(完結)鉄血の子リィン・オズボーン   作:ライアン

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「おいおい、お前ら何してんだよ……どうして覚醒しないんだ?挨拶代わりで死ぬなよなァ」
「英雄みたいに輝けよ。 今からみんなで限界を超えようぜ、本気でやってみようじゃねぇかッ」



オルキスタワーの死闘

 

 死闘が繰り広げられていた。

 

 《赤い星座》はこの戦いに団長たるシグムント直々の指揮の下、5人の部隊長を筆頭に旗下の精鋭達を投入。

 “理”とは別種の高みたる“修羅”の領域へと至っているシグムント自身は《風の剣聖》とやり合う傍ら、5人の部隊長もまた旗下の部隊を率いて各国の護衛部隊と交戦へと突入した。

 戦況の推移はほとんど五分と言っていい、各国の護衛隊長は皆“達人”と呼ばれるに足る実力者だが、それは赤い星座の部隊長もまた同じ。

 各国の兵士は自国の首脳の護衛の任に抜擢にされた選りすぐりの精鋭だが、それは赤い星座の団員達もまた同じ。猟兵という戦いに身を置く戦士たちの中でも選りすぐりの上澄みこそが赤い星座なのだから。

 士気の面もそうだ、護衛部隊側が自国の首脳を護らんという矜持を抱くのなら、赤い星座もまたプロフェッショナル中のプロフェッショナル。受けた依頼は完遂せんと強い意志を抱いて戦いを挑んできた。

 何よりも彼らは“戦い”そのものを愛している生粋の戦争狂の集まりだ。ともすれば一方的な蹂躙劇になってしまいがちな普段の戦いに比べて、珍しく自分たちと五分に渡り合えるだけの得難き敵手の存在に彼らは奮い立っていた。

 戦いとはつまるところ、味方を如何に犠牲にせずに敵を殺すかが大事であり、戦術はそれを最大限発揮するための技術であり、戦略はそもそも五分の戦い、勝利の天秤はどちらに傾くかわからない、そんな状況にそもそも陥らせない(・・・・・・・・・)ためのものだ。

 極論強くなるというのは敵を圧倒するためであって、当然上はこの戦力ならばまず負けないだろうという戦場を見繕って部隊を投入する。逆に言えば、そういったお膳立てこそが上に立つものの務めである。

 故に戦場において互角の好敵手(・・・)、そんな存在に巡り会えるというのは非常に稀だと言っていいだろう。だからこそ生粋の戦争狂達は奮い立つ、なんとも得難き素晴らしい敵(・・・・・・・)だと。

 まるで年来の親友、あるいは恋人に対するかのような心境で持ってその戦意()を思う存分にぶつけていた。

 

 そしてリィン・オズボーンもまた……

 

「アハハハ、良いよお兄さん!腑抜けちゃったランディ兄なんかよりも遥かに良い!こんなに楽しめる相手は久し振りだよ!!」

 

 ご満悦と言わんばかりに暴れる赤髪の少女。“血染め”の異名を持って知られる赤い星座の部隊長の一人たる《シャーリィ・オルランド》と交戦していた。

 ライフルにチェーンソーのようなものをつけた身の丈ほどもある愛用の武器《テスタロッサ》をいともたやすく振るいながらシャーリィは目前の敵手を見据える。

 年の頃はおそらく自分よりも少し上と言ったところだろうか、腕の方も自分には及ばないもののそれでも十分過ぎるほどの技量を有しているし、何よりもこちらを見据えるその瞳がたまらなくそそる(・・・)

 自分が少女だからと侮る色も、生かして捕らえるだとかといった生ぬるい(・・・・)考えなど一切ない。あるのは純然たる鋼の如き戦意と殺意。

 そうだ、戦いとはこうでなくてはならない(・・・・・・・・・・)。生きるか死ぬか、殺すか殺されるか、互いの意志と生涯を本気でぶつけ合うコレこそが戦場の醍醐味なのだから。

 

(90点……ってところかなぁ♥)

 

 シャーリィは目前の敵手をそう採点する。

 恐らくは“達人”の粋に最近至ったばかりなのだろう、どうやら目の前の剣士は些か未だ実戦経験が足りていないようだ。

 研鑽を重ねてきた事はわかる、決して怠けていたわけではないのだろうし、才能もあるのだろう。

 されど実際に命のやり取りの行われる戦場、共に戦っていた戦友が次の瞬間には死んでいるような鉄火場をくぐり抜けた経験値、それがどうやらこの相手にはまだ不足しているようだとリィンよりも年少の(・・・)少女が採点する。

 もう後少し、経験を積めばそれこそ自分にとっては初めて(・・・)の百点満点の相手にもなり得るかもしれない、そんな将来性を感じさせる。

 

