(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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どんな分野だろうとプロになる人物というのはやべぇ位努力しているものです
彼らのいう「普通」は一般人でいう滅茶苦茶努力しているに該当するものです。
なのでエリオットの序盤で言っていた、そこまで音楽に真剣でなかったは
「プロを本気で目指していた奴」の言うレベルの真剣だと思っています。


鉄血の子と導き

「ふぅ、もう後少しと行ったところだな」

 

 姉であるフィオナより送られてきた大量の仕送り、それをエリオットと共に片付け終ていき、ようやく終わりが見え始めたことでリィンは一心地つく。

 

「ありがとうリィン、僕一人じゃとても終わらなかっただろうから助かったよ……全くもう姉さんも過保護っていうか……」

 

「まあそれだけ俺たちの事を思ってくれているって事だしありがたいことじゃないか」

 

 ため息をつくエリオットにリィンは苦笑しながら応じる。暖かく自分を家族として迎えてくれた恩義故というべきか、リィンはエリオットに比べるとどうしてもフィオナとオーラフの過保護さに対して強く出れないところがあった。

 

「でも、やれ夜更かしをしないようにーとか外食ばかりだと栄養が偏るからちゃんと野菜も食べなさいーとか……困った事があったらリィンを頼るようにとか……僕だってもう16歳だって言うのにまるで子どもみたいな扱いなんだよ?」

 

「俺も昨年入学したばかりの時は割とそんな感じだったぞ?やれ喧嘩しないで仲良くしなさいーだとか、やれ勉強も良いけどお友達も作るのよーだとかまるっきり子ども扱いさ」

 

 そう言って肩を竦めるリィンにエリオットは目を丸くして

 

「リ、リィンもそうだったんだ?」

 

「ああ、フィオナ姉さんにとっては俺たちは何時までも多分小さい頃のイメージのままなんだろうな。年末に顔を出してからはそういうのも減ってきたんだが、代わりにトワと仲良くやっているかとかの近況をやたらと知りたがっているみたいでな」

 

 やれやれそんなに俺は友人と上手く行ってないように見えるかねとぼやくリィンにエリオットは引きつった笑いを浮かべて

 

「ね、ねぇリィン一応念のために聞いておきたいんだけど、リィンにとってトワ会長ってどういう人?」

 

 その問いにリィンは少しだけ訝しんだ後に穏やかで爽やかな笑みを浮かべて

 

「手紙でも書いたし、去年の年末に家に招待した時にも言ったはずだけどな。心から尊敬できる大切な友人だよ」

 

「そ、そうなんだ………」

 

 父さんと姉さんはすっかり年末に会って二人が交際していると思っているけどという言葉をエリオットは目の前のどこかずれている親友へと伝えようと思ったが、結局辞めた。あんまりこういうのは外野が口を挟むものではないだろうと思ったためである。

 

「この古い楽譜は……姉さんと何時も弾いていた曲だよな」

 

「うん……母さんに一番最初に教えてもらった思い出の曲だよ」

 

「なあエリオット……本当に良かったのかトールズで?」

 

 気がつけばリィンはそんな風に問いかけていた。それは使い古された楽譜の様子から目の前の親友がどれだけ音楽に強い情熱を抱いていたか、それを思い出したためかもしれない。

 

「うん……だって仕方がないよ……夏の時にも言ったけど父さんがそう言うだもん。それに元々音楽に対してそこまで真剣だったわけでもないし」

 

 諦めの色を伺わせた後に誤魔化すようにそう告げるエリオットを見てリィンは

 

「馬鹿を言うな、真剣じゃない奴が暇さえあれば練習ばかりの生活を送ったりするものか」

 

 ため息をついた後に静かにそう告げていた。

 

「え……?」

 

「知らないとでも思ったか、学院に入学した後もお前と来たら暇さえあればバイオリンの練習をしているじゃないか。ハードなカリキュラムで身体がバテバテにも関わらず」

 

 トールズ士官学院は軍事色が薄れてきたとはいえそれでも列記とした士官学院である。当然ながら未来の士官足り得るようハードな訓練も行われている。リィンのように武術の経験があり、鍛えているようなものはともかく、そうでない新入生はそれこそ入学してからしばらくの間は一日の講義が終ったら、何もする気力が起きなくなる位の。

 にも関わらずエリオットは吹奏楽部の練習は勿論、寮に帰宅後も自室で練習を毎日休まず行っている。そこまでしている音楽に対する思いが真剣でないはずがないのだ。

 

「そんな奴が真剣じゃなかっただなんて言うなよ、自分で自分の積み重ねてきた研鑽と努力を否定するような事を言わないでくれ」

 

 どのような道を最終的に選ぶとしてもそれでも真剣に物事に打ち込んだ経験、それ自体が無駄になるなんて事はないはずなのだ。例えエリオットが夢であった音楽家になれないとしても、ならないとしても、それを目指して努力した事それ自体は。歩む道は違えど、夢を語ってそれに向けて努力するエリオット・クレイグをリィン・オズボーンは親友として、兄弟として誇らしく思っていたのだ。

