「軍事大国の士官学校なのに皆良い子過ぎて大国のエゴ丸出しの如何にもエリート軍人ってノリの奴がいねぇじゃねぇか!一人位そういう奴を味方に放り込んでおこうぜファルコム!」
という思いが大きく込められています。今回の話はその辺が特に色濃く出ている話ですので、その旨ご理解頂ければと思います。
8月31日。西ゼムリア通商会議日程2日目。
昨日の軽い視察や懇親会を終えた各国の使節団はオルキスタワー35階国際会議場へと集まっていた。会議場の前を固めるのは各国の首脳陣が連れてきた武官。
リベール王国からはユリア・シュバルツ准佐を筆頭とした親衛隊、エレボニア帝国よりはミュラー・ヴァンダール少佐を筆頭とした第七機甲師団の精鋭と宰相直々に抜擢したリィン・オズボーン准尉が、そしてレミフェリア公国とカルバード共和国よりも選りすぐりの精鋭が護衛の任へと就いていた。
そしてひとつ下のフロアには非常時に際して何時でも駆けつけられるようにクロスベル警備隊の精鋭部隊一個中隊が控えており、遊撃部隊としては《教団事件》解決の立役者たる“クロスベルの英雄”《特務支援課》が控えており、会議場の中には理に至りし者、《風の剣聖》アリオス・マクレインが待機している。
まず安心と言っていい警備体制だろう。それこそ、
そしてそんな警備が功を奏してか、会議の前半は大きな波乱が起きる事もなくつつがなく進行していき、進行役たるマクダエル議長の号令で小休止へと突入するのであった……
「お久しぶりです、皆さん」
休憩時間の最中リィンは父に呼ばれた
「皆さんのその後の活躍については《クロスベルタイムズ》で読ませて貰っていました。《教団事件》を解決した“クロスベルの英雄”にこうして再び会えた事を嬉しく思います」
柔和な笑みを浮かべながら告げる顔見知りの少年のその様子に《特務支援課》の面々は胸を撫で下ろす。鉄血宰相の護衛へと抜擢された事で目の前の少年が、半年前とは変わり如何にも大国の軍人といった居丈高な様子になっているのではないかと若干心配していたが、どうやらそれは杞憂であったらしいと。
「ははは、そんな風に言われると少々むず痒いけどね」
「《クロスベル・タイムズ》、わざわざ取寄せて読んでくれているんだ」
《クロスベル・タイムズ》はクロスベルにおいては最大手と言っていい新聞だが、帝国や共和国ではそこまでメジャーではない。故に諸外国でそれをわざわざ取り寄せるのは他国に留学中のクロスベル出身者か、それとも余程クロスベルへの関心が高い者位になるのだが……
「ええ、それは勿論。将来国防を担う身としてはクロスベルを避けては通れませんから」
リベールのアリシア女王の仲立ちにより、《不戦条約》が締結された事でクロスベルを巡った帝国と共和国の軍事的緊張は大きく緩和された。
されど、それでもこの地が西ゼムリア大陸の火薬庫である事には変わりないし、それを抜きにしても貿易と金融の中心となりつつあるこの地は経済的な側面でも重要だ。
国政、国防、経済、外交といった国家の要職へと就こうとしている人物が無関心でいたら、それは不勉強の誹りを免れないだろう。
「さて、旧交を温めたいのはやまやまですが休憩時間もそう長いわけではありません。宰相閣下がお待ちです、どうぞ中へとお入りください」
入室を促すリィンの言葉に応じて支援課の面々は居室へと入っていく、そして此処に支援課の面々と鉄血宰相のささやかな会談が行われるのであった。
・・・
用意された豪奢な応接用のソファーへと支援課と宰相が腰掛ける中、同席を宰相より促されたリィンは直立不動のままに宰相の傍らへと控える。
支援課の面々は父が呼んだ言わば客人だが、自分はあくまで同席を許された一介の護衛役である、ならば
「直截に尋ねよう。……君たちはこのクロスベルがどれだけ保つと考えている?」
「……ッ!」
「また随分と露骨な質問だね……」
意識調査等と前置きをしながらオズボーンより放たれた問いかけに支援課の面々は表情を強張らせる。
彼らにしてみれば、それは断じて笑い混じりに楽しく話す事が出来るような内容ではない。
しかし、問いかけた本人にとってみれば本当に戯れに過ぎないのだろう。
