(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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どうやったら若造のオズボーン君が所謂達人と言える領域に踏み入れても違和感がないかを考えた。
そしてたどり着いた答えが、睡眠時間減らして単純に鍛錬に費やせる時間が常人よりも長くなれば良いんじゃね?だった。
ちょうど鬼の力なんていう常人とは違う力あるわけだし、それに身体が適合していってもおかしくないよね!


作られた英雄

 “英雄”、その言葉を聞いた時に悪い印象を抱くものはそうは多くないだろう。

 無論「一人殺せば殺人犯でも百人殺せば英雄」だとか、その在り方を皮肉る言説も中には存在するが、それでも“英雄”という存在に悪印象を抱く者というのは何時の時代に於いても圧倒的な少数派だろう。

 何故ならば、彼らは都合のいい(・・・・・)存在だから。戦時中において多くの“英雄”が生まれるのは往々にして有利な側ではなく劣勢な側である。そう、国家が“英雄”と呼ばれる存在を求めるのは往々にして自らの政治的な失敗を覆い隠す時なのだ。「英雄などというのは見栄えの良い鍍金を施した生贄の事である」だとか、「民衆は英雄の到来を誰よりも待ち望みながら自らがその英雄となろうとはしない」等といった“英雄”そのものというよりは英雄を讃える国や民衆を皮肉る言説が存在するのも、英雄の誕生には往々にして政治的な理由が介在することと無関係ではないだろう。

 

 そして、皇女救出という功績を打ち立てたリィン・オズボーンもまた、そんな“英雄”になろうとしていた……

 

 

「事実は一つであっても真実なんてものは人によって違う」

 

 日課である3つのクオリティペーパーの購読と大衆紙である《帝国時報》へと目を通しながらリィンはふとそんな兄貴分の教えを思い出していた。

 どの紙面も専ら主題となっているのは先頃起こった帝都の夏至祭、その初日に起こった《帝国解放戦線》の武装蜂起に関するものである。現在帝国には主として三つの派閥が存在する。

 

 一つは言わずと知れた革新派、鉄血宰相ギリアス・オズボーンをリーダーとした中央集権体制と貴族特権の廃止を掲げる派閥である。派閥を構成するのは主に平民出身の高級軍人や行政官僚であり、その改革の恩恵を一身に受けている帝都の平民からは特に絶大なる支持を誇っている。当然一口に革新派と言っても水面下では軍人と行政官僚の対立などがあったりするわけなのだが、リーダーたる鉄血宰相の絶大なる統率力も相まって現状その対立はおおよそ健全と言えるレベルで収まっている。

 

 二つ目はそんな革新派へと対抗する四大名門を筆頭とする貴族派である。純軍事的には革新派に対して不利だが、それでも黄金の羅刹と筆頭に優秀な将帥を抱える領邦軍の戦力も侮りがたいものがあり、加えて言うのなら長年良くも悪くも帝国に君臨し続けてきたその影響力は確かなものである。彼らが掲げるのは今までと変わらぬ帝国であり、革新派、特にそのリーダーたる鉄血宰相をエレボニアを破壊する怪物と忌み嫌っている。あくまで鉄血宰相憎しで固まっている派閥であり、水面下ではアルバレア公とカイエン公が主導権を巡って争っており、革新派に比べると些かまとまりに欠けると言える。

 

 そして3つ目は皇道派とも言うべき派閥である。この派閥は主に自分達はあくまで皇帝陛下の臣下であるというスタンスの者達が所属しており、派閥としては貧弱も良いところなのだが、皇室という権威を掲げている事も相まって他の両派もあまり強く出れないところがあり、そういった事情も相まって貴族であっても貴族派とは距離を置きたいような貴族、鉄血宰相の性急さにどこかついていき難いものを覚えている官僚などが所属している。唯一固有の武力を持っていないが、《光の剣匠》ヴィクター・S・アルゼイド、《アルノールの守護神》マテウス・ヴァンダール、《軍神》ウォルフガング・ヴァンダイク名誉元帥といったエレボニアにおいて武に携わるものならば知らぬものはいない実力者がいることもあって両派にしても無視できぬ影響力を有している。おそらくこの派閥の睨みが効かなくなった時が、ついに革新派と貴族派の戦端が開かれる時であろうというのが大方の予想である。

 

