(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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軌跡シリーズの主人公って大体一回は牢屋にぶち込まれるイメージがあります


鉄血の子と翡翠の都《バリアハート》⑤

 ユーシスとマキアス、険悪だった二人の和解が成立して昨日の遅れを取り戻そうと意気揚々と朝を迎えたB班、そしてそんな二人の和解を成立させた立役者たるB班班長にしてトールズ士官学院副会長でもあるリィン・オズボーンは今

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 後輩であるマキアス・レーグニッツと共にバリアハートにある牢屋の中に居た。

 

「ど、どうしましょうリィン先輩」

 

「そうだな、暇だし武術の稽古でもつけてやろうか?ユーシスに勝ちたいんだろ?」

 

 弱りきって縋るような様子で声をかけてくるマキアス相手にリィンは平然とした様子で答える。あまりにも平然としているために此処が牢屋ではなく学院のどこかではないかという錯覚さえマキアスは起こしそうになった。

 

「い、いやそんな事をしている場合では……」

 

「じゃあどんな事をしている場合だ?正直この状況下で俺たちに出来る事なんて何もないぞ。だったら武術の型稽古なりでもやって居る方が有意義だと思うがな?」

 

 肩を竦めながらそう告げるリィンの様子にマキアスは呆気に取られる。領邦軍に冤罪をかけられて捕まったというこの状況下でも全く目の前の先輩は動じていない。それこそまるで普段と何も変らないかのように悠然と構えている。

 

「そう心配するな。サラ教官も普段の態度はアレだがこういった非常時には間違いなく有能で頼りになる教官だし、生徒を見捨てるような人でもない。そして、軍神ウォルフガング・ヴァンダイク名誉元帥閣下が学院長を勤め、オリヴァルト・ライゼ・アルノール皇子が理事長を勤めているトールズ士官学院の影響力は四大名門アルバレア公爵家とてそうそう無視できるものではない。俺達は大船に乗ったつもりでどっしり構えていれば良いのさ」

 

 ポンと肩を叩きながら恐れる必要などないのだとそう笑いながら告げるリィンの様子はマキアスにとってはこの上なく頼もしく、ようやく落ち着きを取り戻す。

 

「そ、そうですね、僕らにかけられた嫌疑は冤罪なんですから!特にリィン先輩なんて副会長も勤めていらっしゃて先生方の信頼も厚いですし!」

 

「ああ、だからそう心配する必要はないさ。居心地が良いとは言えない場所だが、せっかくの空いた時間だ。有効に活用するとしよう」

 

「そういう事ならば、是非ともお願いします。あの男に何時までも大きな顔をさせておくのは癪ですし」

 

 実を言えばこの時のリィンはマキアスが思う程に余裕があったわけでもない、このような状況に陥った事に忸怩たる想いを抱いていたし、大貴族という存在について見誤ってまんまと捕らえられた事には内心で激しい怒りを燃やしているし、わずかながらの不安とて当然ながら存在する。

 何せ此処バリアハートはアルバレア公爵家のお膝元、証拠の捏造や嘘の証人をでっち上げる事などいくらでも可能なのだ。何せこの街の住人ですらなくとも伯爵を敵に回す事を恐れて婚約者のために用意しようとしていた《樹精の涙》を譲り渡した。ましてこの街に住む平民が四大名門アルバレア公爵の威光に逆らうことが出来るだろうか?脅しという鞭と買収という飴、これらを使えばそれこそ嘘の証言をでっち上げる事など朝飯前だろう。

 直接の脅しが効かないのならばリィンとマキアスに冤罪を掛ける事で間接的に二人の父の評判を落としにかかる、等という風な手段を取るかもしれない。「息子の教育も満足にできないような者に国や帝都を任せる事が出来るのか?」というわけだ。無論、学院側がそれを黙って見過ごすとは思えないが、どうもリィンが思っていたよりもアルバレア公爵は強引な(・・・)人物のようだ。果たしてトールズ士官学院を敵に回すリスクを考えて思いとどまると言ったリスクを考えて自制が効く人物なのかどうか、些か自信がなくなってきたところではある。

 

 だがそんな事はもはや考えるだけ不毛というものである。何せこうして捕らえられてしまってはもはやリィンに打てる手など何もないのだから。指揮官は内面はどうあれ表立っては楽観的に振る舞うべしというのは基本中の基本だ。リーダーが不安そうにしていればそれは部下にも伝播する。指揮官が悠然とどっしりと構えていれば逆に部下は安心できるものなのだ。そんな可愛い後輩を相手に無様なところを見せられないという意識がリィンの冷静さを保たせていた。もしも捕らえられたのが自分一人であれば、もう少しリィンも取り乱すなりしていたかもしれない。

 

「よし、それじゃあ軽く型稽古と行くか。基礎はサラ教官にも習っていると思うがおさらいとしてな」

 

「はい、お願いします先輩!」

 

 捕われの身には似合わない覇気でそうして二人はしばしの間稽古へと興じるのであった……

 

 

・・・

 

「ど、どうしましょうフィーちゃん……」

 

 班長たるリィンが不在の状態で、今後の方針を話し合うために職人通りにある宿酒場へと来たエマは今頃どんなひどい目に合っているのかと囚われの二人を心配し、そう残された班員であるフィーへと助けを求める。最もその二人はとても囚われの身とは思えない精力的な様子で稽古に勤しんでいるのだが。

