(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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この作品では軌跡世界の実力者はハンター×ハンターの念能力者的な感じをイメージしております。
ある一定レベルになると闘気を身に纏って肉体を強化するので通常の銃撃ならばダメージ事態は受けるけど早々直撃しても死なない位の。
逆に銃の達人的な人は銃弾にそれを纏わせているので、一般兵が使うよりも威力が高い的な。

これはそうでもしないとぶっちゃけカシウスやらアリオスやらといった達人だって
マシンガンで蜂の巣にされたらお仕舞いじゃん的な無情な結論になってしまい
それだと今度は逆に一般兵がゴミのように実力者に蹴散らされていったり、生身で機甲兵やら戦車やらをぶっ壊す様がいまいち辻褄が合わないよなぁと思ったためです。
ガイが銃で撃ち殺されたのはアリオスと和解しかけたので、もう臨戦態勢をといて闘気を緩めてしまったためという事で。

あくまで本ssでの設定のため実際のところどうかはわかりません。


鉄血の子と魔都⑧

「そこまで!勝負あり……ね」

 

「く……」

 

 ソーニャ副司令のその号令にノエル・シーカー曹長ら警備隊の面々は悔しげに顔を歪める。クロスベルに滞在しての6日目リィン達は昨日のベルガード門での演習に引き続き、タングラム門での演習へと参加していた。そうして演習の締めくくりにタングラム門の警備隊の精鋭との模擬戦をリィン達は行なった。戦い自体はほぼ五分に推移、勝利の天秤はどちらに転んでもおかしくはなかったが結果は引き続きトールズ士官学院の勝利で終わった。

 自分達が帝国の士官学院生に敗北すること、その意味が良くわかって居るのだろう、警備隊の面々は悔しそうに顔を歪める。

 

「見事ね……流石はオズボーン宰相閣下の……いえ、この言い方は貴方達に失礼ね。流石は帝国屈指の名門士官学院トールズの生徒達と言うべきかしら。未だ学生の身でありながらこれほどの技量と連携を見せてもらえるだなんて、ふふふ帝国の未来は安泰と言うべきかしら?」

 

「恐縮です」

 

 ソーニャからの賛辞を受けながらリィンは若干後ろめたい思いを感じる。現状の自分達の連携は戦術リンクシステムの恩恵に依る部分が大きいからだ。一年間ともに過ごしてそれ相応の絆と連携を培ったという自負はある、されどARCUSの恩恵なしにこれほどの連携を出来るかは怪しいだろう。ある意味ではズルをしているようなものだと若干考えるが……

 

(いや、それを言い出したらキリがないか)

 

 同じ条件で戦ったらどうなるかなどと言う考えほど軍事の世界において無意味なものはない。装備の質、部隊の錬度、地形の把握そういった自分達に有利な条件を整えるのが戦略と呼ばれる分野で戦略無き戦術など有り得ないからだ。第一装備の事を言い出したら、自分は双剣、アンゼリカなど徒手空拳なのに対して向こうは最新鋭の装備に身を包んでいるのだ。ヴァンダイク元帥、アルゼイド子爵、マテウス大将と言った達人級の面々などはそれこそ剣で戦車とて粉砕することが可能な以上、一概に剣が銃に劣っているというわけではないが、それでも部隊規模での運用を考えるならばならば戦場の主役はやはり剣ではなく、銃、もっと言えば戦車であろう。剣の研鑽を積むことが決して無意味とも無駄とも想わないが、それでも戦場の主役が剣から銃といったものに映ったのは厳然たる事実。クロスベルの警備隊とリィンの装備、どちらが時代遅れの装備かと言えばそれは間違いなくリィンの方だろう。故にそういう意味で言えば装備の面ではクロスベル側が有利だったと、そう言えなくもないだろう。だからこそ装備の優劣に関する思考など無意味なものだとリィンは思考を打ち切る。

 帝国は自国の威信を賭けたメンバーとして自分達を選び、クロスベルは目の前の警備隊の精鋭たちを選んだ。そしてその結果自分達が勝った、それが厳然たる事実というものである。クロウが言った様に不利な条件だろうと勝利を求められるのが軍人で、クロスベルの警備隊はそれを果たせなかったとそれだけの話である。勝利かそれとも敗北か、戦いにおいては、明らかに人道に外れたりルールを無視するような外道は当然論外だが、それが総てなのである。

 そうして一通りリィン達に対する賞賛を述べた後にソーニャ副司令は謹厳な表情のまま自分の部下達へと視線を向けて

 

