長女クレア「リィンさんは……あの子では、エミルではないのに……こんな想い、どちらに対しても失礼なのに……わかっているのに私は……」
次兄レクター「俺の親父があんな事をしでかさなければあいつは、今でもきっと……」
末っ子ミリアム「リィンはおじさんの実の息子って奴なんでしょう?じゃあ僕のお兄ちゃんだねー」
ドロドロ家族鉄血の子!癒しはミリアムだけの模様
事件から一夜明けた最終日、午後の列車で帰国する事となっている一行はそれまでの短い時間、クロスベルの観光に勤しんでいた。
「ふぅ、やれやれグッズを買うだけでこんなに時間がかかる事になるとは……悪いみんな、待たせたな」
アルカンシェルのトップスターイリヤ・プラティエのサイン入りプロマイド、その他諸々のグッズをなんとか入手したリィンは疲れたような顔で劇団の近くのカフェで待たせていた面々の下へと戻る。
「ふふふ、アルカンシェルはクロスベルの誇る国際的な劇団だから。それこそ他国に熱心なファンがたくさんいる位に……ね」
どこか誇らしそうな様子でエリィはそう呟き
「意外です。そういう事には興味のないタイプの人だと思ってましたので」
如何にもお堅い軍人志望と言った様子のリィンがアルカンシェルに興味を持っている事に驚きながらティオは目を丸くする。
「ああ、いや。これは自分のためのものじゃないんだ。恩師の一人にアルカンシェルの熱心なファンが居るから、日頃のお礼と思ってね」
「ああ、なるほど麗しのハインリッヒ教頭殿か」
そのリィンの言葉に同じクラスのアンゼリカは察したように苦笑する。Ⅰ組とⅡ組のクラスを受け持つ担任でもあるハインリッヒ教頭がアルカンシェルの熱烈なファンである事を貴族クラスではある程度知られている公然の秘密である。今回のクロスベル行きの際にも彼は公私混同ではないか、遊びではないのだと釘を刺しておきながら生徒に私事を頼むなど教育者としてあるまじき事と、悩んだ末に結局リィンに直接頼むような事はしなかったが、リィンは教師思いな事に自腹を切ってプレゼントをするようだ。
「………なんというか、お前も本当に奇特な奴だよな。そこまであの教頭慕っているのってお前位じゃねぇか?」
メアリー教官辺りにとかならわかるけどよ等とクロウはなんとも形容し難い表情を浮かべながら己が親友を見つめる。トールズ士官学院において生徒からの人気は美術を受け持つメアリー教官が一番人気を誇る。その可憐な容姿と伯爵家令嬢という立場から男子生徒からの人気は絶大で、一部女子生徒からはやっかみも受けたりしているものの、基本的にはその穏やかで優しい人柄から慕う生徒の方が多い。
そして教官陣の中で生徒から最も人気がないのが口うるさく、規律に厳しい事で有名なハインリッヒ教頭である。決して悪い教師ではなく、学院や組織を回すのにあたって必要なタイプではあり、卒業して大人になればそこまで悪い先生ではなかった等と後々気づくタイプではあるのだが、そこはそれ。そういう口うるさい大人が若者から嫌われるのは、どこの時代、どこの国でも変わらぬ法則である。
しかし、そんな中そのハインリッヒ教頭に対する尊敬の念を露にする生徒がいた、あまつさえ自腹を切ってまでお土産を用意する程に。それが自分の親友だと言う事実にクロウは驚きは隠せない。
「ハインリッヒ教頭には何かとお世話になっているからな、この一年熱心にご指導いただいた。この位は当然の礼さ」
目指す進路の関係上リィンが今年度特に熱心に指導してもらったのは政治と経済を受け持つハインリッヒ教頭と軍事学を受け持つナイトハルト教官の二名である(サラ教官にも武術の稽古をつけてもらったりで色々と世話になったが、その分色々と苦労もさせられたのでリィン的にはお相子である)。ナイトハルトにもいずれ礼をしたいところだが、生憎とナイトハルトはリィン同様に物欲の薄いタイプでいまいちピンと来るものがないため、今回は見送りとしたようである。
「やれやれ、リィンは本当に何と言うか、君がプレゼントすべき相手はもっと別にいると思うんだけど」