 そしてリィンが目を通した3つのクオリティペーパーもそれぞれその3つの派閥の主張を代弁する事で有名な三誌であった。自派閥のものだけ読んでいれば心地いいかも知れないが、どうしても得られる情報は偏ったものとなる。多少不快になる事があろうとも、必ず新聞は複数のものに目を通せ、これは二人の師どちらにも教えられたことであった。どの紙面も皇族の襲撃という暴挙(・・)を行った《帝国解放戦線》なる悪逆なるテロリスト共を厳しく非難しているという点では同じだが、アルフィン皇女殿下が一時誘拐されかかったという事件について触れた時に各紙の特色が出ていた。

 

 まず一冊目、革新派寄りで知られる《プロレタリア・フロイント》は園遊会の警備を担当していた近衛軍が領邦軍から選抜されていたものだったことや、セドリック皇太子殿下とオリヴァルト皇子に対する襲撃は鉄道憲兵隊指揮の下見事撃退した事から原因は近衛軍にあったとし、もしも両皇子殿下の警備同様に鉄道憲兵隊が指揮していればそのような事態にはならなかっただろうという正規軍の退役軍人の論客の意見が掲載されていた。

 

 続いて二冊目、貴族派寄りで知られる《エーデル・ヴァイス》ではそもそも帝都でこのような大規模なテロを起こしてしまった事自体が革新派の責任であり、警備に不備があった証拠である。アルフィン皇女の誘拐を一時でも許す事になったのはその後手に回った警備体制の不備の煽りを食らった形であり、責任は全体の警備を担当した鉄道憲兵隊にこそ有るのだから、その責任の所在を明らかにすべきであるというこちらは領邦軍出身の退役軍人の論客の意見が掲載されていた。

 

 そして三冊目、皇道派として知られる《インペリアル・タイムズ》ではそもそも指揮系統が鉄道憲兵隊と近衛軍という二つに別れてしまっていた事にこそが原因がある。こうして皇女殿下が誘拐されかかるという許されざる失態に際してなお、互いに罪をなすりつけようとしている貴族派と革新派の対立こそが全ての元凶である。両派は共に頭を冷やし、互いに歩み寄るべしという《アルノールの守護神》と名高きマテウス・ヴァンダール大将の意見が掲載されていた。

 

 どの意見にも理はあるだろう。リィンはと言えば姉を擁護したいという私人としての思いで言えばプロレタリア・フロイントの意見に同意したくなるし、一方エーデル・ヴァイスのそもそもこれ程の騒乱を起こす事を許した事自体が失態であり非難に値するというのにもある程度の理はあることを認めていた。……裏にあるであろう思惑はともかくとして。そして軍事的に見ればマテウス大将の意見には同意する他ないだろう、そもそもリィン自身が園遊会こそが警備の穴であると考えた理由がまさしくそれであったのだから。流石はクオリティペーパーというべきか、どの紙面もそれなりの理を持ってある一定の説得力を有するものとなっていた。それこそ紙面の内容を鵜呑みにしてもおかしくはない位に。

 

 そして最後の帝国時報へと目を向けた瞬間、リィンはなんとも言えない気持ちになった。そこには余りにも見覚えのある写真が写っていたからだ。具体的に言うと毎朝鏡を見ると目にする顔である。そう、他ならない自分の事が写真と共に紹介されていたのだ。アルフィン皇女をその身を呈して救出した“英雄”として。

 意味じくもエーデル・ヴァイスでの論客が指摘したように、革新派のお膝元である帝都にて起きた今回の騒動は革新派にとって大きな失点となった。無論、そこには《プロリタリア・フロイント》や《インペリアル・タイムズ》で指摘されたような様々な事情や要因が働いたのは事実だが、それでも大多数の帝国人からすると帝都というのは革新派のお膝元であり、そこで起こった騒乱は革新派の威信を大きく削いだ。

 そしてそんな状況下を何とかするために革新派は古今東西における常套手段をとった。すなわち“英雄”を祀り上げる(・・・・・)という手段である。そして、その対象としてリィン・オズボーンはこの上なくうってつけであった。

 鉄血宰相唯一の実子にして自身もトールズ士官学院主席という曇りの一点も見られない経歴

 忠君愛国、質実剛健を地で行く帝国男子の鑑ともいえる性格と素行

 端正ながらも引き締まった精悍な顔立ち

 守護の剣を掲げるヴァンダール流の若くして中伝という実力

 そして、アルフィン皇女殿下を救出したという功績

 

