(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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鉄血の子と不良生徒

「貴様……もう一度言ってみろ!!!」

 

リッテンハイムを始めとする自身を快く思っていない者からの嫌がらせ等は歯牙にもかけずにしたたかにやり返し、そうでないものに対しては生徒会の人間として柔和に接する、そんな年齢に不相応な落ち着きを常ならば有する優等生リィン・オズボーン。そんな彼が常の余裕をかなぐり捨てて本気の激怒を目の前の人物に向けていた。

 

「は、大好きなお父さんの事を馬鹿にされて気に障ったかよお坊ちゃん。何度だって言ってやる、てめぇの親父は別に国のためだの平民のためだのにやっているわけじゃねぇ、単なる他人のものを奪っているロクデナシで、てめぇの大好きな姉ちゃんもそれに加担していて、てめぇはそんなロクデナシの仲間に嬉々として加わろうとしている大馬鹿だってな!!」

 

そんなリィンに対して彼をここまで激昂させている張本人たる不良生徒クロウ・アームブラストも怯む事無く挑発で返す、こちらも常の気さくでチャラい三枚目という仮面はどこへいったのやら、感情をむき出しにして。

 

「ッ!!!!」

 

その言葉が決定打になったのだろう、リィンがクロウの頬を思い切り殴り飛ばす。貴族の生徒らとやりあい、ともすると喧嘩っぱやいように思われるリィンだが、その実自らの方から先に攻撃したという事はこれまで一度も無い。売られた喧嘩は買うが、自分からは売らないし、先に手をあげるような真似はしない、それがリィン・オズボーンの流儀であったのだ。その彼が初めて、挑発されたとはいえ自分の方から仕掛けた、それだけでも今の彼が常とは大きく外れたものである事が窺えるであろう。

 

「やりやがったな、てめぇ!」

 

殴り飛ばされたクロウがこんどはお返しとばかりにリィンへと拳を叩きこむ。普段の彼ならば殴られたところで、余裕そうな表情で「図星かよ」とでも言って返すところだろうに、そんな余裕など無いかのように感情を露にして。

それから後はもはや無茶苦茶である、互いに貯まっていた鬱憤を晴らすかのように罵倒をぶつけ合いながら殴り合っていく。

 

「父も!姉も!心より祖国と民の事を思い尽力している!謂れの無い侮辱は許さんぞ!!!」

 

「は、それだったら何で民間人保護を第一とする遊撃士が帝国では活動できずに政府からの圧力状態で閉鎖状態になっている!?これこそがてめぇの親父が内心じゃ、民衆の事など考えていない、自分が権力を掌握するためなら平気でえげつない手も使っている証拠だろうが!」

 

「遊撃士協会の閉鎖はあくまでも協会が爆破されたことにより、またテロ事件の標的となり市民にまで危害が及ぶことを危惧した一時的な処置だ!」

 

「は、で、その一時的な処置とやらは一体いつまで続くんだ?数年か、それとも数十年か?治安維持のためのやむを得ない措置だと抜かして軍を寄越した挙句にそのまま実効支配するのは鉄血宰相様の常套手段だもんなぁ!?」

 

「治安を維持できずに護るべき民衆の生活を護れぬ国と軍に一体何の存在価値がある!国家と軍はそこに住まう市民の権利と安全を保障するためにこそ存在する。治安の維持などその最たるものだ!それが出来なくなった国家に国家たる資格はなく、我が帝国はそんな自治能力のなかった州や国家に変わり、そこに住まう民の権利を保障しているだけの事!非難される謂れが一体どこにある!!!」

 

「てめぇは頭の中に花畑でも咲いてんのか!猟兵の活動やテロによって治安が悪化した直後に狙い済ましたかのようなタイミングで訪れる治安維持の申し出!少し働く脳みそがあれば誰だって裏で糸を引いているのが誰かなんてわかるだろうが!!!」

 

「貴様は他国の間者か何かか!何故そこまで己の祖国とその祖国を守護する軍を信じない!!!仮に、もしも仮に百歩譲って貴様の言うことが真実だったとしてもそれは必要悪というものだ!一切の悪を飲み干さずして国家というものを運営することは出来ない!!!実際併合された国の多くは帝国という大国の庇護を受けて繁栄を謳歌している!ジュライ自治領などは自ら望んでエレボニアに併合された位だ!!!」

