(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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アルゼイド流とヴァンダール流に関しては例によって独自解釈と独自設定満載です


鉄血の子とアルゼイド

「さて、それでは御指南頂けるだろうか、オズボーン先輩」

 

 ラウラ・S・アルゼイドはそう戦意を露わにもう待ちきれないとばかりに剣を構えながらリィンを見据える。

 

「俺は特に構わないがそちらは大丈夫か、ガーゴイルとやり合ったばかりだが」

 

「それはそちらとて同じこと、ならば条件は同じだろう。私としてはせっかくの機会だ、一刻も早く我がアルゼイド流と双璧をなすヴァンダールの剣を是非とも体感させて頂きたい」

 

 告げられた言葉にリィンは不敵な笑みを浮かべて

 

「サラ教官、そういうわけですので武術教官として立会いをお願いします」

 

「……あんたも存外手が早いわねぇ。私やフリーデルだけじゃ飽き足らず、こんなに早く後輩に手を出すだなんて」

 

 ことこの手の分野となると驚くべき貪欲さを見せるリィンに呆れた様子をサラは見せる。昨年度も事ある毎に稽古を強請られ付き合わされたものだが、どうにも帝国人で剣術を嗜んでいる生徒というのは強い相手と巡り合うとすぐに剣を交えたがる傾向にある気がする。こいつら剣をコミュニケーションの道具かなにかと勘違いしているのではないか等とサラとしては幾度が思ったものだ。

 

 他の面々はといえば巻き込まれないように二人から慌てて距離をとる。エリオットなどは二人の背後に竜と虎が見えるような心境である。

 

「そんじゃまあ、お互い正々堂々とやってどんな結果になっても遺恨を残さないようにするって事で」

 

 大怪我しようものなら私がどやされるからそうなりそうな時は止めるからねー等という武術教官の承認を確認して

 

「二人とも!怪我だけには気をつけてね!特にリィン君はまた保健室に行くような事があったらいい加減ベアトリクス教官から雷が落ちても知らないからね!」

 

 目の前のどこか危なかっしくて放っておけないようなところを感じさせる大切な男の子と後輩相手にトワは心配半分、釘刺しが半分の声を聞きながら

 

「ヴァンダール流中伝、リィン・オズボーン」

 

「アルゼイド流中伝、ラウラ・S・アルゼイド」

 

 どちらともなく構えながら名乗りをあげて

 

「「推して参る!」」

 

 帝国を代表する二大流派の剣士は激突を開始した。

 

「はあ!!!」

 

 先制したのはラウラの側。打ち込まれるのは小細工不要の全身全霊の力が込められた袈裟斬り。打ち込まれる剣戟は彼女の精神を表すかのようにどこまでも真っ直ぐなものであった。並の使い手であれば為す術もなくやられて終わりのそれを……

 

「しぃ!!!」

 

 正面から受け止めるのではなく横からいなすように弾く。アルゼイドの剛剣、ヴァンダールの中でも大剣術の使い手である兄弟子のミュラーならば正面から受け止められたのだろうが、どちらかと言えば柔に寄る双剣術の使い手であるリィンの場合は正面から受け止めるには流石に些か分が悪い。故にとった戦術は受け流すように弾くことであった。

 

「見事、全力で放った一撃だったのだが」

 

 全霊の一撃を防がれたという悔しさと決して口だけではない尊敬する先達、それに巡りあえた喜びにラウラは口元を緩める

 

「散々カッコつけておいて一発目でやられたら流石にあまりにも無様というものだろう。遠慮は要らん、全力で来い」

 

「では、お言葉に甘えて」

 

 その言葉と共にラウラはリィンへと猛攻を加え始める。対してリィンはそれを巧みにしのぎ続ける。

 ともするとリィンが防戦一方かのように見えるこの状況、そうなったのは両流派の持つ特性に由来する。

 

 アルゼイドの剣とは主の敵を駆逐するための剣。アルゼイド流はそも《槍の聖女》リアンヌ・サンドロットに仕え、鉄騎隊副長を勤めたアルフレッド・アルゼイドが興した流派である。

 鉄騎隊はドライケルス大帝のいわば剣として活躍した精鋭部隊。その役割とは主たるドライケルスの道を切り開く役割が主であった。故にその剣は主の敵を打ち倒すべく攻勢に秀でたもの。必然的に先の先を取ることこそがアルゼイドの真価である。

 

 対するヴァンダール流は主を護るための剣。ドライケルスの傍らで常にドライケルスを護り続けたロラン・ヴァンダールを筆頭に皇族守護職を務めるヴァンダールの一族が興した流派である。故にその剣とは主を護るために守勢に秀でたもの。必然的に後の先を取ることこそがヴァンダールの真価である。

 

 かくして戦闘はラウラの猛攻をリィンが巧みにしのぎ続けるという状況になるのであったが……

 

「……なんかあの先輩、自分が生徒の中では一番強いんですって宣言した割にラウラの攻撃に対して防戦一方じゃない?」

 

 傍から見ればリィンが防戦一方なようにしか見えない状況を前にアリサ・Rはジト目で目の前の光景を見つめながらポツリと呟いていた。自分ならばおそらく最初の一撃を防げもせずにやられていたであろう辺り、なるほど確かに口だけというわけではないのだろう。だがそれにしても思えば先程のガーゴイル戦でも攻撃を凌ぐばかりで自分からはほとんど攻撃していなかったし、本当にそこまで強いのかというある種の疑念が彼女の中に芽生えていた。