「この場においてとやかく言う気はありません。自らの不甲斐なさを一番痛感しているのは貴方達だろうから。故に私から言う事はただ一つ、これがエレボニア帝国(・・・・・・・・・・)の水準よ。今回貴方達が敗北した相手は正規軍の精鋭部隊でも皇帝陛下の直属でもない、未だ士官学院の生徒という立場の若者達。その意味を良く理解する事、いいわね」

 

「「「「「イエス、マム!!!」」」」」

 

 

 

(ああ、これは器が違うな)

 

 どこまでも謹厳な様子で告げる副司令の姿と昨日のみっともなく部下を罵倒する司令の様子を比較してリィンは否応なしに実感する。そしてこのような優秀な人物が共和国方面のタングラム門に駐屯しており、議長と蜜月関係にある無能な司令の方が帝国方面のベルガード門を担当している事と、クロスベルの議会においてハルトマン議長率いる帝国派がキャンベル議員率いる共和国派より優位にある事は決して無関係ではないだろう。リィン個人として言えば尊敬に値する有能な人物こそが、帝国にとっては不利益に働くと判断され、遠ざけられた。そして到底好感を抱けない俗物こそが帝国にとっては有益だと判断されて厚遇されているという事実、それをリィンは理解する。

 

(軍事や政治など所詮は悪魔の領分……か)

 

 兄貴分であるレクター・アランドールの教え、どこか皮肉気にそう呟き、軍人の名誉を穢すような事を度々言うレクターにリィンは不満を抱いていたが今、それらの教えの正しさをリィンは痛感する。レクターは何も自分をおちょくったり、からかったりするためだけに(そういう意図も含まれていたが)言っていたのではない。ましてや別に軍人や政治家と言った職業を貶めるつもりだったのでもない。単に自分の進む道とはそういう道(・・・・・)なのだと彼なりに忠告と助言をしてくれていたのだ。軍人等というのは往々にして嫌悪を覚える豚と握手をして、敬意に値する人物と殺しあわなければならない仕事だという事を、正義感の強いリィンのような人物こそが嫌になるような現実が待っているのだという事を。リィン・オズボーンは光と闇の混在する魔都クロスベルにて強く実感させられるのであった……

 

 

 

 

 

「持ち堪えるだけで良い!持ち堪えればじきに異常事態を察知した警備隊や遊撃士が駆けつけるはずだ!!!」

 

 そう檄を飛ばしながらリィンは襲い掛かる武装集団を双剣にて相手取る。タングラム門での演習を終え、後はクロスベルに戻るだけとなった段階で事件は起きた。リィン達の乗る導力バスがバスジャックされたのだ。それ自体は特務支援課によってすぐさま犯人が取り押さえられて解決したのだが、問題はその後だった。

 バスジャックによって本来のルートから外れ、停車したところをまるで見計らったかのように謎の武装集団が襲い掛かってきたのだ。タイヤを破裂させられバスが動けないために、即座にリィン達はバスの外に出て応戦を開始したわけだが……

 

(こいつら、ただの野盗の類ではない!)

 

 目の前の集団は明らかにそこらのごろつき崩れなどではない、統制の取れた戦闘集団であった。おそらくはバスジャック犯も目の前にいる集団のメンバーの一人だったのだろう。自分達がバスの外に出た途端、他の乗客に目もくれず襲い掛かってきた以上狙いは自分達にある事は明白だが……

 

「自分達はクロスベル警察特務支援課の者だ!君たちの目的は何だ!!!これは明確な犯罪だぞ!!!」

 

 そう、ロイドが呼びかけるも目の前の集団は答えない。この時点で政治的な思想を持ったテロリストという線は薄くなる。政治的な意図があるテロリストの類ならば何らかの声明を出す事が多数である。加えて目の前の人間たちの行動もどこかちぐはぐであった、リィン達の殺害を意図しているのならばそれこそ戦車砲なり爆弾なりでバス毎吹き飛ばすのが一番であった。敵はリィン達があのバスに乗っている事を知っていてバスジャックを行なった以上出来ない事はなかっただろう。武器とてこれほどの錬度と規模を持つような部隊が用意できないとは考え辛い、にも関わらずそれをしなかったという事は生きたままリィン達を捕らえること、すなわち誘拐が目的かと思うが、しかし目の前の敵は明らかに死んだとしても構わないという意図で攻撃を行なってきている。故にリィン達を誘拐することが目的というわけでもない。

 リィン達の誘拐と殺害、そのどちらもが主目的というわけではない、その上で爆弾などで吹き飛ばしては不味い理由が存在する。これらの条件に当て嵌りそうな敵の目的と言えば……

 

(狙いはARCUSか!)

