(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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サブタイトルを灰色の騎士から鉄血の子へと変更したのは、灰色の騎士とリィンが呼ばれるようになるのは内戦終了後でこの頃はまだオズボーンの息子という認識の方がメインだと気が付いたためです。

戦闘描写に関してはあまり期待しないで下さい。


鉄血の子とARCUS②

「自己紹介がまだだったな、一応見知った顔ばかりではあるが改めて挨拶しておこう。Ⅰ組所属リィン・オズボーンだ」

 

「同じくⅠ組のアンゼリカ・ログナーさ、よろしく頼むよ」

 

あの後放って置くとそのまま延々と漫才を続けていそうな三人のところにジョルジュが割って入り一応の落ち着きを取り戻すとリィンとアンゼリカは改めて自己紹介をしていた。

 

「あははは、知ってるよ。入学式の時にアレだけ派手に名乗っていたんだもの。僕達の学年で二人の名前を知らない子って居ないんじゃないかなぁ」

 

特にオズボーン君なんか二年の先輩に至るまで知らない人はいない超の付く有名人だと思うけどなどとジョルジュが口にするとアンゼリカは苦笑して

 

「そうは言うけど、当然私の事は知って居るよね?なんて態度でもしも相手が知らなかったら恥ずかしいじゃないか」

 

「それに今から厄介な課題に共に取り組む仲間なのだ、やはり改めて自己紹介をしておくべきだと思ってな」

 

アンゼリカは冗談めかして肩をすくめながら、リィンは真面目な様子でそう告げる

 

「Ⅳ組のトワ・ハーシェルです。二人とは実技はそんなに得意じゃないけど足を引っ張らないように頑張るからよろしくね!」

 

続いてトワが元気一杯の笑顔で

 

「皆して有名人の中でなんだか気が引けるけどⅢ組所属のジョルジュ・ノームだよ。技術屋だから何かそっち方面で困ったことあったら相談して欲しいな、一応こっちのクロウとは入学以来の友人同士になるかな」

 

「改めて紹介する必要も無いだろうが、クロウ・アームブラストだ。どうせこの場限りの付き合いなんだ、別によろしくしてくれなくてもいいぜ」

 

その体つきも合間って温厚そうな印象を与える笑顔を浮かべてジョルジュが、ぶっきらぼうな様子でクロウがそれぞれ答える。そんな自分を面白げに見つめているアンゼリカに気が付いたのだろう、クロウが不機嫌そうに問いかける

 

「………何がそんなに面白いんだい、ログナーさんよ」

 

「いや、ずいぶんと良い顔をするようになったなと思ってね」

 

「はぁ!?」

 

クスリと笑いながらそんな事を言うアンゼリカにクロウはコイツは何を言っているんだとばかりに

 

「おいおいおい、アンタ目玉が腐ってんのか?今の俺のどこが良い顔だってんだよ。こちとら変な奴とようやく縁が切れると思ってホッとしていたのに、テスターだかなんだかを有無を言わさずやらされてその変な奴と強制的に一緒にされる有様だ。最悪の気分と言っていいぜ」

 

「変な奴と強制的に一緒?なんだクロウ、貴様アンゼリカと旧知の仲だったのか?その割には随分と他人行儀だが」

 

「てめぇだよてめぇ!てめぇがその張本人だ!何自分は無関係ですみたいな顔してんだ!!!」

 

キョトンとした様子で大よそこの場で居る中で客観的に見て、最も変と思われる人物を挙げたリィンにクロウが食って掛かる。確かにパッと見の印象で言えば鉄血宰相の息子という肩書きに見合った優等生らしいリィンとログナーの息女という肩書きに見合わないアンゼリカ、どちらが変な人物といわれれば大抵の人は後者を挙げるだろう。しかし、今クロウの頭を悩ませているのはアンゼリカではなくリィンの方であった。

 

そんな二人の様子を見てアンゼリカが笑いながら告げる

 

「ほら、そういうところだよ。以前までの君だったら如何にもな気さくな不良生徒と言った仮面を被って適当にやり過ごしていたはずさ。でも今の君はとっても自然にありのままの自分を出しているように私などには見えるがね」

 

そのアンゼリカの発言にクロウは一瞬息を呑む。そんなクロウの様子を見てどうやら自覚が無かったみたいだねと呟くアンゼリカに友人であるジョルジュも続けていく

 

「こういったらなんだけどさ、前までのクロウってなんだかどこか無理しているなって感じてたんだ。でも、オズボーン君と仲直りしてからのクロウはすごい自然体になった気がする」

 

「うん、そこまで親しかったわけじゃないただのクラスメイトの私が言うのもなんだけど、以前までのクロウ君よりも今のクロウ君の方が良いと思うし、リィン君もどこか雰囲気が柔らかくなったと思う……えへへ、なんだか男の子同士の友情って感じで羨ましいなぁ」

