(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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対照的だけど何故か息ピッタリなコンビって良いものですよね。


鉄血の子と最高の相棒

 呆然とした様子でⅦ組のメンバーはその光景に魅入られていた。

 

「電光石火!」

 

 片方は文字通り《紫電》と化した彼らの担当教官であるサラ・バレスタイン。その様子に常のだらけた空気は欠片も存在しない、先程ユーシスとマキアスの二人が為す術もなく敗れ去った光景で彼女の評価は一気に上がったが、今の彼女を見ていれば自ずと理解しざるを得ない。あんなものはまだ手抜きも良いところだったのだと。それ程までに今のサラ・バレスタインは先程までとは桁が違う。

 

「クロウ!」

 

「おう!」

 

 そしてそんな《紫電》をトールズ最強と謳われる二人のコンビが迎え撃つ。多くを語らずとも通じる、以心伝心、阿吽の呼吸、そんな言葉を体現するかのように絶妙なコンビネーションを見せつける。

 こいつならばこうする(・・・・・・・・・・)と互いが次に何をするのか理解しているかのように。どこまでも正道を往くリィンの剣と奇抜な行動によって翻弄するクロウの銃撃、どこまでも対照的で下手な事をすればそれこそ互いに足を引っ張り合って終わりかねない、それが絶妙に噛み合っている。

 ほんの一瞬遅れればリィンに直撃しかねない攻撃がすり抜けるかのようにサラを襲う。仮に今のリィンが、あるいはクロウが二人居たとしても未だサラには及ばない。だがリィンとクロウの二人ならば(・・・・・)すでにサラと五分、いやあるいはそれ以上と行っても良い領域へと至っていた。

 そんな目の前の完璧とも言えるコンビネーションを見せつけられてⅦ組の面々は理解する、自分たちは未だ戦術リンク機能を全くと言っていい程使えていなかったのだと。

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 苦虫を噛み潰したような顔でユーシスとマキアスをその光景を目にする。

 2回目の特別実習の班編成の二人の抗議に対して行われた「力ずく」の抗議は虚しい結果に終わった。そうして協力し合うどころか足を引っ張り合って文字通り瞬殺された二人に対して告げられた「あまりにも酷いからお手本を見せて貰いなさい」という言葉と共に姿を現したのは、一人は毎日顔を合わせ、同じ学生寮で寝食を共にもしている男、学年随一の秀才と名高き副会長リィン・オズボーン。

 もう一人はチャラくてふざけた不良の先輩という印象であったクロウ・アームブラスト。目の前で素晴らしいコンビネーションを見せつける二人に対して無様としか言いようがなかった先ほどの自分たちの醜態を思い出しているのだろう、剣術を使う前衛と銃を使う後衛、誰に一番この光景を見せたくてあの二人をサラが呼んだのかは明らかであった。

 

「本当に!此処まで、やるようになるだなんてね!あんたたち、出会ってまだ一年程度の付き合いだって言うのに!ちょっと、仲良すぎるんじゃないの!」

 

「そうですね、自分でも時折不思議に思いますよ。なんでこんな奴と俺は親友になったんだろうって」

 

「奇遇だな親友。俺もだよ、なんでこんなクソ真面目なやつと俺はつるんでいるんだってたまにと言わずにしょっちゅう思っている」

 

 激戦の最中、そんな風に名コンビは軽口をたたきあう、その口調は言葉とは裏腹にどこまでも相手に対する信頼を感じさせるもので

 

「「けど妙に気があってしまったんだから仕方がない」」

 

 何故仲良くなれたのか、それを聞かれれば二人はこう答えるだろう、なんか妙に気が合ったのだと。もちろん本音を晒し合う喧嘩をやったからというのは大きな理由ではあった、だがそれは互いに知り合うきっかけであって今日までつるむようになった理由、それを聞かれればやはりこう答えざるを得ないだろう。「気がついたら妙に馬が合っていた」のだと。友情等というのは案外そんなものなのかもしれない。

 

「すごいねあの二人、息ピッタリ」

 

 ゼノとレオのコンビを思い出すかも等と彼女が今まで見てきた中で凡そ最高峰に位置する名コンビを比較に挙げながらフィーは目の前の光景を興味深く眺める。タイマンで以前リィンが自分より上だと認めた彼女だったが、それでも勝機が全くないとは思わなかったのだ。正面きって戦えば不利だろうが、それでもやり方次第では十分対抗できる、そう思った。

 だがあの二人(・・・・)を相手にしたら駄目だ。それは2対1だからとかそういう次元じゃなくてコンビを組んでいる状態のあの二人はお互いの力量を何倍にも引き出し合っているから。その光景はまさしく団にいた頃幾度も目にした真のパートナー同士の姿で

 

「……うむ、あの御仁を少し見誤っていたようだ」

 

「そうね、ただのスケベな先輩じゃなかったのね」

 