 だからこそ、音楽に対して自分はそこまで真剣ではなかった等と言う目の前の親友の姿がリィンには見ていられないのだ。どうか自分自身の想いと重ねてきた努力、それを自分で否定するような事だけはしないでくれと。

 

「リィン……ありがとう、そう言ってくれるのは嬉しいよ」

 

 自分の努力を知って認めてくれていた人が居る事、それが嬉しくないはずがない。

 

「でも、それでもやっぱり僕は自分の想いを真剣だなんて今はもう言えないよ……だって父さんに反対されただけで結局音楽院に進むことを諦めちゃったんだもの」

 

 目指している目標が高い人物ほど自身に課すハードルというのは高いものだ。なまじそれを目指している人物達が一体どれほどの情熱を持っているかを知っているからこそエリオットは自身の想いが中途半端なものだったのだと断ずる。本当に自分が音楽に人生を捧げる気があったのならば、それこそ父に逆らってでも、家を飛び出してでもそれを目指したはずなのだと。

 

「だから、結局僕の想いはその程度(・・・・)だったんだよ」

 

 そう諦めの色を漂わせながら告げる義兄弟の姿にリィンはそれ以上何も言う事が出来なくなるのであった……

 

 

・・・

 

 どこか気まずい空気のままエリオットと別れたリィンは彼にしては珍しくどこか重い足取りで学院へと歩んで行く。目的は図書館での自習だ。来週にはいよいよ、初の特別課外活動が行われる事となる。故に不在の間に進む講義の範囲を自習しておくためだ。幸いな事にこの件に関しては教官方も全面的な支援を約束してくれて、有り難いことにトワとリィンのために特別に課題を用意してくれていた。

 わざわざ自分達二人のためだけに貴重な時間を割いてそこまでしてくれている事、全く持って感謝の念しか湧かない。この期待をくれぐれも裏切りたくないとリィンは気分を入れ替える。エリオットの事は気がかりだが、それも彼自身が答えを出す事。自分とてまだ半ばの未熟者な以上、他人の事ばかりで自分を疎かにしては思い上がりも甚だしいだろうと。

 そうして学院への道を進んでいくリィンだったが、キルシェの前を通りがかったところで見知った顔を見つけて声をかける。

 

「マキアス、こんなところで勉強か?」

 

「あ、リィン先輩!はい、たまには気分転換も兼ねてこういう開放的なところでの勉強も良いかなと思いまして。リィン先輩はどちらに?」

 

「ああ、俺は図書館に行って資料を漁りながら教官方から頂いた課題をこなす予定だ。此処の図書館はまさしく知識の宝庫だからな、君も積極的に利用すると良い」

 

「ええ、そうさせて頂きます。あのリィン先輩………いえ、何でもありません」

 

 何か聞きたそうに、しかしこちらを気遣ったかのように質問するのを辞めたマキアスの様子を見てリィンは微苦笑して 

 

「しかし、そうだな。図書館に行く前に此処で一服して行くのも良さそうだ。相席しても構わないか?」

 

「は、はい!それはもちろん!」

 

「ついでだ、何か質問したい事があるのならしてくれても一行に構わんぞ。頼んだ珈琲が来るまでに多少時間がかかるだろうからな」

 

「よ、よろしいんですか!それではすいません、この間の政治と経済学に関する質問何ですが……」

 

「ああ、その内容に関しては……」

 

 そうしてリィンは昨年自分がハインリッヒ教頭へとしたのと同じような質問をしてきたマキアスへと丁寧に教えて行き

 

「とまあ、こんなところだが他に何か質問はあるか?」

 

「いえ、ありません。ご教示いただきありがとうございました!」

 

「もしもより詳細に知りたい時はハインリッヒ教頭に頼むと良い。あの人は帝国有数の経済学者だ。俺などよりもはるかに丁寧に教えてくれるからな」

 

 コーヒーを飲み干しながらリィンはそう告げるが

 

「ハインリッヒ教頭に……ですか……」

 

 マキアスはどこか複雑そうな様子を見せる。そんな様を見てリィンは目を丸くして

 

「もしかして、ハインリッヒ教頭が貴族である事を気にしているのか?」

 

「いえ、その………はい、恥ずかしながら。リィン先輩にアレだけ言われたのに申し訳ありません」

 

「いや、俺に謝っても仕方がないんだが……」

 

 想像以上に根が深い様子の目の前の後輩の筋金入りの貴族嫌い振りにどう言ったものかとリィンは思案して

 

「なあマキアス、君がハインリッヒ教頭を貴族贔屓の人だと思っているんだったらそれは間違いだぞ」

 

「そ、そうなんですか……講義を聞いていてもその貴族派寄りの事を言っていますし、事あるごとに僕ら平民生徒達に、貴族生徒を見習うようにと言っていたりしますし……てっきり」

 

 平民を見下している偉そうな貴族なのだと思っていたと告げるマキアスに対してリィンはゆっくりと首を振って

 

「少なくとも俺はあの人から鉄血宰相の息子だからという理由で不当に扱われた覚えは一度足りとてないよ。規律を破るような事があれば平民生徒だろうと貴族生徒だろうと公正に罰する」

 

