『鉄血の子』は、ボンヤリとした構想とその場のノリのもとにつくられている作品ですが、
長くかきつづけると、そこにヒズミやキズができてくるということでしょうか…。
「作者はウソつきだ」 と思った読者のみなさん、 どうもすみませんでした。
作者はウソつきではないのです。 ただゆでたまご大先生をリスペクトしてライブ感で作品を作っているだけなのです……
20日間という強行軍にて奥義の伝授は無事済み、リィン・オズボーンは若くして皆伝へと到達した。
そしてこれは同時に彼が
そもそも本来であればリィンは貴族生徒用の特権をフル活用して奥義の会得に一ヶ月かける予定だった。それが何故20日間という強行軍で行われたのか、それには
夏季休暇へと突入し、帝都へと帰省したリィンは義姉であるクレアに連れられて帝都のバルフレイム宮にある宰相執務室を訪れていた。一体何事かとは思いながらも、敬愛する父に呼ばれたリィンの選択など当然一つである。今にもスキップをしそうな位に弾む心を抑えながらもあくまで息子としてではなく一士官学院生として宰相へと接する様勤めていた。
「ふふ、早い再会となったな。我が革新派の“若き英雄”よ。まさかとは思うが、“英雄”等と持て囃されている事で天狗になってはいまいな」
「まさか、未だ皆伝にも至らず閣下からも満点を貰えていない身。
不敵に笑い合う親子に傍で聞いているクレアは苦笑を浮かべる。この光景を見れば、目の前の二人が親子である事を疑う人間は誰もいないだろうなとそんな思いを抱いて。
「ならば良い。さて本題へと入ろうか、近々クロスベルで行われる通商会議については当然知っているな」
「ええ、それは無論。……最もあくまで知っているのは公式発表の内容程度ですが」
“英雄”等と持て囃されようと現状のリィンはあくまで士官学院生に過ぎない。
当然独自の情報網など持っているはずもなく、あくまで彼の情報ソースは新聞と言った情報メディア
後は時折会う情報局の兄貴分の齎すもの位だ。
「
告げられた言葉に一瞬リィンは忘我へと陥る。それはリィンにとってはこの上なく望外の事だったから。自分が父の護衛となる、すなわち尊敬する
「どうなのだ?可憐なアルフィン皇女殿下ならばともかく、このようないかつい男を護る等ごめんかな?」
「め、滅相もございません!身に余るあまりの栄誉にただただ歓喜するばかりです!粉骨砕身励ませていただきます!!」
見ているクレアの方も思わず嬉しくなってしまうような心の底から喜色に満ちた笑みを浮かべ、声を弾ませながらリィンは答える。そしてそんな光景を見てクレアは「ああ、大人びてきてもやはりこの子は昔のままだ」と安堵する。やはり、あんな鬼のような姿など目の前の弟には似合わないと。
「ふふ、ならば決まりだな……と言いたいところではあるが、お前はこの私の血を分けたただ一人の息子だ。そして実の息子を護衛へと抜擢するとなれば要らぬ誤解を招きかねない。それはわかるな」
「……実力ではなく、我が子可愛さ故の私情による依怙贔屓と取られかねないと」
「そうだ、そしてそれは我ら革新派にとっては絶対に避けねばならぬ事だ」
重々しい父の言葉にリィンは無言のままに頷く。革新派とは血統によって特権を有する貴族制から本人の実力によってその地位が定まる社会をこそ目指して一致団結している派閥だ。その派閥のリーダーが我が子可愛さに依怙贔屓をしたとなれば、それは派閥に大きな動揺を生むだろう。
結局はあの方も貴族と変わらぬのかと失望する者も出るかも知れない。そして自分がそんな風に自分が父の足枷になるなどリィンにとっては絶対に避けねばならぬ事であった。
「故に、お前は自らが血縁によるものではなく実力によって抜擢されたのだと周囲に示さねばならない。そんな邪推が入る余地など一切残らぬように。
そこでオズボーンは試すような目でリィンを見据えて
「10日前だ。通商会議が開かれる10日前の8月20日までに見事お前の修めている守護の剣、その
そうすれば、お前の抜擢に対して血縁故のものだ等と言う者は居なくなるだろう。居たとしてもそれは単に其の者が武に対して余りに無知だというだけだからな。皆伝の重みを知る者からは失笑されて終わるだけだ」
皆伝に至るとはそういう事だ。それはすなわち、最低でも単騎で一個中隊にも匹敵するだけの戦力を持った“達人”と呼ばれる人間兵器となった事を示すのだから。多少なりとも武について囓ったものならば一目を置かざるを得ない。
そして流石のリィンも一瞬躊躇う。元より自分の見立てでは一ヶ月を費やすとそう踏んでいたのだ。それを3分の2の期間でやるというのは流石に
「閣下、お待ち下さい。それは余りにも……」
無茶苦茶すぎるとクレアは告げようとする。確かに義弟の成長は著しいがそれでも皆伝に至るというのは並大抵のことではない。才あるものが常人では想像もつかないような修練を重ねた果てにようやく到れるのが皆伝と呼ばれる領域なのだ。
如何にリィンが天才と称されるような秀でた才覚を持っているにしても20日での会得などもはや無茶無謀を超えている。それこそ地獄すら生ぬるい目に合うことだろう。
