Ange Vierge~The Wings Tail~   作:のわわーる

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 続きました。

 前回から少し書き方を見直したつもりですが、読みやすくなっていれば幸いです。(こっそり再編集してたり)

 今回は割と大事な用語解説あるので小難しいかも。


 ここから本編


天使の涙

「ぁ……なた……は?」

 

 目の前で体育座りの様な姿勢でたたずんでいる片翼の天使がその瞳をこちらに向ける。雨の降る薄暗い路地で、節成はただ戸惑う事しかしかできなかった。誰かがすすり泣く声が聞こえたからと足を運んだ結果がこれである。いつもなら困っている人から理由を聞き、それを手助けするのが節成の無意識の常である。しかしあまりにも非日常的なこの場面に、節成は対応できないでいた。

 

「ぇと……君は?」

 

 とにかく会話を作ろうと口から出たその言葉はあまりにも不適切なものだった。質問に質問を返す形になってしまい、結果的に自分も目の前の天使も困惑するのみだ。

 

「あぁ、そうじゃなくて。俺は日向節成だ。青蘭学園の一年」

 

 節成は即座に自分の発言を訂正し、今度は正確に自分の事を伝えた。敵意はない。怯えている様に見える目の前の天使がそう理解できるように、可能な限り穏やかな口調で。

 

「誰かが泣く声が聞こえたんだけど、君がそうなのか?」

 

 とりあえず現状の確認にと率直な質問を投げかけてみたものの、天使は俯くばかりで口を開こうとはしない。ただ怯えているというよりは、心を閉ざしているかのように節成は感じた。相手の言葉が耳に届く前に全て遮るような、失意に満ちた心。この様な相手と関わるのが初めてである節成は決め手を欠いていた。

 

「な、何で泣いているんだ?」

 

 相手の気持ちが分からないのでは話にならない。とにかく質問を投げかける節成であったが、天使の反応は変わらず、口を閉ざしたままである。

 

「えっと、その片方しかない翼が何か関係してたり――」

 

 今得られている情報から率直な推察を述べた節成の言葉を遮る形で不意に天使が口を開き、先に耳にした物とは違う、小さくて喧騒にかき消されそうな失望に満ちた声を節成に向けた。

 

 

「私に……構わないでください」

 

 

―――

 

 何もできなかった。結果としてほんの少しの施しを半ば無理やり押し付ける形で、逃げ帰ると形容しても良いような足取りで寮の部屋に戻った節成は、酷く疲れていた。他人からも「お人よし」と言われ、数多くの人助けを経験した節成にとって先ほどの出来事はあまりにもイレギュラーだった。ただ力になれなかったからではない。外界の全てを拒絶するかのような失意に満ちた眼差しを目の前にして、何もできなかった自分が悔しい。何が彼女をそのようにしてしまったのか。どうすればあの場で彼女に手を差し伸べてやれたのか。そんな疑問とも反省とも言えないような感情が頭の中で泡沫のように浮かんでは消えていく。

 日課となっていた自炊の為の調理もする気になれず、節成はベッドに横たわったまま意識を睡魔に委ねた。それはいつもの物とは違い、酷く不快なものとなっていた。

 

―――

 

 降りしきる雨が冷たい。さっき目の前で必死に自分に語り掛けていた男が去ってから少し経ち、片翼の天使――レミエルはその場から動けずにいた。何故泣いているのかと聞かれたが、自分でも分からない。ただ心の中で黒い感情が渦を巻くような、そんな感覚がとても不快な物だという事だけは分かる。只それに抗えないでいた。

 自分の翼について聞かれた瞬間、この人も自分の事をそうやって虐げるのか、と瞬間的に思い、つい遠ざけてしまった。片翼の翼――天使にとっての象徴であり、誇りでもある翼が片方欠けている、それだけの理由で酷い扱いを受けてきた。迫害、嘲り、罵声――あらゆる事で虐げられた。自分を認めてくれるのは、以前仕えていた大天使様だけ。他に自分を見てくれる人なんていない、そう思い込んでいた。

