(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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オル・ガディアはクレアとレクターの二人がいる上に鉄血の子特有の全員リンク状態も使える状態で遅れを取る理由が存在しないので順当に突破しています。


北風と太陽

「女子生徒の隠し撮りに取引だと?」

 

「そうなんだ……」

 

 沈痛な表情を浮かべながら生徒会室を訪れた写真部部長フィデリオの相談内容にリィンは顔をしかめる。曰く、後輩のレックスという生徒が女子生徒のきわどい写真を撮り、男子生徒と何やら裏でこっそり取引を行っていると。

 

「話は良くわかった。隠したりせずによく相談してくれたなフィデリオ」

 

 柔和な笑顔でリィンはそう、一年の頃より貴族生徒に有りがちな傲慢さなどが欠片もなかった友人へと告げる。安心して欲しいと言わんばかりに。

 

「ただちにその取引の現場とやらを抑えてその一年生には然るべき処罰を与えよう」

 

 そうして告げられたどこまでも厳格かつ毅然とした言葉にフィデリオは表情を強張らせる。そしてそんな表情の変化に気づきながらもリィンは意に介さずに話し続ける。

 

「無論、こうして部長の君が報告してくれた以上君たち写真部全体の責を問う気はない。当該生徒には教官会議にかけられた上でそれなりの罰が下るだろうが、写真部自体はこの事件に一切の責任はない事、部長たる君が報告してくれたことは俺からも教官には報告しておく」

 

 故に写真部がこの件で活動停止になったりするような事はないと告げておく。どんな組織にもはみ出しものというのは存在する。そんな一部の馬鹿の行いのせいで他の非のない者までとばっちりを食らうのはとても公正とはいえないだろう、こうして部長自ら報告に来てくれた以上写真部自体が関与しているわけではない。故に罪に問われるべきは実行犯たるそのレックスという生徒ただ一人だろうと。淡々とだが断固とした意志を見せつつ。

 

「な、なんとか穏便に済ませる事は出来ないかな……レックスも悪い奴じゃ無いんだ。ただちょっと考えなしな所があるだけでさ」

 

 最悪退学も有り得る事を想像して心優しいフィデリオはそう後輩を庇おうとするが

 

「それを決めるのは俺じゃなくて教官方だな。心配せずともうちの教官方は皆、公正な方々だ。彼の行った罪に見合っただけの適切な裁きを下してくれるだろうさ」

 

 取り尽く島も無くリィンはそう無慈悲に告げる。穏便に済ませるかどうか、それを決めるのは報告を受けた教官方が決めることだと殊更原則論を淡々と。“革新派製鋼鉄の戦車”、“歩いて喋れる規則”、“堅物野郎”そんな風に揶揄される目の前の友人の評判をフィデリオを思い出す。

 それでもなんとか後輩をかばおうとフィデリオが言い募ろうとすると

 

「うーん、リィン君。まずはこっちでそれが悪質なものかどうか判断してから先生たちに報告するのを決めるのはどうかなぁ」

 

 捨てる神もあれば拾う神有り、そんな諺を体現するかのように会長、否トールズの天使たるトワ・ハーシェルが助け舟を出す。普通この手の問題については女子の方が嫌悪感を示しそうなものにもかかわらず、彼女には犯人たるレックスを侮蔑するような色が一切見られなかった。

 

「……事が事だ。俺は教官に報告して然るべき罰を下してもらうべきだと思うが」

 

「でも、先生達の会議にかけられるってなったら先生方が穏便にしてくれても皆から見られる目が厳しいものになっちゃうでしょ?出来るだけ私達生徒会で、生徒同士で解決できるに越したことはないと思うの」

 

 盗撮を行って教官の会議にかけられる。まず間違いなくそれの時点でレックスは針の筵のような目に合うだろう。女子生徒からはそれこそ汚物を見るような目で見られる事となるだろうし、トールズに所属する女子の気性の荒さを思えば日頃武術訓練で培った成果が存分に発揮される可能性は大いにあった。

 

「だが、彼はフィデリオが穏便に説得して済ませようとしたにも関わらず誤魔化したと聞く。甘い対応だとつけ上がって再度犯行に及ぶ可能性は十分に有り得ると思うがな」

 

 他者の優しさに甘えて増長する輩、この学院や帝都での活動の際にも時折見かけた眼の前の少女の優しさにつけこみ甘える輩共、そんな存在を思い出してリィンはあくまで毅然と対応すべきだと主張するが

 

「……その時は部長の僕が責任を取るよ。こうしてレックスを庇った身としてね」

 

