(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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鉄血の子と歓迎会

「えーそれでは、改めて入学おめでとう。無事特科クラスⅦ組に8人全員参加という事でここに簡単ではあるけど歓迎の宴を用意させてもらったわ」

 

「用意したのは俺達でサラは何もしてないけどなー」

 

 飛ばされた野次にサラはジロリと飛ばした張本人である不良生徒クロウの方を一瞥して

 

「そこ!茶々を入れない!私は仕事で色々と忙しいの!!!」

 

「忙しさでいったらトワとリィンなんかそれこそ目が回る程忙しいはずなんですけど」

 

「ふふふ、そうだね。どこかの不良教官の分まで生徒会長と副会長として生徒手帳の用意なんてのもやっていたし、この歓迎会だってそもそも二人の企画だったし」

 

 ジョルジュとアンゼリカ、二人からの相次ぐツッコミを受けてサラは 

 

「あーあーきーこーえーまーせーん。そういう、「あの人は貴方よりも働いてますよ?」なんて言っていたらだーれも休めなくなって職場環境は悪化する一方なんだからね。私は断固としてそんな社会の闇へと立ち向かうわよ!」

 

 相次ぐ教え子たちからのツッコミを受けて威厳をかなぐり捨てた(もともとそんなものがあったかはやや疑問だが)様子でサラは叫ぶ。サラ・バレスタインとて実際働いていないわけではないのだ、今回のような修羅場に放り込んだ際にも彼女なりに万が一にならないように細心の注意を払っている。だが悲しいかな、普段の態度が理由でどうにも不真面目な不良教官というイメージが生徒の中では先行していた。無論、三人とてそんな事は理解している上であえて言っているのだが。

 

「コホン、とにかく!余計な茶々が入ったけど改めて、新入生たちの入学祝いと貴方達5人の昨年の慰労をこめて祝いの宴を用意したわ。改めて乾杯!」

 

 そういってサラは高々とグラスを掲げる。入っているのは帝国産のビール。仕事が終わった以上誰に遠慮する事もなく彼女は思う存分に飲むつもりだ。

 

「「「「「乾杯」」」」」

 

 そんなサラの号令に続いて今回の宴の準備を行った二年生5人が微笑を浮かべながら続く。中に入っているのは当然ながらソフトドリンク、学生の身でアルコールなど厳禁である。最もそんなルールなどどこ吹く風と言わんばかりの不良生徒が二人居るのだが、さすがの二人も優等生二人に説教される事が目に見えているので自重している。最も隙きがあれば何時でも教官用に用意されたアルコールを拝借するつもりだろうが。

 

 

「「「「「「「「か、乾杯」」」」」」」」

 

 おずおずとした様子で新入生の8人もそれに続く。士官学院というにはあまりにも砕けすぎている教官と生徒のやり取りに面を食らっているのだろう。特別オリエンテーリングを終えて寮へと案内された彼らを待っていたのはふくよかな青年と、銀髪のちゃらそうな青年、そしてライダースーツを来た麗人、そして先程まで自分たちと一緒に居た二人の先輩も含めた5人の先輩によって用意された宴であった。

 

 

「悪いな三人とも、それぞれの寮での歓迎会があっただろうにこっちの方を手伝ってもらって」

 

「うん、ごめんね。クロウ君とジョルジュ君は第二学生寮での、アンちゃんは第一の方でそれぞれの歓迎会があったのに」

 

 手伝いに来てくれた3人の親友、その友情に感謝と申し訳無さを覚えながらリィンとトワは謝意を告げる。

 毎年トールズにおいて入学式の後は第一学生寮でも第二学生寮でも先輩たちが新入生の歓迎会を開いて後輩達と交流を深めるのが慣わしとなっている。しかし、現在第三学生寮に所属する二年生はリィンとトワの二人のみ。生徒会長及び副会長を勤め、入学式でも当然ながら仕事があり、さらには特別オリエンテーリングの参加も決まっている二人だけではとてもではないがそこまで手が回らない。故にこうして二人と特に仲の良い三人の友人達が手伝いに来てくれたという事であった。

 

「ま、良いって事よなんたって俺達は『親友』だからな!」

 

 爽やかな笑みを浮かべて、この男にしては珍しく特に文句のつけようのないタイミングで親友というワードを使い、クロウは親指を立ててそうリィンの言葉に応じる。

 

「流石にリィン達二人だけで歓迎会の準備なんて難しいだろうからね。学生寮の皆も、二人には普段から助けられているし快く送り出してくれたよ。最も逆に邪魔にならないかが僕としては心配だったけどね」

