Ange Vierge~The Wings Tail~ 作:のわわーる
何とかここまで漕ぎ着けたって感じです、やっと書きたかった展開まで進めることができました。
今回は少し長めになってしまうと思います。
ここから本編。
鳴り響く剣戟の音。湧き上がる歓声。今、青蘭学園は高等部一学年によるブルーミングバトルクラス対抗戦の只中にある。対抗戦の時期になると、毎年各学年の生徒たちがその戦いを見物に来、学園側が図らずもある種の見せ物の様になってしまっている。学園側もそれを良しとしているようで、生徒の見物を黙認している。そんな習慣もあり、今年の対抗戦も多くの生徒の熱気に包まれていた。
そんな中、プログレスの戦闘方の研究も兼ねて戦いを見物していた節成とレミエルの元に先ほど試合を終えた宗悟が詰め寄ってきた。
「よぉ節成!お勉強かい?」
「宗悟か、まあそんなところ。お前こそ試合お疲れさん、なかなか良かったじゃん。」
「お褒めにあずかり光栄です。……なんてな、ははは!」
陽気に会話を交わす二人。つい先ほどまで宗悟とそのパートナーであるはねるの試合が行われていた。相手は模擬戦での相手にもなったユリヤ。模擬戦では半ば自滅の様な結果に終わってしまっただけあり、今回は見るからに堅実な戦いをしていた。ユリヤの生み出す氷塊を上手く避け、時には正面から破壊してユリヤに突貫していったのだ。勿論無傷と言う訳にはいかなかったようで、宗悟がダメージを肩代わりする場面もあった。しかしそのダメージにもよく耐え、リベンジマッチを制する結果となった。
「レミエルちゃんも熱心にお勉強してるねぇ。具合はどうよ?」
宗悟が陽気な調子のままレミエルに話しかける。しかしレミエルの目は繰り広げられる剣戟に取られているようで、宗悟の言葉は耳に入っていない様だった。現在彼女らの目の前では日向美海と御影葵による試合が行われている。お互いに剣をエクシードで生み出し、一進一退の攻防が繰り広げられている。
「止めておきなさい、今レミエルを刺激するのは無粋ってものよ。」
そんな言葉と共にソフィーナが宗悟を制する。いつの間にか節成らの見学ポジションに来ていたようで、二の腕辺りをつねり上げ宗悟の言葉の先を物理的に遮ぎった。
「いでででで!わかったから勘弁してくれ!」
「わかったなら良し。」
ソフィーナのつねり上げから解放される宗悟。そんなやり取りも気に留めず、レミエルはただ目の前を見つめている。まるでそんな些末な事に付き合ってはいられないと言っているようだった。
「レミエル……。」
節成はそんなレミエルの様子を、ただ見守っていた。
―――
対抗戦は佳境を迎えていた。試合のほとんどが終了し、残すはあと二試合。節成とレミエルは試合に備え、特設の控え室で準備をしていた。控え室といっても簡素なもので、グラウンド近くの教室をそのまま流用したものである。
「緊張してるのか……って聞くまでもないか、当たり前だよな。」
「――はい。」
節成らはこのひと月、特訓を欠かさず行ってきた。ソフィーナの協力もあり、一通りの攻撃への対処はある程度こなせるまでに成長していた。しかし、一番の問題であるリンクに関しては未だに解決に至っていなかった。レミエルは恐らくその部分を不安に思っているのだろう。
「大丈夫だって。リンクができなくてもαフィールド下なら直接のダメージは無いんだ、思いっきりやれるだろ?」
「でもそれじゃあ節成さんの負担が……。」
レミエルはこの状況でも自分を心配してくれている。しかしその気遣いは戦闘において隙を生み出すものだと、ソフィーナから学んだ。パートナーを心から信頼し、全てを預ける事ができれば自ずと全力は出せるものだ、とソフィーナは語っていた。
「……いいか、レミエル。俺は何があってもレミエルの事を信じてる。だからレミエル、お前も俺の事を信じていてくれ。」
「節成さん……。」
ふっと、レミエルの表情から不安が和らいだ様な気がした。少し経ち、レミエルが思い出したかのようにいつも持ち歩いている小物入れからある物を取り出した。花が添えられた、白いヘアピン。以前節成がレミエルに贈ったものだ。
「前にプレゼントしたヘアピン、持ってきてたんだな。」
「はい。実はなんだか身に着けるのがもったいなくて、今まで大切にしまってたんです。でも、今は少しでも――」
レミエルからその先の言葉が発せられることは無かった。直前になって思いとどまったのか、口をつぐんでしまった。
「……レミエル?」
「えっと、青の世界ではこういう事を"ゲンカツギ"って言うんですよね、そういう物に頼るのもいいかなって思ったんです。」
どこかはぐらかされた様な気がしたが、深く考えずに節成は頷き返す。レミエルが白いヘアピンを前髪に留めた丁度その時、試合開始予告のアナウンスが鳴り響いた。その場の空気が一気に引き締まるのを節成は感じた。二人は覚悟を決めた表情で向かい合い、戦いの場へと身を投じていった。
