(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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ジョジョ・・・人間ってのは能力に限界があるなあ
おれが短い人生で学んだことは・・・・・・・・・・・・
人間は策を弄すれば弄するほど予期せぬ事態で策がくずされるってことだ!
・・・・・・・・・・・・
人間を超えるものにならねばな・・・・・・
、 、 、 、 、 、 、 、
おれは人間をやめるぞ!ジョジョーーッ!


代償

 巣穴に響く断末魔。邪悪な魔性は露と散り、かくして英雄譚が幕開けた。

 

 クレア・リーヴェルトは自分がそんなお伽噺(・・・)の一員になってしまったかのような錯覚をしていた。

 アルフィン皇女殿下が誘拐されたという急報を受けて、現場に到着し、負傷したレーグニッツ知事と皇女と共に攫われたエリゼ・シュバルツァーの父たるテオ・シュバルツァー男爵より状況を聞いたクレアはすぐさま旗下の中でも選りすぐりの隊員を率いて地下道へと赴いた。

 そうして地下道を進んでみれば、現れたのは人質である二人を抱えて、恐慌状態へと陥った特化クラスⅦ組所属の二人。

 曰く、とんでもない怪物、お伽噺に出てくるような竜が現れて残りの三人が殿になって戦っている、どうか助けて欲しいと嗚咽混じりに語る彼らと攫われた二人の保護を部下へと任せ、クレアとサラは即座に現場へと急行した。

 

 正直、竜などと言うのはクレアにしてもサラにしても半信半疑であった。

 なにせマキアスにしてもエリオットにしても常とは違ったパニック状態へと陥っていたから、混乱のあまりに強力な魔獣を指してそんな事を言ったのだろうと。

 だが、マキアスにしてもエリオットにしても既にそれなりの訓練を積み、修羅場も潜っている。そんな二人が狂乱状態に陥っているという事からも、残った三人が対峙しているのは尋常な敵でないという事は想像できた。

 なにせ二人がこうして人質を抱えて逃げてきたというのはすなわち、自分達5人では打倒しきれない敵で撤退を前提にしなければならないとリィンが判断したいうのと同義なのだから。

 普段は穏やかなる関係のクレアとサラもこの時ばかりは思いは一つだった。すなわち、一刻も早く現場にたどり着かねばならない。「大事な義弟/生徒を守るためにも」と。

 そうして現場へとたどり着いた二人が眼にした光景は……

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオ」

 

「ギャオオオオオオオオオオオオオオ」

 

 鬼の如き姿で双剣を振るう白髪の剣士、そしてそれと死闘を繰り広げる魔竜の姿であった。

 あまりの事態に一瞬忘我へと陥った二人の間隙を縫うかのように魔竜が倒れている二人へと炎を吐く。しまったと思うも遅い、どれだけ急いでも自分達では間に合わない。だが、白髪の剣士がボロボロになりながらも二人を炎から庇った。

 そこに来てようやく忘我から復帰したサラとクレアは魔竜へと攻撃を叩き込み、その隙をつく形で見事魔竜退治を成し遂げたというわけなのだが……

 

 何者なのだろうか、この少年は……等とは思わない。

 何故ならば倒れていたのは二人だけであり、少年がその身に纏うものも、顔立ちも、何もかもが自分のよく知るものと同じなのだから。

 目の前の人物が誰なのか、などというのは自ずとわかることだろう。

 ああ、けれど、それでもそう言わずにはいられない。

 何故ならば余りにも魔竜と対峙していたその姿を常の彼とかけ離れていたものだったから。

 鬼気迫る、いやもはや鬼そのものと言った気迫。鋭い眼光から溢れ出る殺意の本流。

 そしてそれらを律する鋼の如き意志。何もかもが自分の知っている優しい質朴な義弟とはかけ離れていた。

 故にクレアは躊躇してしまう、なんと声をかけて良いのかを。

 

「……あんた達一体、何があったの。アレは、リィンであっているのよね?」

 

「わかんない……流石にコレは終わったかなと思ったら突然先輩があんな風になって……」

 

「我らの方も正直何が何やら……サラ教官でしたら何か心当たりがあるのでは?」

 

 ラウラの意図しているのは実力者であり、遊撃士として幅広い知識のあるサラ教官ならばという意味であってけっして亀の甲より何とやらの意図ではない。

 

「あいにくだけど、私もあんなのを見たのを初めてよ。そこら辺どうなのよ、お義姉さん(・・・・・)。何か心当たりないわけ」

 

「……私にもあいにくと。とにかく、此処からすぐにでも離れて傷の手当をしましょう」

 

 改めて確認してみるとリィンの姿は酷いものであった。皮膚は剥がれ、肉は焼け焦げ、無数の裂傷がその身には刻まれていた。その酷さたるやこういうのには慣れっこなはずのサラやクレアをして目を背けたくなるものであった。正直、立っているのが、いや生きているのが不思議な重症である。