 

 せっかくなのだし二人きりで準備させたほうが進展するのではないか、等と何時までたっても友人以上の関係から進まない二人を傍から見ているジョルジュとしては思ったりもしたのだが

 

「何を言っているんだジョルジュ、お前が邪魔なわけないだろ。お前にはむしろ導力技術関係では何時も頼ってばかりで申し訳ない位だよ」

 

「うん、それにジョルジュくんが居てくれるとそれだけで場が和むもん!助けられてばかりだよ」

 

「そういう意味じゃないし、居るだけで場が和む云々言ったらそれこそ僕よりもトワの方だと思うけど……ははは、ありがとう二人とも」

 

 友人二人からの気遣いにジョルジュは笑みを浮かべる。この二人に関してはまあなるようになるだろうしあまり気を遣わない方が良いのかもしれないなどと思いながら。

 

「ま、第一学生寮の方では優秀な使用人さんたちがたくさんいるからね。元々人手に関しては心配要らないんだよ。それにまだ学院に慣れていない新入生諸君は私のログナーという名に構えてしまうだろうからね、それならこっちに参加する方が私としても気楽なのさ」

 

 肩を竦めながら告げられたアンゼリカのログナーという言葉にⅦ組の面々にどよめきが走る。

 

「ロ、ログナーって……」

 

「四大名門の一角……ログナー侯爵家!」

 

 ログナーという名にエマが驚きの声を挙げ、マキアスは敵意のこもった声を挙げる

 

「リィンから話だけは聞いていたけど本当にそんな人と友達だったんだ、リィン」

 

 すごいなーと感心したような声を挙げているエリオット自身もクレイグ中将の息子であり、そもそもリィン自身があの鉄血宰相の息子というログナー侯爵家令嬢に負けず劣らずのビッグネームなのだがこういうのはとかく身内になるとその凄さが実感し辛いものなのだろう。

 

「ふむ、あの様子を見るに先輩方の言ってた大切な貴族の親友というのはあの御仁という事か」

 

「おそらくはそうなのだろうな、お二人曰く掛け替えのない親友というお話だったが」

 

 そんなガイウスとラウラの悠然とした呟きにアンゼリカはピクリと反応して

 

「少し聞きたい事があるんだけど、二人がそんなような事を言ったのは何時位のことだったかな?」

 

「?ふむ、確かアレは旧校舎へと集まって少し経ってからだったので……ちょうど正午位の事だったかと」

 

 そうしてアンゼリカは勝ち誇った笑みをクロウとジュルジュへと向けて

 

「ハッハッハ、どうだい聞いたかい二人共!私の言った通りだっただろう!!どうやら明日の昼食を奢る事になったのは君たち二人のようだね!!!」

 

「う、嘘だろ……ありえねぇ……」

 

「アン、君の第六感一体どうなっているの?どう考えてもおかしいよ……」

 

 愕然とした様子で打ちひしがれる二人にアンゼリカは得意気に笑いながら

 

「アッハッハッハ、これも私とトワの持つ絆と愛の力というやつさ!ハーハッハッハッハ。喜んでくれトワ!私達の絆の勝利だ!明日の昼食はこの二人の奢りさ!!!」

 

「え、えっと……よくわからないのに奢ってもらうのは流石に気が引けるっていうか……特にクロウ君なんて万年金欠だし……」

 

 目の前の光景が理解できずに困惑した様子をトワは見せるが

 

「ぐ、ちくしょう……負けたぜ。お前達の愛の力に……」

 

「うん、恐れ入ったよ。トワとアンの愛の力には」

 

「ふ、二人共何言っているのか私にはわからないよ~~~というか私とアンちゃんのはあくまで友情だってば~~~」

 

 勝利の笑みを浮かべるアンゼリカと困惑した様子のトワ、そして打ちひしがれるクロウとジョルジュ、そんな親友四人の様子にリィンは苦笑して

 

「な、貴族にも色々なやつがいるだろう、マキアス」

 

 軽く肩をポンと叩きながらと唖然とした様子を浮かべている貴族嫌いの後輩へと語りかける。

 

「あ、あのリィン先輩あそこにいるのは……」

 

「正真正銘、帝国北部ノルティア州を統括する四大名門が一角ログナー侯爵家、その一人娘様さ」

 

 どうだ存分に驚け、あそこに居る方をどなたと心得られる、恐れ多くも四大名門が一角ログナー侯爵家のご息女、アンゼリカ・ログナー様にあらせられるぞ。見えない?うん、そうだろうな。俺も見えない。等とでも言いた気にリィンはマキアスへと答える。その表情は驚くマキアスの様子をからかうようでも、己が親友を誇るようでもあった。