どこか愉快気に、それでいて眼前にいる若者たちを推し量る色がその言葉には込められていた。
「ふふ、別に深い意味はない。ただ、栄枯盛衰は歴史の常ーーー滅びなかった国は存在しない。
ましてや、導力革命によってあらゆるものが加速したこの時代、この因縁の地がどこまで現状のままで居られると思う?」
「……それは…」
かつて栄華を極めたとされる古代ゼムリア文明でさえも滅び去った事を思えばそれはそうだろう。
人が不死ではいられないように、国家とて永遠に存在するわけではない。大きな歴史の流れでいくつもの国が興り、そして消えていった。
加えて《エプスタイン博士》によって50年前に起きた導力革命によって世界は一気に加速しだした。
移動の手段が馬車から導力車、飛空艇、鉄道へと切り替わり、戦場もまた大きく様変わりした。
軍の大規模な機甲化は戦場から“英雄”を駆逐しようとしている、兵器や技術の発達はそれだけ個人の力が介在する余地を減らす。
かつてであればそれこそ“英雄”と呼ばれる人種は単騎で一軍にさえも匹敵するとさえ謳われた。
されど、発達した技術は個人間の技量差というものを大きく減らす。
才あるものが数十年の鍛錬の果てに到った“達人”と呼ばれる人種の代わりを凡人が担うとなれば、かつてはそれこそ1000人単位で必要としたものが最新鋭の装備をさせれば100人程度で十分となった。
そしてそんな“英雄”の代わりとなり得る戦車を二大国はそれこそ数百台単位で保有しているのだ。
更に言えば列車砲等という戦略兵器もまた生まれた。今は単なる固定砲台に過ぎないが、もしもやがてアレの射程と精密さが伸びれば?それこそわざわざ軍を敵国に送るまでもなく、一方的に他国を蹂躙する事さえも可能となってしまうかもしれない。
そして、そうなれば兵士たちと共に苦楽を共にして戦場を駆け抜け、祖国の命運を決する戦いに赴く“英雄”などという存在は完全に消えて行く事となるだろう。安全で静かで、物憂い事務室にいて、書記官達に取り囲まれて座り、命令を下すものが“英雄”となる。
その一方で何千という兵士達が、通信一本で機械の力によって殺され、息の根を止められる。そして、国家間の戦争は武力の担い手たる軍人だけではなく、そんな兵器を量産する一般市民さえも対象とした全面戦争へと突入するようになる。
まさしくゼムリア大陸は《激動の時代》を迎えようとしているのだ。
そして、そんな《激動の時代》においてクロスベルという因縁の地が無関係で居られるはずもない。
かつて二大国の間に起きた《クロスベル戦役》、それが再び起こる可能性を示唆するオズボーンの言葉にエリィ・マクダエルは顔を伏せる。
なまじ政治家を志す彼女だからこそ、故郷を取り巻く状況の難しさが否応なく理解できてしまうのだ。
「何時までもです!守ろうという意志が自治州の民にあるのならば!」
されど、
彼女とて決して無知なわけではない、むしろ警備隊の隊員たる彼女こそ、いやという程二大国の強大さを身を以て知っている。
何せクロスベルは飛空艇も戦車も保有する事が出来ていないのだから。
いざ、戦争になってしまえば帝国と共和国という強大な力を前に自分達ではほとんど為す術がない事とて当然理解している。
されど、それでも彼女は叫ぶのだ。決して人は強大な力に翻弄されるだけの存在ではないと。祖国を護らんとするこの思いは決して無駄でも無意味でも無価値でもないと。
そんな彼女の様にリィンは自然と敬意を抱く。現実の苦難を知りながらもそれでもそれに屈せず抗わんとする気概、祖国を思う気持ち、それらは総てリィンにとって紛れもなく真実好感を抱くに値する姿だったからだ。
「そう、意志は常に大事だ。時に趨勢をひっくり返し、歴史そのものをひっくり返す事も稀ではないだろう。
人は無力な存在ではない。私もその可能性を信じている」
どこか、それまでの不敵な上から見下ろすかのような態度から真摯さを帯びた口調でオズボーンは、ノエルの吠えた気勢を肯定する。
そこには自らもまた何か強大な力に抗おうとしている
「ーーーだが、その意志同士がぶつかりあった場合はどうだ?」
