(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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執筆のために閃の軌跡をやり直しているんですが、なんというかオリビエ、セドリック、アルフィンの皇族三兄妹が仲良く語らっているところ見るとⅢでのアレは本当にどうしてああなった……感ありますよね。

ちなみに自分はセドリック殿下みたいな力を求めて闇落ちするタイプは結構好きです。


幕間~初夏の帝都~

 ゼムリア大陸屈指の大国エレボニア帝国。そのエレボニアを統べる皇帝の居城たる《バルフレイム宮》に帝国政府の首相たる宰相ギリアス・オズボーンの執務室は存在する。その扱いは彼が皇帝の代理人である事を如実に示すものであり、貴族からは忌み嫌われている《鉄血宰相》への現皇帝たるユーゲント・ライゼ・アルノールⅢ世からの信認の厚さを示すものであった。

 11年前軍部の平民派の重鎮であったギリアス・オズボーンがいかにしてユーゲントⅢ世からの信認を得たのかを帝国における大きな謎とされている。彼が卓越した才幹を有する人物であったことはそれまでの実績からも明らかであったがそれはあくまで軍人としての実績。政治家としてのオズボーンの才幹はその当時ほとんど未知数であったと言って良い。

 加えて言うのならオズボーンと皇帝の関係も然程親密であったわけではない、多くの武功を挙げて皇帝の手ずから勲章を授与される事はそれまでも幾度かはあったが、それでも突如としてのエレボニアの歴史上でも初となる平民を宰相に抜擢するという異例の人事を行う程の信認をそれだけで得たとは考え辛い。一体何が彼を宰相位にまで押し上げたのか、それは大きな謎であり、当然の事ながら四大名門を筆頭とした貴族勢力からは猛反発を受けた。

 だが、そんな異例の抜擢に対してオズボーンはその実績で持って反対勢力を黙らせた。リベールという小国相手に喫したまさかの敗戦から見事帝国を立て直し、誰もが望む「強いエレボニア」を取り戻した。失墜した軍部の信頼を取り戻すべく、その地位に見合わないと思しき家柄だけの将官を更迭する一方で《赤毛のクレイグ》を筆頭に平民出身の優秀な若手将校を次々と抜擢して出自に囚われない実力主義を浸透させ、軍部の大胆な改革を行った。

 平民の権利の獲得のために大貴族相手に一歩も引かず大胆な法改正、税制改革を行った。帝国全土に軍事と民需、それぞれに対応できる大規模な鉄道網を張り巡らせる事で経済と流通の活発化を図った。治安に不安を抱える小国を合意の下(・・・・)次々と併合する事で領土は飛躍的に拡大した。

 革新派は言う、ギリアス・オズボーンこそ稀代の名宰相、数十年に一度現れるおとぎ話の英雄の如き奇跡のような存在、そんな指導者を空の女神は我々に遣わしてくれたのだと。平民達よ今こそ団結の時だ。貴族により支配されてきた旧い体制を終わらせる時が来たのだ。宰相閣下と我等でそれを為すのだと、そう彼を絶賛し崇拝する。

 貴族派は言う、ギリアス・オズボーンこそエレボニアを破壊する怪物で有ると。人心を惑わし、陛下を誑かす事でこのエレボニアを破滅に導こうとしている存在なのだと。誇りある貴族よ、この怪物を誅戮し、以てあるべき秩序を取り戻すのだと、そう彼を罵倒し憎悪する。

 崇拝と憎悪、込められた感情は正反対なれどこの両派のギリアス・オズボーンに向ける感情にはある共通点が存在する。すなわちどちらももはや、ギリアス・オズボーンを一人の人間とは見なしては居ない事である。“英雄”、“怪物”形容は異なれど彼をそんな“お伽噺”の存在だと見なしているのだ。

 

 

 そんな中数少ない私人としての彼の素顔を気にかけている存在、《鉄血の子ども》たる鉄道憲兵隊大尉クレア・リーヴェルトは先日起こったノルド高原での共和国との戦闘状況、その交渉の成果を上司たる宰相へと報告していた。

 

「ーーー共和国政府との交渉は完了。ノルド高原における戦闘状況は完全に回避されたとのことです。代わりに実行犯である傭兵団を先方に引き渡す事となりましたが……」

 

 クレアが告げるのはレクター・アランドール、リィンの兄貴分たる彼がきちんとその職務を果たした事を告げる言葉。リィンとミリアムという二人の鉄血の子が捕らえた傭兵団を交渉材料に《かかし男》が交渉を纏める。まさしく鉄血の絆此処に在りとでも言うべき、見事な連携であった。

 

 

