(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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カイエン:オーレリアが主君と認めているっぽいミュゼ
アルバレア:鉄血に届きうるチートのルーファス、みんな大好きユーシス君
ログナー:僕らのゼリカ先輩
ハイアームズ:パトリックはドラ息子が上二人の兄はかなり優秀っぽい、更生後パトは普通に優秀

こうしてみると四大名門も何だかんだで後継者候補の粒は揃っていたんですよね。
まあそんなミルディーヌ様が当主の座に就く頃には内戦のアレで民衆からの評判が地に落ちていたし、ルーファス君は実は鉄血パッパの腹心だったわけですが。


鉄血の子と翡翠の都《バリアハート》②

 

 リィンの「仲良しこよしの友人ではなく、B班に負けないための一時的な協力関係と思え」という言葉。首席卒業を狙うマキアスとプライドの高いユーシスにこの煽りは効果覿面だったようで、リィンは一時休戦の約束を二人に取り付けさせた。最も行く前にエマとフィーに話したように、その休戦を取り付けた仲介人自身がこの休戦が実習中ずっと続くなどとは欠片も思っていないのだが。

 とにもかくにもそうしてバリアハートへとたどり着いたリィン達を迎えたのは、アルバレア公爵家の威光を実感させる駅員総出の出迎えだった。そうしてそんな歓待にうっとおしそうにするユーシスの前へ現れたのこそユーシスの実兄にして、次期アルバレア公爵、貴族派きっての才子と呼び声高きルーファス・アルバレアその人であった。

 

 用意されたリムジンへと乗り込み、軽い自己紹介を行った彼はどこか推し量るような目でリィンを見つめて

 

「こうして直接顔を合わせるのは初めてになるかな、リィン・オズボーン君。君の話は学園の理事として耳にしていたよ、文武両道のまさに帝国男子の鑑足る人物とね。ふふ、君のような者が弟を導いてくれるというのなら兄としてこれ程に嬉しい事はない。何かと苦労をかけるとは思うが、今後も弟をよろしく頼むよ」

 

 とても大貴族とは思えない親しみやすさを漂わせながら、さりとてその優雅さは一片も損なわれない様子を見せ、そんな弟を思う兄心、トールズの理事を務める身として雛鳥の成長を見守らんとする親鳥のよう心、そして四大名門の一角たる人間として将来の敵手を見極めんとする心、それらが入り交ざったような言葉を告げていた。

 

「ふふふ、それにしてもオズボーン宰相閣下とレーグニッツ帝都知事のご子息がこうして揃い踏みとは。聞くところによれば、揃って入学時には次席だったと聞いている。お前も負けてはいられんな」

 

 言葉だけで言えば革新派に負けているユーシスを叱責しているとも取られかねない言葉だが、その言葉に叱責するかのような刺々しさは一切感じられない。それは言葉の中にどこまでも弟を思う兄としての愛情が込められているからだろう。良きライバルと切磋琢磨し合えと、どこまでも弟の成長を願う兄の姿がそこにはあった。

 

(これがルーファス卿、貴族派きっての貴公子と名高き人物か)

 

 曰く非の打ち所のない貴公子、帝国貴族の鑑。すでに父たるアルバレア公爵の名代として領地経営、貴族間の交渉などで幾つもの実績を打ち立てており、次期アルバレア公爵の座を確実視されている。おおっぴらには言えることではないが、むしろ領民や領邦軍の面々は早く彼に当主となって欲しいとさえ思っている者の方が多い位である。

 どこまでも優雅で、かつ静かな微笑みを湛えて親しみを感じさせながらも、さりとて確かな威厳を感じさせるその所作はなるほど、確かに彼が凡百の人物ではない事を示していた。加えて言うのならば、武術の腕前にしてもかなりの物だろう。リィンの見立てでは師であるオリエ・ヴァンダールや教官たるサラ・バレスタインともいい勝負になるのではと思えるほどである。

 一つ言える事は現状のリィンは武術、軍事、政治、交渉等いずれの分野に置いても目の前の人物の後塵を拝しているという事だ。10もの年齢差があるのだからそれはある種当然の事なのだが、リィンが今後身を投じる事になるのはそうして自分よりもはるかに経験豊富な者たちが鎬を削り続けている世界なのだ。父の力(・・・)にならんとするのであれば避けては通れぬ難敵であろう。

 

「こちらこそ、後輩にカッコ悪いところは見せられないと何時も気が引き締まる思いですよ。ユーシス君は優秀ですので」

 

 知らず強く握っていた拳を緩めて、リィンは努めて柔和な笑顔を浮かべながら応じる。言っている言葉は別にお世辞ではない、実際のところユーシスは優秀である。学業では若干マキアスが上を行っているが、実技も入れた総合成績であればおそらくユーシス・アルバレアが現状の一年生ではトップだろう。人格にしても気位が高くとっつきにくいところはあるものの、真の意味での誇り高さを持つ男なのもあってリィンのユーシスへの評価は高い。これが同年代で入学していれば、おそらくはマキアス同様に敵視して張り合った事だろうが。

 

「ふふ、そう言ってもらえると兄としては安心できる。何分素直でない弟なのでね、つい照れ隠しで憎まれ口を叩くような事もあるかもしれないが、どうか暖かく見守って欲しい」

 

「あ、兄上……」

 

 普段であれば仏頂面を浮かべながら釘を刺すようなからかいにも敬愛する兄が相手故だろう、困ったような声をユーシスはあげる。普段とは打って変わった様子にマキアス等は夢でも見ているかのような心境に陥り、フィーは面白そうな様子で見ている。色々とたくましい少女なのでおそらく、機会があればこのネタでユーシスをからかう気でいるのだろう。