 昨年度入学式の一件以来リィンはリッテンハイムと度々やり合ったが、その際に担任を務めるハインリッヒはどちらか一方を贔屓するなどと言うことは決してなかった。あくまで平等に鉄血宰相の息子だからという理由でリィンだけを罰するようなことも、リッテンハイム伯爵の嫡男だからという理由でヨアヒムだけ罰せられないという事もなく、罰則を下す際はどこまでも厳格かつ公正であった。これは他の平民生徒と貴族生徒がもめた時も同様である。

 

「それに確かにあの人は貴族派だが、その事を明言した上できちんと革新派側の意見も一緒に紹介しているだろう?」

 

 完全な公平、中立な情報というのはあり得ない。学者の中でもどの学派の論を支持するかというのが学者によって違うものなのだ。故にハインリッヒ教頭が自らの私見として貴族派の論を主張する事、それ自体は別段リィンは問題とは感じていなかった。自分とて私見を述べればどうしても革新派寄りとなるのだから。

 重要なのはその際にそれはあくまで自分の私見に過ぎない事を述べているかどうか、そして対立する側の論もきちんと紹介しているかどうかであろう。それが教育者として公正であるという事だ。

 そしてこの一年リィンが接した限り、ハインリッヒ教頭はそれらをきちんと守る尊敬に値する教官だった。

 

「だからな、マキアス。繰り返しになってしまうが、相手が貴族だからという理由でせっかくの機会を自分から潰してしまうのは本当に勿体無い事だぞ。俺たちがどれだけ恵まれた立場にいるのか、わからないわけじゃないだろう?」

 

 15歳になれば職について働く者の方が多い中、こうして最高の環境で最高峰の教官たちの下で思う存分に学ぶことの出来る自分たちは本当に幸せなのだというリィンの意見、それにマキアスは黙って頷く。

 

「……わかりました、リィン先輩がそこまで仰るんでしたら、自分も何とかハインリッヒ教頭に偏見を捨てて接してみようと思います」

 

「ああ、そうすると良い。きっと教頭殿と君の相性はそういった貴族と平民というくくりさえ外してしまえば悪くないはずだからな」

 

 そうして珈琲を飲み終えて、一休みを終えたリィンはマキアスと別れた後に当初の予定通り図書館での自習に励み、充実した自由行動日を送るのであった。

 

・・・

 

「それで、何時まで様子見しているつもりなの?アレがあんたの導くべき起動者(ライザー)なんだから早く貴方の使命を果たすべきじゃない?」

 

 その光景を見たら多くの人間がまず自分の目と耳を疑う事であろう。猫が流暢に人の言葉を喋っているのだから

 

「騎神が封印されている旧校舎とやらを確認してきたけど、既に第一の試しまでに関しては突破しているみたいだったけど、この先は魔女の眷属(ヘクセンブリード)の導きが必要になってくる。

 あの女(・・・)がとっくの昔に他の起動者を目覚めさせている以上、目覚めが遅れればそれだけアイツは不利になるって事よ。早いとこ覚悟を決めた方が良いと思うんだけど?」

 

「……ごめんなさいセリーヌ、貴方の言うとおりだと思うんだけどもう少しだけ待って」

 

 そんな光景に驚く様子を見せる事もなく特科Ⅶ組の委員長エマ・ミルスティンは思案するかのように目を閉じて

 

「まだ私は確証が持ててないの。果たしてリィン先輩が騎神の担い手に相応しいのかどうか」

 

 騎神それは時に災厄を退けて人々を守り、時に全てを破壊して支配する支配者と謳われる「巨いなる騎士」

 それがどう使われるか、それは全てその担い手たる起動者次第なのだ。故に導き手たる魔女はその力が正しく使われるように起動者を導かなければならない、そうエマは教えられてきた。

 

「良い先輩だとは思うの……だけど」

 

 それほど多く接したわけではないがそれでもリィンの人となりは多少だが知る事が出来た。

 文武両道で後輩である自分達にも優しくて、困っている人がいれば力を貸すとおおよそ非の打ちどころのない人物として学院では評判の人だ。エマにしても言葉をいくらか交わしたが、決して悪い印象は受けなかった。しかしだ

 

「出会ってまだ一ヶ月も経っていない状態じゃ流石に決められないってわけね。まあ確かに騎神の力に溺れた起動者の例も枚挙に暇がないからね。貴方が慎重になるのもわかるわ」 

 

 そういった人物が騎神という力に魅了されて溺れてしまったという話もまたエマは聞かされていた。故にどうしても慎重にならざるを得ないのだ。

 

「ま、そうやって二の足踏んでいる間にもう手遅れなんて事にだけはならないように注意しておきなさいよ。魔女の使命ほっぽり出したあの女がどんな起動者を導いたのか、それこそわかったもんじゃないんだから。止めなきゃならない奴がいるのに、こっちの起動者は目覚めてもいなかったから何もできませんでした~なんて事になったらそれこそ目も当てられないわよ」

 

 そんな忠告にエマはそっと頷くのであった……

 

 




閃の軌跡の二次創作で此処までハインリッヒ教頭に対する好感度の高い主人公がいただろうか?
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