(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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本作でのⅦ組の戦闘力に関しては
ラウラ=フィー>ガイウス、ユーシス、エマ>アリサ、マキアス、エリオット
位を想定しています。

ラウラとフィーはまあ原作でもリィンと一緒にⅦ組及び学年最強格扱いを受けている
ガイウスは割りと日常的に魔獣と戦ったりしていそうな環境
ユーシスは兄上に宮廷剣術の薫陶受けてリィンからもかなりの腕と評されている
エマは魔女見習いとある程度の実戦経験ありそうなのに対して

アリサ、マキアス、エリオットの三人は都会出身でそこまで武術の経験やらもなさそうな感じでしたので。


鉄血の子と特別オリエンテーリング③

 

(ふむ、どうやら態度に裏打ちされただけの実力はあるようだな)

 

 あの後宥めるやり方では何時までたっても収まらないと判断したリィンは多少強引だが班長としての強権を発動。A班の方も遅れながらではあるが出発したわけだが、当然ながらマキアスとユーシスは「ふん」と互いに言い合いそっぽを向き合い、極力互いに顔を合さないように努めながら進むという大変に心温まる光景を披露してくれていた。

 そうして余り自分が前に出張りすぎてはオリエンテーリングの意味が無いと判断して魔獣との戦闘は基本4人へとリィンは任せたわけなのだが、ユーシス・アルバレアの実力はかなりの腕と言ってよかった。その剣筋からは彼が地道に積み重ねた確かな研鑽の跡が見て取れ、マキアスが言うところのその尊大な態度も、少なくとも自分がアルバレア家の人間だからという家格や血筋のみを依りどころにしたものではないとリィンは判断した。

 

「ふむ、見事な腕前だな。帝国は剣術が盛んだとは聞いていたが、一体どのような流派なのだ?」

 

「俺が扱っているのは宮廷剣術だ。帝国貴族に生まれた男子は主にコレを習う。帝国は武を重んじる国だ。故に貴族は上に立つものとして率先して民に範を示すべし、とまあそんな具合にな」

 

「なるほど、ノルドにおける族長こそが部族で一番勇敢なる戦士であるべしという教えと同じようなものかな?」

 

「まあ似たようなものだろう、生まれつき上に立つ事が約束されたものはそれ相応の責務を同時に示すべしというわけだ。こういった考えはどこの国や民族でもそう変わるわけではないだろう。別段貴族だからと言って遊び呆けて過ごせるわけではない」

 

 最後の言葉はそれまでの和やかなものとは打って変わった冷ややかさで、後ろにいるとある人物に向けながらユーシスは言い放つ。

 意外と言うべきか、ユーシス・アルバレアとガイウス・ウォーゼル、現在前衛をともに勤めているこの二人は中々に打ち解けているようであった。片や帝国有数の大貴族四大名門アルバレア公爵家の次男、片やノルドの族長の長男、一見すると全く接点がなく話が合わないかにも思えた二人であったが、あるいはそれが功を奏したのか中々に馬が合っているかのようだ。

 本人の生来の気質か帝国について詳細には知らないためか、あるいはその両方か、アルバレアの名にエリオットのように萎縮する事も、マキアスのように噛み付く事もなく、どこまでも泰然自若とした様子でガイウスはユーシスへと接していた。ユーシスの方はユーシスの方で気位が高いのは間違いないだろう、だがそれでもガイウスが遊牧民だからという理由で嘲ったりするような様子を見せる事もなく、ガイウスに対してあくまで対等の学友として接しているようであった。

 

「ぐぬっ」

 

「まあまあ抑えて抑えて、実際言うだけの実力はあるわけだし」

 

「しかしだなぁ」

 

 そしてそんなユーシスの挑発の言葉に苛立ちを見せたマキアスをエリオットが必死に宥める。

 後衛は後衛で同じ帝都の平民出身という事でそれなりに仲良くやっているようであった。

 

(エリオットはアレで図太いというかしたたかなところがあるからなぁ)

 