チラリと傍らに居るトワを窺いながら、同年代の気になる少女にではなく神経質そうなおっさんにプレゼントを贈るという健全な青少年にあるまじき事を行なおうとしている友人に肩を竦めながらジョルジュは告げる
「ああ、ナイトハルト教官にはそれこそ学院に入る前からずっとお世話になっているからな。いずれ然るべきお礼をしたいところではあるんだが……」
「いや、そっちじゃなくて」
「?他に俺が誰か礼をすべき相手がいたか?ああ、特定の教官だけではなくどの教官にもお世話になっているんだから全員分買えと、そういう事か?」
「いや、だからそうじゃ………ああ、うん。まあそんなところだよ。もうそういうことでいいよ」
全くもって察しの悪い友人に深い、それはもう深いため息をジョルジュをつく。友人として塩を送れるのは此処までで、後はもう当人達が気づくのは待つ以外にないだろうと。
「ふーむ確かに、言われて見ればそれもそうだな。他の教官方にも何かと世話になっているのだ。しかし参ったな、流石にそうなると聊か予算が心もとない」
そんな友人の気遣いに気づかずに勘違いしたリィンは見当違いの方向へと走り出す。
「リィン君、そういう事なら私も出させて貰うよ。私も先生達にはお世話になっているもん」
そう、トワ・ハーシェルが笑顔で告げる。一歩間違えば賄賂と受け取られかねないところではあるが、この二人に関して言えば賄賂など送らずともほとんど最高評価の優等生なので、そのように誤解を受ける事はないだろう。こういう時に日頃の行いや信用というものが出てくるのである。
「……じゃあ、その言葉に甘えるとしようかな」
「うん、それじゃあ百貨店では一緒に先生たちへのお土産選ぼうか」
そうして一行は次の目的地である中央広場にある百貨店へと向かう。向かっている途中自分達二人を見ながら、時折ヒソヒソと話をしている支援課と友人達の様子を不審に思いながらもリィンとトワは隣り合いながら道を歩いて行くのであった。
「それじゃあ、色々とお世話になりました。短い間でしたが貴重な体験をさせて頂きました」
一通りの観光を終え時間となったリィン達は、クロスベルの駅前にてレクターと合流し、支援課の面々へと別れの挨拶を告げていた。
「ううう、ティオ君と別れなければならないだなんて……どうして世界はこんなにも理不尽なんだ……ああ、空の女神は一体何をなさっておられるのか。ティオ君、私と一緒に来て」
「丁重にお断りさせていただきます」
バッサリと切って捨てられ四大名門が一つログナー侯爵家の令嬢アンゼリカ・ログナーはその場に膝を突き、神は死んだ!等と敬虔な信徒や教会の人間が聞いたら眉を顰めて説教をし出すような内容を口走っている。放置しておくと色々と危険なので、ジョルジュ・ノームがため息をつきながらフォローへと入り出す
「色々と話せて楽しかったわ、また機会があったらその時はよろしくね、トワちゃん」
「はい、その時はもっと勉強してエリィさんに負けないようになっていますから」
「ふふふ、こっちの方こそ貴方に負けないように頑張るわ」
和気藹々と可憐な少女二人が話しているその様子を傍から見ると、ファッションやらスイーツやらと言った華々しいものを想像するかも知れないが、この二人がこの一週間語り合った内容は主に政治と経済、それもかなり高度で専門的な内容である。エリィ・マクダエルとトワ・ハーシェル、この両名はどちらもこの世代最高峰の才女と言っても決して過言ではない才覚の持ち主であった。
「・・・・・・・・・・・」
スタイルで競ったら残念ながらどう足掻いてもお前に勝ち目ないけどな、そんな軽口を思わず口走りそうになったが、クロウ・アームブラストは寸前でどうにかその言葉を吞み込む。言った日にはその場の女性陣から総すかんを食らうのは目に見えているからだ。クロウとて流石にそこまで考えなしではない
「結局今回は俺の行きつけの店にはいけずじまいか」
「頭の固い奴がいましたからね~俺としては行きたくてしょうがなかったんですが。鬼教官にしごかれまして」
肩を竦めながら告げてくるランディにクロウは大げさによよよよよと泣きながら答える。
「阿呆、士官学院生である俺らがそんなところに行けるわけないだろう」