 

「ッ!!!!」

 

ブチリとクロウの中で更に何かキレる音がして、そういう大国の傲慢さ(・・・・・・)がにじみ出た発言と平然とそれを正当化するような態度こそが自分は気に食わないんだと言わんばかりにリィンにさらに激しく拳を叩きつけていく。そしてそんなクロウに負けじとリィンもまた殴り返す。

 

怒りの感情に任せてそう叫んだリィンだが、しかし、その言葉にいつものキレはない。今の彼はただ自分の大好きな父親の悪口を言われたのでそれを認めたくないからと感情任せに、とりあえず相手の発言を否定するためだけに政府発表や帝国の教科書に載っているようなお題目をそのまま唱えているだけだ。

発言している本人自身も心の底からそれが正しいと思っているわけではないのだろう、その言葉にはどこか空虚な響が漂っていた。あるいは、相手が士官学院に所属している帝国人でなければリィンはここまで激昂しなかっただろう。

他ならない祖国と軍の庇護を受け、恩恵を甘受している立場にありながらも祖国と軍の誇りを穢すような発言をする。そんなクロウの態度がリィンにとっては許し難いほどに腹立たしい。

仮にこれを発言した相手が、それこそ他ならぬ帝国に併合された国出身だったら、その嘆きをリィンは正面からきちんと受け止めただろう。彼はそこまで恥知らずでもなく、狭量でもないのだから。

 

一方のクロウの方もクロウの方でその様子は常とかけ離れていた物だった、何事もおちゃらけて不真面目で気さくな三枚目、そんな普段の様子をかなぐり捨てて感情を露にしながらリィンへとぶつけている。リィンの父であるギリアス・オズボーンを激しく非難する言葉を吐きながら。

クロウの方にしても言っていたのがリィンでなければ、他ならぬ自身から大事な祖父を奪った憎き仇の実子でなければ此処まで普段の余裕と仮面をかなぐり捨てるような事は無かっただろう。他の帝国人が言っていれば、まあ士官学院に通っているような帝国人ともなれば、そんな認識だろうなとそんな程度に流していただろう。

だが他ならぬオズボーンの息子が、それも絵に描いたような軍人志望のエリートと言った様子の、発言したからこそクロウもまた許せない。如何に年齢に似つかわしくない優秀さを持っているとはいえ、彼とてまだ十代の若者だ。一度そうして火がついてしまえば止まらない。仮面をかなぐり捨てて怒りを露にする。

 

 

そんな二人の様子を把握しながら、この時間を受け持っている教官たるナイトハルトは何故か止めにも入らず、それどころか止めようとした生徒達に「ほうっておけ、思う存分にやり合わせろ」とだけ告げて静観の構えをとっていた。まるでああして本音を吐露してぶつかり合うことこそが、あの二人の成長には必要なのだと判断しているかのように。

 

クロウの所属するⅣ組の生徒達は常ならぬクロウの様子に困惑を隠せないでいた、堅苦しく如何にもエリート然とした様子のリィンはどこか遠い存在であり、堅物すぎてうっとおしく思う者もいたものの、基本的には親切で生徒会に入ってからはトワ・ハーシェルと共に同級生の相談に乗ったり悩みを解決したりしているリィンの評判は決して悪くは無かったのだ。良い奴なのはわかるが、一緒にいると若干息苦しい、遠くから見ている分には貴族相手に堂々としていて爽快、そんなところだろうか。

またリィンの父である鉄血宰相にしても貴族勢力からの評判こそ最悪と言っていいものの、反面平民からは絶大な支持を誇っている。だからこそⅣ組の生徒達はアレほどまでにも級友たるクロウが鉄血宰相を罵倒して、その息子にまで食って掛かっている理由が全く持って理解できずに困惑していた。

 

リィンの所属するⅠ組ではリッテンハイムを始めとするリィンを嫌う生徒達はリィンのその常ならぬ冷静さを失った様子におおいに溜飲を下げていた。「見ろ、あの無様な姿を所詮は下賎な輩、育ちが窺えるというものだ」などと嘲笑していたところを

 

「あら、他ならぬそのオズボーン君にこの間数人掛りで襲い掛かりながら返り討ちにされて、今のオズボーン君の状態が目じゃない位にみっともない様子をさらしていたのは誰だったかしら」

