(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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オズボーン君は学習能力のあるエリートです、同じ失敗は繰り返しません。


鉄血の子と特別オリエンテーリング②

 

「あいたたたた……ガイウス、大丈夫?」

 

 エリオット・クレイグは床に打ち付けてしまった臀部をさすりながら、入学式で席が隣同士となり知り合った留学生ガイウス・ウォーゼルへと語りかける。

 

「ああ、少し驚いたがどうやら床はクッションになっていたようだからな。しかし、これが帝国流の歓迎という奴なのか?」

 

「その発言は帝国の名誉のために否定させてもらおう」

 

 悠然とした様子でどこかずれたことを呟くガイウスに、金髪の青年ユーシスが不本意だとばかりに否定する。

 

「全員、無事か」

 

 スタッという音とともに若干遅れてリィンが降り立つ。

 

「大丈夫か、じゃないですよ。もう一体なんだってこんな事を……って」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 そうして降り立ったリィンの方を皆見て、固まる。

 

「悪いが、こんなやり方をすることは俺達も聞かされていなかった。文句ならば教官に言ってくれ」

 

 憮然とした様子でリィンが言うが、違うそうじゃない。自分達が聞きたいのはそっちもだがそれ以上にとでも言いた気に一同はリィンの方を見つめる

 

「あ、あの~先輩方って本当にお付き合いされているわけじゃないんですよね……?」

 

 おずおずとした様子でエマ・ミルスティンがそう問いかけるが

 

「ああ、何故か良く勘違いされるんだが、そういった事実は現状ない」

 

「いやだって勘違いも何も……」

 

 全く以ってわけがわからんとでも言いた気に答えるリィンに、アリサはむしろ貴方が何故そう思われないと思っているのかがこっちにはわからないと言った様子を見せると

 

「リ、リィン君……そ、そろそろ降ろしてくれないかなぁ……」

 

 恥ずかしげにリィンに抱きかかえられた状態のトワ・ハーシェルがおずおずと口を開く。

 今の彼女は横たわった状態でリィンに両腕で抱きかかえられている、俗に言うお姫様抱っこをされている形であった。

 

「ああ、すまない。危ないと思ったらつい、ね」

 

「う、うん……ありがとう。でも私も自分の身位は自分で護れるからそこまで心配しなくても大丈夫だったのに」

 

 優しく降ろされてトワはリィンにそんな事を言うがリィンは困った笑みを浮かべて

 

「別に君の力量を疑っているわけじゃないんだ。ただつい、危ないと思ったら体がとっさに動いてしまってね」

 

 自分でも半ば無意識での行動だったんだと伝え、そんなリィンの言葉にトワは照れたように顔を紅くするのであった。

 

 

「ねぇ、聞いていても僕は無意識でもとっさに君を庇ってしまう位君の事が大事なんだ、って惚気られているようにしか思えないんだけど」

 

 アリサはそんなリィンの発言にしかめっつらを浮かべながら傍らに居たエマへとヒソヒソと話しかけて

 

「あ、あははは……多分本人は意識していないんじゃないでしょうか……」

 

 エマは困ったように笑いながらそれに応じて

 

「ふむ、あの身のこなし、それに身に着けている双剣……かなりの使い手のようだ……」

 

 ラウラはどこかずれた様子でとっさの動きからリィンの力量を見抜き

 

「ふわぁ……」

 

 フィーはどこ吹く風とばかりに欠伸をかみ殺して

 

 

「ふむ、なるほど。確かに大事な友の危機ともなれば自然な行動だ」

 

 ガイウスはどこか天然さを感じさせる様子で納得の色を見せて

 

「う、うーん友達ってだけでああいう行動には出ないと思うんだけど……」

 

 エリオットは昨年の冬、わざわざ家へとリィンが連れてきたことを思い出しながら苦笑いを浮かべて

 

「昨年の学園祭の時も一緒にライブを行なっていたがやはり、そういう関係なのだろうか……」

 

