(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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メアリー教官の赴任が原作よりも一年早くなっております。
理由としては良いオリキャラが特に浮かばなかったからです。


鉄血の子と教官達

リィン・オズボーンの朝は早い。

ヴァンダールの剣術道場での早朝稽古に通うようになり、リィンの身体に染み付いた正確な体内時計は目覚ましなしでその眼を覚まさせる。起床と同時に身支度を整えたリィンは日課である鍛錬を始める、未だ中伝で武の至境ははるか遠く。立ち止まっている暇など自分にはないのだと言わんばかりに朝食の時間まで存分に汗を流す。

 

鍛錬を終えると他の起きてきた貴族生徒らと共に朝食をしっかりと取る、味、量、栄養バランスそれら全てが考えられている事が伝わる食事を毎日考え作ってくれている学生寮の管理人達には全く持って頭が上がらない。作ってくれたメイド達に感謝の言葉を述べ、軽い準備を終えると友人であるアンゼリカと共に登校。今日もトールズでの一日が始まる。

 

リィンの席は教壇の真前、本来なら誰も座りたがらないであろうこの席をリィンは真っ先に希望した、授業中の態度は真剣そのもの。トールズ士官学院は皇族の男児が通うこととなっている名門中の名門、当然ながらそこに務める教官たちは帝国において屈指と言えるだけの優秀な教官が揃っている。一言一句聞き漏らすことすら惜しいとばかりに授業へと集中する。

授業の合間に時折リッテンハイムとその取り巻き達がちょっかいをかけてくるが、軽くあしらう。言っている内容もなんら独創性や新鮮味の無いものなので、リィンにしてみるともはや関わる時間が勿体無い手合いである。成り上がりだの、文化と伝統を心得ない野蛮人などと言われても自分と父が社会的には貴族であることにむしろ不満を抱いており、芸術方面に対してほとんど関心のないリィンにしてみればなんら痛痒を覚えないものであった。

アンゼリカを始めとする一部以外のリッテンハイムの怒りを買うことを恐れた他の貴族生徒にも遠巻きにされてはいるが、そのあたりもリィンにしてみればトールズに入ると決めた時から覚悟していた事である。自分がギリアス・オズボーンの息子でありながらも、貴族クラスに所属することとなるとわかっていた時からこうなる事は覚悟の上だったのだから……

 

そうして授業が終り放課後になるとリィンは一目散に教官室へと向かう。授業で発生した疑問点を教官へと質問するためだ。リィン・オズボーンは次席入学の優等生である、彼が同世代の中で一際優秀である事は疑いようの無い事実である。だがリィンは秀才ではあるものの一を聞いて十を知れる天才というわけではない、彼が非凡と言える才を有しているのは主に軍事や剣術といった分野のみでありそれ以外に関しての彼の成績は大よそ彼自身の努力と優秀な教師からの薫陶の賜物である。当然トールズの高度な授業を受けていれば不明点の一つや二つは出てくる、それを解消するための行動であった。

 

「失礼致します、ハインリッヒ教官殿。本日の講義において不明な点がいくつかあったのですが、質問させていただいてよろしいでしょうか?」

 

ピシリと綺麗な敬礼を行いリィンは教官室へと入室する。通常の士官学校であれば当然の光景だが、色々とその辺が緩いこのトールズにおいてはそうは見ない、綺麗な姿勢での敬礼であった。

 

「ふむ、何かねオズボーン君」

 

神経質そうな表情を浮かべハインリッヒ教官はこれに答える。入学式の一件で当初こそリィンを快く思って居なかった彼だが、入学してからの数週間でリィンの糞真面目さが良くわかったのだろう、規律を尊ぶ彼としては向上心に溢れ、こうして目上への礼儀正しさを伴っているリィンは徐々にお気に入りになりつつあった。

 

「は、本日の講義の資料のこの記述についてなのですが」

 

「ふむ、それについてならばより詳細な記述がされた資料がこちらにあるのだが」

 

熱心に質問を行なうリィンとその質問に答えるハインリッヒ教頭、粗方説明をしおえるとハインリッヒ教頭は何かを思案するようにメモに数冊の本の題名を書いてそのメモをリィンへと手渡しながら告げる

 

「若干授業の範囲からは外れているが、より広範かつ詳細に知りたいというのならここに記した本を図書館で借りてよく読みたまえ。その上でわからないことがあったらまた質問に来たまえ」

 

「は、貴重なお時間どうもありがとうございました!」

 

そうしてピシリと入室時同様、敬礼を行い退室するとリィンはその場を跡にした。

 

そうしてリィンが立ち去ると不良教師(・・・・)であるマカロフは肩をすくめながら他の教官達へと話しかけた

 

「やれやれ相も変わらず熱心だねぇオズボーンは、あれだけ糞真面目なら教頭としてもさぞお気に入りなんじゃないですか?」

 