 

などとⅠ組におけるリィンの数少ない友人であるフリーデルに言われて、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

そして常ならぬ様子で激昂するリィンと常の仮面を脱ぎ捨てて怒りを露にしているクロウの二人の喧嘩をリィンの友人たるアンゼリカは興味深そうに観察しており、その表情はまるで先を越されてしまった(・・・・・・・・・・)とでも言いたげだった。

何故このような状況になったのか、その説明をするには時を少し遡る事となる。

 

 

「それではこれよりⅠ組とⅣ組の合同武術訓練を行なう」

 

軍事学を受け持つ現役の士官たるナイトハルトがそう生徒達へと号令をかける。現役の将校たる彼は原隊での仕事と並行で教官職を受け持っているため、教官の中でも一際忙しい。そのためこうして講義の際は複数クラスでの合同となっているのであった。またこうすることにより、極力貴族と平民の垣根を失くそうという意図もそこにはあった。

 

「改めて言っておくが戦場には貴族も平民もない、不和を抱えた部隊には死あるのみだ。だが普段の諸君を見ていると、貴族生徒にしても平民生徒にしてもそのような些事に囚われている者があまりに多すぎる。故にこの訓練ではしばらくの間Ⅰ組とⅣ組の人間で二人組を作り、模擬戦闘を行なっていく。当然ながら如何に個人戦技が卓越していようとパートナーとの不和を抱えていたペアに対する査定はそれ相応の物となるため、覚悟するように。ある程度慣れて来たら今度はパートナーを入れ替えていき、即席のコンビでもどれほどのコンビネーションを出来るかと言った部分を見ていく。組む相手に関して取替え等は一切認めない、共に同じ部隊に配属された部隊の同期とでも思い励むように」

 

貴族生徒と平民生徒でそれぞれペアを作る、その言葉にどよめきが走り、中にはあからさまに嫌悪の表情を浮かべている。一方のリィンとしては気楽であった、彼にしてみると貴族生徒と組めといわれたほうが余程厄介な事になっていただろうから、平民生徒と組めというのは願ったり叶ったりの状況であった。

上官の命令と在れば否応なしに従わざるを得ないのが軍隊だが、それでも叶うことならリッテンハイムのような愚物と長期に渡って組む等と言うのは避けたいところである。

この時の彼は想像していなかった、所詮リッテンハイムなど彼にとって見ればただの障害程度の物でどうしようもなく苛立たしいのに意識せずには居られない、そんな対極な相手が同学年に存在するのだと。

 

「では組み合わせを発表する、一組目Ⅰ組はリィン・オズボーン、Ⅳ組からはクロウ・アームブラスト」

 

 

 

(クロウ・アームブラスト、確か度々授業をサボっている問題児だったか……)

 

生徒会の活動を通して事前に聞いていた事のある、自分のパートナーの名を聞いてリィンは若干顔をしかめる。幼い頃から軍隊的な価値観に囲まれて育った彼にとっては、努力、勤労、奉仕と言った価値観こそ尊ばれるものであり、国費によって学ばせてもらっている立場でありながらみすみすその最高の環境を自ら放り投げているような輩にはどうしても好意的になれなかった。

 

(だがまあ、これも良い機会か……)

 

周囲から度々指摘されている、自分は真面目すぎる堅すぎるのだという指摘。他ならぬナイトハルト少佐にも言われたことがある、軍人と言っても皆が皆理想や使命感に燃えているというわけではない。中には、というか一般兵に関して言えばそちらの方が多いと言って良いのだが、生活のためにやむをえなくなどと言った理由で入った者の方がいい。そういう者達のやる気を引き出すのも士官の役割であり、気に入らない相手だろうと折り合いをつけねばならないと。

ならば、そういった手合いとの付き合い方を学ぶ良い機会だろうとリィンは考えたのであった……

 

 

(よりにもよってあの野郎の息子とはな、願ってもねぇ)

 

