(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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Gさんとかいう解放戦線幹部の中でⅢで一人だけ株価が急上昇した人


鉄血の子と悠久なる大地《ノルド》⑤

ーーー監視塔が昨夜攻撃を受けた。

 早朝、課題へと取り掛かろうとしたリィン達の下にそんな事態の急変を告げる知らせが届いた。急ぎゼンダー門へと駆けつけたリィン達は「今のうちに帝国本土に帰還せよ」という中将の配慮を辞退して、今回の事件の調査を申し出る。そうして調査を開始したリィン達は共和国の基地もすぐ前に何者かに攻撃されていたこと、攻撃に使用された迫撃砲が帝国の(・・・)ラインフォルト社製のもの、それも既に正規軍は使わず傭兵が使用するような旧式の型式の物だったことから背後に両国を激突させたい何者かが潜んでいると推定。そして計算により割り出された砲撃地点へと赴くと、そこでリィンの旧知の少女と出会うのであった……

 

「久しぶりだな、ミリアム」

 

 もしやこの少女が犯人なのかと警戒する四人を他所にリィンはとても親しげにその少女へと語りかける。その様は不審人物である容疑者に向けるものではなく、ともすると家族に語りかけるようなとても親愛に満ちたもので

 

「早速だが、あまり時間がない。今回の事件でお前が掴んでいる事があれば教えて欲しい。戦争を回避するために、俺達も協力は惜しまないつもりだ」

 

 自分達を温かく歓待してくれていたノルドの人達の笑顔をリィンは思い出す。彼らのあの笑顔を護りたいとそう思う、例え国は違えども彼らのような人々の暮らしを護る事、それが自分が軍人となる理由なのだから。

 

「うーん、確かにリィンだったらちょうど良いかも。でも、他の人達は大丈夫かな?多分戦いになると思うんだけど」

 

「大陸最強と謳われる赤い星座や西風の旅団クラスならばともかく、そこらの傭兵に劣らないだけの実力が有ることは俺が保証する。加えて戦術リンク(コレ)の恩恵も有るしな」

 

 ミリアムから告げられた足手まとい(・・・・・・)にならないかという危惧をリィンは否定する。戦術リンクの恩恵を受け、サラ・バレスタインという実力者のシゴキも受けている後輩達は既に精鋭と呼ぶに足るだけの実力を備えていると。

 

「リィンがそこまで太鼓判押すなら大丈夫かな。そもそもそこまで練度が高そうでもない、傭兵くずれって感じの連中だったから僕とリィンの二人だけで十分お釣りは来そうだけどね」

 

 その自分の実力に対する確かな自負とリィンの実力に対する信頼の言葉を聞きリィンは笑みを浮かべる。義姉の足手まといとなってしまったケルディックやバリアハートの時とは異なり、義妹と肩を並べて父のために(・・・・・)戦える事に微かな喜びを心の奥底で覚えながら。

 

「決まりだな。そこまでの自信を見るに、どうやらミリアムは今回の事件の犯人達と潜伏先を把握しているという事だな」

 

「うん、犯人は数名くらいの武装集団。高原の北の方に潜伏しているよ」

 

「よし、そうと決まれば事は急ぐ。早急に向かうとしよう」

 

 そうしてミリアムとの話し合いを終えたリィンは背後でポカンとしている後輩達の方を振り返り

 

「これより、俺たちA班は監視塔攻撃の犯人と目される武装集団の拘束に向かう。ミリアムの情報によれば練度は大したことがないとの事だが、それでも相手はプロだ。これまでの魔獣達を相手にしたとは違った戦いになる。全員気を引き締めていけ。ゼクス中将への報告は集落につき次第行うものとする」

 

 そうリィンが宣言するも四人の反応は鈍い。そんな後輩達の様子をリィンは訝しがり

 

「どうしたお前達、まさか怖気づいたのか?それならば、お前達には中将への報告に向かって貰い、武装集団の拘束には俺とミリアムの二人で向かうが……」

 

「いえ、そういうわけではなくて……」

 

「どうやら、その少女と先輩は旧知の仲のようだが」

 

「説明してもらいたいものだな、そいつは何者だ」

 

 そんな後輩達の問いかけにそういえば彼らはミリアムの事を知らないんだったと自分が若干焦っていた事にリィンは気づき簡易的な紹介を行う。

 

「彼女の名はミリアム・オライオン。我が父、ギリアス・オズボーン宰相の直属でもある帝国軍情報局の局員だ」

 

「よろしくねー」

 

 天真爛漫な様子で挨拶をするミリアムの姿はどこからどう見ても元気いっぱいな年相応の子どもにしか見えず、故にⅦ組の面々は困惑する。

 

「え、えっと……」

 

「何かの冗談……ではないんですよね?」

 

