この作品ではARCUSの試験運用をやる前にリィンとクロウのガチ喧嘩をやりたかった
という理由から時期がずれています。ご了承下さい。
リィンとクロウの喧嘩からおよそ一週間が経過した。
一応の和解を果たしたことがクロウから伝えられた後の二人の関係は以前と然程変わらないもの、いや大きな変化が一つあった
「クロウ、貴様いい加減に真面目に授業を受けたらどうだ。俺に語ったハインリッヒ教頭に隔意を抱いているというのは嘘だったのだろう。ならばサボるのは貴様のただの怠け根性という奴ではないか?」
「うるせーなてめぇは!というか、何気軽に名前で呼んでんだよ!関り合いにならねぇ方がお互いのためだって俺が言ったのを聞いてなかったのか!!!」
やたらと口やかましくクロウへと注意するリィンとそんなリィンをうっとおしそうにあしらうクロウの姿が時折見受けられるようになったのだ。
「?名前で呼んで構わんと言ったのはお前の方だろう、第一そちらはそう思ったのもかもしれんが、俺はそちらの意見とは違う。ナイトハルト教官は同じ部隊に配属された同期と思えと仰った。ならば不真面目な同僚を見過ごすわけにはいかんだろう」
何わけのわからないこと言ってんだコイツとでも言いた気にクロウにしてみると現状わけのわからない人物筆頭たるリィンが言う
「加えてお前のように平民でありながら我が父に批判的な人物というのに俺はこれまで出会った事がなかった。ならばこそ、お前との交流は俺がより成長するに当って大きな益となると判断した」
己を否定する者こそが己を最も成長させると言ったのははて誰だっただろうか等と呟いてリィンは堂々とそんな事を言う
「お前も聞いていただろう、どのような事情があれど組み合わせの変更は一切認めないと。ならば僚友との関係改善に努めるのは当然だ」
「……表面上だけ適当に合わせておけばいいだろうが、てめぇと俺ならそれで十分だ。実際前回の時だってそれで楽勝だっただろうが」
目の前の男の腕に感心した言葉を吐いていたのは何もまるっきりお世辞というわけではない、ある程度は本音だったのだ。なるほど、口だけの野郎ではないと多少なりとも感心した。
今は自分が実戦経験の差で上だが、このまま順調に経験を重ねていけばそれこそ自分にとって大きな障害になり得るかもしれないと、そう思った。
だが、そんなクロウの言葉にリィンは首を振る
「ナイトハルト教官は如何に個人戦技が卓越していようとコンビネーションを疎かにした場合はそれなりの評価になると仰っていた。初回ならばこそ、多めに見てもらえただろうが今後も進歩が見られないようであれば点数は推して知るべしだぞ」
「は、別に俺はてめぇみたいな優等生じゃねぇんだ、評価が落ち込もうが痛くもかゆくも……」
「座学の方でサボりまくっているのにか?大方腕に自信がありなところを見れば、その分を実技でカバーする気だったように思えるが」
「ぐぬっ!」
痛いところを突かれたのだろうクロウはそんな図星を突かれた声を挙げて、リィンはそんなクロウになおも言い募っていく。そんなリィンの相手をしながらクロウは……
(落ち着け、こいつとの付き合いもペアを組んでいるだけだ。だったらそれが終わるまでの辛抱だ)
そんな風に考える。
クロウは気づかない、仮面を被って潜入しに来たトールズにおいて気が付けば目の前の怨敵の息子の前でのみ、素顔のままで接している事を……そしてそんな目の前の人物の相手とのペアを解消したいというクロウの願いは図らずもすぐに叶えられる事となる。
「新しく武術の時間を受け持つことになった、サラ・バレスタインよ。よろしくね」
講堂にてウインクをしながら季節遅れの新任の教官の挨拶に生徒達は色めき立つ。特に挨拶をしたのが妙齢の美女のためなのだろう、一部男子生徒は色めき立っている。……そんな色めき立つ男子生徒達の大人なお姉さんに対する淡い思いは次の自由行動日昼間からビールをかっ食らう彼女の姿が多数目撃されたことによりはかなく散ることとなるのだが、それは余談である。
「以前よりナイトハルト教官は正規軍との兼務で忙しく、その状態で軍事学と武術の二つの時間を受け持つというのはあまりにも彼の負担が重すぎるのでな。バレスタイン教官の仕事の都合がついたためにこうして季節遅れではあるが、諸君に紹介させてもらう事となった」
そんな学院長からの挨拶を受けてクロウはどこか冷めた思考で別の事を考えていた