 どれもこれもが革新派にとっては文句のつけようのないものであった。

 かくしてリィン・オズボーンは革新派勢力の全面的なバックアップを受けて、皇女を救出した“若き英雄”となったのであった。

 悪逆なるテロリストからアルフィン皇女殿下を救出した、リィン・オズボーンこそまさしく革新派の、いや帝国の誉れであるというわけである。ちょうど通商会議を前に控えているからか、昨年自分が政府に提出したクロスベル自治州に関する論文までもが掲載され、「未だ学生とは思えぬ卓越した識見。将来は軍を担う幹部となる事疑いなしである」等と言った軍の高官のコメントなども載せられている。

 リィンはというと内心少々複雑であった。自分の功績を称賛されて嬉しい気持ちはある、こうして自分が持ち上げられている事で間接的に“英雄の師”である義姉の株が上がり、今回の警備の責任を問われて苦境にある義姉の役に立っているという事も嬉しい。されどこうもあからさまに持ち上げられると、流石に落ち着かないというのが本音であった。

 

(まあ、あまり気にしてもしょうがないな)

 

 どこまで言っても自分が父の息子であるという事実からは逃れられないし、そもそも逃げようと思った事はリィンは一度たりとてない。革新派からは否が応でも父の後継としての期待を受けることとなるだろうし、逆に貴族派からは怨敵として憎悪を買うことになるだろう。そしてそれは、自分が軍で高みを目指し、実績を積み上げるに比例して加速し続ける事となるだろう。

 「期待しているぞ」とそう告げてくれた父の言葉を思い出す。父は、自分などとは比べ物にならないレベルの憎悪と崇拝と言った感情を受けながらも、それら総てを呑み干してああも、堂々としているのだ。ならば、自分とてこの程度でひるんではいられないだろう。決して奢る事も萎縮することもなく、どこまでも堂々と鋼の如き意志で自分を律して前進し続けるのみだ。

 

 そしてそのためには何時までも中伝で足踏みをしているわけにはいかないだろう。“達人”と、そう称される領域をそろそろ目指さなければならない。幸いなことに明日から士官学院は5日間の夏季休暇となり、貴族生徒は申請すれば更に長期の休暇を得る事もできる。 普段であれば馬鹿馬鹿しい特権だと思うところだったが、今回ばかりは自分もその特権を利用させて貰うとしよう。

 幸いなことに(・・・・・・)3日間の眠りから覚めてから、まるで生まれ変わったかのように自分の身体は調子が良かった。

 身体能力が軒並み強化されたーーーおかげでよりハードな鍛錬を課す事ができるようになった。

 3時間足らずの睡眠でも全く生活をおくるのに支障がなくなったーーーおかげで睡眠に費やしていた時間をより鍛錬や勉強へと回せるようになった。

 死線を乗り越えたためか、妙に頭が冴え渡り問題を問いている際にもまるで答えが“視える”かのような感覚を抱くようになった。

 直感が研ぎ澄まされて、漠然とだがまるでこれから先何が起こるかがわかる予知じみた感覚を抱くようになった。

 そして魔竜との戦いの際のあの膨大な力の本流。

 今の自分ならばきっと皆伝へと至る事が出来る、そんな予感を覚えている。

 だからこそ、奥義伝授を頼み込むならば今しかないのだ。ヴァンダール流宗家総師範マテウス・ヴァンダールが帝都へと滞在している今しか。

 授業を欠席した分は戻ってから取り戻せば良い、今の自分(・・・・)ならばおそらく、そう難しい事ではないはずだ。何せ、1を聞くことで10を知る事ができるようになったのだから。

 

(ああ、でもそういえば……)

 

 夏季休暇にはまた互いの家に挨拶しに行こうと、そんな約束を大切な少女と交わした気がする。

 「おじさんとおばさんも会えるのを楽しみにしているみたい」とそんな事を優しく微笑みながら言っていた記憶が一瞬リィンの心を揺さぶるが……

私の息子ならば(・・・・・・・)」とそう告げた父の言葉が再びその心に鋼を纏わせる。

 父が自分に期待してくれているのだ、ならば足踏みをしているわけにはいかないだろうと心に灯り、焔となったその意志は止まらない。

 どこまでも貪欲に、肉体の次は技だと言わんばかりに強さを求めるのであった……

 




・灰の起動者
・鬼の力
・ヴァンダール流皆伝
・クレアの持つ統合的共感覚
・レクターの持つ未来予知じみた直感
・本人自身の卓越した軍事的才幹
・英雄としての名声
・ギリアス・オズボーン唯一の実子

これは傍から見たらどう考えても鉄血の子筆頭リィン・オズボーン
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