されど、そんな空気は一瞬。オズボーンは再び総てを飲み干さんとする鋼鉄の意志を纏って告げる
「簡単だーーー小さな意志はより大きな意志に呑みこまれ、その火勢を大きくするだろう」
告げるのは単純明快な言葉、ぶつかりあうことになれば必然
「そうして生まれた業火が地上にいくつも現れた時……あらゆる正義と倫理は灼熱に溶け、世界は一面の炎に包まれる。
ーーーそんな光景が容易に幻視出来るのではないか」
だれもが大切なものを
ならば、最初から抗おうとせずに強大な力に頭を垂れてしまえばいいのだと、どこまでも大国にとっての
現実は常に無慈悲で無情なのだから。立派であるもの、高潔であるものが必ずや勝利する程にこの世は優しくないのだから、諦めてしまえと。
そんな世の理をねじ伏せる事の出来る“英雄”など、この世には居ないのだと。
そして自分はそんな無慈悲な力を
国家における最大の暴力機構が軍である以上、一度戦いになれば祖国のために、家族のために、仲間のために、友のために、そんな心の底から尊敬できる思いを抱いてエレボニアという強大な力に抗わんとする目の前の特務支援課のような高潔な人々を
「……ああっ……」
「……ううっ……!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
気圧される。目の前の男の抱くその鋼鉄の意志を前に。
自分のやっている事の非道さ、罪深さ、生まれる嘆きそれらを承知した上でなおもそれを背負い、貫くと決めたその意志の強さに。
まさしく今述べられたとおりに、《特務支援課》というクロスベルの小さな意志が《鉄血宰相》というエレボニア帝国の巨大な意志に呑み込まれようとした刹那
「……確かに、帝国や共和国に比べたら『小さな意志』かもしれません……
ですが、大きな炎が必ずしも小さな炎を呑み込むとは限らないでしょう。
かつて帝国の侵攻を退けたリベール王国のように!」
そんなリーダーの言葉を受けて、呑み込まれかけた特務支援課の面々の瞳に再び力が戻る。気圧されてなるものかと。
今まさしく自分達のリーダーが語ったように、自分達一人一人の意志は小さくとも結集すれば目の前の《鉄血宰相》という強大な意志に抗う事とて出来るはずだと体現するかのように。
「ふふ、そのとおりだ。意志には『強さ』が問われる。
リベールの小さくも強き意志が、帝国の大きくも乱れた意志に打ち克ったというわけだ。
それは確かにクロスベルにとって一つの教訓と言えるだろう」
そしてそんな気勢を前にオズボーンは愉快げに笑う。そうでなくては
「ーーー果たして、クロスベルの民にリベールの民ほどの誇りと強さが備わっているかは知らんが」
その上でオズボーンは無慈悲な事実は突きつける。汚職に塗れ、二大国の食い物とされていたこの地の民は、果たして名君たるアリシア女王の下で一致団結して抗ってみせたリベール王国のようにその意志を結集させる事が出来るのかと。
「更に言えば、あの
そうだな、聞いてばかりというのも退屈だろう。准尉、余計な虚飾や配慮を要らない。率直に述べたまえ、果たして我らエレボニアが一丸となってあの戦いに赴いていたら、同じ結末になったと思うかね?」
「まず有り得ないでしょう。確かにリベールの《カシウス・ブライト》大佐によってなされた飛空艇を使った反攻作戦は当時としては革新的なものでした。それまであくまで陸上での戦いだった戦争に空という概念を齎したのですから。それをなした彼の軍事的才幹には驚嘆を禁じえませんし、その結果我がエレボニアは分断されて各個撃破されて敗北しました。
ーーーしかしそれは、我がエレボニアの“英雄”《軍神》ヴァンダイク元帥閣下が指揮をとっていなかったからです。もしも最初から我が国が挙国一致体制でリベールへと侵攻していたのなら、当然元帥閣下が総指揮をとっていたはず。そして、元帥閣下が直々に指揮を取られていれば、みすみす各個撃破させるような事態には陥らなかったでしょうし、そもそも反攻作戦の前に我が国の勝利で終わっていたでしょう」
百日戦役は功を焦った貴族派の一部将校のある蛮行がきっかけでなし崩し的に行われたものであった。奇襲を食らった形となったリベール側と同様に侵攻した側のエレボニアもまた多くの者にとっては寝耳に水なことであり、その侵攻は纏まりを欠いたものとなった。