「ーーーまあ、仕方あるまい。基より帝国側(こちら)の事情で起きた事件だ。《通商会議》を前にロックスミスに貸しを作ってやったと思えばいい」

 

 基より掃いて捨てる程にいる使い捨ての駒。大した情報も持っていない以上、そんな連中の身柄に拘泥したところで特に意味はない。

 軍事施設を攻撃した実行犯の身柄の処遇など、精々こちらで処刑するか、それともあちらで処刑するかその程度の差だと。

 帝国側よりも共和国側の方が被害が大きく、死者の数も多い以上共和国が自分達の手で処分したいと思うのは至極妥当であった。

 

「はい、仰る通りかと。ただ実行犯はともかく“彼ら”の一人は取り逃がしたままです。おそらく幹部クラスの一人である事は間違いないかと」

 

 リィンとミリアム、義弟と義妹からの報告を思い出す。

「主犯格の男は自らをギデオンと呼称。同志からはGと呼ばれている等と言っていたことからも背後に何がしかの組織が有ることが推定される。高い知性を感じさせる一方で戦闘指揮に関してはお粗末だったこと、貴族勢力との繋がりを示唆する発言、宰相閣下への激しい憎悪、何らかの使命感を有している事から貴族寄りのインテリ層である可能性が高いと思われる」

「おじさんの事すっごく恨んでいたよ。メガネかけていて頭良さそうな感じだったけど戦いの方はお粗末だったから多分元々は学者さんか何かだったんじゃないかなぁ」等とそれぞれ記されていた。それぞれがどちらの報告かは言うまでもない。

 

「フフ、そうだな。此処までの仕掛けを施されては我々も慎重にならざるを得まい。まずは帝都の夏至祭、“子どもたち”をどう動かすべきかな」

 

 慎重にならざるを得ないと発言しながらもその言葉に恐れの色は欠片も見られない。挑んでくるというのならば受けて立とう、自分への怒り、憎悪それらを全て受け止め、呑み干して自分はこの道を突き進み続けよう。そんな鋼の意志の込められた覇者の自負がそこには込められていた。

 そうして告げられたクレアの答えにオズボーンは満足気に頷き、「自分に甘すぎるのでは無いか」とそんな親しみの込められた他愛ない言葉にその助力に感謝する言葉を告げ

 

「夏至祭の方は君に一任する。なんだったら、我が不肖の息子を使っても良いだろう。バリアハートでは未熟さを晒したようだが、今回の一件ではどうやらそれなりの(・・・・・)働きをしたようだからな」

 

「それは……」

 

 その提案にクレアは顔を曇らせる。正直今回の一件でもあの子が傭兵団と交戦したという話を聞いた時は驚きのあまりコーヒーを零してしまった。未だ学生の身である義弟を心配する姉心、そんな私情が敬愛する上司からの提案に彼女にしては珍しい事に反発めいたものを覚えさせていた。

 

「既に鉄道憲兵隊に加わったとしても何ら問題のない実力を有している、一年前にアレに対してそう評したのは他ならぬ君だ。それともアレはただのリップサービスだったかな?」

 

「そのような事は決してございません。おっしゃる通り実力で言えばなんら問題はないでしょう。ですがあの子は、リィンさんは未だ学生です。力を借りるのではなく、大人として我々のほうが護らなければならない存在なのではないでしょうか?」

 

 姉さん、クレア姉さんと自分を呼んでくれる宝石のような笑顔、それをクレアは思い出す。何時までも護られる子どもでない事はクレアとて百も承知。もう数年もすれば自分と肩を並べ、そして追い越していくのだろう。だが、それでも学生である後ほんの僅かな間だけでも出来る限り危険な事をして欲しくない、それがクレアの偽らざる私情であった。 

 

「子供とは言うがアレも既に17。15で兵士となる者も数多くいる以上、一概には子どもとは言えまい。何よりトールズ士官学院の学生という立場は逆に便利でも有る。遊撃兵としてはある意味持ってこいの立場だ。その事は君とて理解しているだろう?」

 

 帝都は革新派のお膝元では有るが全権を掌握しているというわけではない。皇族の守護を務める近衛兵は領邦軍の精鋭から選抜されている。当然の事ながら鉄血宰相の子飼いたる鉄道憲兵隊との仲は最悪と言っていい。鉄道憲兵隊への協力や介入を頑なに拒否する可能性は大いにあった。そして領邦軍にも人材を輩出しており、皇族が理事長を勤め、生徒の中にも貴族が存在する特科クラスⅦ組がそんな自分達よりも動きやすくはあるという事を。

 