真の鉄血の子、鉄血宰相の秘蔵っ子とやらの実力を間近で確認しておくまたとないチャンスだ。それだけではない、上手くすればお友達(・・・)になって色々と情報を聞き出す事も出来るだろう。絵に描いたような優等生のため、不良生徒であるこちらへの印象は悪いがその程度の第一印象などいくらでも覆せる、いや第一印象が悪いからこそ、それを上手いことひっくり返せば信頼を勝ち取る事とて容易だ。真面目でされど他者の意見に耳を貸す度量のある素直なエリートなどというのは、ある意味で扱いやすいのだ。何故ならば彼らは頭が良いからこそ、相手に理があるとわかれば自分の持論に拘らない、むしろ偏見を抱いていたなどと自らを恥じさえするだろう、そうなれば占めたものだと、温室育ちのエリート坊ちゃんなど騙すことなど容易いだろうと、クロウは入念にあの手のエリートに受けの良さそうな不良生徒(・・・・・・・・・・・・)の仮面を被り出すのであった……

 

 

「それまで、勝者オズボーン及びアームブラストペア」

 

鮮やか、その一言に尽きるだろう。あの後リィンとクロウの二人は互いに一通り自己紹介を済ませるとリィンはヴァンダールの双剣術、クロウは二丁拳銃と互いの武器と戦い方について簡単な情報交換を行なった。そうして行なった模擬戦闘の結果はごらんの通りであった、前衛としては学年最強であるリィンと後衛としては学年最強であるクロウ、このコンビに太刀打ちできる存在は同じ学年に、あるいは二年にだろうと、存在しなかった。

 

「はは、噂に聞いちゃいたが大したもんだな。ヴァンダールの双剣術、その腕前にまでなるのにさぞ努力したんだろ」

 

クロウはあえて最初は父親の事を言わずにリィン本人が努力して身に着けたであろう剣の腕前を褒める、入学式の時に粗方の人となりは把握しているしこの手の有名人の親を持つ者はとかく親の威光によるものではない、自分自身の実力というものを認められたがるものだと考えて

 

「……そちらも度々授業をサボる不良と聞いていた割には良く鍛えているな、かなりの腕だ。そこに至るまでにはさぞ努力を重ねたのだろう」

 

訝しがりながらもクロウの腕を認めるリィン、そんなリィンの言葉にクロウはほくそ笑みながらも気さくな三枚目の仮面を被り答える

 

「お、わかってくれるのか嬉しいねぇ、そうなのよ。誤解されがちだけど俺これでも結構陰じゃ努力しているのよ、ただどうにも実技に対して座学ってのは苦手でよぉ。確かお前さん、次席入学者だっただろ?今度勉強でも教えてくれねぇか?」

 

「……級友の頼みとあらば受けるのは吝かではない。だがそれならば真面目に授業を受けたらどうだ、トールズの教官達は帝国においても屈指の方々だ。俺などよりも余程教えるのが上手いぞ」

 

「そこを突かれると痛いところではあるんだが……ほら、あの政経を受け持っているハインリッヒ教頭ってのは確か貴族だろ?どうにも俺は貴族ってのが好かなくてよぉ、ついついあの教頭をからかいたくなっちまうんだわ」

 

そうしてクロウは貴族嫌いという如何にも平民にありがちなカバーストーリーを用意する、これで後は勉強を教えてもらう時にでも適当に鉄血宰相を褒め称えて目の前の相手から色々と聞き出せば良い。父親を尊敬している平民相手ともなれば、このお坊ちゃんも色々と口が軽くなるだろうそんな風にクロウは内心の激情を押し隠しながら仮面を被り、リィンに親愛の笑みを浮かべる。そんなクロウの様子に何か思案するように眼を閉じた後に

 

「こちらからも一つ良いか、アームブラスト」

 

「クロウで構わないぜ、代わりにこっちもリィンって呼ばせてもらうからよ。こっちの頼み聞いてもらったわけだしな、金を貸してくれとかじゃなければ聞くぜ」

 

「そうか、ではクロウ」

 

そこでリィンは目の前の相手を推し量るように目を細めて

 

「お前は何故そんな仮面を被っている」

 

虚偽など許さないとばかりに言葉を叩きつけていた

 

「………は?」

 

「あいにくと小さい頃からその手の仮面を被って全く持って本心を掴ませない知り合いが居てな、その手の演技は見飽きているんだよ」

 

カカシ男か、とクロウは内心舌打ちをする。クロウは目の前の相手を自分が温室育ちの甘い坊ちゃんと侮っていたことを悟らざるを得なかった。だが違ったリィン・オズボーンは正道だけを磨き上げた脆いエリートではない、邪道と呼ばれる謀略や工作についても教育を受けた完全なエリートなのだと。