その証拠こそが当時元帥の地位にあったウォルフガング・ヴァンダイクの不在である。元より貴族派がリベールへと侵攻したのは、平民出身としては史上初となるウォルフガング・ヴァンダイクの元帥就任とその腹心の部下たる当時准将の地位にあったギリアス・オズボーンの台頭などにより隆盛著しい平民派に対抗すべく、軍内部の主導権をリベール王国併合という功を持って奪わんと企図してのもの。
当然ながらヴァンダイクに知らせているはずもなく、功を焦って侵攻した貴族派の師団を凡そ纏まりというものをかき、それが各個撃破される結果を生んだ。もしも元帥にしてエレボニア最高の名将たるヴァンダイクが総指揮官を勤めていれば、みすみすそんな結果にはならなかっただろう。
「最もこれはあくまで仮定の話です。組織というのは大きくなればなるほど意志統一をするのが困難になります。そしてそういった意志を統一させて組織を纏め上げるといった事前準備こそが戦略であり、戦略なき戦術など有り得ない以上、これは些か無意味な仮定でしょう。
大義もなく、指揮系統の統一という基本中の基本すら怠り、リベールをたかだか小国と司令官から末端の兵士までもが侮っていた。
こんな状況で勝利出来るはずもありません。あの敗戦は別段奇跡ではなく、必然だったとさえ言えるでしょう」
虚飾や配慮は要らないと言われたリィンは淡々と自らの所感を述べていく。アレは負けて当然の戦いだったと。
何故ならば
「ふふ、当時軍の要職にあった身としては中々に耳が痛い話だ。そうだ、我らエレボニアはあの時その意志を結集させる事が出来なかった。いや、むしろ足を引っ張り合っていたとさえ言える。
ーーーならばつまり、それは我らが挙国一致体制を整えていれば、例えリベールがその意志を結集させたところでどうにもならなかったという事ではないかな?」
故に、例えば強大な指導者の下にエレボニアが一致団結すれば、どれほど小さき意志が結集したところで齎されるのは大きく強大な意志に小さく強い意志が呑み込まれるという順当な結果だとオズボーンは告げる。
ーーー特務支援課の面々は知る由もないことだが、かつてリベール王国において起きたクーデターはまさしくこれこそが原因だったのだ。
クーデターの首謀者であるアラン・リシャール大佐は情報局長として他国の諜報を担っていた。そして彼は否応なく理解してしまった。エレボニア帝国の強大さを。急速に改革を推し進めている《鉄血宰相》という指導者の恐ろしさを。
かつてリベールがエレボニアを退ける事が出来たのは、リィンが述べたようにエレボニア内の意思統一がされていなかったからこそであった。では、そのエレボニアが一つに纏まってしまったら?
奇跡の立役者たる“英雄”カシウス・ブライトの無き自分たちが果たしてその侵攻を跳ね除ける事が出来るのか?と。
そんな恐怖と何よりも祖国を思う愛国心が彼を突き動かした。強大な力に抗うには力しか無い、それはすなわち《空の女神》が残したとされる女神の七至宝、それに頼るしか無いと。
結果として彼のクーデターは失敗に終わったわけだが、彼のこの心配それ自体が杞憂だったとは決して言えないだろう。
何故ならば他ならない《鉄血宰相》自身が言外にそれを匂わせているのだから。かつての二の舞を演じるつもりはない、自分は必ずや貴族派を下して、祖国を纏め上げて見せるぞと。
「……ッ!」
反論の言葉を、述べる事はできなかった。ただの大言壮語ではない、目の前の人物にはそれをやってのけるだろうと思わせるだけの実力も意志も備わっているのだから。
《クロスベルの英雄》等と持て囃されても、目の前の人物に比べれば自分達は未だひよっ子に過ぎないのだという事をロイド達は実感せざるを得なかった。
それでもと言わんばかりに必死に呑まれぬように、眼前の相手を見据えながら。
「閣下の仰る通り、そうなっていれば我らが負ける道理はなかったでしょう。ーーー最も勝利した結果が我がエレボニアに益を齎したかについては些か疑問が残りますが」
「ほう……」
