(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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原作だと割りと機甲兵数機に苦戦していたりする騎神ですが
本作では通常の機甲兵とは隔絶した性能を有している扱いになります。
イメージ的にはガンダムOO 1期での各国の持つMSに対するガンダム位の性能差を想像して貰えれば良いかと。


鉄血の子と姉弟喧嘩(前)

「以上が、今日此処に三人に来てもらった理由だよ」

 

 騎神が眠る旧校舎にてエマから聞いた騎神、起動者の件それらを信頼する兄妹3人に語り終えたリィンはそこで一度大きく息を吸い込んで

 

「改めてお願いしたい、俺が騎神の起動者となるための試練を共に受けて欲しい。クレア姉さん、レクターさん、ミリアム」

 

 起動者となるための試練は仲間と共に行っても良い、それを聞いたリィンが協力者として選んだ者たち、それは血よりも濃い鉄の絆があると信じる彼の兄妹達であった。

 彼がこの三人を選んだのは実力もある、個人的な信頼も有る、だがそれ以上に彼らが同じ革新派(・・・・・)であるという事実が大きく働いていた。

 トワにクロウにアンゼリカにジョルジュ、リィンが抱く彼らに対する信頼と友情は揺るぎないものだ。特科クラスⅦ組の面々もまた頼もしい後輩として信頼をしている。

 だが、彼らは掛け替えのない友人ではあっても、同じ理想を抱く同志ではない(・・・・・・)のだ。

 騎神を手に入れるためのの試練というのは極めて政治的な意味が大きくなる、リィンは革新派としてその力を振るうつもりなのだから。そんなリィンが騎神を獲得するために付き合わせる事、それはすなわち彼らを革新派へと加担させ、騎神を巡って巻き起こるであろう様々な戦いに巻き込む事になるのだ。

 アンゼリカに至ってはかのログナー候の息女だ。元々父との折り合いが悪いらしい彼女がよりにもよって鉄血宰相の息子が力を手に入れることに加担したと彼の父が知ればどうなるだろう?どう足掻いても良い方向に進む事はありえないだろう。

 そしてトワにクロウにジョルジュの三人は革新派と貴族派の争い等関係のない存在だ。そんな彼らを革新派と貴族派の争いに等巻き込む事はできない。これは自分が選んだ道なのだから、掛け替えのない大切な友人だからこそ自分が背負うべき(・・・・・・・・)苦難を彼らに味合わせたくなどない。

 彼らこそが、彼女こそがリィンにとっては何よりもその幸福を護りたいと願う存在なのだから。

 かくしてリィンは同じ父の子たる血に勝る鉄の絆を持つ兄妹達を頼る事を選んだわけなのだが……

 

「うん、もちろん良いよー。リィンの頼みだもん!こうやって僕達四人勢揃いで一緒に何かするなんて機会そうそうないしねー。仲良し兄妹って感じで楽しそう!」

 

 真っ先に口火を切ったのはこの場において最年少のミリアムだった。行うのは命がけの戦いだというのにはまるでピクニックにでも赴くような気軽さでほとんどノータイムで笑顔を浮かべて彼女は了承の意を告げる。

 

「……やれやれ真剣な様子で俺たち三人揃ってトールズに来て欲しい。話したい事があるなんてこの間渡した鉄血の子ども(おれたち)専用の通信機で連絡してくきて、来てみりゃそこの巨乳眼鏡っ娘と一緒に居たからてっきりその娘が俺達の義妹になるという報告かと思ったぜ」

 

 ウインクをしながらそんなからかいを述べた後にレクター・アランドールは真剣な表情を浮かべて

 

「……良いんだな。わかっちゃいると思うがそいつを手に入れたら、お前はもうこれまでと同じじゃ居られなくなる」

 

 ギリアス・オズボーンの実子であるという事実、それは確かに重い事実ではあったがそれでもそれだけならば精々配属や昇進の時に配慮(・・)が働いたりする程度で済んだかもしれない。

 だがそこに《騎神》等という代物を扱えるという事実が加わってしまえば話は違う。実際どの程度の代物かは手に入れてみないとわからないが、それでも《巨いなる騎士》等と呼ばれている代物だ、生半可な力ではないのだろう、それこそ共和国や貴族派との戦いの切り札として扱われる可能性もある。そうなってしまえば目の前の義弟分は立ち止まる事をもう、許されなくなる。

 革新派の若き英雄として、本来であれば背負い込まなくても良かったはずのものを背負わずには居られなくなるだろう。故にレクター・アランドールは問いかける、考え直すならば俺達だけしかその事実を知らない今のうちだぞと。

 鉄血宰相直属の《かかし男》としてではなく、義弟を心配する一人の義兄として。

 

「学院長閣下にも同じ事を聞かれましたよ。……覚悟の上です。誰に強制されたわけでもない、俺は俺自身の意志でその道を選びます」

 

