもアンゼリカにしてもパッと見あまり荒事に長けているようには見えないタイプである、実態はきちんと訓練を受けて最新式の戦術オーブメントを装備しているこの面々にそこらのチンピラ如きが相手にもなるわけはないのだが、そういったものがわからず外見で強さを推し測るものが大多数なのがその手の手合いだろう。それ故、支援課内で一番ガタイが良くて、その手の抑止力になる自分がいくべきだろうとランディは買って出る。
「ふ、私のトワとティオ君に手を出すような不届き者がいたらその時は私がこの鍛え上げた拳で地獄に送ってやるさ」
「アン、トワはともかくティオちゃんは君のものでもなんでもないからね?」
「私だってアンちゃんは大事な友達だけどアンちゃんのものじゃないよ!」
ジョルジュのツッコミなのかボケなのか判断に困る発言を聞いてトワは憤慨したように声を挙げる。
「あの、なんだか私の意志を無視して勝手に決められている気がするのですが私に拒否権は……」
昨日終始ベタベタと引っ付かれたことを思い出しながらティオが辟易とした様子で告げるとアンゼリカはこの世の終りのような顔を浮かべて
「そ、そんな……ティオ君は私と一緒では嫌だと言うのかい!?」
「正直に言いますと、はい、その通りです。正直うっとおしいです」
バッサリと切り捨てるその言葉にガーンなどと言いながらアンゼリカはその場に突っ伏す。
「た、頼むティオ君!私に駄目なことがあるなら改めようじゃないか!だから私を捨てないでくれ!!!」
「いや、捨てるも何も私とアンゼリカさんはそもそも昨日出会ったばかりなのですが……わかった、わかりましたよ」
必死に縋りつきながらまるで恋人に捨てられるような様子で懇願してくるアンゼリカ相手にティオはそれはもう大きなため息を深々とついて
「あまり過度なスキンシップはしないでください、そうすれば同行することも吝かではないです」
「ああ、承知したよ。昨日は予期していなかった喜びに聊か舞い上がりすぎた、猛省するとしよう」
そうして丸く収まった二人の様子を見てランディは
「なんというか、ずいぶんと個性的な子だよなぁ」
大貴族の令嬢という事で抱いていた貞淑な女性像昨日散々に打ち砕かれながらも未だ未練がましく抱いていたそれを今度こそ捨て去る。
「あ、あははは、でもとっても良い子なんですよ」
「ふだんはああしてふざけていますけど、アレで良い意味での貴族の誇りというか気高さみたいなものも持っているんですよアンは」
そんなランディに対してトワとジョルジュはそっと苦笑しながら友人へのフォローを入れるのであった。
「えっと、それじゃあこっちは残った四人という事になるのかな」
和やかな雰囲気で話し出した5人を苦笑しながら窺いつつロイドは改めて共に行動する事となる相手に確認を取る
「そうなりますね、よろしくお願いしますバニングス捜査官」
「えっと、良ければ名前で呼び合わせてもらっても構わないかな。君の苗字は流石にちょっと有名すぎるし、それ抜きにしてもこれからしばらく一緒に行動する事になるんだ、だったらあまり堅くなりすぎずに仲良くなれたらと思うんだけど」
「……わかりました、それでは改めてよろしくお願いしますロイドさん」
「ああ、こちらこそよろしくリィン君」
そういってリィンとロイドは互いに笑顔で握手を交わす、片やエレボニアにて軍人を目指す少年、かたやクロスベルで警官を務める青年、立場こそ違うがどちらも正義感が強く真面目で遵法意識の高いこの二人の相性は基本的には良かった。
「ふふふ、もちろん私もエリィで構わないからよろしくね」
「俺もアームブラストなんて長ったらしい苗字で呼ばれるとむず痒くなるんでクロウで構わないぜ」
かくして特務支援課とトールズ士官学院の面々は集合時刻と場所だけ決めて、二手に別れて動き出すのであった……
「ああ、ケン、ナナ……良かったよぉ……もう危ないから飛び出したりしたら駄目って言ったでしょ」
そう言って桃色の髪の少女は、わんわんと泣いている大切な弟と妹を強く抱きしめる。
「リィン君、怪我はなかったかな?」
「ええ、ロイドさんの方こそ大丈夫でしたか?」
そういってロイドとリィンの二人は軽く衣服についた砂を払いながら起き上がって声を掛け合う。
「しかし、勿論飛び出してしまった子ども達が悪かったんですがそれにしても今の車両は市内だというのにスピードを出しすぎでしたね。番号は覚えていますし、追跡調査して然るべき処罰を下すべきでは?」
先ほどの市内だというのに街道か何かだと勘違いしているかのように猛スピードを出して、あわや今泣きじゃくっている子ども達を轢きかけるところだった導力車を思い浮かべながらリィンはそう言う。察知したリィンとロイドがとっさに子ども達を庇っていなければ危うく大惨事となるところだっただろう。
