Ange Vierge~The Wings Tail~ 作:のわわーる
あけましておめでとうございます(激遅)。
随分と長い間更新が滞ってしまいましたが、更新再開となります。
とりあえずのプロットが固まったので後は勢いで何とかなるかな~と。
ここから本編。
いつものように冬木がホームルームの終了を告げると、いつものように放課後が始まる。節成らが青蘭島で過ごすようになってからおよそ二か月が経過していた。クラスメイトとはすっかり顔なじみとなり、たまに商店街などで出くわすと軽い感じで挨拶を交わす程度には関係も進展していた。
そんな節成がこの二か月で新たに興味を引くものがある。紅茶だ。とある貴族らしい女子生徒から紅茶の素晴らしさを半ば無理やり語られて以来、何かと気になっていた。実際口にしてみると、使用した茶葉に応じて様々に風味が変わる。そんなところを節成は気に入っていた。
「なあレミエル、紅茶って飲んだことあるか?」
そう尋ねられたレミエルは少し考えてから首を振る。
「ええと、多分ないと思います。青蘭島に来てからはずっと"にほんちゃ"ってものでしたから。」
意外だった。赤の世界でも紅茶は嗜まれているらしいのだが、それを口にしたことがない。しかもなぜか今まで日本茶、つまり緑茶しか飲んだことがないとは。
「なんで日本茶なんだ……。まあいいや、折角ならこの後喫茶店にでも行かないか?いい店を知っているんだ。」
これもいつぞやの貴族っぽい女子生徒からの受け入りなのだが、それは伏せておく。この二か月間で何度も宗悟やレミエルと昼休みの食事を共にしてきたが、レミエルと二人だけの時間といったものはあまり無かった。その反面、宗悟と二人っきりといったシチュエーションはなぜか多い。そんな宗悟は二人の会話を聞いて首を突っ込んでくる。
「お、優雅だねぇ。俺に誘いはないのかい節成さんよ?」
「お前とは何度も飯食っただろ、後だ後。」
文字通り手で払われた宗悟はハイハイといった調子で身を引く。誘いを受けた当の本人たるレミエルはこの提案を好ましく思っているようだ。
「きっさてんですか、いいですね!行きたいです!」
「なら決まりだな。宗悟、先帰っててくれ。」
再び手で払われた宗悟は、今度は何かと分かり切った様子だった。
「はいはい、お邪魔虫は早々に退散しますよっと。そんじゃな節成、レミエルちゃん。」
そそくさと教室を後にする宗悟。心の中で今度何か驕ってやろうと思った節成は、一拍置いてからレミエルを連れて教室を出るのであった。
―――
喫茶店へと向かう道中、節成とレミエルは異様な光景を目の当たりにした。公園では小柄な少女が野鳥をまじまじと見つめている。それだけなら至って普通の光景なのだが、問題はその少女の姿が普通では無かった事である。服というよりはボディラインをなぞったスーツといった姿に加え、体のあちこちからプラグやらコードといった類の無機物を覗かせている。恐らく白の世界のアンドロイドなのだろう。しかも、更にこの光景を異様なものと昇華させているものがある。そのアンドロイドの少女を木の陰から隠れるように覗き見している人物がいるのだ。こちらも公園のアンドロイドと似た風貌だが、それよりも大人びているように見える。半ばストーカーじみているそのアンドロイドの行動に節成とレミエルは困惑していた。
「――なんでしょう、あれ。」
「ストーカーか?でも女の子を狙う女って構図がよく分からん。」
理解の範疇を超えたその光景に二人は困惑するばかりだった。節成はレミエルを促して先を急ごうとしたが、その意に反してレミエルは節成を制止する。
「……あの子を狙ってるのなら、きっといけない人だと思うんです。」
「見た目の時点である意味既にいけない人だと思うんだが――いや待てレミエル!」
節成の制止を聞かず、レミエルは彼の怪しいアンドロイドに向かい歩を進める。悪い事をしている者に対して注意をしようとしているのだろう。今までのレミエルからは考えられない行動だった故に節成の対応が遅れたのだ。気付けばレミエルは怪しいアンドロイドのすぐ傍まで寄っていた。
「あ……あの!」
勇気を振り絞った調子でレミエルが話しかける。その声に反応し、振り返るアンドロイド。その表情は決して穏やかに感じ取れるものではなかった。
「何でございますか。」
「――ひっ!?」
真顔。アンドロイド故に敢えて表情を作っていないのだろうか。どちらにせよレミエルに敵意を向けていることは分かる。節成は急いでレミエルに駆け寄り、かばうようにレミエルの前に出てアンドロイドと体を向き合わせた。レミエルは怯えた様子で節成の後ろに隠れる、先ほどの威圧ですっかりやられてしまった様だ。