 常のからかう口調とは異なる自身を本気で案じる言葉にリィンもまた真剣な言葉でもって応じる、それらも総て受け止めて見せると。父のような(・・・・)鋼の如き意志と強さを手に入れて。

 

「そうかい、義弟(・・)がそこまでの覚悟を持って決断したんなら応援してやるのが兄貴分の役目って奴だな。……いろんな根回しだとか裏工作とかは任せておけ、そういうのも期待して俺らを頼ったんだろ?」

 

「ええ、頼りにしていますよレクター義兄さん(・・・・)

 

「ああ、任せときな」

 

 そうして二人の男はどちらも笑みを浮かべてグッと拳を互いに突き合わせる。

 ミリアムとレクター、二人からの了承を得られたリィンは残ったクレアは見つめる。

 幼い頃からずっと自分の味方だったこの優しい姉がきっと今度も困ったような笑みを浮かべながら、協力を申し出てくれる事を信じて。しかし……

 

「私は反対です」

 

 告げられたのはそんな冷たい否定の言葉。予期してなかった反対にリィンは一瞬思考が止まる

 

「リィンさん、貴方はまだ学ぶべき学生の立場に有ります。心技体、総てまだ今の貴方は成長の途上にあります。それにも関わらずそのような強大な力を得るのは貴方のためにならない、そう私は思います」

 

 これまでにもリィンが幾度となく聞いた、まだ学生(・・・・)なのだという言葉。貴方はまだ子どもなのだからそんな背伸び(・・・)をしなくて良いのだと告げる言葉。

 

「俺がまだ未熟なのは百も承知している。だけど、それでもこれは大きなチャンスなんだ!騎神を手に入れればそれは革新派(おれたち)にとって大きな+になる。もっと多くの人を護れるようになる!力がなければ、何も出来ないこと位姉さんにだってわかっているだろう!」

 

「……バリアハートの一件は聞きました。自分自身の身すら護れないのに「誰かを護る」等とあまりに思い上がりが過ぎるのではないですか?」

 

 領邦軍に捕まったという話を聞いた時クレアは誇張抜きに心臓の止まるような恐怖を味わった。だからこそ告げる、どうかもっと自分の身を大事にして欲しいと。まだ私に護られていて欲しい(・・・・・・・・・・・)と。

 

「……ッ!」

 

 そしてその言葉はリィンの胸に何よりも突き刺さる。バリアハートで味わった自分は未だ目の前の義姉達にとって護られるだけの足手まといにしかならないのだと突きつけられた出来事だったから。掌から血が滲む程に強く拳を握りしめ、それでもとリィンは声を絞り出して

 

「だけど、俺だって成長した。実際ノルドではミリアムと協力して武装集団を拘束したんだ。もう姉さんに護られるだけの子どもじゃない(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 どうしてわかってくれないんだ、俺はただ貴方と肩を並べて戦いたいとそう言っているだけなのに。そんな憧れの存在に一人前の男だと認めて欲しいのだという思いがリィンを駆り立てる

 

「……ッ!ですから、それが思い上がりだと言っているんです!確かに貴方は優秀です、ですがそれはあくまで学生としてはという話に過ぎません。未だ一人前には程遠い状態で他者を護るだの救うだの傲慢が過ぎます!貴方は、今はまだまず自分の事を第一に考えるべきです!」

 

 どうしてわかってくれないんですか、私はただ貴方に危険な目にあってほしくない、もっと自分を大切にして欲しいとそう言っているだけなのに。大切な義弟だから、もう二度と失いたくないからこそ安全な場所に居て欲しいのだとそんな思いがクレアを駆り立てる。

 

「だったら、試してみればいい。俺が姉さんの言うような何時までも守られるだけの子どもなのかを!」

 

「……良いでしょう。血気に逸る弟を諌めるのも姉の役目です。貴方がまだ子どもに過ぎないことを教えてあげます」

 

 そうしてリィンは双剣を、クレアは愛銃をそれぞれ構えてーーー

 

「「レクターさん、合図と審判をお願いします」」

 

 仲良くそんな事をハモりながら告げてくるので、レクターはその剣幕と急展開にいつも余裕のある彼にしては大変珍しい事に若干引きつった笑みを浮かべて

 

「えーそんじゃ、まあアレだ。どっちも怪我には気をつけて。どっちかがまいったというか、気絶するか、あるいは明らかに勝負が決着ついたら俺が止めに入るって事で……はじめ!」

 

 告げられた言葉と同時にリィンが全速力でクレアまでの距離を詰めんとする。姉の戦闘スタイルは把握している、導力銃を使ったその明晰な頭脳から繰り出される未来予知じみた正確な射撃。距離を取っての戦闘ではどう足掻いても自分に勝ち目はない、だが近接戦闘に持ち込んでしまえば自分にも勝機がある、そう考えて。

 

 だが

 

「その程度の事すら読めないとでも?随分と舐められたものですね」

 

 貴方の考えている事は私はお見通しなのだと最初に銃を数撃放ったと思ったクレアがなんと逆に自らリィンへと接近する。

 