 

 すなわち帝国がラインフォルト社、エプスタイン財団と協力して開発を推し進めている次世代の戦術型オーブメント、その奪取にあるのだとリィンは見抜く。実際ARCUSの恩恵は絶大である、これを装備した部隊はそれだけで連携のレベルが跳ね上がる。本来なら数年単位の訓練によってようやく培われる筈のものが、数ヶ月足らずで身につくようになるのだ、戦場に齎される新たな革命となり得るだろう。さしずめ敵の正体は共和国に雇われた猟兵団と言ったところだろうか。

 しかし、それがわかったところでどうにもならない。弾丸の嵐を双剣で捌き続けるが、当然捌ききれないいくつかがリィンの肉体へと当る。臨戦態勢となり闘気を纏い肉体を強化した状態の今のリィンにとってそれは一発やそこらで致命傷になるようなものではない、しかしこのまま攻撃を受け続けていればいずれは限界が訪れるだろう。故に守勢に徹するのではなく、どこかで攻勢に出る必要があるのだが……

 

「リィン君!」

 

 

「問題ない、この程度の攻撃、何万発喰らおうが俺の命には届かない。トワはそのまま導力魔法で援護してくれ!!!」

 

 背後にいるトワとの存在、それがリィンに攻勢に出る事を躊躇わせていた。この一年の間に実力をつけてきたとはいえ、トワは自分やアンゼリカのように闘気によって肉体を強化することを不得手としている。今、自分が守勢に徹しているからこそなんとか凌げているが、攻勢に出れば当然敵の攻撃のいくつかが向かうだろう。そして自分にとっては我慢すれば耐えられる程度の攻撃もトワにとっては致命傷へとなり得る。

 こうした状況の際に普段なら突破口を切り開くのが遊撃の役割を果たしていたクロウとアンゼリカだったのだが、最初の奇襲で分断されてしまい二人もジョルジュの援護を受けながら目の前の相手に手が一杯で、それは特務支援課も同じだ。だからこそ、リィンは攻勢に移れない。

 

(いや、落ち着け、時間はこちらに味方する)

 

 バスジャックという派手な手段に出た以上程なく異常を察知した遊撃士なり警備隊なりが救援に駆けつけるだろう。故に未だ攻撃をして居るのに目立った成果を挙げられていないというこの状況、プレッシャーを感じているのは自分よりも向こうの方なのだ。だからこそリィンは耐え続ける、仮にこのまま敵が最後まで同じ戦法を取り続けようとも自分の後ろに控える何よりも大切な少女を絶対に守り抜くのだと決意して。

 

 そうしてついに敵が痺れを切らす。こちらに被害の出ないアウトレンジからの一方的な攻撃、それでは救援が来るまでの間に目の前の敵手は仕留め切れないとそう判断する。故に銃から剣へと装備を変えて、敵は突撃を敢行してきた。部隊から例え欠員が出ようとも目の前の敵を仕留め、依頼を完遂するのだと言う決死の覚悟を以って。

 

(よし、それを待っていた!)

 

 敵は優秀だ。任務遂行のためならば犠牲をも厭わない、そのプロ意識、錬度の高さ、目の前の敵手は間違いなく一流所の猟兵だろう。だからこそ(・・・・・)凌ぎ続けていればそうしてきてくれると信じていた。敵がしびれを切らして攻勢に移って来るこの時をリィンは待っていたのだ。敵が接近してくる間のわずかな時間、その数秒程度の闘気を練りこむための時間が、とっておきの攻撃を放つために欲しかったのだ。

 

「トワ、援護を頼む!」

 

「うん、行くよリィン君。導力銃リミット解除、出力最大!」

 

「「レインボーストライク!!!」」

 

 そうして導力銃より放たれた七色の光に包まれたリィンは練りこんだ闘気を一挙に解放して最強の一撃を叩き込む。閃光が包み込んだその後には、地に付す敵の姿があった。

 そうして形勢の不利を悟ったのだろう、即座に指揮官と思しき男の号令によって特務支援課の面々やクロウたちの方と交戦していた敵も次々と撤退していく。深追いは危険だとリィン達も判断して、その撤退をあえて見送る。程なくして、異常を察知したタングラム門の警備隊が到着して事態は一応の終息を見るのであった。

 

 

 




次回で長かったクロスベル編も一応終りとなります。

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