「彼の言うとおりだぞ、ランディ。流石にまだ学生の彼らを連れて行くのは流石に問題だろう」
そんな二人にリィンとロイドはそれぞれため息をつく。そしてそんな真面目で順当な発言を聞いて二人の素行不良者はひそひそと話し出す
「知っていますかランディさん、こいつこんなさも僕女の人なんかに興味ありませーんみたいな面していますけど、すっごい美人で優しい血の繋がっていないお姉さんが二人も居るんですよ」
「おいおいおい、それは本当かよクロウ。ロイドの野郎だけじゃなくてリィンの野郎まで弟ブルジョワジーかよ。かー空の女神は何をしておられるのか!こんな不公平が許されて良いのか!!!」
持たざる者の妬み、それらを共有してクロウとランディは意気投合する。そしてそんな二人を見ながらリィンとロイドはどちらも苦笑を浮かべて
「なんというか、お互い大変ですね」
「ははは、でもアレでとても頼りになる仲間なんだ。それは君の方だって同じじゃないのか?」
有事の際にはまさに阿吽の呼吸と言える絶妙なコンビネーションを見せていたことを思い出しながらロイドは告げる
「そうですね、あいつになら安心して背中を任せられます。正直、あいつと組んで居るならどんな相手にだって負けないとそう思える位には」
クロウと一緒ならどんな強敵にだって勝てる、リィンは時折そんな風に想うことがある。もちろんそれはある種の錯覚なのだろう、5人揃って初めてサラ教官に勝てたばかりなので。現状のリィンとクロウ二人だけのコンビではおそらくサラに勝てないだろうし、ましてやそのサラ以上であろう光の剣匠や黄金の羅刹と言った帝国最高峰の実力者には及ぶべくもない。
ただそれでもリィンは時折想うのだ、
「はは、俺も同じだよ。……君もこの一週間で色々とわかったと想うが俺たちの前には大きな壁が幾つも立ちふさがっている。でも俺はきっとその壁を仲間達と一緒に乗り越えられると信じている」
「……そうですか」
爽やかな笑みでそう告げてくるロイドの言葉にリィンはどこか複雑な感情を抱く。ロイドの言った壁、その中には間違いなく自分の祖国であるエレボニア帝国が意図して作り出したものが存在するからだ。個人的な感情で言えばリィンはロイドを応援したい、祖国のために理不尽な現実に抗う支援課の面々に抱いた敬意や好意は決して嘘ではない。尊敬している、心から。だが、他ならぬエレボニアの士官候補生である自分、鉄血宰相の息子である自分がどの口で頑張ってくださいなどと言えるのかという葛藤が存在する。そうして葛藤の末にリィンは……
「こんな事を自分が言えた義理ではないのかもしれませんが、どうか頑張ってください」
素直に自分の心に従う事にした。いずれ激突しあう敵同士となるのかもしれない、相容れない立場なのかもしれない。だが、それでも、目の前の人物に対して抱いた心からの敬意、それに嘘をつくことは出来なかった。
「ありがとう、リィン君の方も頑張って。また会おう」
そうして二人は固い握手を交わす。立場が違えど、この一週間共に過ごし、語り合った時間とお互いに抱いた想い、それらは決して嘘などではないのだと想いながら……
こうしてリィン・オズボーン以下トールズ士官学院所属の生徒5名は一週間のクロスベルへの留学を終えるのだった。
「で、これで満足ですか、オズボーン宰相閣下」
帝都ヘイムダイルに存在する皇帝の居城たるバルフレイム宮、その一室でレクター・アランドール特務大尉は己が主である鉄血宰相へと報告を行なっていた。宰相閣下と呼んではいるもののその言葉には敬意は宿っていない、慇懃無礼の生きた見本とも言うべき態度であった。
「ああ、上出来だ。君の流した
「餌ねぇ……」
レクターがオズボーンより受けていた密命、それは帝国の開発した新型戦術オーブメントのテスターを務める士官学院生達がクロスベルへと留学するという事。そしてそのスケジュールを、
「襲撃こそ失敗に終わったものの、君の齎した情報が正しかったという事は向こうとて把握している筈だ。これで、君は奴らの信用をある程度獲得することが出来た」
「それを利用して二重スパイになれと」