 マキアスは学園祭の時の様子を思い出しながら困惑した様子を見せて

 

「どうでも良いが、早くこのくだらん茶番を終わらせて欲しいものだ」

 

 ユーシスは何やらまとめ役にも関わらず惚気出した二人を冷めた目で見るのであった。

 

 

 

「全員、装備は整えたな。それではこれより二班に別れて旧校舎の探索、及び攻略を行なう。男子の方は俺が、女子の方はトワがそれぞれリーダーを務める。何か質問は?」

 

 装備を整え、簡易的な自己紹介を終え(ユーシスが自らの姓を明かした際にマキアスと険悪な空気となったがリィンとトワが間に入り一応事なきを得た)、リィンは一同の前でそう告げていた。

 

「あ、あのリィン先輩……男子と女子で分けるというのは、少々不味いのでは……?」

 

「実力の意味で言えばまず問題ない。何故ならばアルゼイドとクラウゼルの両名はおそらく、この場においては俺の次に強いからだ。多分、君よりも力量で言えば上だぞマキアス」

 

 リィンから告げられた言葉に一行の視線がフィー・クラウゼルへと集中する。ラウラの方は違和感無く受け入れられた、帝国において少しでも武に携った事のある人間ならばヴァンダールとアルゼイドの名を聞いた事がないというのはまずいないし、明らかに常人が扱うことは出来ないような大剣を携える彼女がただ者ではないというのは、一目でわかる。

 しかし、パッと見小柄でこの場においては下から数えた方が早いように思えるフィーがそのラウラに準ずる実力者だという発言に一度は驚きの色を隠せない。

 

「……ひょっとしてこれ、今から皆で行動しないと駄目なパターン?」

 

 そんな風に自らに集中した視線も意に介さずフィーはきょとんとした様子で告げる

 

「うん、サラ教官も目を光らせてくれてはいるだろうけど単独行動は危険だから」

 

「此処の魔獣程度には遅れは取らないよ」

 

「そんなに強いんだったら是非とも皆を護ってあげて欲しいなぁ。フィーちゃんみたいにみんながみんな、荒事慣れしているってわけではないだろうし。かくいう私もリィン君に比べると全然だから」

 

 優しい笑顔を浮かべながら告げてくるトワの言葉にフィーはため息をついて

 

「めんどくさいなぁ」

 

 しぶしぶと言った様子ではあったがとりあえず同行する事を了承するのであった。

 

 

 

「それにしてもさらっと今、自分がこの場で一番強いって言ったわね、この先輩」

 

「事実だからな。これでも2年生では最強と自負している身だ。同輩達の名誉のためにも後輩に遅れは取らんよ」

 

 ジト目で自身を見つめてくるアリサへとリィンは確かな自負を窺わせながら答える。傲慢になっては問題だが、過度の謙遜も逆に嫌味というもの。強者が過度に自分を貶めてはそれこそ、負けた者達に失礼というものだろう。あいつに負けたのならばしょうがない(・・・・・・・・・・・・・・・・・)と、敗者がそう思えるようにあり続けることこそが勝者の義務というものだ。ここでリィンが自身の力量を後輩たち以下だと言ってしまえば、それすなわち自分に負けたフリーデルやクロウと言った友人達も後輩以下だと言ってしまったも同然なのだから。

 そうしてリィンは静かな闘気を滾らせて先ほどからこちらを見ているアルゼイド流の後継者を見据えて

 

「もちろん、異論があるのならば正々堂々と何時でも受けて立つ。俺としても、ともに切磋琢磨し合って刺激し合える関係は望むところだからな」

 

 クロスベル留学から帰ってきたリィンは様々な事に挑戦してみた。好きになれたものもあれば、やはり自分には合わないと思ったものもあった。だがそれでもそれを実際に経験してみてよかったとリィンは思っている、色々と刺激を受ける事が出来た。そうしてその上でリィンは思ったのだ、やはり結局のところ自分は政治や経済、軍事について学ぶ事と剣術が好きなのだと。