「モータルミラージュ!!」

 

 そうして高速機動によってリィンの背後へと回ったクレアは導力銃による攻撃を叩き込む。すんでのところで躱したリィンであったが

 

「フリジットレイン!」

 

 それも予期していたかのようにリィンの回避先へと作り出された氷塊が叩き落される。とっさに身体を闘気で覆ったことで即座に戦闘不能にこそならなかったもののリィンの身体には少なくないダメージが与えられる。加えてーーー

 

「これで、終わりです。此処から先、貴方は何も出来ません」

 

 リィンが回避と防御に費やした、そのわずかな間にミラーデバイスをセットしてリィンを封殺する必勝の布陣を整えたクレアはそう、弟に自身の勝利を告げた。

 

・・・

 

「レクター、一体何がどうなっているの?クレアってば何であんなにリィンがそのらいざーっていうのになるのを嫌がっているのかなぁ?」

 

 そそくそと戦いに巻き込まれぬように避難した先でそうミリアムはポツリと呟く。その表情や声色は普段優しい姉の怒ったその姿に怯えたりするでもなく、純粋な疑問といった様子だ。

 

「あーまあ……なんというかアレだ弟離れ出来ない過保護な姉ちゃんの心境って奴なんだろうなぁ。まあリィンの奴はリィンの奴で確かに危なかっしいところはあるからなぁ」

 

 しみじみとレクターはバリアハートの時にあったクレアの取り乱しぶりを思い出しながら呟く。

 

「ふーん僕はてっきりあの日ってやつかと思ったよ。ところでレクター、あの日ってどういう日?」

 

「……男の俺が言うとセクハラとかで訴えられかねないんでな、エマちゃんだったか。このおチビに説明してやってくれねぇか?」

 

「え、えええええええ?」

 

 予期せぬキラーパスに同じく避難していたエマ・ミルスティンは困惑する。ついに魔女の使命を果たす決心をしたと思ったらいつの間にやら姉弟喧嘩に巻き込まれている辺り彼女もなかなかに不幸と言うべきであった。

 

「そ、そのクレアさんに聞いてみたら良いんじゃないでしょうか」

 

 そうエマは逃げる。何が悲しくて今日あったばかりの他所の子に性教育を実施しないといけないかという話なのでこれは無理からぬ事であった。

 

「しかし、あいつもやるようになったな。ボコボコにされているけど食い下がっているじゃねぇか」

 

「うん、リィンってばどんどん強くなっているよー。この間もおかげで助かっちゃった」

 

 目の前で義姉弟が戦っているというのに二人に特に心配する色はない。まるでポップコーンを食べながら劇を観賞するかのようなテンションである。それはあの二人ならば万が一にも相手に大怪我を負わせるような事はしない、そんな信頼があるからだろう。

 

「とはいえ、このまま行けば負けるのが遅いか早いかの違いだな。さてさてどうなるやら」

 

「うーんでもさレクター、リィンが負けちゃったらどうするの?」

 

 騎神という力が魅力的だと告げるリィンの言葉はそのとおりだ。レクター達が鉄血宰相の忠実なる部下として動くのならば正直報告しない理由も確保しない理由も存在しない。しかし

 

「そん時はまあ過保護の姉ちゃんの意志を汲んでやるさ。あいつが自分で子どもじゃないっていうんなら言葉だけじゃなくて行動でそれを示さねぇとな。負けたらその時はあいつがまだ、クレア義姉ちゃんの言う通りに子どもって事だ。自分で自分のケツも拭けねぇガキが、大きな力を手に入れたって碌な事にはならねぇからな」

 

 クレア程ではないにしてもレクターも同様にリィンはまだ子どものままで良いのだと、そんな思いを抱いている事はミリアムは見透かして

 

「ニシシ、クレアの事を過保護過保護って言うけどレクターもなんだかんだでリィンの事が大事みたいだよね♪」

 

「ま、兄貴ってのはそんなもんさ」

 

 照れるでもなくレクターは苦笑しながらそう告げる。表立っては姉ちゃん程ではないように見えて何だかんだで弟の事を気にかけてしまうのが兄であり、兄弟とはそういうものなのだと。

 

「はーい、それじゃあレクターお兄ちゃん。可愛い可愛い義妹からお願いがあるんだけどー」

 

「はっはっは、却下だ。我が麗しの義妹よ」

 

「ぶーまだ何にも言ってないぞー」

 

 そんな仲睦まじい様子を見せる義兄妹の姿にエマ・ミルスティンは血の繋がり等絆のの深さには関係ないのではないかと、そんな感慨を抱いて再び己が起動者として選んだ人物の戦いを見届けようとするのだった……

 

 

 

 




おかしい、最初はオズボーン君の期待していた通りに切なそうな笑みを浮かべながらすんなり協力してくれるノリだったのに何故この人は此処まで拗らせしまったのか……

さて、明確な格上であるクレア義姉さんにどうやってオズボーン君を勝たせたものか……頑張れ未来の俺

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