「……ご指摘の数々はいちいちごもっともです。ですが閣下ーーー」

 

 平行線であった。それはさながら期待しているからこそ我が子を千尋の谷へと放り込もうとする厳しき父の愛と我が子に危ない事をしてほしくないのだという母の愛の対立。そして公人としての情を挟まない我が子であろうと一つの駒としてみなす冷徹な判断と「大切な存在だから危ない目にあって欲しくない」そんな私情の対立であった。

 世の中では往々にして有り得る対立であったが、奇妙なのは冷徹に駒として扱おうとしているのが血の繋がった実の父であるのに対して、私情にかられている側の方には一切の血のつながりがない点であったであろう。

 そんな常に無いクレアの様子をオズボーンは叱責するでもなく興味深そうに眺めていたが……

 

「閣下、お話中のところ申し訳ございません。レーグニッツ閣下がいらっしゃいました」

 

「ああ、入っていただきたまえ」

 

 そうして革新派のNO2たる帝都知事カール・レーグニッツが現れたことでその話は打ち切りになる。両名への挨拶を行い、クレアはその場から退出するのであった……

 

 

・・・

 

「ふふ、筆頭は彼女ではないがね。だが彼女を含め全員よくやってくれている。老獪なる大貴族共《四大名門》の古狸共を相手に」

 

 とても領邦軍から《氷の乙女》等と恐れられている子どもたちの筆頭とは思えない、そんな風にクレアの事を表する知事へとオズボーンは応じる。彼女が筆頭というわけではないと。

 

「ああ、なるほど。確かに、閣下にはご自慢のご子息が居られましたね。私も理事として学院からの報告は聞いておりますが全くもって将来が楽しみな若者です。うちのマキアスも随分と世話になっているようで……いずれは彼が閣下の後継となられて彼女たちを率いて行くというわけですかな?」

 

 最古参たる彼女が筆頭ではない、その言葉にレーグニッツ知事はすぐに一人の少年を思い出す。すなわち目の前の人物の唯一の実子たるリィン・オズボーンの姿を。カール・レーグニッツのリィンへの評価は高い。同じ革新派に位置する、もしも自分達が志半ばに果てるような事があればその遺志を継いでくれるであろう将来有望な若者と、そんな風に思っている。また個人的にも息子であるマキアスの貴族嫌いを何とかするのに一役買ってくれたというのは、親として一度礼を述べたいところであった。

 

「さてどうでしょうかな、アレは未だ若く未熟です。現状に満足して天狗になるようであればそこまでです。ーーー何よりも私の後継となり得るのは私を上回るだけの才幹と実績を周囲に示したものです。

 血の繋がり等ではなく実力によってその人物が在るべき地位へと収まる社会、そんな国へとするためにこそ革新派(われら)は立ったのですから」

 

 ただ貴族であるというだけ優遇される社会、そんな体制を否定するためにこそ我らは戦っているのにその我々が我が子であるというだけで権力を移譲してはならないだろうというその言葉にレーグニッツ知事は苦笑して

 

「なるほど、中々に手厳しい意見ですがごもっともです。閣下の後継者となるものは血筋ではなくその実績によって決まるというわけですな」

 

「ええ、その通りです。そしてそれは何も私の死後でなければならないという道理はないでしょう」

 

 自らを上回るだけの才幹と意志を持った者が現れて自分を打倒するというのならば、それはそれで望むところだと。自らに対する宣戦布告を行ったとある皇子の姿を思い浮かべてオズボーンは不敵な笑みを浮かべる。

 

「……自らの身命よりもこの国の行く末をこそ重んじる閣下のご覚悟には感服致しますが、どうかもう少しご自愛下さい。貴方が居なくなれば我々は仰ぐべき指導者を失う事となるのですから」

 

 カール・レーグニッツは革新派のNO2と目されている。その識見と才幹は卓越したもので、彼が優秀な政治家である事に異論を唱えるものは政敵たる貴族派を除けばほぼ皆無と言っていい。

 だがそれでも彼ではオズボーンの代わりにはなり得ない、行政官僚出身たる彼は正規軍の7割を掌握しているオズボーンとは異なり軍部からの支持が薄いからだ。

 彼に対する軍部や革新派からの支持はあくまでオズボーンの補佐役としてのもの。故に万一オズボーンが倒れるような事となれば、まず間違いなく革新派は割れる。

 だからこそその身辺にはくれぐれも気をつけて欲しいとどこか自分自身の命さえも冷徹に見放しているような目の前の盟友へとレーグニッツ知事は懸念を伝える。

 

「無論、理解しておりますとも。この国が“呪い”から解き放たれるところを見届けなければ死んでも死にきれませんからな」

 