 ーーー最も、次があれば(・・・・・)の話だが。更に成長しそうだからあえて取り逃がす、そんな気持ちはシャーリィには毛頭ない。

 あるいは、これがまだ未熟な雛鳥だというのならばその可能性もあったかもしれないが、此処まで自分とやりあえる得難き相手をみすみす逃すなどそんな勿体無いこと(・・・・・・)を出来るはずがないのだ。

 何せこれ程の相手に巡り会える機会などそうそうないのだから。後日更に成長する事を期待して逃したは良いが、他の者に奪われる等となったら目も当てられない。

 元よりそう気が長いわけでもない以上、この極上の獲物をなんとしても喰らわんと人食い虎は猛っていた。

 

(それに比べて……ランディ兄の方は随分とダサくなっちゃったなぁ)

 

 そうため息交じりにお仲間(・・・)と一緒に自分の部下達とやり合っている己が従兄をシャーリィは評す。

 従兄である《ランドルフ・オルランド》はシャーリィにとってかつては身近な目標であり、憧れであった。

 本来であれば、自分の部下たち程度に手間取るはずがないのだ。彼がかつてのように本気を出していれば、それこそ戦況はもっと敵にとって有利に傾いていただろう。

 それにも関わらずシャーリィの尊敬していた(・・・・)従兄は、仲間に合わせて(・・・・)なんともつまらない擬態(・・・・・・・)を行ってしまっている。

 自分はこいつら(特務支援課)の一員であり、あいつら(赤い星座)とは違うんだと、そんな風に必死に自分に言い聞かせている(・・・・・・・・)

 自分の中に流れる《闘神》の血を抑え込んで、仲間と歩調を合わせてしまっている(・・・・・・・・・・)のだ。

 そんな従兄のなんとも無様な(・・・)姿がシャーリィには悲しくてしょうがなかった。自分がかつて憧れたあの輝く生粋の戦士たる姿は一体どこへ行ってしまったのかと……

 

「何を余所見をしている!!」

 

 そんな風に何時になくセンチな様子になっていたシャーリィへと、裂帛の殺意と共にリィンは己が双剣を叩き込む。

 

 しかし

 

「アハハ、ごめんごめん。そうだよね、余所見をするだなんてお兄さんに失礼だったよね」

 

 喜色に満ちた笑みを浮かべる少女によってその攻撃はいともたやすく弾かれる。

 そして、叩きつけられるその殺意にシャーリィは笑みを深める。

 ああ、そうだせっかくそうそう巡り会えない極上の獲物に出会えたというのだからそっちを楽しむ方がはるかに大事だろう。

 腑抜けてしまった従兄の再教育は後日父のすることであり、自分が気にするべき事ではないと気を取り直す。

 

「それじゃあ、此処からはもっとギアを上げていくから!シャーリィの本気に、ちゃんとついてきてよねぇ!!」

 

 その言葉と共に放たれる裂帛の気合、《ウォークライ》と呼ばれる選りすぐりの猟兵が使う闘気を練り上げ高める技をシャーリィは使ったのだ。

 宣言通りに一段階上がっていく敵の猛攻を前に徐々にリィンは押されていく。

 単純な近接戦闘であればリィンとてそうそう引けを取らない。だがこの敵は巧い(・・)のだ。

 遠近両方に対応出来る武装、それを十全に使いこなし、武装を巧みに切り替え、リィンの間合いで戦わせない。

 戦闘スタイルと実力で言えばこれまでリィンが巡り合ってきた存在の中ではサラ・バレスタインこそが最も近しいだろう。 

 目前の少女は紛れもない強敵であった。

 

 リィン・オズボーンは憤っていた。自分よりも年少の少女を相手に押されてしまっている(・・・・・・・・・・)自分自身に。

 世界は広い、上には上が居ること、そんな事はリィンとてわかっていた。だがそれでもリィンは今まで自分よりも年少でかつ自分の上を行く実力者に出会ったことがなかった。

 いつの間にか、知らず自分が学生最強等と褒められて調子に乗っていたことをリィンは歯噛みしながら思い知っていた。

 

 もちろん、戦闘に限らない各種分野への造詣等と行った総合力で競えばリィンはシャーリィに完勝するだろう。

 名門トールズ士官学院の首席で既に本職の文官顔負けの論文を書き上げ、その気になればそれこそ軍人以外にも行政官僚となることとて十分に可能なリィンとどうにか文字の読み書きと四則演算は出来る程度といった有様のシャーリィとではそれこそ勝負にさえならない。

 しかし、こと戦いという分野に関して言えばシャーリィ・オルランドは現状リィン・オズボーンの上を行っていた。

 それは才能でも積み重ねた修練の差でもない、くぐり抜けてきた修羅場の差だ。

 如何にリィン・オズボーンが優れた師の下でその才能を磨き抜いたとは言え、それでも彼は未だ死線と呼ばれるものを超えた経験が乏しいのだ。いくら実戦形式の修練を行ってきたとは言え、それはあくまで実戦ではない。