「悪いな、急に話しかけて。でもアンタ怪しいぞ。」
「怪しい?わたくしが?」
自分は正常だと思い込んでいるのだろう、取っている行動に対して何ら疑問を持っていないようだった。
「女の子を物陰から観察し続けてるなんて、どう見ても普通じゃないだろ。」
「……わたくしの行動原理を否定するのですか、貴方は。」
表情を変えるアンドロイド。今度はこちらを睨み付けてくる。
「セニアを見守り続けるのがわたくしの役目でございます。それを否定するのであれば――。」
まずい、と瞬間的に感じた。目の前のアンドロイドは節成に対して明確に殺意を向けている。先ほどの言葉でスイッチが入ってしまったのだろうか。何にせよ危険な状態であることは確かだ。レミエルをかばいつつ少しづつ後ずさる節成に、アンドロイドはゆっくりとにじり寄ってくる。
「"人間"とはいえ容赦は致しません。」
殺意が膨れ上がる。後ろのレミエルに逃走を指示しようとしたその瞬間、公園で野鳥と戯れていた少女型のアンドロイド――恐らく目の前のアンドロイドが"セニア"と呼んだ個体が野鳥を追いかけて公園を出ようとしていた。その気配を感じ取ったのか、目の前のアンドロイドが後ろを振り返る。公園を出ようとしている"セニア"を認め、それを追い始めようとするアンドロイド。最後にこちらを振り返り、言葉を吐き捨てた。
「――命拾いしましたね"人間"。」
力が抜け、その場にへたれ込む節成。とりあえずの危機は脱したようだ。
「ご、ごめんなさい。私のせいで……。」
「いや、こうなるとは思いもしなかったさ。レミエルのせいじゃない。」
作り笑いで平静を装ってはるが、実際の所かなり恐怖していた。相手が機械である以上、本気でかかられたら本当に死に至りかねないし、先ほどのアンドロイドはその"本気"を出す勢いだった。深呼吸で心を落ち着かせる。
「――よし、行こう。」
本来の目的である喫茶店に向かう。節成の空元気を感じ取ったレミエルの足取りは重かった。
―――
「あれ、元気ないねー?」
翌日。食堂で机に突っ伏している節成に美海が話しかける。あの後喫茶店で口にした紅茶の味も覚えていないほど、昨日の件が強烈だったのだ。レミエルはそんな節成を目の当たりにして終始あわあわしているばかりで、宗悟とはろくに話せていない。それほどまでに節成は疲れていた。
「おっ、美海ちゃんか。頼むよ、コイツに一発元気入れてくれ。朝からこんな調子なんだ。」
宗悟が美海に頼み込む。それを快く引き受けた美海は、節成に対して何らかの行動を取ろうとしているのか、なぜか屈伸運動を始める。宗悟とレミエルは美海が何をしようとしているのか理解できないでいたが、次の瞬間美海は予想外の行動を取った。
「いっくよおー!」
掛け声と共に節成に飛び掛かる美海。その衝撃で節成の口から低い声がひねり出された。後ろから抱き着く形で節成の頭をグリグリと撫でまわす。その様子にレミエルは赤面し、宗悟は目を丸くしていた。
「おりゃおりゃあー、元気だせー!」
食堂全体がざわつく。何やってんだあの子、またアイツか、などといった半分呆れが混じった声が聞こえてくる。そんな事を気にもせず、体を密着させ頭を撫で続ける美海。そんな美海の行動に限界を感じたのか、節成が突然飛び起きた。
「――だあぁぁぁ鬱陶しい!」
「あぅ!」
飛び起きた反動で美海が床に尻もちをつく。その様子をみてレミエルは更にあわあわするばかりだったが、宗悟は歓声を上げる。痛そうに臀部をさする美海に、飛び起きた節成が詰め寄る。
「人がブルーな気分のときに何すんだオマエは!」
「だって元気入れてくれって頼まれたし、ソフィーナちゃんにも同じことしたら今みたいに飛び起きたし!」
頭を抱える節成。以前似た者同士とは言い合ったがここまでとはと、同じことをされたソフィーナに同情をしつつ、結果的にいつもの調子を取り戻す節成であった。
「何か馬鹿馬鹿しくなったわ……全く。」
「えへへ、結果オーライだね!」
節成を再起させることに成功した美海を称えるレミエルと宗悟に再び呆れると同時に、心の中に少しだけ感謝の言葉を思い浮かべる節成。そこでふと昨日の件を思い出す。
「――なあ美海。"セニア"って子知ってるか?」
彼の危険なアンドロイドに監視されていた"セニア"と呼ばれるアンドロイドが、節成には気にかかっていた。数々の生徒との関係を持つ美海なら知っているのではと思い立ち、質問をする節成。それに対し美海は二つ返事で答える。
「うん、知ってるよ!よく一緒に遊ぶんだ!」
よく一緒に遊ぶと聞いて、昨日のセニアを思い出す。あのように二人でただぼーっと野鳥を眺めるのだろうか。それはともかくといった感じで、節成は言葉を続ける。