 貴族による支配体制を指して“呪い”等と称するそのオズボーンの過激な物言いにレーグニッツ知事は苦笑を浮かべるのであった。

 

・・・

 

 バルフレイム宮の一角、皇族専用のその一室にて二人の兄弟が語らい合っていた。片方は放蕩皇子等と称されるオリヴァルト皇子、そしてもう片方は帝国の至宝と謳われるセドリック皇太子。

 平民出の母の子のため皇位継承権を有さない長兄と次代の皇帝たる皇太子。ともすれば骨肉の争いへと繋がりかねない二人でありながら、両者の間にそのような険悪な雰囲気は皆無であった。自由闊達で奔放ながらも政治や芸術といったあらゆる分野に深い造詣を見せる兄を尊敬し慕う弟と次期皇帝という重みに押しつぶされそうになっている真面目で責任感の強い弟を励ます兄、そんなエレボニアの民が見れば皇室への敬愛を深めるであろう光景が繰り広げられていた。

 そして兄たるオリヴァルト皇子は「もう少し、君は自由に振る舞ってもいいと思うのだが」と何かと気苦労の絶えない生真面目な弟を気遣う言葉をかける。そうしてそんな言葉にセドリック皇太子は憧憬の対象として二人の人物を挙げる。一人は他ならぬ目の前にいる自由闊達に振る舞う兄オリヴァルトであると。そしてもう一人の人物が父の信頼厚きオズボーン宰相だと。帝国男子(・・・・)としてその力強さ(・・・)に憧れると。どこか弱々しい自分に対するコンプレックスを感じさせる言葉を述べながら。そんな弟の様子にオリビエは危惧を抱き、彼の持つ危険性を教えんとしたところで

 

「そういえば、オズボーン宰相と言えば、兄上が理事長を勤めているトールズにそのご子息がいらっしゃるんでしたよね。確か、リィンさんというお名前だったと思いますが」

 

「ああ、その通りだが良く知っていたね」

 

「クルトが良く話してくれていたんです。尊敬するもう一人のお兄さんみたいな人だって」

 

 自分の守護役を務める事となる友人が良く目を輝かせながら教えてくれた、曰くまさに帝国男子の鑑とも言うべき尊敬する兄弟子がいると。

 

「なるほど、確かに彼の事は我が親友も高く評価していたよ。きっと良い軍人になるだろうと、そんな風にね。理事長として聞いたところの話によると成績も首席で人格も公明正大とまさにそんな非の打ち所のない優等生らしいよ」

 

「ああ、やっぱり凄い人なんですね。……僕は来年トールズに入学してちゃんと父上の名を汚さないように振る舞えるでしょうか?」

 

「こらこら、さっき言ったばかりだぞ。あまり深刻にならずに肩の力を抜き給え。一つの事を貫き通す鋼の如き強さも結構だが、その前に君はもっと多くの人と出会うべきだ。何せ君はまだ、この宮廷の外の世界というものをほとんど見たこと無いんだからね。トールズでは多くの出会いが君を待っている、そんな友人達と時に馬鹿をやって青春を謳歌したまえ。自らの意志と覚悟を定めるのはそれからでも遅くはないさ」

 

 そうどこか焦りが見える弟を宥めるかのような言葉を告げた後にオリビエはからかうような口調で

 

「何せ、私なんてついこの間まで我が親友を振り回してリベールでぶらぶらしていたのだからね。君も精々親友であるクルト君を振り回してやりたまえ」

 

 自分の中の意志を定めた忘れられない旅と出会い。それらを思い出してオリビエは穏やかな笑みを浮かべながら真面目な弟に告げる、もう少し我儘になれと。

 

「……それじゃあ、兄上に早速ですが一つお願いがあるんですが」

 

 そうしてセドリックは決心する、目の前の兄の言葉に甘えて少しだけ我儘を言ってみようと。

 

「ふむ、何かな。可愛い弟の頼みだ、大抵の事は叶えてみせようじゃないか」

 

「はい、兄上がトールズ士官学院の理事長を勤めている事を見込んでの頼みなんですが」

 

 そうして告げられた弟からの細やかで微笑ましい頼みごとをオリビエは喜んで快諾するのであった。

 

 

 




原作のアルフィン殿下がリィンに興味を抱いたのは親友の大好きなお兄さんだったからなので当然エリゼと赤の他人であるオズボーン君には特に興味をいだいておりません。
代わりにセドリック殿下が憧れのオズボーン宰相の息子&友人であるクルトの尊敬する兄貴分という事で憧憬を抱いています。

やったねオズボーン君!
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