 片や真面目な優等生で軍人志望で鉄血宰相を敬愛する男

 片や不真面目な不良生徒で軍や国というものに対して懐疑的で鉄血宰相を憎悪する男

 そんな凡そ対照的な二人が仲の良い親友同士である事はⅦ組の面々にとっては長らく謎であった。特にⅦ組の中でも一際リィンを尊敬しており、気質が近いところのあるマキアスとラウラ等は何故あんな不真面目(・・・・・・)な先輩とリィン先輩が友人同士なのかと本気で訝しんでいたのだ。

 そう、こうしてクロウの戦う姿をⅦ組の面々が見るのはこれが初めてだったのだ。そうして普段とは打って変わった様子を見た事でラウラとアリサはクロウに対する評価を上げる。

 先月の実習に行く際のやり取りでチャラくてスケベな先輩という認識になっていたクロウだったが、此処に来てどうやら「チャラくてスケベだがやる時はやる先輩」という風になったようである。

 

「さながらリィン先輩の方がノルドの大地のような剛直さならば、あちらの先輩の方はノルドの風の如き奔放さだ。そしてそんな対象的な二人が反発し合うのではなく調和しあい、互いを高めあっている」

 

「ふふふ、ガイウスさんは本当に故郷を愛しておられるのですね」

 

 事あるごとに故郷であるノルドの大地や風のようだと形容するガイウスの様子にエマはクスリと笑みを溢す。

 

「む……不快だったのならすまない。俺としてはあくまで賛辞のつもりだったのだが…」

 

「いえいえ、ガイウスさんが本当に故郷を大事に思っていらっしゃる事も褒め言葉として言っていらっしゃる事もわかっていますから。不快だなんて事は全く無いですよ」

 

「うん、それがガイウスの個性なんだと思うよ。それにしても……すごいねあの二人」

 

 良かったねという思いと一番の親友の座を奪われてしまったという僅かな寂寥感を覚えながらエリオットはそう言葉を漏らす。昨年の夏至祭の時の出会いでリィンとクロウの両名が親友であることは知っていた。そして今こうして息を合わせて肩を並べて戦うその姿は、入学して以来何時もリィンの後ろで護られっぱなしの自分などよりも(・・・・・・・)よっぽど兄弟のようでーーー

 

「そう、焦ることはない。皆それぞれに個性や良さというものがある。エリオット・クレイグはリィン・オズボーンやクロウ・アームブラストにはなれないかもしれないが、あの二人とてエリオット・クレイグになれるわけではないのだから」

 

 エリオットの心が暗く闇に閉ざされかけたその時に爽やかな風が吹き抜けるかのように、そう言葉が響いた。

 

「え……?」

 

「何やらエリオットはリィン先輩に出来る事が自分には出来ないと殊更自分を卑下しているようだがな、逆に言えばリィン先輩に出来ないがエリオットに出来る事とて無数にあるだろう。少なくともリィン先輩は音楽や芸術への造詣がお世辞にも深いとは言えなかったと思うがな」

 

 学園祭などを経て多少の改善は見られたものの芸術分野に関してはやはりリィン・オズボーンはどこまで行っても門外漢。本気でプロを目指したこともあり、今も忙しい生活の合間を縫って練習を続けているエリオットへと当然及ぶべくもない。

 

「で、でも僕は男なのにリィンみたいに強くないし……」

 

 帝国男子の鑑。正義感が強くイジメっ子に対しても怯むこと無く立ち向かい、剣術道場にも通いだしてたくましく強く育ったリィンは何時しかそう呼ばれるようになっていた。エリオットの地区では何かが起こった時には、リィン兄ちゃんに言いつけるぞ!が子供にとっての必殺の言葉になったものだった。

 それに対して自分は言うと女顔で言われるのは可愛いという言葉、帝国は武を重んじて質実剛健を是とする国。そんな帝国男子の鑑とも言える親友に対して柔弱な自分に、エリオットはずっと心の何処かでコンプレックスを抱いていたのだ。

 

「ふむ……俺の部族にドルジさんという方がいてな。彼は槍の腕はからっきしだが、一族でも随一の笛の名手でな、祭りの時等、皆彼の演奏に聞き惚れるものだ。諍いが起きた時も彼が笛を吹くだけで争い合っていた者たちも落ち着きを取り戻す。槍を振るう事無く、な」

 

 そうしてガイウスは真摯な瞳をエリオットへと向けて

 

「俺は彼より槍の腕が優れているという自負はある、だがそれだけの事だ(・・・・・・・)。強いとか弱いとか、そんな事で人の価値は決まらんだろう」

 

「あ……」

 

 ガイウスのその言葉にエリオットは思い出す。音楽は人と人とをつなぐ架け橋になれるのだと、そう信じていた頃を。

 胸を張って父に言えば良かったのだ、自分は音楽の力を信じている。父さんやリィンとは違う道だけど、それでもきっと多くの人を幸せにできると。

 

「……ありがとう、ガイウス。僕、頑張ってみるよ」

 

「迷える友の力になれたというのなら幸いだ。もしも俺が迷った時は、活を入れてくれると助かる」

 

「うん、その時にはガイウスが元気になれるような曲を演奏するよ」

 

 未だ迷いが完全に晴れたわけではない、でもリィンと自分を比較して一人で勝手に落ち込むのは辞めよう。そうエリオットはガイウスに笑顔で礼を言いながら決意を新たにするのであった……