 

「いや、一見すると防戦一方のようだがその実余裕が無いのは彼女の方だろう。最小限の動きで凌いでいる先輩(・・)の方に対してアルゼイドの方は動作が大きく激しい。どちらのほうが消耗が大きいのかは明らかだ」

 

 目の前で繰り広げられる剣戟、その光景から今それを繰り広げている二人の剣士の実力が自分よりも上だという事を感じ取りユーシス・アルバレアは若干の悔しさをにじませながら拳を握り

 

「ああ、さながら風のように巧みに彼女の攻撃を受け流しながら反撃の機会を伺っている。まるでノルドの雄大な大地のようなどっしりとした安定感、それをあの先輩からは感じる」

 

 感心したように手を口元に当てながらガイウス・ウォーゼルはどこか叙情的に目の前の光景を表して

 

「うん、有利なのはあっちの先輩の方だね。私よりも強いって言う発言もどうやら自信過剰だったってわけじゃないかも。正面からやり合ったら多分3:7で私が不利かな」

   

 ま、そういう相手なら正面からやり合わなければ良いだけだけど等と物騒な事を言いながら先程までの気怠気な様子から一変どこか真剣な表情を覗かせてフィー。クラウゼルは目の前の攻防を見据えていた。

 

「私もリィンくんが押されているなぁって思ったんだけどフィーちゃんたちから見るとそう見えるんだね」

 

 この場における上位の実力者三名からの怒涛の反論を受けて恥ずかしがるようにそっぽを向くアリサをフォローするかのようにトワはそう問いかけていた。実際口にこそ出していなかったがエリオットやマキアスにしてもアリサと同様に思っていたのでこの辺りは武術の経験が薄いものにはわかりづらい点だろう。

 

「ん。このまま行けば限界が来たところで向こうの先輩のほうが攻撃に転じて、消耗したラウラじゃそれを防げずに終わりかな。最も外野がわかっている事が戦っている本人達にわかっていないとは思えないけど」

 

 そんなフィーの言葉を証明するかのようにラウラは一旦距離を取って

 

「はああああああああああああ」

 

 このままではジリ貧、目前の相手の鉄壁の防御を貫くには生半可な攻撃では不可能。そう感じ取ったラウラは己が使える最大最強の攻撃を叩き込むべく己が剣へと闘気を収束させるが

 

「ああ、君はそうするしかない」

 

 故にそうしてくるのを待っていたのだと言わんばかりに一瞬でリィンはラウラとの距離を詰めて

 

「!?」

 

「悪いが奥義は撃たせない、これで終わりだ『クロスエッジ!』」

 

 闘気の収束を行い、無防備となったところへと双剣による十字斬りを叩き込んだ。

 

・・・

 

「そこまで!勝負あり、ね」

 

 息を切らせながら膝をつくラウラと悠然と立つリィン、その光景を見ればどちらに勝利の軍配が上がったかは一目瞭然であった。

 

「く………」

 

 結局最後まで上を行かれていた、文字通りの完敗。その悔しさにラウラはその凛々しい顔を少し歪ませる。真剣勝負の結果の敗北、別段相手を恨む気持ちなど毛頭持ち合わせていない。されどそれでも負ければ悔しい(・・・・・・・)ものなのだ。それに賭ける思いが強ければ強いほどに敗北した時の悔しさは深まる、そしてラウラ・S・アルゼイドの剣の道に賭ける思いはまさしく全霊と言って良いものであった。尊敬する父の下、幼い頃からアルゼイドの剣を習い若干17歳の若さで中伝にまで至った、普通の貴族の子女が行うような時間も剣の道へと費やしてきたその思い、生半可なものであるはずがない。故に敗北の味はどうしようもなく苦い。

 

「……いい勝負だった。結果として俺が勝利したものの、そちらの猛攻には内心何度か冷や汗をかかされたよ。あのまま押し切られたとしても何ら不思議ではなかった。機会があればまたーーー」

 

 そう言いながらリィンは目の前の後輩へと手を差し出す。そこにあるのは純粋な賞賛である、彼の言葉に一切のお世辞や虚飾はない。リィン・オズボーンは真実目の前の少女ラウラ・S・アルゼイドへと敬意を払っていた。剣を交えた相手だからこそわかることもある。ラウラの剣、それはどこまでも真っ直ぐなものであった。それは紛れもない目の前の少女の気質が反映されたものであっただろう。その在り方にリィンは好感を抱いた、目の前の少女もまた自分にとっては敬意を払うに値する真の貴族なのだとそんな風に。

 そうして差し出されたリィンの右手に対してラウラは……

 

「機会があればその時は是非ともよろしくお願いしたい。今回は負けましたが次はそうはいきません」

 

 立ち上がってから手を取って握り合いながら、そう告げる。リィンがラウラの剣からラウラの人となりを感じたように、ラウラも同様にリィンの人となりを感じ取った。どこまでも実直に磨き上げられたその剣はラウラにとっても心よりの敬意を抱けるものであった。

 負けた悔しさは当然ながら存在する。だが尊敬に値する先達へと出会えたという喜びはそれを大きく上回るものだからだ。

 

 そうしてアルゼイドの剣士とヴァンダールの剣士は互いに固い握手を交わして爽やかに笑い合う。それは戦う前の不敵なものではなく、どこまでも爽やかで清々しいものであった……

 

 




負けた後に出自だ何だので相手を侮辱するとか完全に負け犬の遠吠えってやつですよねパトリックさん!!!
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