「こんな緊迫した状況下でそんな笑えん冗談を飛ばすつもりはないな。彼女は正真正銘の現役の情報局員だ。……まあ俺たちは愚かフィーよりも年少の彼女を見て困惑するのはわからんでもないが」

 

 気持ちはわからんでもないと初めて会った時の自分を思い出しながらリィンは告げる。

 

「ふむ、その情報局というのは……」

 

「帝国軍情報局、かの鉄血宰相の肝いりで設立された帝国政府の外交政策・国防政策・内政政策の決定と遂行に必要な情報の収集や工作を主に担当する組織だ」

 

 ガイウスの疑問にユーシスがスラスラと組織の概要を説明する。そうしてリィンの方に冷ややかな視線を送って

 

「ふん、どうやらオーロックス砦への侵入の件については全くの冤罪だったというわけではないようだな」

 

 貴方の身内の犯行だったんじゃないかと責めるユーシスの言葉と視線にリィンは肩を竦めて

 

「いいや、冤罪だとも。親類までもその罪を負う事になるのは皇族弑逆や国家転覆、または敵国への内通と言った重罪だけだし、それにしても3年前の法改正によって親族にまでその罪を負わせる事は廃止された。

 故に仮に(・・)ミリアムがオーロックス砦への侵入の容疑者だったとしても領邦軍が俺を拘束したのは事実無根の言いがかりという奴さ」

 

 自分自身は至って清廉潔白だとしれっとリィンは言ってのける。そもそもミリアムの容疑もあくまで疑惑に過ぎないぞとすっとぼけながら。

 

「まあまあ、今は味方同士で争っている場合じゃないって!戦争のピンチなんだから、此処は一致団結して協力し合わないと!!!」

 

「疑惑の張本人たる貴様が言うな、貴様が」

 

「あ、あはは……」

 

 かくしてミリアムを加えたリィン達一行は事件を解決するべく動き出すのであった…

 

 

・・・

 

 途中目的地へと向かう前に寄った集落からの通信で半ば強引な形で15:00までの活動許可を取り付けたリィン達。そうして犯人達が潜伏している現場へと趣き、話し込んでいた眼鏡の男と猟兵崩れ達へと投降の勧告を行ったのだが……

 

「ふむ……お前達は……」

 

 そうして一体何者かと主犯と思しき眼鏡の男は少しだけ思案するかのように現れたリィンとミリアム、そしてガイウスの3人(・・)を見つめるが

 

「ク、クククククク、フハハハハハハハハハハハハハ」

 

 リィンの姿を目にした、その瞬間に狂ったような哄笑を突如として始める。

 

「……何がおかしい」

 

「ククク、いやいやこれが笑わずにいられるか。何せ予期していなかった獲物が自らこうして飛び込んでくれたのだからな。飛んで火に入る夏の虫とはまさしくこの事かと、そう思っただけさ。

 まさかケルディックでの仕込みを邪魔してくれたあの男(・・・)の息子にこのような場で巡り会えるとは思っても居なかったよ」

 

 鉄血宰相はあの男と呼ぶその言葉の中に宿った深い深いヘドロと化したような漆黒の憎悪をリィンは感じ取り、少しだけゾクリとさせられる。父に対する憎悪のこもった言葉はこれまで幾度も受けてきた。だがその多くは今自分達が持っているものを奪おうとする簒奪者に対する貴族の憎悪であった。

 だが目の前の男が発したその憎悪はこれまでリィンが幾度も感じたそれではない。それは、全てを奪われた者(・・・・・・・・)の憎悪。復讐者の宿す漆黒の憎悪であった。

 それはリィンが今まで感じたことのないものでーーー

 

(いや、待て)

 

 自分はかつてこれに似たものをどこかでぶつけられたことが有ると記憶のどこかに引っかかりを覚える。

 

(そうだ、アレは確か……)

 

 その瞬間にリィンの脳裏を過るのは今では一番の親友と呼べるだけの絆を紡いだ最高の相棒との最悪とも言えるファーストコンタクト。自分に現実を教えてやる(・・・・・・・・)とそれまで被っていた仮面を脱ぎ捨てて悪意にまみれた呪詛を発していた親友の姿。それが、目の前の男の姿と重なった。

 この男もあるいはクロウのように父の覇道によって轢き潰された犠牲者なのかもしれない、そんな考えが頭を過るが……

 

「我が名はギデオン、それだけ名乗らせてもらおう。同志達からは《G》と呼ばれている。ーーーもっとも、すぐに死にゆく事になる者たちには不要な事かもしれいないがね」

 

 大仰な様子で《G》と名乗った男はそうして再び笑い始めて

 

「ははは、本当になんたる僥倖だ。ああ、唯一残された実子を奪われたとなればさしもののあの男も多少はその鋼の心にヒビが入るかな?それとも全く意に介さないか、まあどちらでも良い。あの男の手駒(・・)を一つ削れる事には変らない。