 

「……おいおい、一体何を言い出すかと思えば勘弁しろよおい、いきなり妙な難癖つけて来やがって」

 

「そうしてまた本心を悟らせないような仮面を被って表面上だけ合わせるのか。薄っぺらいんだよお前のやっている事は何もかもが」

 

薄っぺらいとそうよりにもよって目の前の何かもが父親からの借り物(温室育ちのお坊ちゃん)に言われた瞬間にクロウの中で仮面を被る余裕が消えうせた。

 

「は、薄っぺらいと来たか。俺から見ればお前のやっている事の方がはるかに薄っぺらいけどな、お坊ちゃん」

 

気さくな不良生徒という仮面を脱ぎ捨ててクロウは敵意も露に叫ぶ、どの道この学院での最優先ターゲットにこうしてバレた以上もはや仮面を被る意味は薄いならばこの温室育ちのお坊ちゃんに一つ現実って奴を教えてやるとばかりに

 

「何だと……」

 

そんなクロウの発言が聞き捨てならなかったのだろう、リィンもリィンでまた目の前の相手への敵意を露にする

 

「てめぇの言っている事はどれもこれもてめぇの父親の受け売りだ。口じゃさも貴族側にも一理あるみたいな事言って物分りが良い奴みたいな面しているが、その実てめぇの親父のやっている事が絶対的に正しいのだと信じきっている」

 

「それの何が悪い、実際我が父ギリアス・オズボーンは皇帝陛下の信任厚くその手腕も確かな優秀な指導者だ、貴族勢力にこそ憎まれど平民からの支持は絶大と言って良い。そんな立派な父を息子である俺が誇ることに何の問題がある」

 

「ああ、それだよそれ。てめぇはさもアイツが平民の味方だと思ってやがる、そういうところが現実を知らないお坊ちゃんだって言ってんだよ」

 

リィンを嘲笑うかのように、ずっと表に出さず仮面の中で、心の中に燻り続けていた黒い感情をクロウは仇の息子へと叩きつける

 

「だから俺がそんなお前に現実を教えてやるよ、アイツはギリアス・オズボーンは平民の味方でも何でもねぇ、ただの自分の野望のために動いているロクデナシだってな」

 

かくして物語は冒頭へと至る

 

 

「それにしても止めなくて良いの、アンゼリカ」

 

調子に乗ろうとする馬鹿への釘刺しを終えたフリーデルはそんな風に話しかけていた

 

「ああ、中途半端に止めないほうが逆に良いだろう、コレは。だからナイトハルト教官も止めるなと言ったんだろうしね」

 

チラリと厳粛な面持ちでもしも喧嘩の領域を超えるような事に発展しそうになったら何時でも止められるようにしている教官の方を窺いながらアンゼリカはそんな風に答えた

 

「それに、クロウだったかな、リィンが彼に言ったことも、彼がリィンに言ったことも私がそれぞれ二人に言いたいことではあったんだよ。ま、リィンに関しては友人だからもうちょっとやんわりと伝えようと思っていたけどね」

 

リィン・オズボーンの己が父親をどこか絶対視している危うさ、それをアンゼリカは感じていた。それは貴族だからとかみつくようなわかりやすいものではなく、己の非を認める度量も、他人の意見を聞く柔軟さも持ち合わせているからこそ逆に根の深さを感じさせた。

 

「そういう君は君でどうして止めようとしなかったんだいフリーデル?」

 

「あらだって男の子同士のああいうのって女が割って入って良いものじゃないでしょ、それに見ていて中々面白いじゃない」

 

そんな事を笑顔で言うフリーデルの様子にアンゼリカはどこか大物さを感じて苦笑するのであった。

 

喧嘩をしていた二人の男が両者同時に倒れて、医務室に運ばれた後にナイトハルト教官より懲罰として男子便所の掃除を命じられたのはそれからすぐ後の事である。

 

 

 

 




クロウのキャラが原作と異なるように思われるかもしれんが
Ⅱでの鉄血パパンに対する冷静な視点は復讐を果たした後の賢者タイム後だからこそで
友人であったトワ会長を含む、クロスベル住民毎列車砲でオズボーンを殺そうという計画もあった辺り
クロウの中にあった鉄血への憤怒や憎悪はかなりのものであったと思っています。
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