 そういえばあの人、何か置いていったんだっけ。と先ほどの男が押し付けるような形で置いていったものを思い出す。目の前の足元にはタオルの様なものが綺麗にたたまれて置かれていた。これで体を拭けという事なんだろうか、そんな事を考えながらタオルに手を伸ばし、それを持ち上げる。するとその中から四角く平べったい物が落ちてきた。何かと思い、それを拾い上げる。どうやら包み紙の様なもので覆われているらしい。包み紙の様なものを剥し中の物を露わにすると、ほのかに甘い香りが漂ってきた。食べ物だ、と理解し、レミエルはその怪しい食べ物を恐る恐る口に運ぶ。そしてそれを口にした瞬間、驚くほど甘くて魅力的な香りが口の中に広がり、レミエルの鼻腔をくすぐった。こんな食べ物を食べるのは初めてだ。そのあまりの美味しさにレミエルは両手で持ったそれを一気にかみ砕き、頬張った。口の中が甘い味で満たされる。今まで感じたことのない幸せな気持ちがレミエルの心に宿り始めていた。

 レミエルが初めて好感的な態度を取る人から受け取った物。それのあまりの素晴らしさ。彼女が流す涙は、失意の物から救済の喜びといった感情の物にいつの間にか変わっていた。

 

―――

 

 夢を見た。顔も知らない誰かが助けを求めている。手を伸ばそうにもその手が動かないし、酷く眩暈がする。振り向くとそこにはかの日の天使がいる。そして最後には決まってこう言うのだ。

 

「私に……構わないでください」

 

 

 

 飛び上がるように目を覚ますと、目の前には物珍しそうにこちらを見ている友人、宗悟の姿があった。どうやら朝のホームルーム前に机でひと眠りしてしまったらしい。

 

「随分珍しいじゃないの、節成さんよ。居眠りなんて」

「……そうだな、自分でもそう思う」

 

 あの出来事から五日が経っていた。あれ以来、寝るときには決まってあの天使が出てくる夢を見るようになった。忘れようと自分に言い聞かせているものの、まるで心がそれを許さないように。

 

「ほんと、自分でもどうかしてると思う」

「何の話だ?」

 

 何の遠慮もなく首を突っ込んでくる、ある意味無作法なこの友人にだけはここ最近の自分の事を打ち明けようかと心に思ったタイミングで、教室にドアが開く音が響いた。それに続いてカツカツとけたたましい靴の音が聞こえてくる。

 

「朝のホームルームを始めるぞ。全員いるな?」

 

 いつもの決まった第一声を放ちながら、教室を狐の様な目で見渡す教師の名は"神通冬木"。クラスの連中の一部からは、陰から「雪女」などと恐怖されてはいるがやはり教師なのだろう、生徒の面倒見は良い。

 

「よろしい。今日は皆に紹介する人がいる。隠さず言うが、新入生だ」

 

 「新入生」という言葉に教室がざわつく。青蘭学園は異能を宿した人物を時期に関係なく随時受け入れている都合上、時期外れの転校生や新入生などという話も珍しくはない。しかしそれに関係なく、クラスに新しい仲間が増えるともあり教室中の生徒からは期待の声が次々と上がっている。

 

「静かにしろ!煩いままだと新入生が入ってこれないだろうが!」

 

 冬木の一喝で教室が一瞬にして凍ったかのように静まり返る。これが冬木が「雪女」と呼ばれる所以だ。その鋭い眼差しと棘のある言葉を前にすれば、熊でさえ凍りつく――らしい。

 

「まあいい、入れ」

 

 冬木の言葉に続いて教室のドアが開く。そこから小柄な少女が金色がかった長い髪を揺らしながら入ってくる。クラスの生徒たちからは先ほどとは異なる、驚嘆が混じったどよめきが上がった。その少女の背には、翼があった。――片方だけの翼が。それを目にした節成は言葉を失う。かの日の天使が、再び目の前に姿を現したのだ。冬木に自己紹介を促され、金色の髪の天使が口を開く。そこから、弱弱しくはあるが五日前とは違い、澄んだ声が放たれた。

 

「れ、レミエルと申します。赤の世界"テラ・ルビリ・アウロラ"から来ました。ょ……よろしくお願いします」

 

 ぺこりと頭を下げる"レミエル"と名乗る天使を歓迎するかのように教室中から拍手が巻き起こる。それに驚いたのか、下げた頭をまるでスローで逆再生するかのように上げたレミエルの目尻には、何故か涙が浮かんでいた。

 

「よし、レミエルはとりあえず空いている席に座れ」

 

 冬木に促され、レミエルはひと月前から空席だった席へと向かう。それはあろうことか、節成の隣の席だった。こちらに向かってくるレミエル。節成は激しい動機に駆られていた。あの日、ろくに手を差し伸べられなかった相手にどんな顔をして接すればいいのか、頭が混乱する。隣の席にレミエルが座る。心臓の鼓動がより激しくなっていよいよ堪えるのも限界かと思われたその時、不意にレミエルが節成に向けて言葉を放った。

 