 無理をしていたわけでは決してない、自分にとっては剣の道も学問の道もどれも楽しかったからこそやっていたことなのだとリィンは改めて気づいたのだ。だからこそ、自分の修めているヴァンダールと双璧を成すアルゼイド流、その後継者とめぐり合えたというのはリィンにとっても僥倖であった。

 

「有り難い。それではこのオリエンテーリングが終わった後、是非とも胸をお借りしたいのだがよろしいかな、オズボーン先輩」

 

 そうして不敵な笑みを浮かべたリィンの様子にラウラもまた喜びの様子を見せる。ああ、故郷を出てトールズに来て良かった、故郷での日々も充実していたがそれでも年の近しい他の門下生は師の愛娘という事で自分に対する遠慮がどこかに感じられた。此処まで気持ちの良い清廉な闘気、それを自分に向けてきてくれる同年代の相手はついぞ見つからなかったとラウラは空の女神にこのめぐり合わせに感謝を捧げる。

 

「ああ、勿論だ。名高きアルゼイド流の後継者と手合わせできるというのならばそれは俺にとっても望むところだからな」

 

 そうして高笑いでもしそうなレベルで嬉しそうな笑みを浮かべながら闘気をぶつけ合う二人に他の面々は引きつった顔を浮かべるのであった。

 

 

「と、とにかくそういうわけで女子の方の心配は要らないから平気だよ!」

 

 放って置くとヒートアップしてこの場で果し合いを始めてしまいそうな二人に水を差すべく、トワは務めて明るい声でそう告げる

 

「し、しかしですね……」

 

 それでもマキアスは何か言いた気な様子を見せるが……

 

「ふん、はっきりと言ったらどうだ。別段心配しているわけではなく、単に貴族と一緒の班など御免なんだとな」

 

 不機嫌そうな様子でユーシスがそうマキアスの言葉を遮るかのように告げていた。

 

「俺としてもやたらと吠え立てる躾のなっていない狂犬に絡まれながら進むのは御免だ。何時後ろから撃たれるかわかったものじゃない」

 

「なんだと!先輩達の顔を立てて、下手に出ていれば良い気になって!」

 

「何時貴様が下手に出たという、笑わせるな」

 

 そうして険悪な様子でにらみ合い出した二人にトワは困ったようにリィンを見つめるが、リィンもお手上げだと言わんばかりに肩を竦める。

 何というか、この二人致命的なまでに相性が悪い。どちらに非があるかと言えば元を正せば貴族相手に敵意をむき出しにしたマキアスの方なのだが、ユーシスはユーシスで一見すると如何にもな傲慢な貴族の御曹司に見えるためにあまりにマキアスのような革新派寄りの平民にとっては癪に障るのだ。トールズで一年間過ごして視野が広がったためにリィンもこうして冷静に眺めていられるが、もしも自分の入学が一年遅れていればおそらくリィン自身もマキアスと同調してユーシスを敵視していただろう。

 そうしてリィンは二人の喧嘩を眺めながらため息をつくと、トワの方を向いて

 

「トワ、こっちはこっちの方でなんとかするからとりあえず、もうそちらはそちらで先に行っててくれ」

 

「え、でも」

 

「良いから良いから、何時までもこの場に全員留まっていてもしょうがないだろ」

 

「う、うん……えっと、それじゃあ今から特科Ⅶ組B班は旧校舎地下の攻略を開始します!」

 

 そのトワの号令と共に女性陣がその場を去っていく。

 そうして去っていく女子達を見送った後、リィンはさて目の前で言い争っているこの二人をどうやって仲裁したものかと深いため息をつくのであった。

 

 

 

 

 




好きこそものの上手なれという言葉がありますがアレは真理だと思います。
いやいやそれをやっている人はそれが楽しくてやっている人には敵いません。
オズボーン君は勉強と剣術が好きなようです。とんだ変態ですね。

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