 

 瞬間

 

 殺気を感じて、その場から三人は動けない状態の二人を抱えて離脱する。

 三人の先程までにいた地点、そこに銃弾が炸裂する。

 現れたのは三人。厳つい顔に傷のついた大男と、眼帯をした赤髪の女。そして黒ずくめの姿に仮面をつけた正体不明の存在であった。

 

「まさか……このような事になるとはな。作戦に想定外はつきものとはいえ、これは流石に想定外にも程があった。同志《S》、同志《G》の様子は?」

 

「大丈夫よ、衰弱しているけどちゃんと息はあるわ」

 

「そうか、それは何よりだ。さて、一つ提案がある。《紫電》、《氷の乙女》、そして《鉄血の継嗣》よ」

 

「何よ、こっちのこと一方的に知っているみたいだけどこっちはあんたの事なんか全く知らないのよ。まずは自己紹介位したらどうなの?」

 

「これは失礼した。我々は《帝国解放戦線》。静かなる怒りの焔を燃やし、度し難き独裁者に無慈悲なる鉄槌を下す者である。そして私の名は《C》。以後、お見知りおき願おうか」

 

「帝国解放戦線……それに度し難い独裁者ねぇ……」

 

 誰のことを指しているか、それはもはや火を見るより明らかであった。個人的感情を言えばサラも大嫌いな、そして横にいる二人は趣味が悪い事に大好きなあの男の事であろう。

 

「さて自己紹介を終えたところで本題に入らせてもらうとしよう。互いに負傷者を抱えた身、どうかな?ここらでお互いに手打ちにするというのは?」

 

「それは……」

 

 告げられた《C》と名乗る、リーダー格の男の提案にクレアは逡巡する。

 軍人として考えれば此処で逃す訳にはいかない。目の前にいる三人、そして気絶している男はおそらく幹部格。

 此処で捕縛する事が出来るなら、それはすなわち後顧の憂いを断てるという事である。

 今回しでかした事件の規模を考えれば、此処で逃がす手はない。

 そう、多少の犠牲(・・・・・)が出ようが見逃すわけにはいかない。

 

 しかし

 

「何やら迷っているようだが、ご決断は早くした方が良いのではないかな?そちらのお嬢さん二人はともかく、貴女の義弟御(・・・)等はすぐに手当をしないとその身が危ないと思うのだが?」

 

「……ッ!」

 

 自分の葛藤を見透かしたかのように嘲笑う《C》の言葉にクレアは顔を歪めるもその言葉が正しい事を認めた。

 このまま戦えばリィンは間違いなく死ぬ(・・・・・・・)。目前の三人、特に仮面の男《C》はかなりの手練だ。一筋縄ではいかないだろう。

 そして、そうなれば今のリィンの身体は保たない。かといって自分とサラの二人だけで目の前の三人を相手取るのは厳しい。故にクレアは内心で葛藤する。

 《氷の乙女》たる自分はこの場で戦い目の前の三人を捕縛するべきだと主張する。義弟一人の犠牲でこれから起こる事件を防げるならば安いものだと、どこまでも感情を排して冷徹に。

 私人としての自分は叫ぶ。《C》の提案を受け入れるべきだと。もう二度と大切な弟を失いたくなどないと。

 そして、それはまたサラもまた同じであった。素直ではないものの何だかんだで可愛い大切な教え子の命が天秤に乗せられた事で、容易に判断を下す事ができない。

 

「論外だな。これほどの事をしでかした貴様らを見逃す道理など有りはしない。全員この場で始末する。 

 生け捕りにするにしてもそこで伸びている男が一人居れば十分だ。お前たち三人は、残らず地獄へと俺が叩き送ってやる」

 

 決断出来ない二人の女に変わって告げられたのは鋼の宣誓。

 立つ事すら危うい重傷だとは思えない、不屈の戦意を滾らせながら、リィン・オズボーンがそう宣言していた。

 

「随分と威勢が良いがわかってんのかよお坊ちゃん、そうなったら死ぬのはお前だぜ」

 

 それは脅しでも何でもない純然たる事実だ。リィン・オズボーンの肉体は限界寸前、いや限界などとうに超えている。この状態で無理をすればどうなるかは明らかだ。

 

それがどうした(・・・・・・・)。まさか俺が、我が身惜しさに退くとでも?侮るなよ、テロリスト。

 剣をとったその時から、この命を祖国に捧げる覚悟などとうに出来ている。俺の身と引き換えにこの場で貴様達を捕らえられるなら十分すぎるほどの成果だろう。

 なにせ俺は宰相でも帝都知事でもない、一介の士官学院生でしか無いのだからな」

 

 故にそんな一介の士官学院生一人の命と引き換えに後顧の憂いを断てるならば安いものだとどこまでも冷徹にリィンは告げる。

 自分が死ねば悲しむであろう多くの人の嘆きなど無視して。どこまでも国益(・・)という大きな視点で、自分の命さえも駒として見て。

 