「……そうしたいのは山々なんだけどな」
故にこその悪質な運転手に対する取締りと然るべき罰を与えるべきだというリィンの至極真っ当な意見。しかし、それに対するロイドの反応はなぜか鈍い。悔しそうな様子を滲ませながらため息をつくその姿にリィンがいぶかしんでいると……
「残念ながらあの人を捕まえたり処罰を与えたりすることは出来ないの、
同じく悔しさと同時に目の前の相手に告げていいものかとどこか悩むような様子を見せつつエリィがロイドに代わってそうリィンへと伝える。
「前から問題になっていて警告と注意が行っているんだけどね、それでも導力車の市内での運転についてはまだ法律が整備されていないのも合間ってそこが限度なんだ。拘留することは勿論、罰金刑にする事さえ出来ない」
クロスベル自治州がこれだけ発達して導力車も多く普及しながらも何故未だ法律の整備が追いついていないのか、それにはまたしてもクロスベルの政治上の問題が関係している。クロスベルは帝国と共和国の狭間に位置して、それを象徴するかのように議会もその2派に別れていることは周知の通りだが、此処でもその問題が噴出している。
というのも何故かと言えば帝国では車両は左側通行となっているが、共和国では右側通行と定められているためだ。もしも両国のルールが同じであれば問題はなかった、右側通行であろうと左側通行であろうとそちらにあわせてルールの整備をすれば良かった。しかし、此処で別れていたことが災いする。帝国派の議員は当然ながら帝国へとあわせる事を主張するし、共和国派は共和国派で共和国へと合わせることを主張する。
たかが車両のルールされど車両のルール、かくして議会は最初に決めるべき右側通行にすべきか左側通行にすべきかという点で真っ二つに割れ、法律の整備が全く進んでいないというのが実情であった。
「………………」
そうして告げられた事情を前にリィンは押し黙る。祖国の圧力によって不平等と理不尽を強いられている罪無き人々、そしてそんな祖国の威光を笠に来て居丈高に振舞う同国人、それを目の当たりにして一体何を言えば良いというのか。
自分にとってもそんな祖国の在り方は不本意だ等という事は出来ない。何故ならばクロスベルに来る前に宗主国の人間として自治州へと赴くつもりでクロスベルに行くと言ったのは他ならぬ自分自身なのだ。士官候補生として軍人を志すものとしてこの件について己が祖国を非難するような真似は彼には出来ない。かといって
そうしてどこか重苦しい雰囲気が場を包み込んでいると
「あの、弟と妹を助けてくれてありがとうございました!私はユウナ・クロフォードって言います。先ほど助けて頂いたケンとナナのお姉ちゃんです」
二人の幼子を連れて桃色の髪の少女がそうロイドとリィンへと輝く笑顔を向け、そう挨拶していた。
「ほら、ケンにナナもお兄ちゃん達にきちんとお礼を言いなさい、お兄ちゃん達が助けてくれなかったら本当に危なかったんだからね」
「「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!」」
ぺこりと頭を下げてそう挨拶してくる子ども達相手にリィンはどこか救われた思いを抱いて
「どういたしまして、今後はもうあんな風に道路に飛び出したりしちゃいけないぞ。お姉ちゃんに心配かけないようにしないとな」
そうしてリィンは優しくケンという少年の頭を撫でてやる。
「あの、よろしければお名前を窺ってもいいですか?特務支援課の方、ではないですよね?」
「ああ、エレボニア帝国トールズ士官学院所属リィン・オズボーンだ。クロスベルには親善の意味を込めた留学で来ている。……どうやら随分と迷惑をかけている同国人がいるようだね、同じ帝国人として謝罪させてもらうよ」
気が付けばリィンは自嘲の笑みを浮かべながらそう告げていた。言ったところでどうこうなるわけでもないし、恩人に当るリィンにそんな事を言われてもユウナも困惑するだけだというのに、言わずには居られなかったのだろう
「あ、いえいえ。そんな!リィンさんが別に悪いわけじゃないですし!」
案の定と言うべきかユウナは慌てた様子でそう告げる。そうしてロイドの方にも視線を向けて
「ロイドさんもありがとうございました!あのよろしければ四人ともうちに寄っていてくれませんか?ケンとナナを助けてくれたお礼がちゃんとしたいですし」
そう告げてくるユウナの言葉に甘えてリィン達はクロフォードの家にてささやかな休息を取った後、活動を再開するのであった。
道交法が帝国と共和国で違うためにその辺の法律の整備がクロスベルで遅れているは相変わらずの独自設定になります。