―――
遂に迎えた対抗戦最終試合、生徒の数もまばらになってきている。しかし、試合開始前の会場は少しどよめいていた。定石どおりにαドライバーとプログレスのコンビで参加している節成らの前には、対戦相手のチェルノがαドライバーを連れずに一人で立っていたのだ。αドライバーがいないという事は、リンクもαフィールドも無い状況下で戦う事を意味しており、非常に不利であると言える。ルール上必ずしもαドライバーが必要と定められている訳ではないが、基本的に二人一組でのエントリーで対抗戦が進行していた事もあり、最後の最後で特異な光景が広がる事となった。
「チェルノさん、どうして……。」
「わからない?あんたなんて、アルドラがいなくても取るに足らない相手だってことよ。」
挑発されている、と感じた節成はレミエルに声をかける。
「気にするな、それだけ有利な状況で戦えるとも取れる。落ち着いて行くんだ。」
「……わかってます。」
そんなやり取りをしている二人と一人の間に、神通冬木が割って入ってくる。試合開始直前となり、節成はαドライバーが立つスペースへと下がる。レミエルは足元に置いてあった杖を手に取り、感触を確かめる。レミエルが赤の世界からこちらに来たときに持ち込んだ杖らしく、先端に金色の装飾が施されており、その様子はどこか地球のファンタジー小説に登場するような物に思えた。
「二組とも揃ったな。片方は一人だが、まあいい。審判は私が勤めることになった、お互いに全力を出して戦えよ。」
いつもと変わらぬその口調が、この瞬間においては酷く緊張を誘うものに聞こえる。それはレミエルにとっても同じようで、背中越しでも緊張している事がわかる。チェルノと対峙するレミエル。その瞬間は、冬木の凛とした声で迎えられた。
「試合開始!」
戦端が開かれると共に、節成はαフィールドを展開、レミエルとのリンクを試みる。今まで失敗続きではあるが、本番で成功する可能性は捨てきれなかった。レミエルも思っていることは同じ様で、リンクを試みる用意は出来ているように見えた。
「エクシード・リンク!」
レミエルと精神を同調させる。暗闇の中を自分の意識だけが光り輝くレミエルのそれに向かって進んでいく感覚。しかし節成の意識が光に触れた途端に、以前と同じ眩暈に襲われる。それを感じ取った節成は慌ててリンクを切断するしかなかった。辛うじて模擬戦の様に意識を失う事態を免れたが、リンクを直前になって切断した事でレミエルにも少々の負担があったようだ。頭に手を添え、痛みに耐えているように見える。
「――茶番は終わった?」
「うっ……!」
結果がわかり切っていた様なチェルノの言葉にレミエルが怯む。リンクの失敗。これによりチェルノに対するアドバンテージが半減したといっても過言ではなかった。
「それじゃあ――っ!」
「――っ、レミエル!」
チェルノの鎌が下から切り上げる形でレミエルを襲う。節成の声で我を思い出し、咄嗟に杖で防御の姿勢を取ろうとしたレミエルだったが、寸での所で間に合わず、直撃する。αフィールドに鎌が干渉し、激しい衝撃をレミエルに与えると同時に節成の体に鈍い痛みを走らせる。
「きゃぁ!?」
「グッ――!?」
衝撃によりレミエルは後ろに大きく弾き飛び、地面に叩き付けられた。節成を二度目の痛みが襲う。αフィールドに守られた為ダメージ自体は無いものの、衝撃で苦しむレミエル。よろめきながら立ち上がるレミエルにチェルノは追撃をかける。
「休んでいる暇なんてないわよ!」
「くっ!」
縦に横に、鎌を振りレミエルを追い詰めるチェルノ。対するレミエルは寸での所でそれらを回避する。何とか距離を取り体制を立て直そうとするレミエルだが、チェルノの連撃がそれを許さない。
「まずいわね。ああも攻撃を続けられたら、いずれ……。」
試合を眺めていたソフィーナが呟く。このひと月あまりの特訓で、ソフィーナはレミエルに相手の攻撃の避け方を可能な限り教えてきた。しかし今レミエルが受けている攻撃の速度、回数は特訓のそれを大きく上回っている。現状レミエルは対応出来てはいるが、いずれチェルノの攻撃についていけなくなるだろう。
「あぁ。それにあんなに動かされたら、体力もやばいんじゃないか?レミエル、俺みたいにスタミナあるほうじゃないし……。」
「そうね、このままじゃ危ないわ。」
宗悟の言葉に目線を動かさず頷くソフィーナ。客観的に見てもレミエルの劣勢は明らかなものとなっていた。
暫くチェルノの猛攻は続き、レミエルにも小さな被弾が目立つようになっていった。そんなレミエルの脳裏に"節成の死"という単語がフラッシュバックする。この試合に負けたら節成を、大切な人を失ってしまう。そんなレミエルの焦りを見抜いたのか、チェルノが大振りの攻撃を仕掛ける。レミエルは反射的に杖で防ごうとするが、それは悪手であった。