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」

 

 そんな風に義兄弟が自分にコンプレックスを抱いていた事も、自分の知らない内にコンプレックスが解消されたという事を知る事もなくリィンは心を満たす高揚感と共に双剣を振るっていた。成長しているという実感、全力で背中を預ける事のできる無二の相棒、次に何をするかが互いに理解し合っているという境地、一対一では未だ高みに位置する教官相手にこうして五分に渡り合えているという事実、それらがリィンにとっては頼もしく思えた。

 自分たちは無敵なのだ(・・・・・・・・・・)俺たち二人揃って出来ない事はない(・・・・・・・・・・・・・・・・)。そんな錯覚さえ覚える程に。

 

「「クロス・ストライク!」」

 

 放たれるのは心を通わせあった真のコンビだけが使えるコンビネーションクラフト。決着をつけるべくリィンとクロウは昨年度、5人がかりで目の前の相手を倒した切り札を叩き込む。

 

「ノーザンイクシード!」

 

(舐められたものね)

 

 確かに以前その技に自分は遅れをとった。だがそれはアンゼリカとトワの放ったコンビネーションクラフトの迎撃にこちらも奥義を使った直後だったからこそ。正面からの打ち合いであれば未だ遅れを取らない自信がある。加えて言うのならばあの時はジョルジュの援護もあった、そして今自分が使う奥義は遊撃士となってからは封印していた猟兵時代に使っていたとっておき。どこをとっても自分に敗北する要素はない、そう確信を抱く

 

「!?」

 

 敗北は有り得ない。そのはずだった。

 押し負けていく、自分の最大最強の奥義が。正面から。

 同じ技でも、もはやコレは以前とは別物だ。

 迫ってくるリィンの双剣、それを前にして

 

「本当、仲良すぎでしょ」

 

 悔しさと教え子の成長に対する喜びを味わいながらそんな言葉を零して、サラ・バレスタインは己が敗北を認めるのであった……

 

 

・・・

 

 コツンと見事勝利した二人は無言で拳をぶつけ合う。多くを語る必要はない、それだけで分かり合える。やったなと、そう笑みを浮かべ合う。

 

「アタタタタタ…・・・ああ、もう本当は貴方達二人に真のコンビネーションってものを見せつけてもらった後にそんなアンタ達を私が蹴散らして「やっぱりサラ教官ってすごいなー」ってする予定だったのに台無しじゃないの」

 

「サラ、台無し」

 

「その発言がなければ素直に尊敬出来た物を」

 

 せっかく上げた株を自ら下げるような真似をする己が担任に一同はしらーっとした目を送る。

 

「よっしゃー!これで単位ゲットだ!!!」

 

「……こっちもせっかく見直しかけていたのに」

 

 ガッツポーズをしながらそう雄叫びを上げるクロウにアリサは冷めた目を送る。

 当然だがリィンやトワではあるまいし、クロウ・アームブラストの辞書に無償労働という言葉を存在しない。わざわざ実技を披露したのも「自分に勝てたら単位上げるし、勝てなくても考慮してあげるわよ♥」という餌に釣られての事である。

 

「でも、本当にすごかったですよ」

 

「ああ……素晴らしいものを見せてもらった」

 

「やっぱりリィンはすごいなぁ」

 

 そうエマにガイウス、エリオットが感嘆を漏らす。

 

「さて、若干予定とはずれちゃったけどコレで貴方達も良く理解できたでしょう。ARCUSの持つ力が。真のコンビネーションは足し算ではなく乗算になる。互いを高め合うものなのよ。最もこここまでの境地に至ったコンビを見たのは私にしてもそう多くはないけどね」

 

「ふ、これも俺達の友情あってだな、親友!」

 

「ああ、そうだな」

 

 調子の良いことを言いだしたクロウの親友という言葉に異論を挟む事無くリィンは苦笑しながら首肯する。否定するところはどこにもない。クロウ・アームブラストはリィン・オズボーンにとって間違いなく無二の友なのだから。掛け値なしの友情を自分は目の前の親友に抱いている。

 

「ま、私はあの教頭と違ってあんまりくどくど言う趣味はないからこの辺にしておくけど。足し算にすらならずにむしろ引き算になっていたそこの二人はしっかり反省するように、良いわね」

 

 最後に釘を刺すかのようにサラは二人へと告げる。仲間内における不和は死に直結する、猟兵として戦っていたサラ・バレスタインはそれを良く知っていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

(やはり、どこかで一度とことんまでやり合わせたほうが良さそうだな)

 

 憮然とした面持ちの二人を見つめながら、二回目の特別実習を前にしてリィン・オズボーンは静かにそう決意するのであった……

 

 

 

 




バレスタイン教官「やるわね二人共!(教え子の成長うれC)」
オズボーン先輩「いける!クロウと一緒なら負ける気がしない!」
アームブラスト「単位ーーーーーー!!!!」

エリオットのコンプレックスを解消する17歳の学生とは思えない風さんの風格。
風さんが大活躍している一方で教官と先輩はバトルに夢中だった。
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