「なら伝えておいてくれ、"怪しいアンドロイドが着け狙ってた"って。」
「怪しいアンドロイド……あぁ、多分それカレンちゃんの事だよ!」
一瞬美海の言葉が理解できなかったが、どうやら昨日殺されかけたあの危険なアンドロイド――カレンの事を美海は知っているらしい。
「あの、どういう事なんでしょうか?」
事件の当事者でもあるレミエルがカレンについて美海に尋ねる。
「えっとね、カレンちゃんはセニアちゃんのお姉さんで、妹のセニアちゃんが大好きなの。暇があればずっとセニアちゃんの事を傍で見てて、セニアちゃんが一人で遊んでるときは陰で見てたりもしてるかな!」
美海の証言で昨日の件が腑に落ちた。昨日のあれは、セニアが遊んでいるところを文字通り見守っていたのだ。ストーカー行為と思い込んでいたが、実際の所はそうではなかったらしい。
「――いや、あれはストーカーに見えるだろ普通。」
つい言葉を零す節成。あの構図を何も知らずに見てストーカーではないと判断できる人間を見てみたい。
「うん?何の話?」
「こっちの話。」
つまりカレンのあの行動を阻害するという事が、カレンに"セニアに危険が及ぶ"と解釈されたらしい。
「つまりそのカレンちゃんって子はシスコンなんだな!」
宗悟が昨日の件も何も知らずに断言する。確かに大きく言えばそうなのだが、と再び頭を抱える節成。
「しすこん……って、なんですか?」
「レミエルは知らなくていい言葉だぞ。」
宗悟がこれ見よがしと説明をしようとしていたところを物理的に遮る節成。
「えっと、あまりよく分からないんですけど、つまりカレンさんはセニアさんを守ってたって事なんですか?」
「多分そうなんじゃないかな!」
レミエルの疑問に美海が適当に答える。適当とはいえ、大きく見れば確かにその通りだ。その回答を聞き、レミエルは考え込む。カレンは只セニアを文字通り見守っていたに過ぎなかったのだ。結果的に自分がそれを阻害してしまった。これは反省すべきことなのではないか。そんなことを考えていたとき、美海のふとした発言が更にレミエルを悩ませるのであった。
「でもカレンちゃん、周りにどう思われても自分のしたい事をしてるんだもん。見習いたいなあ。……カレンちゃんらしいよね!」
「お前も十分好き勝手やってるだろ。」
節成は軽く美海に突っ込みを入れるが、レミエルは彼女の語る"自分らしさ"について考え込んでいた。思い返せばテラ・ルビリ・アウロラでの自分は只自らを押し込めるだけで、自分のやりたいことなんて一つも出来ないでいた。周りの事を気にしすぎて、自分など存在しないものだと思い込ませていたことさえあった。そんな自分も、青蘭島で生活をするようになってからは随分と変わることができた。それ故に思う。
「"私らしい"って、なんだろう。」
その声は、食堂の喧騒に紛れて誰の耳にも届かなかった。
―――
その後、午後の授業が終了しいつものようにホームルームが始まる。冬木が教室に入ってくると同時に教室の喧騒が一気に収まった。
「さて、今日のホームルームだが一つ特殊な連絡事項がある。後日、高等部一年のレベルを向上させる目的で"ブルーミングバトル クラス対抗戦"の実施が決定した。」
突然の告知に教室全体がざわめく。未だにブルーミングバトルはおろか、エクシードにさえ不慣れな生徒が多いこの時期の本格的な対抗戦は、学園の歴史を見ても前代未聞であった。そんな折のこの告知に、節成らもまた困惑していた。
「そんな、いきなり対抗戦だなんて!」
「私達、まだ殆どブルーミングバトルに慣れていないんですよ!」
流石にクラスの皆も思う所は同じらしく、冬木に抗議する者も少なくはなかった。
「分かっている!お前らの低いレベルを向上させるためだと最初に言っただろうが!」
冬木の一喝でクラスが一気に静寂に包まれる。
「学園公認の対抗戦とはいえ、本気でやりあえとは流石に言わん、あくまで練習の一環だ。だが時期も時期だ、公平性も考え今回の対抗戦は全員参加とする!」
全員参加。その言葉に教室全体が再びざわめく。例年通りであれば一定期間が経ち、ある程度戦える生徒をクラス代表に選び対抗戦を行うらしいのだが、今回はその限りではない様だ。
ブルーミングバトルクラス対抗戦。避けられない戦いが節成とレミエルに迫っていた。
Act.8 自分らしさ
のわわーるです。ようやく8話を更新することができました。
年末年始の忙しさに加えてプロットが固まらなかった事があり、更新が大幅に遅れてしまったことをまずは謝罪いたします。
ですが、今後もマイペースで更新していきたいなと思うので気ままに待っていただけるといいなと思います。
それではこのあたりで。
ありがとうございました!