「その……あの時はごめんなさい」

 

 思いがけないその言葉に、節成の心は大きく揺れ動いた。

 

―――

 

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。午前最後の授業を終え多くの生徒たちが食堂へと向かう昼休み、節成と宗悟は机を囲み自前の弁当を開いていた。

 

「節成お前、アレはどういうことだよ」

 

 唐突に宗悟が口を開く。何のことか一瞬分からなかったが、恐らく朝の出来事の件だろう。レミエルがこっそり告げた節成への言葉を、節成の後ろの席に座っていた宗悟が聞き逃す道理はなかった。

 

「えっと、その、話すと長くなるんだが――」

 

 観念して五日前の出来事を宗悟に打ち明ける。レミエルと出会っていたこと、その時に手を差し伸べてやれなかったこと、それを酷く後悔していたこと。その話を聞いた宗悟は、合点がいったというような表情を浮かべた。

 

「なぁるほどね、それで今朝あんな顔してたわけだ」

 

 なるべく学園内では表に出さないよう心がけてはいたものの、うっかり出てしまった今朝の節成のやるせない表情を理解した宗悟は、スッキリしたような表情で節成の肩をたたく。

 

「そんなに悩んでたんなら、相談してくれりゃよかったのによ。俺はお前の友達なんだぜ?」

 

 宗悟の優しい言葉に、節成は自分を酷く恥じた。自分にはこんなにも頼れる友がいたのではないか、と改めて実感した。

 

「そうだな、悪かったよ」

「そういう時はありがとう、だろ?」

 

 確かにその通りだ。励ましに対して謝罪をしてはどうしようもない。節成はこの頼れる友人に対して、これまで以上に深い友情を感じていた。その時不意に後ろから、今朝も聞いた澄んだ声が聞こえてきた。

 

「あ、あのぅ」

 

 振り返ると、そこには申し訳なさそうな表情をしたレミエルが立っていた。その手には学園の近くにあるコンビニのレジ袋が下げられている。

 

「その……お昼ご飯、一緒に頂いてもいいでしょうか」

 

 恐る恐るといった感じで放たれたレミエルのその言葉に、顔を見合わせた節成と宗悟。それに対する返答は、彼らにとって考えるまでもない事であった。

 

―――

 

「じゃあレミエルちゃんは本当に赤の世界の天使なんだ」

 

 宗悟が感嘆の声を上げる。レミエルの自己紹介を改めて聞いた節成と宗悟であったが、宗悟は自分たちの住む世界とは別の世界の住人を目の当たりにして驚きを隠せないでいた。

 赤の世界"テラ・ルビリ・アウロラ"。橙色の空と金色の海が大地を覆う世界。そこには普通の人間と共に、女神やそれに使える天使、妖精といったものがごく当たり前のように存在している。女神達は人々の信仰を力に変え、奇跡とも呼べる力を以て世界を統治していた。

 レミエルが口にする、青の世界"地球"とは全く異なる世界の構造に、節成も改めて感嘆の声を漏らした。

 

「他にも黒の世界と白の世界っていうのがあるんだよな?」

「お前、本当に青蘭学園の生徒か?」

 

 宗悟の初歩的な質問に節成は呆れたような顔をする。

 黒の世界"ダークネス・エンブレイズ"。常闇が支配するその世界には常に赤い月が浮かび、決して日が昇ることはないのだという。世界は魔女王によって支配されており、悪魔、吸血鬼などといったホラー映画の登場人物の様な存在が跋扈しているらしい。

 白の世界"S=W=E"。読みは"システム・ホワイト・エグマ"というらしく、世界の全てが機械の人工知能によって管理されている。その科学力は青の世界を遥かに凌駕し、人間と比較しても全く遜色のないアンドロイド達が日常生活に浸透しているといった、驚くべき世界だ。

 そんな世界が"ハイロゥ"で青の世界――正確には青蘭島上空と繋がっていて、それぞれの世界の住人が日常的に出入りしている。それがこの青蘭学園の常識であった。そんな世界の構図もあり、青蘭学園には各世界のさまざまな外見をもった生徒が入り混じっている。生徒のクラス分配も各世界の交流を名目に、偏ったものはなるべく避けているらしい。しかし、なぜか節成たちのクラスは青の世界の生徒が大半を占めており、必ずしもその限りではないことをうかがわせる。そんな初歩的な知識を宗悟に叩き込んでいたところ、彼はそれに嫌気がさしたのか急に話を遮り、話題を切り替えてきた。

 

「ところで節成さんよ、レミエルちゃんに何か言う事はないのかね?」

 