 

「マキアス……色々うざかったけどそれでも悪い人じゃなかった……リィン先輩……口うるさくはあったけどいい先輩だった……二人の事は決して私は忘れない。安らかに眠って欲しい」

 

 そうしてフィーは「おお、空の女神よ。今貴方の下に貴方の子が召されます」等とまるで死んだ戦友を弔うかのような厳かな様子で祈りを捧げる。

 

「フィーちゃん!」

 

「軽い冗談。どんな時も落ち着いてユーモアセンスを忘れない事が大事」

 

「ブラックジョーク過ぎて私には笑えませんよ……」

 

 しれっと答えるフィーにそう言ってエマはがっくりと肩を落とす。そうしてフィーは打って変わった真面目な表情となり

 

 

「ま、真面目な話、あの二人が捕まったのは人質としての意味合いが大きくて、捕らえたのは列記としたプロの軍人なわけだからそう酷い目にはあってないと思うよ。さっき囲んでいたの部隊を見るに流石州都に駐屯しているだけあって中々の練度だったし。あの統制の取れた様子を見るに下っ端が暴走して危害を加えるって事もないだろうから」

 

「そ、そうですよね!仮にも列記とした軍人さんがまだ学生の二人に危害を加えるなんてのはないですよね」

 

 あえて明るい材料を話したフィーの言葉にエマは若干気持ちを明るくする。アマチュアは恐怖から人質に危害を加えたり、練度が低く統制の取れていないような部隊ならば下っ端が普段の鬱憤ばらしに危害を加えるなども考えられたが、バリアハートにいる部隊は流石に州都に駐屯する部隊だけあって領邦軍の中でも中々の精鋭と言えた。交渉が煮詰まってくれば革新派に対する脅しとしてやる可能性もあったが、少なくとも今すぐにどうこうという事はないだろう。

 

「問題はこれからどうするかですよね……」

 

「今の私たちは指揮官を欠いた状態。こういう時は上官の上官に報告して指示を仰ぐべきだと思う」

 

「あ、そうですね。まずはサラ教官に相談してみましょう」

 

 慌てる新米士官をそれとなくフォローする下士官のようにフィーは冷静にエマをサポートする。エマにしても首席入学をした才女なのだがこの辺りはくぐってきた場数の違いというものだろう。加えて言うなら、なまじリィンが頼れる先輩であった故にその不在が与える動揺を大きくしていた。

 

「駄目ですね……繋がりません」

 

 通信不良か、はたまたサラの方が気づいていないのか、理由は不明だが名案かに思われた行動であったがそれは無駄に終わる。ARCUSの本領とはあくまで戦術オーブメント、そのため距離が離れている場合には繋がらない異常が多々発生する。

 

「そうなると選択肢は2つに1つだね。一つ目としてはあの二人の事は放っておく、もう一つはこっそり忍び込んで連れ戻す」

 

 まるで今日の夕食は何にしようかと言った気軽な様子でフィーはさらりと告げる。

 

「……なんとかユーシスさんと合流できないでしょうか?公爵家の人間であるユーシスさんの言葉なら領邦軍の方も無下には出来ないでしょうし」

 

「難しいんじゃないかな、向こうだってそれを予想していたからこそわざわざユーシスを屋敷に呼び出したんだろうし……それにしても見捨てる気はないんだ」

 

 若干フィーは意外に思う。根無し草の自分と違ってエマは帝国の辺境出身だと聞いている。いまいち身分の差に疎いフィーであったがそれでも2ヶ月こうして帝国で過ごし、貴族の持つ力というものを目の当たりにした。普通の平民にとって貴族に逆らうという行為がどれほどの難題かも。それにも関わらず目の前の委員長にはどうやら四大名門たるアルバレア公爵家の怒りを買う事に対する恐れといったものが見えなかったからだ。

 

「フィーちゃんだって同じじゃないですか?もしも私が怖気づくようでしたら、一人でお二人の救出へ向かうつもりですよね?」

 

「……ま、戦友は見捨てないのが私達の流儀だし」

 

 言うなれば運命共同体。互いに頼り 互いに庇い合い 互いに助け合う。一人が皆の為に 皆が一人の為に。部隊とは兄妹であり家族である。それでこそ地獄のような戦場でも生きられる、それがフィーが団で教わった在り方であった。戦場に出たわけではないが、それでも今のフィーにとっての仲間である事は変らない。故に此処で見捨てるというのはフィー・クラウゼルの猟兵の矜持として有り得ない事であった。

 

「なんとかこっそり侵入していつの間にかいなくなっている。そんなふうであれば元々冤罪ですし、向こうも強く出る事は出来ないと想います」

 

「そうなるとあの砦に移される前までが勝負かな。流石にあんな大掛かりで本格的な要塞に忍び込める気はしないし」

 

 そうして囚われの二人を奪還するための具体的な作戦を話し始めた二人は地下水路が領邦軍の詰所に通じているという話を聞いた事でそこから侵入を決意するのであった。

 




エマ「二人は無罪です!」(先輩とクラスメイトをかばおうと真摯な瞳)
マキアス「僕は無実だ!」(貴族派の横暴に憤る瞳)
リィン「『俺は』オーロックス砦に侵入などしていない」(曇りのない誠実な瞳)
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