レクターの返答にオズボーンは満足げに頷く。そんなオズボーンの様子が何故だか今のレクターには自分でもわからない程癪に障る。
「しかし、リィンの奴らが襲撃を凌げたから良かったものの、もしもあいつの手に負えないような敵が襲ってきていたら、あんた一体どうするつもりだったんだ」
「ARCUSを奪われるリスクについてか?ああ、その件に関しては心配要らない。所詮あれは試作段階のもの。この一年我が不肖の息子たちが取ったデータを元に正式な後継機がすでに完成している。故に奪われたところでたいした痛手にはならんよ、君の信用をより高めることも出来るしな」
故に何の問題もないのだと告げる目の前の男、その様子にレクターは奇妙にいらだつ。違うだろう、アンタが気にすべき事はそうじゃないだろうと
「俺が言いたいのはそういう事じゃねーよ、一歩間違えばあんたの息子は命を落としてもおかしくなかったと、そう言っているんだぜ」
父親としてそれで良いのかというレクターからのいらだち混じりの問いにオズボーンは不敵な笑みを浮かべて
「帝国の未来を担う有望な若者達が親善留学の最中にクロスベルの地で命を落とす、帝国政府としてはクロスベルの安全保障能力に対して重大な疑義を抱かざるを得ない事件だな。それも我が帝国の宿敵たるカルバード共和国の関与が疑われ、そして犠牲者の中には、かのログナー侯爵家のご息女とこの私の息子が含まれて居る。革新派と貴族派、そんな馬鹿馬鹿しい対立を超えて今こそ祖国の脅威に対して一致団結すべきなのだと、そう訴える絶好の機会となる。そうは思わんかね、アランドール大尉」
平然とそう告げるオズボーンの言葉にレクターは一瞬言葉を失う。
「……あんたはそれで良いのかよ?あいつは、リィンは」
あんたの息子だろうがと家庭教師に行く度にどこまでも真面目な様子で早く一人前になって父の力になりたいのだと、そう言っていた弟分の姿を浮かべながらレクターはオズボーンへと詰め寄るが……
「アレは軍人になるのだとそう宣言していた、ならば祖国のために命を捧げるのは本望というものだろう」
オズボーンが告げるのはどこまでもそんな冷徹な言葉。そこに父の我が子に対する温かみなどない、あるのはどこまでもこの国を統べる宰相として一士官学院生を見る言葉であった。
正しいのだろう、身内だからという理由だけでえこひいきするよりは、公人としては。やっている事は確かに外道のそれだ、だが目の前の男は今までもこの程度の策謀は幾つも実行してきて、自分もそれに加担した。
今回その犠牲となる生贄として我が子たるリィンがなるかもしれなかったと、それだけの話である。何も変わらない、目の前の男の行いも自分の行いも、レクター・アランドールにとって特別怒りを抱くような事情はない、そのはずなのだ。
ならば、なぜ
「ご苦労だった、アランドール大尉。今後とも君の活躍には期待している」
用件はこれで終りだと告げる主の言葉を受けてレクターは一礼をしてその場から退出する。自分でもわからない、鉄血宰相への憤りを抱きながら……
帝国「クロスベル君さぁ……うちの未来を担う大事な子達を君を信じて預けたのに殺されたってどういう事何だい……?」
共和国「やっぱり警備隊など役に立たないただの金食い虫なのでは?(すっとぼけ)」
マクダエル市長「その件につきましては」
ハルトマン議長「かーだから私はもっとちゃんとした護衛つけるべきだって言ったのになーかー共和国派の連中が邪魔をしたからなーかー」
無能司令「かーベルガード門の方での事件だったらこんなことにはならなかったのにソーニャの奴がなーかー!」
リィン君達がもしも死んでいたらこんな感じのノリになった模様、護衛についてて良かった特務支援課
なんだかんだで生きていますのでいびられ具合は当然ながら死んでいた場合よりははるかにマシです。
碧の軌跡の時にクロスベルを虐める時だけ妙に意気投合する宰相と大統領の姿が印象に残っています。
さしずめ帝国がジャイアン、共和国がスネ夫、クロスベルがのび太、助け舟を出していたリベールがしずかちゃんと言ったところでしょうか。