 どこまでもお人好しな二人の友人の様子にリィンはため息をついて渋々と言った体で折れて

 

「……わかった。じゃあ具体的な方法だがどうする、言葉だけでは反省の色を見せない以上、現場を抑えないとならないが……そうだな囮捜査でもするか」

 

「囮捜査?」

 

「ああ、要はその取引とやらの相手だと思わせて証拠を押さえてしまうわけだ。強引に捕まえても良いが、穏便にという要望だしな」

 

 とはいえ本気になったリィンから逃走しきれるものなど学生の中ではフィー位だろうが。気配察知能力と鍛えられた肉体で凡そ学生を超えた領域の身体能力を持つリィンから武術の心得も大してない一年生が逃げ切る事など不可能と言っていい。ただ、出来るだけ穏便にという要望なのでリィンはそれを汲む事とした。

 副会長であるリィンに一年生が追い掛け回されているという時点で、その一年が何かをやらかしたと生徒の多くは察するだろうからだ。

 

「悪くないと思うけど誰がその囮役をやるの?僕はレックスから警戒されちゃっているし、リィンもとてもじゃないけどそういうのをやるとは思えないから警戒されるだろうし、トワに至っては女の子だし」

 

「二人うってつけの人材を知っている。如何にもその手の取引にノリノリで手を出しそうな奴が男子と女子にそれぞれ一人ずつ俺たちの学年には居るだろう?」

 

 告げられたリィンの言葉に二人は少しだけ考え込んだ後にすぐに思い至って「あー」と声を挙げる。

 

「……正直、あの二人がこの件に既に関与していないかが俺は不安だよ」

 

 アンゼリカ・ログナーとクロウ・アームブラスト、規則などゴミ箱に捨ててしまえばいい等と思っていそうな二人の悪友を思い浮かべて、リィンは遠い目をするのであった。

 

・・・

 

 旧校舎の前で二人の生徒が陣取っていた、一人は件の対象である隠し撮りの犯人たる一年生のレックス。そしてもう一人はそんな彼と取引にやってきた一年生である。取引を終えようとしていた二人であったが近づいてくる足音に身構えると

 

「やぁ君かい、素敵な子猫ちゃんたちの写真を一杯用意している子というのは?」

 

 微笑みながら告げられたその言葉に二人は警戒を解く。目の前の先輩は学内でも評判の人物だったからだ。さっそうたる麗人として知られる二年生のアンゼリカ・ログナー。四大名門ログナー候の息女でありながら、そういった貴族らしい尊大さなど欠片もない気さくさと何よりもルール破りの常習犯でも有り、美女美少女には目が無いと専らの噂の人物であった。

 ゆえにこそ二人は警戒を解く、片方は自分と同じ目的でもう片方は新たな上客だとそう判断して。

 

「へっへっへ、いい写真一杯用意してますよ~~~」

 

「ふむ、代金は幾ら位かな。金に不自由した事はない身なのでね、写真の内容次第では金に糸目はつけないつもりだよ」

 

「いや~流石に直接ミラとやり取りするのは不味いと思うんすよ。だから俺はこうして男の夢を皆に分けているわけだから、男の夢には同じ男の夢で返してもらう事になっているんですよ。こういうのです、こういうの」

 

 そうして先程渡されたグラビア誌をレックスはアンゼリカへと見せつける。一先ず金銭のやり取りをしていなかった事が確認できた事でアンゼリカは胸を撫で下ろす。四大名門の人間たる自分が金に糸目をつけないなどと言っているのにこう答えた以上本当に金銭のやり取りは行っていないのだろう。

 

「なるほどね、生憎今は手持ちがないんだが……サンプルとして君の持つその写真を見せてもらいたいんだがかまわないかな?」

 

 待ちきれないと言わんばかりのウキウキとした様子でアンゼリカはそう告げる。その様子はどこをどう見ても演技に見えない、というか真実彼女は欠片も演技する事無く見るのを楽しみにしている。そういう役得があるからこそ彼女は今回の仕事を引き受けたのだ。

 

「ええ、勿論ですよ」

 

「ほう、これはこれは……皆素晴らしい表情をしているじゃないか」

 

「へへ、そうでしょ。苦労したんですよこの辺の写真をこっそりと撮るの。特にそのトワ会長の写真なんて撮った直後に話し相手の副会長が何かに気づいたみたいにこっちの方を振り向いてきたんで生きた心地がしなかったっすよ」

 

 自分の特技を褒められれば普通の感性を持つ者は基本的に嬉しい。お世辞ではないアンゼリカの純粋な賞賛を受けてレックスはそう得意気にこの写真が隠し撮りによるものであることを暴露する。