 その柔和な外見からともすると気弱なような印象を受けるエリオットであったが、アレでどうしてしたたかな奴だということをリィンは長い付き合いから良く知っていた。養父オーラフ、義姉フィオナからの熱烈なスキンシップを受ける際に義兄弟たる自分を生贄に捧げて、ちゃっかりと自分は避難しているような事が度々エリオットにはあった。今は流石にアルバレアという名に気後れしているようだが、ユーシス自身が対等の学友として接することを求めている辺り数ヶ月もすれば普通に「ユーシス」と気軽に名前で呼んでいるところがリィンにはありありと想像できるのだ。

 

(女子の方は特に険悪な様子もなかったし、こうなるとやはり問題はこの二人か)

 

 最後尾を歩きながらリィンはマキアスとユーシスの二人を見る。ガイウスとエリオットが仲立ちする形となっているため時折嫌味を言い合う程度で済んでいるがそうじゃなければそれこそ取っ組み合いの喧嘩でも始めそうな様子で火花を散らしている。

 

(いや、それともいっその事取っ組み合いの喧嘩をさせたほうが良いのかもしれんなこの二人は)

 

 いがみ合う二人を見てリィンの頭に浮かぶのは第一印象こそ最悪だったものの、今では自分に取って掛け替えのない、大切友人の中で優劣などつけられるものではないが、一番の親友にして悪友たる一人の男の姿。そしてそんな親友と出会った初っ端に今でも学院で語り草のド派手な喧嘩を繰り広げた事である。

 

(あの時思いっきり互いの胸の内をぶつけ合ったからこそその後意気投合できたわけだしな、俺達も)

 

 そういう意味ではあるいは止めに入らずに一度徹底的にやらせたほうが良いのかもしれない、そんな考えがリィンの頭を過るが……

 

(だが、流石に時期と場所が悪いな)

 

 生憎と今は特別オリエンテーリングの真っ最中、大したことはないとはいえ魔獣も徘徊しているこの場所でやらせるわけにはいかないだろう。自分とクロウの時のように両者互いにKOするまでやらせたら自分とガイウスがそれぞれ二人を背負って運ばないといけなくなるだろう。だがいずれは徹底的にやり合わせた方がいい、などと思いながらリィンは後輩たちを見守りながら進むのであった。

 

 

「ここらで一旦小休止を入れるとしよう」

 

 ちょうど道を半ばまで来た段階でリィンはそんな提案をしていた

 

「自分は別段休息を取る必要性はないが……」

 

「僕も必要ありません!蝶よ花よと育てられた貴族とは違い鍛えていますから!」

 

「……なるほど、さすがは班長。よく見ている。気づかなかったな」

 

 対抗意識を燃やして睨み合う二人に対してガイウスはリィンの言葉を受けて気遣いの視線を後衛にいる赤毛の少年に向けて

 

「良かった~そうしてもらえると助かるよ」

 

 他の3人と違い、疲労した様子を見せていたエリオットはリィンのその提案に安堵の声を挙げる。

 エリオット・クレイグは決して外見で受けるほどひ弱な男というわけではない。どのような分野であろうと身体が資本なのは変わらない、将来音楽家を目指していた彼はそれなりの体力づくりにだって取り組んでいた。新入生の中で見れば平均に位置する程度の体力はあるだろう。

 だがノルドの高原で風とともに生きてきたガイウス・ウォーゼルは言うまでもなく、貴族としての英才教育を受け研鑽を怠らなかったユーシスにしてもかなりの身体能力を有していた。マキアスの場合はこの二人ほどではないが、それでもユーシスへの対抗意識からだろうユーシスが大丈夫と言っている以上意地でも自分から休息を求めるような事はしないだろう。

 故に疲労の色を見せているエリオットを理由にしたほうが角が立つまいとリィンはそう提案をした。ガイウスはリィンに感心したように、ユーシスは学友への気遣いを自分が怠っていたことに気づいてどこかバツが悪そうにして、マキアスもどこか安堵の様子を見せながらユーシスと同様の反応を見せるのであった。

 

 

「ごめんねみんな足を引っ張っちゃって。リィンも気遣ってくれてありがとう」

 