 そんなユーシスにとってはある意味で堪ったものではない談笑をしばしリムジンの中で繰り広げて、目的地たる《ホテル・エスメラルダ》へとたどり着くと貴族派きっての貴公子はどこまでも優美な様子でリィン達へと別れを告げ、去っていくのであった。

 

・・・

 

 《バリアハート》、それは翡翠の都とも謳われる帝国東部クロイツェン州の州都にして四大名門の一角アルバレア公爵家が治める街。かつて皇帝が居城を構えていた事もあり、美しい歴史的な街並みが広がっており、周辺は宝石や毛皮の産地としても知られている。

 「貴族の街」たるこの都ではそんな貴族たちを相手にした、名だたる職人達がしのぎを削っており《職人通り》等と称される通りが存在している。そこで看板を出している店の主人はいずれもが超一流と呼んでも過言ではない職人達、この通りで屋敷の調度、服、宝石等全て揃えるには庶民では一生働いても届かない額がかかると言われている。

 興味のある人種にとってはそれこそ職人通りでどの店を選ぶかだけで一週間費やす事すらある街なのだが、逆に言うと質実剛健とかいう言葉が大好きで、宝石だとかの類に対してとんと興味がなく、屋敷の調度等生活に必要なものさえあれば良いだとか、服は機能的な軍服こそが最高だと思っているような人物の場合だとほとんど素通りして終わるところである。

 

 婚約指輪の材料の調達という依頼を終えたリィン達はそんな職人通りにある《ターナー宝飾店》を訪れていた。しかし、そんな彼らを待っていたのは依頼人の男性の笑顔ではなく、尊大なバリアハートの貴族ゴルティ伯爵であった。

 リィン達が彼の為に用意した《樹精の涙》は”正当な契約”の元、その場で伯爵の腹の中へと収められてしまうという、何とも後味の悪い結果となってしまうのであった。思わず激昂してゴルティ伯爵を“貴様”と呼んでしまって窮地へと陥ったマキアスであったが、公爵家の人間たるユーシスが居た事で事なきを得る。

 リィンにマキアスを叱責する気は起きなかった、憤懣やるかたないのはリィンとて同じ事、ただリィンは経験のぶんだけ若干忍耐力が上がっていた、それだけの違いだったのだから。

 

 あまり納得がいかないまま、リィン達は二つ目の依頼を受けに中央広場のレストランのテラスで談話に耽る青年貴族のハサン・ヴォルテールを訊ねる運びとなるのだが、ここでもあまり良い思いはしなかった。まるきり遊び気分で奉仕して当然という尊大な態度で接されて何も感じないのはとことんまで奴隷根性が染み付いているか、相手を喋るミラ程度にしか思っていない割り切りの上手い人物位である。

 そんな風にまたもやマキアスの(それほど大きくない)堪忍袋の尾が切れそうになったが、相手がユーシスの姿に気づき途端に慌てて下手に出だし、先程までの高飛車な様子とは打って変わった媚びへつらう笑みを浮かべながら「バスソルトの調達」という依頼を行ってくるのであった。

 

 

「しかし、随分な人気者だったな」

 

 手配魔獣の退治と《ピンクソルトの調達》のためにオーロックス峡谷道を歩きながらリィンはそんな言葉をポツリと零していた。

 

「何がですか?」

 

「いやユーシスの事だよ、媚びへつらう輩も多かったが、平民からは随分と慕われているようだった」

 

 常の誇り高さから考えてもまあ嫌われてはいないだろうとは思っていた。しかし、バリアハート内を見回ってみると嫌われているどころか明確にユーシスは貴族からはあくまでアルバレア家の人間という事で媚びへつらわれていたが、《職人通り》等を歩いてみると公爵家の人間だからという理由ではなく、ユーシス・アルバレア個人に対して敬意を払っている人物が幾人も見られた。本来であれば平民の方こそ、むしろそういった大貴族を畏怖する感情は強いにも関わらずである。

 

「ふふふ、そうですね。子供達からは特に人気者だったみたいで……」

 

「ふん、皆アルバレア公爵家の人間である俺に媚びているだけかもしれんがな」

 

 そういってユーシスはそっぽを向くが本心ではなく照れ隠しである事は明白であった。ルーファスから頼まれた通りにリィン達は約1名を除きそんな素直でない男を暖かい視線で見守る。

 

「……おい、なんだその揃いも揃って気色の悪い微笑ましいものを見るかのような目は」

 

「いや、ルーファス卿の言っていたとおりに素直じゃないと思ってな」

 

「照れ隠しに憎まれ口叩く。流石お兄さんだけあって弟の事良く見ているね」

 

「ふふふ、大人はともかく子供はそこまで器用な事は出来ませんよ。彼らは真実ユーシスさん自身を慕っているんです。それはユーシスさんにだってわかっているでしょう?」

 

「ふん」

 

 そうしてユーシスは再びそっぽを向く。そんな様がまたどこか子供っぽくて三人は笑みを溢す。

 出会ってからもうそろそろ2ヶ月。何だかんだでとっつきにくいところのあるユーシスでも凡その人となりというものは把握できて来ていた。この分で行けばガイウス以外のⅦ組の面々ともユーシスが友人と呼べる関係性になるまでそこまでの時間は掛からないだろう

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 憮然とした様子でその光景を見つめている一人を除けば、であるが。

 

 




兄上ってユーシスの子供の頃の恥ずかしいエピソードとか知っていそうですよね
これだから幼い頃からの知り合いの年長者は困る

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