 

「まあリィンはその手の鋭さに関してはピカイチだからね、そっち方面の機微に関する分のポイントも振っているとしか思えない領域で」

 

「いや~本当に苦労したんですよ。あの副会長やたらと鋭くてすぐに察知してくるけど、トワ会長が一番良い表情を浮かべてるのって大体副会長と一緒に居る時なもんなんで。やっぱりせっかくだから一番好い表情を撮りたいじゃないですか」

 

 トワ・ハーシェルが一番幸せそうにしているのはリィン・オズボーンと一緒に居るときだと、そんな事を何気なくレックスは告げて

 

「やっぱり、トワ会長のこの笑顔が向けられる相手って副会長だったのか……」

 

 そして改めて客観的に告げられるその事実にトワ会長ファンのその生徒は深い溜め息をついてやるせない表情を浮かべる。目は口程にものを言うという諺があるが、女の子を撮る事には妥協しない男たるレックスが一番良い表情を浮かべているのは副会長と断言し、そしてその曰く副会長へと向けられているその会長の微笑みは百の言葉よりも雄弁に無情なる現実をその生徒へと突きつけていた。

 

「はぁ……そうだよな。副会長と来たら首席の上に学年最強だなんて言われる位に強い上におまけに宰相の息子だもんな。卒業したらどんどん出世して行くエリートなわけだし、それに比べたら俺なんて……別に強くもないし、成績だって普通だし……親も別に宰相でもないただの平民だし……」

 

 男の誉れとも言うべき非の打ち所のないまさにパーフェクトエリートでも言うべきリィンの姿を思い浮かべてトワへと片思いしているその生徒は落ち込む。最も彼とて名門たるトールズ士官学院に入学できている以上、知力にしても体力にしても一般的に見れば十分優れていると言って差し支えないのだが、こればかりは比較対象が悪いと言うべきであろう。

 

「まあ元気出せよ。こればかりは相手が悪いって。しょうがねぇよ副会長みたいな人は生まれつき特別なんだからさ」

 

 そんな風に慰めるレックスの言葉を聞いてアンゼリカは少しだけ目を閉じた後に

 

「ふむ、その勘違いは少々いただけないね」

 

 真摯な瞳で二人を見据えながら言葉を告げていた。

 

「君のその言い方だとまるでトワがリィンが学年最強で強いから、首席だから、宰相の息子で将来を約束されたエリートだから彼の事を好きになったみたいな物言いに聞こえるね。君がリィンと自分を比較して落ち込むのは君の勝手だが、まるでリィンの美点がそこだけかのように言うのは友人としては少々見過ごせないね」

 

「す、すいません……」

 

「わかってくれれば良いさ。話が逸れてしまったね、どれも素晴らしい写真だがレックス君、これよりも更に過激な写真とかはないのかな?」

 

「いや~流石にあんまり過激すぎるのはちょっと……俺はあくまでこういう女の子が、なんというかその子らしい表情をしているところを撮るのが好きなんですよ」

 

「そうかい、その言葉を聞いて安心したよ」

 

 告げられた言葉にアンゼリカは安堵する。どうやらこのレックスという生徒は常識こそ薄かったものの良心は存在したようだと。この分ならこの素晴らしい才能を教官に突き出さなければならなくなる等という事はどうにか避けられそうだと。

 

「悪いね二人とも、実は私はその副会長の手先だったのさ♪」

 

 その言葉とともにがっしりと腕を掴まれた状態で現れた三人の姿にレックスは青ざめた顔を浮かべ、総てを悟るのであった……

 

 

・・・

 

 件の盗撮写真の囮捜査をクロウとアンゼリカ、二人の悪友どちらに囮捜査を任せるのか悩んだリィンであったが、もしも盗撮写真が過激な者だった場合出来る限り男の目に触れない方が良いだろうという事で、一応生物学的には女性に分類されるアンゼリカへと依頼する事とした。

 そうしてアンゼリカの活躍によってそれほど悪質なものでない事は判明し、改めてその写真の検分を行ったわけなのだが、写真に映る女子生徒の姿は皆生き生きとした素晴らしい表情を浮かべていた。そんなレックスのカメラマンとしての才能を実感せざるを得ない作品を見てトワとフィデリオは思わず感心した様子を見せる。(最も自分も隠し撮られていた事を知ったときは流石に恥ずかしそうな様子を見せていたが)

 そんな二人の好意的な反応を見て調子に乗り出すレックスを見てリィンは……

 

「調子に乗るな」

 

