(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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サブタイトルは鉄血の子と~~~縛りで考えていたんですが、中々にキツイので諦めました。


兆し

(よし!)

 

 張り出された中間試験の結果、それを見てリィンは小さくガッツポーズを行った後に自らを戒める。所詮は学校の試験での結果にすぎない。この現状に満足するな。まだだ更なる高みを目指せ。もっとだもっともっともっとーーーーーーそう燃え盛る意志に更に薪を焚べていく。止まるな前進し続けろ、と。

 

 そして張り出された結果はこうなっていた

 

1位:リィン・オズボーン   1000点

2位:トワ・ハーシェル     990点

3位:ヴィンセント・フロラルド 975点

 

「おいおいおい、リィンの奴、全教科満点ってマジかよ」

 

「……あいつ、生徒会の活動だの一年の新設クラスと一緒に特別実習だのにも参加してなかったか」

 

「ついでに言えば暇さえあれば街道に出て魔獣退治やったり、サラ教官やナイトハルト教官に稽古をつけてもらっているらしいな」

 

「……奴は本当に俺達と同じ人間なのか?」

 

 あまりの凄まじさに若干ドン引いた様子ながらも口にしている生徒達の声はどこか親しみを感じさせるものだった。あいつならば(・・・・・・)それ位やってのけるかもしれない。どこかそんな納得の色がある。

 人はあまりに凄まじすぎる存在を見た時、嫉妬という感情を通り越してある種の畏敬の念を抱く。ここ最近のどこか鬼気迫る様子も相まって大半の生徒はそんな風にリィンはある種特別視していた。

 

「ふふふ、流石だな我が宿命のライバルよ。多忙を極める身ながらも成績を維持するどころか更に高めるとは……それでこそこのヴィンセント・フロラルドのライバルに相応しい!」

 

 大仰な芝居がかった様子でそう自称宿命のライバルたるヴィンセントがリィンに声をかける。その声は悔し気ながらも自らのライバルが強い事を喜ぶ色が見えていた。

 

「だが、次こそは私が勝ち、帝国貴族の誇りを君に示してみせるとしよう」

 

「ああ、楽しみにしているぞ。最も俺が今回の成績を維持すればお前が勝つことは不可能だがな」

 

 そのライバルの宣戦布告にリィンは苦笑しながら応じる。言動に見合うだけの実力と気高さを有し、生徒会で共に活動する仲間でもある目の前の相手にリィンはそれなりの敬意と好意を抱いていた。負ける気は、さらさらないが。

 そしてヴィンセントもまたそんなライバルの言葉に笑みを浮かべながらその場を立ち去っていく。宣言通りにリィンに勝つために彼もまた表には出さないよう陰で努力を重ねるのだろう。

 

「ふん、調子にのるなよオズボーン。所詮はたかがテスト。測れる事など知れている」

 

 打って変わってかけられた敵意に満ちたその声にリィンは一理あることを認めた。そう所詮こんなものは目安に過ぎない。故にこの程度で満足してはならない、自分が目指すべき場所。それはトールズ士官学院の首席という地位で終わりではないのだから。これはあくまで通過点に過ぎない。

 

「その通りだ。たかが(・・・)テストだ」

 

 そう首肯した後にリッテンハイムに対する皮肉が続く事を予想した周囲だったが、予想に反してそれだけ告げるとリィンはその場を立ち去っていく。

 まるで真実この程度(・・・・)誇るに値しないとでも言うかのように。もはやリッテンハイムに関わっている時間すら自分にとっては惜しいのだと言わんばかりに。

 以前までなら激しくやり合っていた相手のその様子にリッテンハイムとその取り巻き達も売った喧嘩が不発に終わったような鬱憤を抱えながらその場を後にする。

 

「……なんというか、大人になったよなリィンの奴」

 

「ああ、2年になる前まではリッテンハイムにあんな事言われたら大体小馬鹿にするような皮肉ぶつけていたのに」

 