故にクレアは止めんとする、リィンの方をではなく主の方を。何故ならばこんな事を実の父に言われてこの義弟が退くはずがないのだから。
「
流石に会議の当日や前日に急遽ねじ込むというわけにはいかんからな。10日前がリミットとなる。
私としては
父にそう告げられた瞬間にリィンの中の弱気が吹き飛ぶ。
一体自分は何を迷っていたというのか、父がこうまで言うからには自分が
無茶?無理?無謀?そんな
そう、今の自分では無理だというのならそんな
「いいえ、閣下のお目が正しかった事を必ずや20日後に証明してみせます!」
そう宣誓した瞬間にリィン・オズボーンに退路は消えた。
元より燃え盛っていたところにさらなる燃料を注がれた燃え盛る焔はすでに臨海寸前だ。
このまま行けば遠からず自分自身さえも焼き払う事となりかねないだろう。
自分が死ねばそれを悲しむ人がいるというそんな当たり前の事実に気づかなければ。
「ふふ……では20日後を楽しみにする事としよう。見事、至ってみせろ」
そして
だが、そこに込められていた意味は単に通商会議に対してのものではなかっただろう。
そうして話はこれで終わりだと告げるオズボーンへとクレアとリィンは敬礼を施して退出していくのであった。
そして今、リィンは再び父の下へとその姿を現していた。
その様子にギリアスは笑みを浮かべる。宰相となったことで前線に立つことはなくなったが、彼もまた達人と称される域に至った腕前。目の前の息子が20日前とは別人のような強さを持っている事はわかった。
「ふふ、男子3日会わざれば刮目して見よとは言うが、いわんや20日も会わなければと言うものだな。流石は
それでは改めて命じさせてもらうとしよう、トールズ士官学院所属リィン・オズボーン候補生。貴殿に西ゼムリア通商会議における護衛を命じる。
階級は准尉待遇であり、期間中の身辺警護が主な任務となる。さて、返答や如何に?」
「謹んで拝命させていただきます宰相閣下!どのような敵が現れようと、
敬礼を施しながら告げたリィンの言葉にクレアとギリアスは少しだけ意外そうに目を丸くする。
「ほう……我が身に代えてでも、とは言わんのだな」
「ええ、護衛である自分が途中で果てては宰相閣下をそれ以後お守りする事が叶わなくなりますから。……我が身可愛さに駆られた不心得な護衛だと思われますか」
苦笑しながら告げられた義弟の様子にクレアは胸を撫で下ろす。数週間前に感じた
それが大分薄れ、今のリィンからはどこか風格めいたものを感じたからだ。
これならば
会議の場にはかの《風の剣聖》も出張るという話なのだから、仮に《帝国解放戦線》が襲撃をかけたとしてもまず遅れを取ることはないだろうと。
「いいや、
告げるオズボーンの言葉はどこまでも宰相として士官候補生に対してのものだ。
それに若干の寂寥感を抱きつつもリィンはその思いを振り払う。
今、目の前にいるのはエレボニア帝国政府代表の宰相閣下なのだから。
「……それに、それではカーシャが浮かばれまい。アレは、
「あ……」
一瞬、ほんの一瞬だけかつてと同じ優しい父の顔へと戻り、告げられたその言葉にリィンは深く心を揺さぶられる。
そうだ、自分の命は母が文字通り命を賭けて救ってくれたものなのだ。それを簡単に投げ捨てるなど母の死に様に泥を塗るのも同然だと。
そしていま一度師に伝えられたその意味を実感する。
「さて、それではゼムリア会議が始まるまでの間、これにリストアップされた本を熟読しておくように。任務は護衛だが、各国の代表から話しかけられる事もあるだろう。その際に無知を晒したくなければな」
渡された用紙にかかれている書物は、いずれもかつて自分がクロスベルへと赴いた際に読んだ内容からさらに一歩踏み込んだ内容となっているものだ。クロスベルという地に纏る歴史に地理に文化、そして政治に経済に技術と言った多岐にわたる分野の内容の専門書が記されている。
おそらく一ヶ月前の自分であれば、此処に記されている本の内容の半分が理解できれば良いところだっただろう。
だが
「出来るはずだ。
あの日を境に目覚めた統合的共感覚とでも言うべき、一部と全体を結びつける超感覚それを見透かしたかのように告げる父の言葉にリィンは頷く。そう、かつて1を聞いて3を知るのがやっとといった状態だった頃とは違い、1を聞いて10を知る事が出来るようになった今の自分ならば可能なはずだと自信を持って。
かくしてリィン・オズボーンの常人から見れば地獄のような、当人からすればかつて無いほどに充実した夏季休暇は幕を下ろすのであった……
Ⅲでシャーリィが単騎で一個大隊に匹敵する脅威とかミハイル少佐に評されていたので
この作品では達人=最低一個中隊以上の戦力的な認識で居ます。
しかしまあ若くしてヴァンダール流皆伝で、オズボーンの護衛役やっているこってこての如何にもって感じの名門士官学校首席のエリート軍人の実子とか碧の軌跡で登場したらあ、こいつ空で言うカノーネ大尉とかそのへんのポジだなとしか思えませんね!HAHAHAHAHAHAHA