 勘違いするなと冷やかな声で戒めの言葉を発していた。その様はまさしく“鋼鉄の戦車”そのものとでも言うべき峻厳な態度であった。

 

「どれだけ作品が優れたものであっても、写っている当人たちの許可を得ていない時点で論外だ。罰の内容は生憎俺が決める事ではないが、教官会議にかけられた上でそれ相応の処罰が下るだろうから覚悟しておけ」

 

 教官へと報告する。その言葉を聞いた瞬間にレックスは青ざめた表情を浮かべ、フィデリオの方は事前に話していたのとは違い厳しい態度を見せるリィンへと戸惑いの色を見せるが

 

「と、俺としては言いたいところではあるがトワとフィデリオの二人はお前を庇ってな。初犯という事で今回に限り、特別に今撮っている写真をネガまで含めて総て処分する事。そして当然ながら二度と行わないことを条件に今回は内々で処理することとなった」

 

 そうして安堵の表情を浮かべるレックスへと再度リィンは釘を差すように

 

「だが忘れるな。これはあくまで今回限りだ。次に同じ事を行った場合は二人がどれだけ庇おうと俺は断固とした処置をお前に対して取る。その事を努々忘れるな」

 

 本当は俺はお前のような生徒には然るべき罰を下したかったが二人が庇うから仕方がなく(・・・・・)矛を収めたのだと言わんばかりの態度で

 

「……フィデリオに感謝しておくんだな。そいつはもしもお前が同じ事を繰り返すような事をすればそのときは部長として自分も責任を取るとまで言った。くれぐれも、その顔に泥を塗るようなことだけはするなよ」

 

「こっそり撮った写真でもこれだけ素敵な写真が撮れるレックスくんなら、了承してくれた子たちを撮ったらもっと素敵な写真がきっと取れると思うんだ。今度からはきちんと許可を取るようにしようね」

 

 厳格な様子と天使と称する他無い柔和な表情というどこまでも対象的な様子を見せながらそうして会長と副会長のコンビは立ち去っていくのであった。

 

・・・

 

「いつもごめんね、リィン君にばかり憎まれ役を引き受けさせちゃって……」

 

 いつも自分と一緒に生徒会の活動をしていると殊更厳格な様子を見せたり、原理原則論に拘る様子を見せるリィンの配慮にトワは申し訳ない想いを抱いていた。

 

「別に俺は本心を述べているだけだから君が気にするような事じゃないさ」

 

「もう、そんな事言って……わかっているんだよ。リィン君が私が甘いところがあるから、あえてああして厳しい態度を取っている事くらい……」

 

 トワ・ハーシェルは優しい少女だ。それは彼女の紛れもない美点では有るのだが、世の中には相手の優しい態度を勘違いして居丈高になるどうしようもない輩というのが存在するものだ。そうした厳しさが欠けているところのある自分を隣を歩いている少年は一年の頃から補おうとしてくれている事をトワはいたいほどよく知っていた。

 そしてそれがどうにも申し訳ない。嫌われ役を任せてしまって自分だけ楽をしているような気がトワとしてはするのだ。

 

「何度も言うが、俺は俺がやりたいようにやっているだけだし、もしも君の想像が正しかったとしても適材適所に配置されて本人としては特に不満なく充実しているということだけは伝えておくよ」

 

「そっか……本当にいつもありがとね、リィン君」

 

「どういたしまして」

 

 そうしてしばらく無言で並んで歩いているとトワはおずおずとした様子で

 

「あ、あのねリィン君……」

 

 エマちゃんと最近仲が良いみたいだけど、何かあったの?とそんな問いかけを行おうとしたが

 

「ううん、ごめんねやっぱり何でもない」

 

 そう誤魔化して辞める。

 聞いてどうするのだろう、二人が仲が良いのは別に良いことだ。

 もしももしもあの夜、真剣な表情でリィンの部屋へと入っていたエマとなにがしかのやり取りをリィンがしていて

 そういう関係(・・・・・)になっていたのだとしても自分にとやかく言う権利など存在しないではないかとそんな風に思って。

 

(うん、そうだよ。こうして友達として一緒に居られる今が、私は幸せだもん)

 

 そんな風に今の心地よい関係が崩れる事を恐れて、自分を誤魔化して、トワ・ハーシェルはしばらく大好きな少年としばらく同じ時間を過ごすのであった……

 

 

 




クレアさんが拗らせ年上お姉さんムーヴして目立ったので
トワ会長にもちゃんと一緒に青春している同級生だからこそできるムーヴして貰わないとね(使命感)
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