「……なるほど、確かにあの男の息子ね。ええ、嫌になるほどにそっくりだわ。轢かれて砕かれた路傍の石ころなんて知ったことじゃないと言わんばかりのその態度、我慢ならないわ」

 

 忌々しそうな様子で《S》と呼ばれたその女はリィンを睨みつける。ああ、本当に瓜二つだと言わんばかりに。

 

「それは結構。俺も貴様らのようなテロリストなど、どう足掻いても好きにはなれん。意見が一致したようで何よりだよ」

 

 目の前の者にも譲れない事情をあるのだろう、父を憎む理由があるのだろう。だが、だからといってそれがなんだというのだ。

 生憎とこれほどの事をしでかしたテロリストに対して同情するほどにリィンは慈悲深くない。自分が不幸な目にあったことは他者に不幸を押し付ける免罪符では断じて有り得ないのだから。

 申し開きがあるなら、それは裁判の場かあの世で慈悲深き《空の女神》に対してすれば良い。どの道、祖国に仇為すテロリストを前にして自分が為すべき事など一つなのだから。 

 

 そしてそんなリィンの様子に傍らに立つクレアは困惑していた。

 これは誰だ(・・・・・)。この敵対者への容赦の無さ。自分の命すらもまるで斟酌していない冷徹さ。

 そして何もかも飲み干さんとする鋼鉄の意志、これではまるであの人そのもの(・・・・・・・)ではないかと。

 

 敵意に満ちた視線が交錯する。視線に宿った戦意と敵意はそのまま両者の断絶を示すものであったであろう。

 そしてリィンが双剣を構えて、再びその白き焔を纏って突撃せんとした刹那

 

「生憎だが、奴本人ならともかく奴の息子如き(・・)と心中する気はなくてね。此処は、退かせて貰うとしよう」

 

 瞬間轟音が響き渡る。この事態に備えて事前に地下へと仕掛けた爆薬が炸裂したのだ。

 崩落していく地下空間、こうなっては追撃する事もできずに止む得なくリィン達もその場から離脱するのであった。

 

 

 

「ラウラ、フィー!」

 

「良かった!無事だったんだね!」

 

 クレアとサラにそれぞれ背負われた二人の大切な仲間を確認したマキアスとエリオットはそう安堵のため息を漏らす。リィンの指示だったとはいえ、自分達だけが逃げ出してしまったとそんな罪悪感を抱えていたがために。

 

「ま、なんとかね」

 

「我々の方はな。むしろ我々よりも……」

 

 ラウラの目線の方向を自然と追い、そこで写った光景のあまりの惨たらしさに思わず息を飲む。

 溶けて抉れてむき出しになった肉、焼けただれて血まみれとなった全身は悲惨という他ない有様であった。

 そして戦いが終わり、安全な場所にまで退避した事を確認するとリィンの染まっていた髪と瞳がふっと元に戻り

 

「あ、があぁぁァァァァっっッッ……!!」

 

 絶叫が響き渡ったかと思うと同時に、血反吐をぶちまけながら、その場でリィンはのたうち回る。

 痛みとは身体の挙げる警告だ。これ以上無理をすれば(・・・・・・)取り返しのつかない事になるかもしれない、だから止めておけ(・・・・・)という忠告。

 しかし、リィンはその警告を鋼の意志によってねじ伏せてしまった(・・・・・・・・・)この身がどうなろうと構わない(・・・・・・・・・・・・・・)と。

 いわば借金だ。今を何とかするために将来へと負債を押し付けたのと同じ事である。気合によって道理を一時的に(・・・・)捻じ曲げた“英雄”へと世界は容赦なく無慈悲な執行を行う。

 さあ代償を支払う時だと言わんばかりに、リィンの脳をひたすらに痛みが支配する。

 それは負った傷の痛みだけではない、まるで身体を内側から焼かれ続けているような痛みが一瞬も途切れる事無くリィンを襲い続ける。

 

「ギ、ガ、グ………」

 

 あまりの痛み故に次第に声を挙げる事さえ出来なくなっていく。絞り出すような声にならない声がその場に響く。

 

「至急衛生兵をこの場に呼んで下さい!急いで!」

 

 待機していた部下へとクレアはすぐさま指示を下す。そしてすぐさま戦術オーブメントの中から回復魔法を使う。絶対に死なせてなるものかと、そう強く思って。

 

 霞みゆく意識の中、リィンは強く念じる。

 今の肉体では駄目だ(・・・・・・・・・)。出力に耐えるだけのより強靭な肉体(・・・・・)がいると。

 それは鍛えるとかそういう次元ではなく、文字通り血も肉も内蔵も神経さえもより相応しい(・・・・)ものが必要だと。

 ついに飛翔を始めた“英雄”はどこまでも純粋に、更なる力を渇望するのであった……

 

 

 

 




「……おや!?リィンのようすが……!」

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