「お気に入りなどと、私がえこひいきをしているかのようにとられかねない事を言われるのは心外だなマカロフ君。私が口うるさくしているのも全てはその生徒の未来を思って事、誓って私は生徒を差別するような真似はしていない」

 

ジロリと睨みながら厳格な口調でハインリッヒがそう告げるとマカロフはすいませんね、そういうつもりじゃなかったんですよと謝罪を述べる

 

「……だがまあ彼が他の模範となるに相応しい生徒であるという点に関しては私も同意見だ、アレで貴族生徒に対する若干挑発的な部分が鳴りを潜めれば私としてもいう事は無い」

 

「まあそれに関してはしょうがない部分もあるでしょ、なんたってあのオズボーン宰相閣下のご子息だ。彼が大人しくしていたところで他の貴族生徒が放っておかない」

 

「そうですね~それに彼自身も別に貴族だからという理由で誰彼構わずに喧嘩売っているというわけではないですし、その程度は愛嬌という奴じゃないでしょうか」

 

なんだかんだで向上心の強い素直で真面目な生徒を嫌う教官というのはいない、リィンの教官陣からの評価は基本的に高かった

 

「でも、私としては少し皆さんが羨ましいですよ。あんなにも熱心な生徒だなんて教師冥利に尽きるじゃないですか」

 

自分一人だけ他の教官と違いリィンが質問に来てくれていない事を若干気にしているのだろう、芸術科目を受け持つメアリー教官はどこか羨望の色を覗かせる。

 

「おや、オズボーン君はどの授業でも真面目かつ熱心に受けていると思ったのですがメアリー教官の時だけ違うのですか?」

 

どこかとぼけたような雰囲気のある眼鏡をかけた男性、トマス教官がそう応じる

 

「不真面目……というわけではないんです。授業自体は真面目に受けていますし……ただなんと言いますか、義務だから仕方がなくやっているというか、あんまりやっていて楽しそうにしていないんですよね……」

 

少なくとも先ほどまでハインリッヒ相手に行なっていたような授業の範囲外だろうとお構いなしに貪欲にかつ熱心なリィンの様子をメアリーは自分の受け持つ教科で見たことがなかった。意識的にか無意識的にかはわからないが、既に自分の歩む道は決まっていてその道を歩いていくに当ってこれは然程重要なものではない、とでも想っているかのように。

メアリーとしてはそれが少々気にかかる、目標があるのは良い事だ、それに向かって努力していることもなんら非難されるようなものではない。ただその道を歩くだけが人生ではない、もっと色んな可能性がある事を知ってほしいのだ。まるで今歩んでいる道から外れた時点で、理想から外れたしまった時点で自分に価値など無い(・・・・・・・・・)のだといわんばかりのリィンの態度、そこに一抹の不安を覚えざるを得ない。

 

「真面目なのは良いことなんでしょうが、少しだけ心配になりますねぇ。ああいうほとんど転んだりした事が無くて、全速力で一本道を駆け抜けるような子はいざ転んだ時に大怪我を負ったり、あるいはその道の先が崖である事に気づいてもそのまま止まれずに転落してしまったりするものですから」

 

若い頃の挫折の経験、失敗の経験というのは大事である。そういった経験を一度味わっていれば必然そこからの立ち直り方も知っているものだからだ。挫折知らずのエリートがたった一度のミスでそのまま転落していってしまうというのは良く聞く話だし、トマス自身もそういう生徒を今まで何人か見てきたのだろう。そんな挫折知らずのエリートを心配する言葉を吐いていた。

 

「ま、その辺はこの学院生活の間で色々と変わることに期待するとしましょうや。なんと言ってもまだまだ入学したての一年生だ。これから先いくらでも成長の機会はありますって」

 

地方出身、中央出身、貴族出身、平民出身、軍人志望に官僚志望、あるいはそういった国家の仕事に携らず民間に就職するもの。トールズ士官学院は幅広い人材を集めて輩出している、そして若者を成長させるのは大人の導きだけでなく、同年代の友との交流が一番だ。

そんな互いに刺激しあって視野を広げてくれる友人がリィンにも出来ることを若獅子達を見守る大人は祈るのであった……




ちなみにリィン・オズボーン君は原作のリィン君がやっていたスノボーや釣りと言った趣味の類に10歳以降は一切手を出していませんし
リィン・シュバルツァー君が貴族の嫡男として学んだ茶道などと言った文化的な教養はほとんど持っていません。
大体暇さえあれば勉強か鍛錬、というかもはや鍛錬と勉強が趣味みたいな生活を送っております。
彼の趣味らしい趣味はクレイグ姉弟の演奏を休憩時間に聞くのと、英雄の伝記を読むことやクレイグ家を時折訪れる軍人さん達のお話を聞いたりする事位です。

そんな堅物エリートのため女性に対するスケコマシスキルはシュバルツァーの場合よりも大分落ちています。
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