(は、これであの野郎との付き合いも終りか。せいせいするぜ)
教官が変わった以上やり方や内容も諸々変わってくるだろう、そうなれば晴れてコンビ解消だとクロウは考える。いつの間にか自分から鉄血宰相の実子と友達となって情報を搾り取るために利用するという発想が抜け落ちている事に気づかないままに。
「あ、今から名前を呼ぶ子は用事があるからこの後旧校舎の方に来てね。えーと1年Ⅰ組リィン・オズボーン、同じくアンゼリカ・ログナー、1年Ⅲ組ジョルジュ・ノーム、1年Ⅳ組クロウ・アームブラスト、同じくトワ・ハーシェル。以上5人よ」
自分とリィンの縁が切れていなかった事にガッカリしたのかホッとしたのか良くわからぬ思いをクロウが抱かされるのはそんな事を考えたほんの数分後の事であった。
「バレスタイン教官、それで何故自分達は呼び出されたのでしょうか?聊かどのような意図があってか、判断に困る人選なのですが」
チラリと共に呼ばれた級友達を窺いながらリィンはそんな風に目の前の人物を問いただす。実技の実力でならばフリーデルが居ないのが不可解であるし、問題児のみを集めたというわけでも優等生だけを集めたわけでもない大よそ意図の読めない人選であると。
「慌てない、慌てない。せっかちな男は嫌われちゃうわよ」
そうしてはやるリィンを嗜めるようにサラはウインクをする。この年頃の少年ならばこういった年上の美女にこんな思わせぶりなことをされれば多少なりとも照れたりしても良さそうなものだが、リィンは全く持って揺るがない。あるいは彼の敬愛する姉であるクレアにでもされれば赤面の一つでもしたかも知れなかったが、サラ相手だとこの無反応ぶりなのは本能的に彼女の駄目な部分を感じ取っているからだろうか。
「………」
そんないや、そういうの良いですからとでも言いた気なリィンの冷めた様子にサラは若干引きつった笑みを浮かべた後にゴホンと空気を入れ替えるように咳払いをして
「今回君達を呼んだのはほかでもない、開発中の新型戦術オーブメントの試作品のテスター。それをやってもらうためよ」
「質問があります、何故このメンバーが選ばれたのですか?」
「新型機能の適性の問題らしいわ。詳しい話はそれこそ専門の技術屋でもないとわからないと思うわ」
アンゼリカの問いに素気なくサラは答える、そうしてニヤリとした笑みを浮かべて
「まあ、習うより慣れろって事で」
そしてその言葉と共に5人の居た床に大きな穴が空き、纏めて地下へと落とされる刹那リィンはとっさに傍にいた大事な友人の少女を抱き寄せ庇うのであった。
「アイタタタ、クロウ大丈夫?」
床へとしたたかに打ちつけた尻をさすりながらジョルジュは友人であるクロウへと問いかける
「ああ、受身は取ったし、どうやら怪我しないように床もクッションになっていたみたいだからな。この程度大したことねぇよ」
「へ~流石だね。えっと後の三人は」
そんな風に二人が会話していると
「リ、リィーーーーーーーン、君はドサクサに紛れてなんて羨ましいことをしているんだ!!!!!!」
等という叫びがすぐ近くから木霊したのでそちらの方を見てみると
「え、えっとリィン君……」
「………すまない、とっさに危ないと思っただけで決して他意はなかったんだ」
そこにはリィンに大事そうに抱きしめられながら顔を赤くするトワの姿と、そんなトワに詫びるリィン、そしてそんな二人を正確にはリィンを見つめながらこの泥棒猫が!とでも叫び出しそうなアンゼリカの姿があった。
「ねぇ、クロウ。オズボーン君ってスゴイ真面目で冗談とか通じない人だって思っていたけど案外面白い人なのかな?」
「……最近、俺もなんだかそんな気がして来たぜ」
どうにもあの一件以来憎き仇の息子のエリート軍人候補生という喧嘩した時に抱いていた印象とかみ合わないなどと
「さあ、そこに直れリィン!トワが良いと言っても私が許さない!友として彼女の代わりに私が君を殴ろう!」
「よし来い、アンゼリカ!このような不埒な行為をした男には罰があってしかるべきだ!俺のこの咎、その拳で裁いてくれ!!!」
「ふ、二人とも~私は気にして無いんだから辞めてよーーー」
愉快な漫才を目の前で繰り広げている三人を見ながらクロウはため息をつくのであった。
サラ教官は表面上駄目だけど根っこはしっかりした大人
クレアさんは表面上はしっかりしているけど根っこが駄目な大人
ゆえにオズボーン君の駄目大人センサーは割りとポンコツです