思わぬ人物からの反論の言葉、それに対してオズボーンは一瞬驚きの色を帯びた後に推し量るような瞳で我が子を見つめる。
「……申し訳ございません。差し出口を叩きました。忘れてくだされば幸いです」
「いや、構わん。続けたまえ准尉。仮に百日戦役に勝利していたとしても、それは我が国にとっては益にならなかったと君が判断した根拠を聞かせてもらいたい」
よもや安っぽいヒューマニズムに囚われたための発言ではないのだろうと告げる父の言葉を真っ向から受け止めた上でリィンは続けていく
「簡単な話です。我が国がリベールを併合したらそれは共和国にとっては喉元に刃を突きつけられたに等しい行為です。まず間違いなく、救援という名目で援軍を派兵した事でしょう。そうしなければ西ゼムリア大陸の覇権は自ずと我が国の物となるのですから、彼らにしてみればそれ以外に選択肢はありません。
そしてそうなれば始まるのは七〇年前に起こった《クロスベル戦役》の再来です。異なるのは戦いの場所がクロスベルからリベールになったというその一点のみ。
ーーー意味じくも宰相閣下が仰ったように、帝国と共和国という大きな意志がぶつかりあった結果、悲劇という業火がリベールを、そして帝国と共和国を焼く事となったでしょう。これでは勝利したところで意味がありません」
必要悪を担うのが軍人の役目なれど、それはあくまで祖国とそこに住まう民へと繁栄を齎すためだ。
戦争に勝利した結果がさらなる争いを呼び、ただ犠牲を生むだけの結果では終わっては意味がない。
ーーー齎された勝利という果実、それを味わう者達がいなければ。
祖国の繁栄とそこに住まう民の幸福、それこそがリィン・オズボーンの中にある決して譲れぬ
「ふふ、中々に卓見だが共和国は共和国で一枚岩ではない、ならば乱れた大きな意志に統一された大きな意志が勝利する事はそうそう難しくもないのではないかな?」
「自分たちに出来た事を相手が出来ないと思うのは些かに希望的観測が過ぎるというものでしょう。何よりも古来より集団を纏め上げるのに一番の常套手段は“共通の敵”を作ってしまう事にあります。
我らエレボニアは閣下という偉大なる指導者を得ました。しかし、《空の女神》は公正なる存在です。我らに閣下を遣わしてくれたというならば、共和国にも同様に“ギリアス・オズボーン”が生まれないとは限らないでしょう」
告げるリィンの言葉はどこまでもエレボニアの利益を代弁する内容だ。
ただただ、共和国と全面戦争に突入してしまえば犠牲に見合うだけのものを得られない可能性が高い、リィンの反論の内容はつまるところそれに尽きる。
決してリベールやクロスベルを慮ってのものではない。
「ふふ、なるほどな。つまりは、併合したところでも割に合わないのだからやめておけと、そういう事か」
そしてそんな息子の言葉に父親は顔をほんの少しだけ緩める。まあ、
「ならば、併合する事こそが祖国のためになると政府が、そして皇帝陛下が判断したというのならば当然異論なく従うという事だな?」
告げられた問いかけにリィンは……
「無論です。国家のために必要悪を担う事こそが軍人の使命なれば。それが祖国の益になるというのならば是非もありません」
一片の逡巡も無く鋼鉄の意志を纏って答える。
自分のやることが嘆きを生むとわかりながらも。ただ所属する国が違うというだけで目の前にいるような素晴らしい人達を殺す事になるのだと十二分に理解して。
そしてそんな半年前とは別人の如き少年のその鋼鉄の意志に特務支援課の面々は気圧される。
迷い、揺れながら、それでも仲間と共に一歩一歩少しずつだが前に進もうとしていた質朴な少年の姿はそこにはなかった。
居るのは鋼の如き意志でどこまでも突き進もうとする《鉄血の継嗣》であった。
「ならば良い。さて休憩時間も終わりだ、話はこの位にするとしよう。
ああ、帝国政府からは特に勲章を送るつもりはない。下手に《平民》に勲章を送ったら貴族勢力がうるさいのでね」
話の終わりを告げるその言葉に支援課の面々は改めて突きつけられた祖国の厳しい状況に忸怩たる思いを抱きながらその場を立ち去るのであった……
うーんこの圧倒的中ボス臭の漂う主人公