 

「そうだろうユーシス?同じ四大名門の人間の君なら、アンゼリカと顔を会わせたことだってあるだろう?」

 

「ええ、まあ………確かにあそこにいらっしゃるのは間違いなくログナー候のご息女殿ですね」

 

 なんとも形容し難い複雑な表情を浮かべてユーシスは答える。奔放な方であると知ってはいた。だがいくらなんでもあそこまで破天荒ではなかったはずだと。

 

「何というか変らないというか……色々と悪化しているというか……」

 

「うん?その様子だと君もアンゼリカと面識があるのか、アリサくん?」

 

 まるで旧知の仲のような様子を見せながらため息を付くアリサに対してリィンは訝しがる。身なりや所作からいって彼女がかなり裕福な家庭の出身である事は明白であった。だがログナー侯爵家の一人娘とも交流があるほどの家となれば当然限られてくるだろう。そんな家でRなどという頭文字を持つ家名といえば、リィンの頭に真っ先に浮かぶのは帝国人であるならば知らぬものは居ない帝国最大の企業で……

 

「え、えっとそれは……」

 

「まあ、君も色々とあるのかも知れんが決心が付いたら打ち明けてやると良い。見ての通り鉄血宰相の一人息子である俺とログナー侯爵の一人娘である彼女がこうして親友になれたんだ。きっと君の方も「実家なんて関係ない」といってくれる親友が見つかるだろうからな」

 

 どうやら訳ありの様子を見せる後輩の少女へ特に頭に浮かんだ推測を問い質すような真似をすることはなくリィンは穏やかな笑みを浮かべながら告げる。

 

「そういうわけでこれから二年間、苦楽を共にする仲間同士存分に親睦を深めあってくれ、この会はそういう目的で開いたんだからな」

 

 そういってリィンはまだほとんど言葉を交わしていないエマとフィーの下へと向かい出す。そんな背中を眺めるアリサ達へと

 

「立派な先輩だな~って感心しただろ?今はだいぶ落ち着いたけど昔のあいつはもっと危なかっしい感じだったんだぜ」

 

 ひとしきり漫才を終えたクロウが語りかけて来ていた。

 

「えっと貴方は……」

 

「2年Ⅳ組所属のクロウ・アームブラストだ。2年生、いやトールズの最強コンビといえば、そりゃあ、あいつと俺の事よ!」

 

 ビシリと右手の親指を立てて自分を指差しながらクロウはそう名乗りを挙げる。

 

「は、はぁ……」

 

「ど、どうも……」

 

「…………」

 

 そんなクロウの様子にアリサとマキアスは戸惑った様子を浮かべ、ユーシスは冷たい視線を送る。顔自体は二枚目と言っていい位整っているのだが、なんというかその発言とかがどうにも三枚目という印象が拭えないものであった。

 

「あ、あのリィン先輩が危なかっしい感じだったというのは……?」

 

 マキアスからの問いにクロウは待ってましたと言わんばかりに笑みを浮かべて

 

「おう、昔のあいつはそりゃもうガッチガチの如何にもエリート野郎って感じだったんだぜ。貴族生徒ともしょっちゅう喧嘩してやがるし、自分の親父や革新派が絶対的に正しいと思ってやがるし、ガッチガチの国家と軍隊の信奉者よ。当然不良生徒の俺との相性も最悪でな、大喧嘩したもんだ」

 

 一年前のリィンを思い出し、しかめっ面を浮かべながらそんな事を言ったクロウだがふいに顔を綻ばせて

 

「でもよ、同時にどこまでもまっすぐでそれでいて変な野郎でな。気がついたら他の三人共々つるむようになっていて、次第にあいつも色々と影響受けて今じゃすっかり立派な先輩様だ」

 

 そこでクロウは先程から親睦会だというのに睨み合っている二人の後輩を見据えて

 

「だからよ、お前らも焦らずゆっくりと仲良くなっていけば良いのさ。そのうち俺らみたいに「そんなこともあったな」と笑い合えるようになっているだろうからよ」

 

 そんな風にクロウは笑みを浮かべながら後輩へと告げる。険悪な二人の様子にどこか一年前の自分たちを重ね合わせながら……

 第三学生寮の親睦会はそんな風にして進んでいった……




いやー仲の良い先輩たちだなー
きっとこの先輩たちは数十年後もこんな感じに仲良くしているんだろうなー
自分たちもこんな風になれるかなー

Ⅶ組のみんなはきっとそんな風に思う感動的な光景ですね

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