 

「気にするな。入学したてで今までこういった荒事に関わった事がなかったんだ。慣れない魔獣との戦闘で疲弊するのは仕方がない事だ。これからおいおい体力づくりも含めて、慣れていけば良い。どうせ士官学院生、それもあのサラ教官の教え子になった以上これからもこういった無茶振りはしょっちゅうある。嫌でも慣れるさ」

 

 彼にしては珍しいどこか意地の悪そうな笑みを浮かべながらリィンは告げる

 

「ううう、いきなりこんな事やるような人だもんね……不安になってきたなぁ」

 

「ま、何かあったらいくらでも頼ってくれれば良いさ。先輩として相談には乗るからな。それにサラ教官も普段はどうしようもなくだらし無いだめな人だが、それでもその実力は本物だし何だかんだで根っこはしっかりした人だ。いざという時には頼ると良い」

 

「ふむ、随分と親しそうだが二人は古くからの知り合いなのか?」

 

 ただの先輩と後輩という関係を超え、明らからに気心の知れた関係を見せつける二人にガイウスはそう疑問を呈していた。

 

「えっとそれは……」

 

「ああ、エリオットの家に俺は5歳頃から世話になっていてな。互いに兄弟のように育った関係だよ」

 

 言っていいものかと口籠った様子のエリオットに対して特に気にした様子もなくリィンはあっけらかんと伝える。

 

「なるほど、クレイグという名、どこかで聞いた事のある名だとは思っていたがあの赤毛のクレイグだったか」

 

 赤毛のクレイグ。それは鉄血宰相ギリアス・オズボーンの軍時代からの腹心とされる帝国正規軍きっての名将である。その果断かつ迅速な用兵術による果敢な攻勢は帝国軍の中でも随一の破壊力とされる猛将で、帝国において最重要拠点たるガレリア要塞に駐屯する第四機甲師団を預かっている事からもその実力は折り紙付きである。

 そして鉄血宰相が宰相位に就く際に我が子を託す程に信頼を受けていることでも有名であった。

 

「かの鉄血宰相閣下のご子息に帝都知事閣下のご子息、そしてクレイグ中将閣下のご子息とこうして轡を並べさせていただけるとは中々に光栄な事だ。貴族風情がお歴々の名を穢してしまわないかと不安になる」

 

「何が言いたい!」

 

「別に何も。ただ革新派はとかく貴族同士の繋がりや親の特権が子に引き継がれることに批判的だが、やっている事はそれこそ貴族とそう変わらないのではないかとそう思っただけだ」

 

 革新派の重鎮、その子息が揃い踏みとでも言えるような状況をユーシスは揶揄するように口にする。まさかコレほどの面子が一箇所に集められている事、それはどう考えても偶然ではないだろうと。貴族の特権や横の繋がりを革新派は非難するが、その実自分たちの方でも息子たちに似たような事をやっているではないかと。学院長を務めるヴァンダイク名誉元帥は軍時代のギリアス・オズボーンの上官であった。軍時代の腹心からの頼みを聞いたとしても不思議ではないだろう、実際にはギリアスとヴァンダイクはギリアスが宰相位についてから疎遠となっているのだがユーシスにそれを知る由もない。

 故に特科Ⅶ組とはすなわち鉄血宰相ギリアス・オズボーンが自分の実子の栄達のために各種有力者とのコネクションを紡ぐために手を回して設立したクラスではないのかと、ユーシスはそんな風に考えたのであった。

 

「なるほど、ユーシスからは俺の父が親馬鹿を拗らせて手を回して俺のために特科Ⅶ組を作ってくれたとそんな風に思ったわけか」

 

 怒りながら今にも掴みかかりそうな勢いのマキアスを手で制してリィンは肩を竦めながらユーシスからの言葉を受け止める。

 

「違うのかな。そこのレーグニッツ殿はとかく貴族がお嫌いのようだが、親の威光という点で言えば貴方も当然受ける事になるだろう。かの鉄血宰相の実子であるという事実、それを意識せずにいられる人物などどう考えても圧倒的な少数派だ。貴方が望むにしろ望まないにしろ有形無形の配慮が当然働くはずだ」