 

周囲から見た今の二人がどのように見えるのかをトワはそうやって口にして

 

「いや、男同士でもあの二人みたいに殴り合いの喧嘩して、それがきっかけで仲良くなるとかいう小説みたいな話はほとんど無いからね、トワちゃん」

 

ジョルジュがそう突っ込みを入れて

 

「ふふふふ、羨ましがる必要はないさトワ。君にも私という友人がいるじゃないか!さあというわけで男共が羨ましがるような女同士の友情をたっぷりと深めようじゃないか!!!」

 

「わ、わわわ、急に抱きつかないでよアンちゃ~~~~ん」

 

一歩踏み外すと百合の花が咲き乱れそうなことをしだした女性陣を尻目に

 

「……貴様と俺は既に友人同士だったのか、クロウ?」

 

そんな天然ボケなリィンの言葉を聞いて

 

「知るか!!!!」

 

本当に何なんだこいつ等はとクロウはいつの間にか仮面を自然と外している自分に戸惑いながらも、そんな叫び声を挙げるのだった。

 

 

「しかしまあテスターと言われてこんなところに叩き落された時は何をさせられるかと思ったが、結局やることと言えば徘徊している魔獣とやりあう位か。聊か拍子抜けと言えば拍子抜けだね」

 

あの後新型戦術オーブメントの試作機とやらを装備して道を進み始めた5人だったが学年トップクラスの実力者を三人有しており、特に不和なども抱えていなかったためかあっさりと道を進んでいった。そんな状態にアンゼリカは肩をすくめながら呟く

 

「ふむ、確かにこれならばこんな大掛かりな仕掛けを施さなくても街道に出て魔獣退治をすれば良かったのではないかという感は否めないな」

 

そのほうが市民の役にも立つし有意義だろう、などとリィンにしては珍しく教官に用意された課題に疑義のようなものを抱きながらリィンが応じる。

 

「うーんこの旧校舎でやらせる事に何か意味があったのかな?ドライケルス大帝が直々に建てた由緒正しい場所だもんね」

 

トワは旧校舎という実施場所に着目した中

 

「いやー僕が思うに、街道でやるってなったら逃げ出しそうな男が居たからじゃないかなと思うよ」

 

等とジョルジュがチラリと横にいる入学以来の付き合いの友人を見ながら述べると

 

「はははは、なるほどなるほど。確かにトワとリィンだったら二つ返事で了承するだろうが、そこの不良生徒はそんな殊勝な性格じゃないからね」

 

「新型戦術オーブメントのテスターに選ばれるなど光栄です!加えて民の安寧を護るために魔獣を退治するのも軍属として当然の勤め!喜んで協力させて頂きます!」だとか「え、えっとどこまで力になれるかわからないけど精一杯頑張ります!!」などと言う優等生の友人二人の姿と、それとは対照的に行方を眩ませて後日リィンにくどくどと説教をされるクロウの姿を思い浮かべて、アンゼリカは笑いながらジョルジュへと応じる

 

「そういうてめぇはどうなんだよ、アンゼリカ」

 

そんなアンゼリカの様子に若干イラッときたのだろう、ログナーとかは堅苦しいので名前で呼んで欲しいという相手の希望通りにクロウは目の前でこちらを見つめながら大笑いをしている女へと問いかける

 

「ふ、愚問だね。トワが居るのならば例え火の中だろうと水の中だろうと私は全力で駆けつけるさ!」

 

ま、一番興味があるのはそんなところよりもトワのスカートの中だけどねと告げるアンゼリカにトワは顔を真っ赤にしてもーアンちゃん!などと怒る

 

「……聞いた俺が馬鹿だったよ」

 

「ま、それにだ」

 

そんなアンゼリカにクロウが呆れていると今度は一転アンゼリカは真面目な表情を浮かべて

 

「リィンじゃないが、領民を護るのは貴族の義務。此処はトリスタ、ログナーの領地ではないし、そもそも勘当寸前の放蕩娘にこんな事を言うのは資格はないのかもしれないが、それでも人として護らねばならない一線がある事はわかっているつもりさ」

 

そんな事を告げるアンゼリカにリィンは友を誇るように満足気に頷き、トワは感動したように「アンちゃん……」などと呟く。そしてそんな様子にクロウはなるほど、ふざけているようでこういう部分があるからこそ糞真面目なオズボーンとも特に衝突する事無く入学以来つるんでいたのかと納得の表情を浮かべる。

そんな風に思う事自体がもはや、利用価値のある怨敵の息子に対するものではなく、つるんでいる友人に対する評価そのものである事にクロウは未だ気づいてなかった……

 

 

「ヴァンダールが双剣!とくと味わえ、ラグナストライク!!!!」

 