 そしてそんなリィンの変化は好意的に受け取られていた。大人になった(・・・・・・)のだと。成長の証なのだと。リィンとあまり接点が薄い生徒だけではない。

 彼を担任として受け持つハインリッヒ教頭も、親友であるアンゼリカやクロウでさえも彼のその変化を成長の証だと捉えていた。後輩の面倒を見るようになって、先輩としての落ち着きが出来てきたのだとそんな風に。

皆彼の変化に気づかない、あるいはそれをこれまでと同じ成長なのだと(・・・・・・)捉えていた。

 

「・・・・・・・・・・・」

 

 ただ一人、トワ・ハーシェルだけが、そんな彼の様子にどこか言いようのない不安を覚えていた。

 

 

・・・

 

 

「ねぇ、最近のリィン君どこかおかしくないかな?」

 

 テスト結果も張り出され、ナイトハルト教官に稽古をつけて貰う約束があると申し訳無さそうな様子で断ったリィンを除き、技術棟へと集まったクロウ達はそんなトワの発言に目を丸くする。

 

「そうか?別に特に変らねぇと思うが……ま、確かに色々忙しい癖に全教科満点なんてやりやがった辺り、ついにあいつの変態っぷりも行き着くところまで行き着いたって感があるけどな」

 

 以前より勉強と鍛錬が趣味と言った在り方のリィンをクロウはそう揶揄する。まあ元帥だの宰相だのと言った地位にまで上り詰めるような奴らはそれ位ネジが外れているものでないと務まらないのかもしれないが。

 そう、リィンが勉強や鍛錬に打ち込むのはずっと前からそうだった。むしろだらけたリィンなどクロウの想像の埒外である。故にクロウ・アームブラストも気づいていなかった。

 

「ふむ……まあ言われてみれば若干付き合いが悪くなった気がしないでもないが……だが何もリィンの友人というのは我々だけじゃないんだ、そんなものじゃないかい?」

 

 確かに以前よりも自分達よりも教官の所に行く時間が増えた気はする。しかし、それとて別段自分達を避けているというわけではない。たまたま先約(・・・・・・)が入ったりしただけだ。実際今回の集まりに参加しなかった理由もそうだったし、断る時のリィンは申し訳なさそうにしていた。

 彼が教官に熱心に指導を受けに行くのはもはや日常的な光景であるので、そう変わったことではない。間が悪かっただけだ。実際数日前の自由行動日の際には5人で揃って導力バイクの調整を行ったし、リィンも楽しそうな笑みを浮かべていた。

 元よりそう四六時中ベタベタと一緒に居る等というノリはアンゼリカの趣味じゃないし、リィンが2年になり第三学生寮に移ってからは行動をともにする時間も1年の頃より減った。

 それ故アンゼリカ・ログナーもリィンの変化に気づかない。何故ならリィンがこの四人に抱く友情、それ自体は何ら変わっていないのだから。

 

「まあ確かに変わったって言えば変わったって言えるのかな。今日も以前だったら「最もそういう事を満点なりとられていない状態で言われても、負け犬の遠吠えにしか聞こえんがな」とか小馬鹿にした笑みを浮かべながら言うんだろうなーって思っていたけどそのままスルーしていたし」

 

 リィンのこれまでとは違った様子で真っ先にジョルジュに浮かぶのはそれだ。だが、この変化は所謂成長、大人になったと呼ばれる部類だろう。好意的になりこそすれ、特に非好意的になる理由がない。実際貴族クラスのタンニンたるハインリッヒ教頭等は受け持ちのクラスが大分平和になって胸を撫で下ろしているし、リィンの成長を好ましく思っていた。

 

「後輩の面倒見てあいつも丸くなったって事かねー」

 

 そしてそうなった理由を教官も2年の面々も先輩になって後輩の面倒を見るようになったからと捉えていた。Ⅶ組の担任であるサラ教官は得意気な顔をして、ハインリッヒ教頭から「……オズボーン君が後輩の面倒を見ているという事はつまりそれだけ担任が頼りになっていないということではないかね?」等と嫌味を言われている。