「待てレミエル!それは――!」
節成の叫びも虚しく、チェルノの大振りの攻撃をレミエルは杖で防ぐ。しかし体力が残り少ないレミエルにとってその重みは決して耐えられるものではなく、小さな悲鳴と共に体制を崩してしまう。結果急所がガラ空きになる形となり、チェルノに手痛い攻撃を許す事となった。
「がッ――」
チェルノの鋭い蹴りがレミエルに突き刺さる。レミエルの口から無理やり空気が吐き出される音が漏れる。αフィールドによる衝撃がレミエルの腹部を襲ったのだ。節成へのダメージもその例外ではなく、腹部を直接鈍器で殴りつけられた様な痛みが襲い掛かる。今までのダメージが蓄積していた節成を襲ったその痛みは、彼の意識を奪うに値するものであった。
「ッ――」
節成の意識が闇に沈もうとする。眼前には、衝撃に耐えかねその場にうずくまるレミエルの姿があった。
目に涙を蓄え、衝撃を受けた腹部を抱えるレミエル。節成の意識は既に風前の灯ともいえ、レミエルは体勢的にチェルノから見下される形になり、傍から見れば決着といってもおかしくはない状況だ。観戦していた生徒たちの中にも、決着と判断し帰路に付くものも現れ出した。宗悟とソフィーナが今にも駆け寄りそうな様子でこちらを見ている。薄れゆく意識の中、レミエルはチェルノの声を聞いた。
「そんなものなの、あんたの力は。正直拍子抜けだわ。」
拍子抜け。元々、力を期待される方が間違いではないか。ふと、目の前に白いヘアピンが落ちていることに気付く。ゲンカツギも意味が無かったなあ、と言葉を浮かべ、レミエルは闇の中にその意識を沈めていった。
―――
暗い。どこだろう。
何処とも知れない道をただひたすらに歩く。寒く、体が冷たい。この道に終わりはあるのか、そもそもどうして歩いているのか、そんな事を考えても意味は無く、ただ闇に呑まれそうなその道を歩くしかなかった。
何処からか声が聞こえる。その声には聞き覚えがあった。昔の事だ、よくこんな言葉を浴びせられていた。
――何でお前なんかがここにいるの!
――穢れた天使め!
そうだ、穢れている。所詮"片翼"の自分には天使を名乗る資格は無い。終わりのない暗闇の中、レミエルは力尽きその場に倒れ込む。昔から思っていた、自分の様な穢れた天使は、いっそ――
――俺がレミエルの"翼"になる。いつか空を飛べるように、俺が片方の翼になる。
声が響く。どこか聞き慣れた、温かみのある声。
――もう悲しい思いはさせない。……だから!
倒れ伏した先に、光輝くものがあることに気付く。暗闇をかき消す程のまばゆい光に目を細める。
――これ、プレゼントなんだ。さっき見つけたやつなんだが。
花が添えられた白いヘアピン。そういえばさっき落としてしまったな。――拾わなくちゃ。
まばゆい光に手を差し伸べると、さっきまで凍えたように冷たかった体がほんのりと温かくなってくるのを感じた。
――何があっても、俺はレミエルを信じてる。
信じる。そう言えば、最後に他人を信じたのはいつの事だっただろう、思い出せない。
……あぁ、そうか。
酷い話だ。信じると誓いを立てられた相手を、自分自身が信じられていなかった。心のどこかで、きっとまた裏切られると思っていた。
涙が零れる。あの時のちょこれいと、美味しかったなぁ。でぇとに誘ってくれて、嬉しかったなぁ。こんな私を、信じてくれて――
――だからレミエル、お前も俺の事を――
信じたい。そう思った。こんな自分を信じれくてた人。何も無かった私に、勇気をくれた人。私も――
「私も信じたい。あの人を――節成さんを信じたい!」
ずっと出なかった声が吐き出され、目の前で光り輝くヘアピンを掴み取る。その瞬間、凍え切った体を上塗りするほどの温かさと安心感に自身が包まれていくのを知覚した。
―――
闇に呑まれそうな意識を何とか引き止め、目の前でうずくまるレミエルを見つめる節成。これ以上戦っても勝算は薄い。レミエルを苦しませるだけだ。それならばいっそのこと――
「……ここまでか。」
そう呟いた瞬間、節成は自分の意識が何かと繋がったような感覚を覚えた。体に温かさが流れ込んでくる。ハッと目を見開き顔を上げと、そこには驚いた様な表情を浮かべ後ずさるチェルノの姿があった。
力を入れ、少しづつ立ち上がるレミエル。うっすらと開けた左目には、金色の十字架が宿っていた。
Act.11 対峙
ただ疲れました、のわわーるです。
一番書きたかったシーンを書けて満足しています。まあ、当たり前の事ですがまだお話は続きます。
次回辺りで一区切りつけたいなと思ってはいますが、どうなるかはまだ正直分からないです……。
ではこのあたりで。
ありがとうございました!