 一方のシャーリィ・オルランドは11歳の時に初陣を飾って以来、この年で数十以上もの死線をくぐり抜けてきた。

 その差が、シャーリィの優位を生み出していた。

 

 それでも、リィン・オズボーンは劣勢ながらも渡り合えていた。

 大陸最強の猟兵団赤い星座の部隊長“血染め”のシャーリィを相手に。

 それは、彼もまた紛れもない達人の域に達している事を示していただろう。

 

 戦況は均衡状態にあった。この場において最上位の実力者たる《シグムント・オルランド》と《アリオス・マクレイン》の戦いは五分。

 赤い星座の各部隊長と各国の護衛隊長もまた個々の戦いにはそれぞれ優位なところもあれば劣勢なところもあるが、リィンとシャーリィの戦いも含めた5人全員の戦況を総合的に見れば五分と言っていい。

 

「……わかっているのか、このまま行けば、我々だけではない。そちらも吹き飛ぶ事になるのだぞ」

 

 よもや死を賭してなどということはないだろう。目前の敵手は死を恐れたりはしないだろうが、それでもそこまでする義理や義務はないはずだろうと告げるアリオスの言葉にシグムントは

 

「ククク、ああ、奴らが乗ってきた軍用艇に仕掛けられた導力爆弾の事か。その件は心配要らん。

 その程度、鉄血や共和国の狸めが読めていないはずもない。まず間違いなく側近の誰かを解除に向かわせているだろうさ」

 

 自分はそちらのことを信じている(・・・・・)と告げる。

 あの狡猾で周到なる二人がこの場にいる武官達しか手札が存在しないなどということがあるはずがないと。

 必ずや(・・・)隠している何らかの札で対処しているはずだと。

 そして彼のこの読みは正しかった。

 大統領補佐官を務めるキリカ・ロウランと鉄血の子どもの一人たるレクター・アランドールは今、まさしくシグムントの期待通りに結社より借り受けた屋上の人形兵器を相手取りながら、仕掛けられた導力爆弾の解除へとその手を割かれているのだから。

 

「なるほど、端からそちらはこちらの戦力を割かせるための陽動という事か」

 

「ふふ、そういう事だ、《風の剣聖》よ。故に、余計な心配などせずに存分にこの死闘を楽しむとしようではないか!!」

 

 得難き好敵手を相手に高揚しているのはシグムントもまた同じ。

 彼ほどの領域にまで至ってしまうと、もはや自分と五分にやりあえる敵手等大陸でも数える位しかいない以上尚更である。

 そんな目の前の戦鬼の様子に嘆息しながらも、アリオス・マクレインもまた八葉の剣を以て応じるのであった。

 

 そして、そんな膠着状態に陥った戦況においてついに犠牲者(・・・)が出る。

 

「ガハッ………」

 

 断末魔と共に消えていく命の灯火。

 それはリィンも幾度か言葉を交わした帝国軍の士官だった。

 自分もトールズ出身なのだと、そう鉄血宰相の息子である自分にも特に壁を作らずに話しかけてくれた気さくな人だった。

 

 当然覚悟していたはずだ、軍人とはこういう仕事なのだと。

 戦友を失うこと、それは決して珍しいことではないと。

 されど、それでもリィンにとってそれは初めて(・・・)経験する戦友の死だった。

 ほんの一瞬、時間にすれば数秒にも満たない鋼の戦意に空白の時間が生じる。

 死んだ戦友を悼む気持ち、そんな人間らしい当然の気持ちが致命的な隙(・・・・・)を生んだ。

 

「駄目だよ、お兄さん。余所見なんか(・・・・・・)してちゃ」

 

「!?しまっ」

 

 そこいらの敵であればなんら問題のなかった隙とすら本来呼べないようなほんの僅かな空隙、それをシャーリィ・オルランドは見逃さなかった。

 潜ってきた修羅場の差、戦友の死(・・・・)という戦場をくぐり抜ければ必然経験する事になるそれをこれまで経験して居なかったこと、仲間の死を悼むという当たり前の心、それがここに来て決定的な差を生んでしまった。

 

「バイバイ、お兄さん。本当に本っ当に楽しかったよ。シャーリィも多分いずれそっちに逝くと思うから、その時はまた相手してね♪」

 

 そんな楽しかった時間が終わってしまうこと、得難き遊び相手(・・・・)と別れる事を惜しむ気持ちを滲ませながらシャーリィ・オルランドはその勝敗を決定づける一撃をリィンへと振り下ろしたーーー




やめて!テスタロッサの一撃を無防備なところに叩き込まれたら
一応まだ人類のリィンの命が燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでリィン!
あんたが今ここで倒れたら、トワ会長との約束はどうなっちゃうの?
鬼の力はまだ残ってる! ここを耐えれば、シャーリィに勝てるんだから!
次回「リィン 死す」
デュエルスタンバイ!
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