【短編】英霊剣豪七番勝負。勝負二番目、アーチャー・インフェルノ 一切焼却 巴御前。いざ、尋常に 勝負!! 作:名無し烏
「威勢が良いのは認めましょう。ええ、それは素晴らしいことです。しかし刀も槍も弓も何も持たない
ゆらり、ゆらりと彼女がこちらに近づく。その気になればその手の弓で瞬時に俺を殺すことができるのだろう。しかしそれはしない。彼女の目的はなるべく俺を無残に殺し、それを武蔵ちゃんに見せたいのだろう。そうなれば弓矢よりかは刀の方が都合がいい。対してこちらは小太郎も皆もう戦えない、残されたのは武蔵ちゃんだけという状態だった。そんな状況だというのに俺は見栄を張ってしまった。彼女の足手まといにだけはなりたくない、その一心で。
「さて、斬り落とすならどこからがいいでしょう。腕?足?胸?それとも首?......まあどこでもいいでしょう」
一瞬だった。まるでビデオのスキップボタンを押したかのように、さっきまで離れていたはずの彼女が急に目の前へと迫る。
「さあ、お覚悟!!!血だらけの肉塊に成り果てたあなたはさぞかし美しく見えるでしょう!」
死が迫る。音もなく、兆しもなく、ただポツンと突然現れる。後悔も、自責も、祈りもできない。痛みが、痛みが訪れる。
「美しい、そう言ったか」
甲高い金属音が眼前で響く。......刀が俺に届くことはなかった。
小さな背、風になびく白い髪、そしてその見た目からは相反するギラリとした戦士の瞳、巨大な二つの鉄球。彼女が俺を助けてくれた。手甲によって刃を受け止めた彼女は強く、それでありながら優しく微笑みながらこちらに振り向く。
「貴様が私を呼んだのか。不敬ではあるが許そう、女王は寛容である」
「エルドラドのバーサーカー!!!」
前回の特異点、アガルタで出会ったアマゾネスの女王。
その正体はトロイア戦争において、ヘクトールを失い劣勢となったトロイア側にアマゾネス軍団を率いて加勢し、そしてアキレウスと一騎打ちを果たした女傑。決して前回の出会いと別れは良いモノだったとは言えないけれど、突然目の前に現れた彼女は確かに俺を今救ってくれた。
「ふむ、どういう経緯かは分からんが私は貴様に召喚されたみたいだな。
「突然、現れたかと思えばこちらを無視ですか。いけ好かないですね。邪魔をしないでもらえますか」
刹那、俺の足元から巨大な火柱が吹き上がる。
いち早くそれを察知した彼女は俺を抱えて大きく後方へと退く。彼女の腕や肩などに目が行く。他のパワー型の男性サーヴァントたちとは違い、目に見える筋肉量はさほど多くはなかった。しかしそれでいて安定感がある。大樹に背を預けているようなそんな安心感。レオニダスから聞いたことがあるが、これが無駄のない筋肉、インナーマッスルというものなのだろうか。
「いつまで呆けている、さっさと自分の足で立て」
そんなことを考えていたせいか、一時的な危機を回避した彼女は俺を雑に放り投げる。怪我はないが少し痛い。こんな非常時に集中していなかったことの罰が下ったのだろうか。気を引き締めなおした俺は獲物を逃した敵をうかがう。
「
「戦士に恥など必要ない。武と
「ふふ、獣に説法など無駄でございましたか。......いいでしょう、
アーチャー・インフェルノの魔力がみるみる高まっていくのが感じられる。ジリジリと燃える炎を心臓に押し付けられているような圧迫感、明確な殺意が俺に恐れを感じさせる。
「退くな。恐れを以て退く足を戦士は持たん。貴様も戦士なら前を見ろ、恐れるな、吠えろ。誉れ高く雄たけびを。
「獣が!吠えるならその断末魔を響かせなさい!!!」
インフェルノが彼女に襲い掛かる。
時間も猶予もない。思考よりも早く、判断よりも早く、この口が彼女の名前を叫んだ。
「ペンテシレイア!!!!!」
瞬間、彼女と俺の魔力経路がリンクする。
足元がふわりと宙に浮く感触がしたと思えば、
「うおおおおおおおっ!!!!!」
「ッ!?」
ペンテシレイアに放たれた斬撃を彼女はいとも容易く受け止め、鋭く尖った鉄爪でお返しとばかりに喉元を裂き斬ろうとする。上体を後ろに反らすことで事なきことを得たインフェルノだったが、ペンテシレイアは続けて休むことなく猛撃を続ける。腰に差した短刀で急所のみを的確に狙い、絶妙なボディバランスで放たれる獣のような体技を放ち、そして掠っただけでも致命傷となりえる巨大な
「くっ......、調子に、乗るなぁぁぁぁ!!!!!!!!」
瞬時に手元に投影された大弓、真っすぐに突っ込むペンテシレイアに向けて炎獄の矢が放たれる。無論、彼女に避けられるタイミングではない。直撃、彼女の眉間を半紙でも突き破るかのように貫通する。少なくとも俺にはそう見えた。だが実際は違った、彼女は宝具級の矢をなんと己の歯で受け止めた。狂戦士、やはり戦い方が通常の英霊たちと大きく異なりめちゃくちゃだ。
「なぜ邪魔をする。私はこの世を焼き払いたいだけなのに。罪なき人々が涙を流す。愛すべき人々が血を流す。幼き童子が怨み言を流す。地獄、地獄地獄地獄この世はやはり地獄。そんな地獄に囚われるあなた達、人間を私は
嫌な気配、悪寒が身体を駆け抜ける。
この感じ、前にも見たことがある。ぐちゃりと理性が崩れて溶けていく感覚、これは......狂化!!
「ペンテシレイア!!まずい、早くケリをつけないとっ!」
「もう遅い」
「グウウウウウウウウルァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
耳をつんざく爆音の塊。
恨み、怨念、
「似ているな」
ジリジリとこちらへ歩み寄るインフェルノを前に彼女はそう呟く。
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!!!!!!」
「ウグァァァァァァァァァァァッ!!!!」
呪詛のように何度も何度もそう叫ぶ彼女に同調させられたのか、インフェルノも雄たけびをあげる。二匹の獣と成った二騎のサーヴァントの重なる咆哮。自制心の臨界点に達した二騎は同時にその牙をぶつけ合う。互いに敵の攻撃を防ぐことはせず、急所への攻撃だけは最低限の回避を見せ、ただひたすらに互いの力を振るう。どちらが先に息倒れるか。そんな獣同士の戦いを、俺は見守ることしかできなかった。