全身を包む淡い光とまるで仲間達が何を考えて居るのか、何を見ているのかがわかる奇妙な一体感を味わいながら、その言葉と共に仲間が作ってくれたチャンスにリィンがとっておきの一撃を叩き込む。

頑丈で生半可な攻撃では傷をつけられず、少しの傷程度ならば即座に回復してしまうというのなら最大の火力をぶち込むまでだ!とでも言わんばかりに。

そしてその攻撃を受けたガーゴイルは流石に許容範囲を超えたのだろう、その機能を停止させた。

 

「ふぅ、やれやれ最後にとんだサプライズが待っていたね。全く誰だい拍子抜けなんて言ったのは」

 

「君だよ君」

 

さっきの自分の発言を棚上げにするアンゼリカへとジョルジュは呆れ顔で突っ込んでいた。

 

「ふぅ……こんなものまで居るなんてビックリしたねぇ。でもリィン君はやっぱりスゴイなぁ、私も座学は自信あるけど実技はいまいち……」

 

「はは、トワだって導力銃とアーツの腕は中々のものじゃないか。多分この調子で努力すればそのうちに……トワ!まだだ!!!」

 

へ?と呆けた顔をするトワを他所にリィンは必死にトワに向かって攻撃を繰り出そうとするガーゴイルを止めるべく駆け出す。

 

(間に合わんッ!)

 

リィンは必死に庇おうとするがそれもむなしくトワへとガーゴイルの手が振り下ろされようとした刹那、再びリィンの身体を淡い光が覆い……その振り下ろされようとした腕が銃弾によって弾かれる

 

「リィン!今だ!!!!」

 

そんな掛け声を聞いてリィンは再度その剣をガーゴイルへと叩きこみ、その首を両断し、今度こそガーゴイルは正式に停止するのであった。

 

「トワ!大丈夫か!怪我は無いか!!!」

 

「う、うん大丈夫だよ」

 

必死の形相でトワへと駆け寄ったリィンはそんな少女の言葉にホッと胸を撫で下ろす。

 

「ごめんね……足を引っ張っちゃって」

 

「いや、残心を疎かにしていた俺の責任でもある。何にせよ無事でよかったよ」

 

そうして怪我が無くて本当に良かったと安堵のため息を漏らした後に

 

「クロウ、本当に助かった。ありがとう、俺の大切な友人を助けてくれて」

 

そうして右手を差し出してくるリィンを他所にクロウは一瞬忘我の境地へと至っていた。

気が付いたら身体が動いていた、そう評する以外にない状態だった。

打算も何もなくただただ、危ないとそう思ったら当然のように目の前の男を、憎い仇の男の息子を援護していた。

 

いや、そもそも冷静に振り返ればここのところの自分の行動は無茶苦茶だった。

何故自分は目の前のコイツに自分の境遇を打ち明けそうになった?

何故目の前の相手が謝罪してきたときにその罪悪感に付け込もうとしなかった?

何故先ほど自分はコイツの事をリィンと、そう名前で呼んだ?

あの心が繋がるような奇妙な感覚、何故自分はそれを悪くない(・・・・)等と思っていた。

そんなすっかり自分が目の前の男によって仮面を剥ぎ取られていたという事に気づきクロウは呆然とする。

 

「クロウ?」

 

そんなクロウの様子を訝しがり、リィンは親愛の念を露に手を差し出したまま首を傾げる。そんなリィンに対して

 

「へ、礼なんていらねぇよ。トワ(・・)の奴は俺にとっても大切な友達(ダチ)なんだからな、ダチを助けた事に対して礼なんて不要さ。そうだろうリィン(・・・)

 

クロウは自らも手を差し出して固い握手を交わしていた。打算も仮面も抜きに、自分でも良くわからぬ思いのままにトールズへと入学してから初めて、心の底からの笑顔を浮かべながら。

 

「やれやれ、僕の方がリィンよりも先にクロウと友達になったはずなのになぁ。すっかり一番の友達の座を奪われちゃったみたいだ」

 

「ふふふ、気にかかるなら君もクロウと殴り合いをやってみたらどうだい?ちょうど良いダイエットになるかもしれないし」

 

「嫌だなぁ、アンゼリカ。知らないのかい?デブは一食抜いただけで死ぬんだよ?クロウと喧嘩なんかしたらその日一日はご飯が食べられなくなっちゃうよ。君は僕に死ねって言うのかい?」

 

そんな二人を眺めながらアンゼリカとジョルジュは既に旧知の間柄のように冗談を交し合い

 

「いいなぁ……やっぱりほんのちょっとだけ羨ましいかも」

 

トールズでの初めての友人が女である自分ではどこか入れない空気をクロウと漂わせているのにトワはどこか羨望の色を覗かせて……

 

その場に居た5人はある共通の思いを抱いていた。きっと長い付き合いになる、そんな予感を。

 

 


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