 宗悟の言葉にギョッとした節成は一瞬言葉を失う。

 

「い、いきなり何だよ」

「いきなりじゃないだろ?聞くところによると節成さんはレミエルちゃんに何か負い目を感じていらっしゃるらしいじゃないの、えぇ?」

 

 宗悟はまるで嫌がらせのようにわざとらしく節成の傷を抉ってくる。宗悟の急な態度の変化にレミエルはきょとんとした顔をこちらに向けている。休み時間に知識を無理やり詰め込まれたことに対する彼なりの反撃なのだろう。節成は数時間前に感じた友情を三割ほど撤回しつつも、わざわざ否定することでもないと感じ、宗悟の言葉の通りレミエルに向けて口を開いた。

 

「――その、レミエル。あの時はすまなかった」

「すまなかった、って……」

 

 レミエルは節成の急な謝罪に疑問符を浮かべる。節成はこれからレミエルが自分に対してぶつける言葉の全てを受け止める覚悟を以てレミエルにそう言ったが、しかしレミエルは首を横に振り、その後発した言葉は節成の予想を裏切るものであった。

 

「私こそ、貴方にごめんなさいって伝えなきゃいけないって思ってました。あの時私に手を差し伸べてくれた貴方を、私は突き放してしまった。だから――」

 

 レミエルが予想外の反応を見せたため、節成には返す言葉がなかった。

 

「私、片方しか翼が無いから、みんなから落ちこぼれだって言われてきたんです。だからあの時、貴方も同じように私を傷つけるんじゃないかって、思ってしまったんです」

 

 レミエルの真意を知った節成は、今までの自分の考えが間違いだったのだと悟った。自分は手を差し伸べられたんじゃない、そう思い込んでいただけなのだ。自分の心の重石が消えていくのを節成は感じていた。

 

「あの時貴方がくれた"ちょこれいと"、凄く美味しかったです。その……ありがとうございました」

 

 その言葉を受けた節成の心は、この"空白"の五日間の物とは違っていた。自分のしたことは間違いではなかった。しっかりと彼女の心に届いていたのだ。――あぁ、これで報われた。節成は大きく脱力し、ようやく言葉を口にすることができた。

 

「――俺の、勘違いだったんだな」

 

 その言葉は宗悟にも、レミエルにも聞こえないほど小さいものであった。

 

―――

 

 教室に生徒たちの声が再び響いてくる。昼休みの時間が終わろうとしていた。朝と同じように、けたたましい靴の音が聞こえてくる。午後の授業の開始を知らせるチャイムが鳴るより前に教室のドアが開き、冬木が教室に姿を見せた。そのまま教壇の上に立ち、やはり朝と同じように凛とした声で告げる。

 

「全員揃っているな!今日の午後の授業だが、予定を変更して"ブルーミングバトル"の実技演習とする!」

 

 

 

 "ブルーミングバトル"――。青蘭学園が、その姿の鱗片を見せようとしていた。

 

 

 

 

 

 Act.2 天使の涙




 ごめんなさい!!プログレスとαドライバーの概要を今回で説明するとかほざいておいて、入れることができませんでした!!のわわーるです……。

 あーもうめちゃくちゃだよ……。しっかりと書いてたら長くなりすぎました。前回の三倍近い文字数になってしまい、本当に申し訳ありませんでした。

 さて気を取り直して本編に触れますが、各世界の概要は説明することができました。それぞれ毛色の違う世界観になってます。これがアンジュの一番の特徴と言っても過言ではないのでしょうか。一作品に登場するキャラクターの容姿がばらばらなのも、所属する世界が違うアンジュならではの物だと思っています。アプリの方にもいろんなキャラが登場するのでお好みのキャラを見つけてみてはどうでしょうか?(ダイマ

 本編に登場した先生"神通冬木"先生ですが"かみどおりふゆき"と読みます。この手の学園物の教師ってどうしてもこんな男勝りな人物像っていうイメージがあったので、こんなキャラになってしまっています。ありきたりなもので申し訳ないです。一方で宗悟君も少しばかりキャラの方向性が分かって来たかと思います。一言で言うと、脳筋です。話題作りにはちょうどいいような気がしたので、こうなりました。


 さて次回ですが、ようやくアンジュの本懐"ブルーミングバトル"に触れていきたいと思います。今度こそ"プログレス"、"αドライバー"とは何なのかが説明できそうですね!果たして戦闘描写を描き切ることができるのでしょうか……。今度こそ期間が開いてしまいそうです。

 ありがとうございました!
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