 

「そう……なのかな?」

 

 信頼する友人達、自分と同じ位にリィンのことを知っている、とトワは思っている、3人が揃って自分の抱いた疑惑を否定した事でトワは自分の判断に自信がなくなる。

 何せこれは極めて感覚的な事だったから。この学院に入ってから一番リィンと共に時間を過ごしてきて、リィンの事を一番良く見ている(・・・・・・・・)彼女だからこそ抱いた些細な違和感。

 だからこそ、信頼する友人達の筋道だった言葉を聞いて次第にトワは自分の抱いたその懸念が杞憂や気のせいではないかという方向に傾いていく。

 元々彼女は士官学院にて次席を務める才媛だ。そういった感覚的なものよりも理性や論理を重んじる傾向がある。

 何せ元々理由は説明できないが、どこかおかしい(・・・・・・・)気がする等という曖昧なものなのだ。

 リィン本人に何か悩んでいる事はないか?と聞いても、柔和な笑顔を浮かべて「いや、別にないよ。トワの方こそ何か悩んでいる事があれば俺にいつでも相談して欲しい」

 と返答され、確かにその表情に悩んでいる(・・・・・)様子は何も見受けられなかった。

 

「お前さんも中々に心配性だからなー」

 

「私としてはトワの方はトワの方で気がかりなんだけどね」

 

「そうだね、生徒会会長で次席の優等生。トワもあんまりリィンの心配している場合じゃないレベルで激務だと思うんだけど」

 

 そう矛先が自分の方に向いだせばトワは慌てながら弁解をする他ない。

 故に唯一リィンの変化の兆しに気づきかけていたトワも結局、自分が心配性なだけだったのかもしれないという結論に至るのであった……

 

・・・

 

 カランと双剣が弾き飛ばされる、そして無手となった自分に対して突きつけられるサーベルを前にしてリィンは……

 

「参りました、ナイトハルト教官。やはり、まだまだ教官には敵いませんね」

 

 素直に白旗を挙げる。鍛錬というのはがむしゃらにやれば良いというものではないし、退くべき時を見極められないのはただの愚者だ。そんな今もまた突きつけられた達人との壁(・・・・・)を前にしてマグマのように煮えたぎる感情を切り離して、冷静な理性による判断で。

 

「ふ、私はお前より10以上も歳が上なのだぞ。そうそう追いつかれては敵わん。だが研鑽を怠っていないようだな、着実に成長している。……少々悔しいがおそらく私が士官学院生だった頃よりもお前は強い。この分ではもう数年もすれば追いつかれるかもしれんな」

 

 そう目の前の可愛い弟分を学生としては(・・・・・・)破格の実力だと賞賛する。基本スパルタの彼が此処まで絶賛するのは早々ない。目の前の少年は間違いなくいずれ(・・・)軍を背負って立つ存在となるだろう。

 自分が兄貴風を吹かせていられるのも一体いつまでなのか、いずれは自分の方こそが目の前の少年の方に部下として敬語を使わなければならない日が来るだろうとナイトハルトは期待半分の確信を抱いていた。

 

「ありがとうございます、それでこの後なんですが教官のご都合さえよろしければ、軍事学について現役の士官たる教官に教えて頂きたいことがありまして」

 

「もちろん構わんぞ」

 

 どこまでも向上心に溢れた様子で貪欲に知識を吸収していくそのリィンの様子にナイトハルトは笑みを深める。全くもって将来が(・・・)楽しみだと。

 既に学年首席という立場に有りながらも、決して奢ること無きその飽くなき向上心をナイトハルトは好意的に受け止めながら、限られた時間の中で全霊を持って指導に当たるのであった……

 




1年の頃のオズボーン君とリッテンハイムの関係はハリーとマルフォイのようなアレです。

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