 申し訳ないが、そこのノルドの民と思しき若者はとばっちりも良いところでは有るのだが、この場にてその若い命を散らしてもらうとしよう。恨むならばあの男の息子と行動を共にした自らの不明さを呪ってくれたまえ」

 

「ふん、さっきから聞いていれば、一人で盛り上がってくれたが貴様はどうやら計画を練ること自体は得意でも実戦の指揮に関してはお粗末も良いところのようだな」

 

 親友と一瞬重なったことで僅かだが芽生えた同情の心をリィンは断ち切り、どこまでも冷然と言い放つ。

 例えこの男にやむを得ない事情(・・・・・・・・)があったとしても、その恨みが正当であったとしても。

 目の前の男のやっている事、それは正当でも何でもない。今目の前の男のやっている復讐のせいでノルドの民は故郷を失いかねない状況に立たされているのだ。

 言いたい事があるのならば、それは捕らえてから司法の場で存分にやってもらえばいい。

 自分がなすべきこと、それは目前の犯罪者共(・・・・)を捕縛し、共和国との戦争を回避すべく動く事であるとそう決意の心を強く燃え滾らして。

 下らぬ甘さを捨て去り、怒り、砕き、焼き尽くせと。敵への同情など研ぎ澄ました刃に刃毀れを生じさせるものでしか無いのだから。

 

「何……?」

 

「そんな猟兵崩れの連中如きが俺たちに敵うとでも?鉄血の子(・・・・)も随分と侮られたものだな。見たところ、貴様自身も大した実力を有していないだろう。頭でっかちの学者崩れ(・・・・)といった所か」

 

 殊更挑発的に嘲笑するようにリィンは告げる。この男は先程わざわざケルディックの邪魔をしてくれた等と言わなくても良い情報を喋っていた。

 即ち典型的な自己顕示欲の強いタイプの犯罪者、憎き男の息子に煽り立てれれば色々と情報を吐いてくれるかもしれないとそんな思いから。

 

「こ、この餓鬼……」

 

「調子に乗りやがって……」

 

 そしてそんな餓鬼(・・)の挑発に容易く乗った猟兵崩れの面々を見てリィンはどうやら目の前の連中が文字通りの猟兵崩れに過ぎないと確信を抱く。強いものが必ずしも立派な精神を宿しているというわけではないが、それでもある程度以上の実力者ならこんな安っぽい挑発にああまで容易く乗るという事はないだろう。

 

「ククク、大層な口を聞く。若いとは良いものだな。父親は皇帝陛下の信認厚き平民の味方等と称される宰相、自身は名門士官学院の首席。さぞ、恐れを知らぬ事なのだろうな。自分の未来は栄光に満ちたものであり、自分の父親は正しい存在で私は愚かなテロリストであり、犯罪者であるとそう思っているのだろう」

 

 そしてそんな風に挑発に乗った猟兵崩れとは裏腹に《G》と名乗った男はリィンの挑発の言葉に意外にも静謐な意志でもって応じていた。

 

「ああ、そうだ。誰も彼もがあの男の輝きに目がくらんでしまっている。あの男の真の恐ろしさに気づいていない。ならばこそ!例え汚名を着ようとも私がやらねばならない!」

 

 それはただ憎しみに取り憑かれただけのものではない、例え悪を為す事になろうともやらねばならぬ事があるのだという使命感。それらを感じ取り、リィンは一瞬困惑するが、それもまたすぐに思考の隅へと追いやる。

 戦いに於いて敵への思いやりなど甘さでしかないのだから、聞きたいことが有るのならば捕らえてから尋問なり何なりをすればいいだけの事。優先順位を間違えてはならないのだと、そう自分に言い聞かせる。

 

「ならばこそせめてもの慈悲だ。そうして夢を見たまま空の女神の下に召されるが良い!さあ、お前達この世間知らずのお坊ちゃんに現実というものを思い知らせてやれ!」

 

 そう後方より雇った面々へと《G》が指示を下した瞬間にもうここらで頃合いだろうと判断してリィンは不敵な笑みを浮かべて

 

「いいや、現実を知るのはお前達の方だよ。一体、此処に乗り込んだのがどうして今、目の前に居る俺たち三人だけ等と思った?」

 

 その言葉に敵は何?と訝しがるが時既に遅し。姿を現さずに後方にて控えていたユーシス、アリサ、エマ。

 今回のメンバーの中でも導力魔法(オーブルアーツ)に高い適性を持つ三人の準備万端で整えられた大規模攻撃魔法が目の前にいるリィン達へと襲い掛かろうと身構えた武装集団を飲み込んだ……

 




Gさん:学者。気配感知とか当然出来ない
武装集団:猟兵崩れの雑魚。普通にリィン達に接近されて声かけられるまで侵入している事に気づかなかった

そら、正面からやり合わずに不意打ちするよ
※オズボーン君はクレアさんだけでなくレクターにも英才教育を受けています

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