 

 自分がアルバレアの名から逃れられないように、とそんな言葉が最後に付け加えられたように聞こえた気がしたのはリィンの気の所為だっただろうか。

 

「故に特科Ⅶ組もそんな我が父、ギリアス・オズボーン宰相の威光が働いた結果成立したものではないかと……なるほど」

 

 言われてみれば確かにそういう風にも見えるのかとリィンは納得の色を見せつつユーシスの誤解を解くべく言葉を告げる。

 

「中々に筋の通った推理だが、残念ながら外れだ。マキアスにも言ったが特科Ⅶ組を作り上げたのは理事長を務めるオリヴァルト皇子だ。革新派と貴族派の対立で割れる今の帝国にこそ、ドライケルス大帝の貴族、平民の別なくともに肩を並べ手を取り合う事のできる帝国に新たなる風を齎す事のできるトールズの理念を体現する人物、そんな者を育成するためのな」

 

 学院長より伝えられた特科Ⅶ組、その設立の目的をリィンはユーシスへと伝える。本当に一年早く入学してよかったものだとリィンはひとりごちる。これで自分もユーシスやマキアスと一緒に入学していた日にはそれこそガイウスとエリオットの二人の気の休まる暇のないこととなっていたであろう。

 

「そしてトールズ士官学院の理事には君の兄君であるルーファス・アルバレア殿もいらっしゃるし、学院長も革新派と貴族派の争いに対しては中立的だ。故に、我が父ギリアス・オズボーンの意図がこのクラスの成立に働いているという事はないよ」

 

 そう告げた後にリィンは肩を竦めて

 

「最も君の言うとおり、俺に対してそういった「鉄血宰相の息子だから」という理由での配慮が働かないと言ったらそれは嘘になるだろうがね」

 

 鉄血宰相の実子であるという事実によって受けるはた迷惑な配慮、それをリィンはクロスベルに行って嫌というほど味わった。こちらが望むと望まないに関わらずそれは今後もリィンの人生に大きく関わってくるだろう。それは+に働く面もあれば、ーに働く面も当然ある。

 

「だがそれがどうした(・・・・・・・)。俺は俺だ」

 

 そんな事はもはや承知の上だ、自分がギリアス・オズボーンの実の息子というのは紛れもない事実なのだから。悪意も好意も憎悪も媚びも、それらを余さず受け止め飲み干して、時にそれらに惑う事があっても、その上で自分は進んでいこう。

 少なくともそんな色眼鏡など一切かけずに自分をただのリィンとして見てくれる掛け替えのない親友が四人、すでに自分は居るのだから。臆する必要は全くない。

 

「少なくとも、このトールズにおいては鉄血宰相の息子である俺も、そしてアルバレア公爵の息子である君も、あるいは皇太子殿下だろうと皆平等だ。君の言うように、社会に出れば俺にしても君にしてもそういった目線がどうしても働く事になるだろう」

 

 人は生まれから完全に自由になることなど出来ない。あるいは全て放り出すという生き方もあるのかもしれないが、自分にしても目の前のユーシスにしてもそういう生き方を出来るタイプではない。

 

「だからこそ、今のうちだと思うぞ。そういうのに囚われない生涯の友、それを作れるのはな」

 

 自分にとってのトワ、アンゼリカ、クロウ、ジョルジュといった掛け替えのない友人達。例えこれから先何があろうとも、どれだけ互いの立場が別れる事となったとしても不滅だと信じられる友情を抱ける無類の友。

 特科Ⅶ組とはユーシスにとってもそんな存在を作れる事のできる絶好の機会なのだとリィンは笑顔を浮かべながら後輩たちに告げるのであった。

 

 

 

 




さてみなさん、此処で思い出してください
特科Ⅶ組に先輩たちを班長として同行させる事
すなわちオズボーン君を特科Ⅶ組と積極的に関わらせるように提案した
ルーファスの真の立場が一体どういうものなのかを。

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