【短編】英霊剣豪七番勝負。勝負二番目、アーチャー・インフェルノ 一切焼却 巴御前。いざ、尋常に 勝負!! 作:名無し烏
「どうして、...どうして狂化を解いたんだ!」
「やかま、しいと言っているだろう.....」
ペンテシレイアの腹部を刀が貫く。彼女の背から飛び出た刃はその身を真っ赤に染めていた。
「ガアアアアアアッ!!!」
敵将討ち取ったりと満面の笑みを浮かべて刀を引き抜こうとするインフェルノ。しかしその笑みはすぐに失われる。抜けない、抜けないのだ。ペンテシレイアの腹筋とその両腕がガッチリと刀を固定して、インフェルノは刀を引き抜くことができないでいた。
「獣では、ダメなのだ。こいつは真に強い女、せっかく強者と戦えるのにそれが獣ではダメなのだ」
言っている意味が分からない。けれどそんなことを気にせず、ペンテシレイアは必死に刀を引き抜こうとするインフェルノに声をかける。その瞳は真剣そのものであった。
「なあそうだろう。貴様は今貴様でない。そのような状態で私は貴様と戦いたくはない。弱き敵は武を知らしめるため、強き敵は武を練磨するため、しかしその強き敵が本調子でないなら、私はそのような敵とは戦いたくない」
心なしか真っ赤に燃えるインフェルノの瞳が揺らいだ気がした。
「ここに召喚された時、マスターの記憶をだいたい知識として引き継いだ。英霊剣豪?ふざけるのも大概にしろ、長年の修練と戦いを経て武を手に入れた強者を愚弄するような行い、私は断じて許さない。私は貴様と勝負がしたいのだ。英霊剣豪などという
「グルアアアアアアアアッ!!!!!」
しびれを切らしたのか、インフェルノの拳が飛ぶ。
しかし避けない、狂化を解いている今なら避けるのも容易なはずの拳を彼女は躱さずに受け止める。
「過去に溺れるな、呪いに縛られるな、強きを忘れるな。貴様は貴様だろう...!!」
「グ、アアアアアアッ.....!!」
インフェルノの様子がおかしい。
ペンテシレイアの言葉に苦しんでいるようにも、己の中の何かと抵抗しているようにも見える。彼女は
「その怒りは誰のモノだ。その狂乱は誰のモノだ。悲しみは?後悔は?痛みは?全て貴様のモノだろう、強き女よ。それが今ではどうだ?その怒りは他者に煽られたモノ、その狂乱は他者に唆されたモノ、悲しみも後悔も痛みも、全て今貴様の手の元を離れている、違うか?」
「ぐ、ううううううッ!!」
そうか、何となく分かってきた気がする。
彼女は戦いの中でインフェルノの何かを見たんだろう、理解したんだろう。だからこそ狂化を解いた。狂化を解かなければいけない原因となったものを見たんだろう。獣として戦ったのでは、恐らくインフェルノは獣のままその命を散らすことになることを予想した。それではダメだと、彼女の意志が叫んだのだろう。ヒトとして、一人の戦士として、彼女と戦いたいと願ったのであろう。
「目を覚ませ、強く猛き女よッ!!!貴様の怒りは誰かに操られていいモノではないッ!!!」
吠える。猛き咆哮。
彼女の身体に流れる軍神アレスの血を呼び起こす咆哮、その叫びは戦士として戦う者に勇猛な加護を与える。そしてその加護は今まさに己の呪いと戦う一人の女戦士に力を与えた。
「ぐ、ううううぁぁぁぁッ..........!!!!この怒りは、......私のモノだ!怒りも悲しみも辛さも痛みも苦しみも全て、全て尽く私のモノですッ......!!!どこの馬の骨かも知らない術者に操られていいモノでは、......決して、ないッ!!!!!」
インフェルノの瞳に生気が戻る。
己の体内に埋め込まれた呪詛に苦しみながらも、彼女は決して諦めず戦い続ける。刀を手離し、ふらふらとおぼつかない足取りで彼女は必死に何かを身体から追い出そうと足掻く。
「ぐ、ぁぁぁぁぁぁ......ッ!!!出ていけ、私から出ていけッ......。私の大切な記憶に汚い手で触るな。あの方との思い出をこれ以上汚すなッ...!!」
「ペンテシレイア、これは」
「見てわかるだろう。戦っているのだ、懸命にも、耐えがたき呪いと」
「出ていけ、......出ていけッ!!!この想いは誰にも渡さない、この記憶は誰にも汚させないッ!!私は生涯、義仲様のために戦う女ッ!三流術師に操られるような骨抜けでは決してないッ!!!」
ペンテシレイアにも負けない猛き叫び声。
割れた叫び声でそう叫んだ、彼女は息を切らして膝に手をつく。狂化は解けたのか?英霊剣豪の呪いは?戦わなくて済むのか?
「......礼を言わせてください、益荒男が如き強き女。私はどうやらあなた様に助けられたようです」
彼女が顔をあげる。芯の通った真っすぐな瞳。先ほどまでの彼女には見られなかった上品な仕草から彼女が今英霊剣豪の呪いから抜け出し、通常の英霊としてここに立っていることが窺い知れる。
「助けた覚えなどない。私は私の武を錬磨するために貴様を引っ張り上げたにすぎぬのだから」
「それでも恩義は感じています。あなた様のおかげで私は大切なモノを思い出すことができました、ありがとうございました」
ホッと胸を撫でおろす。
よかった、これであとは武蔵ちゃんをあの牢獄から出してもらうだけのようだ。
「もう一つ、願いを叶えてくれませんか」
刹那、彼女の身体が激しく燃える。
間違いない、先ほどまで彼女が宿していた邪悪な炎。それが彼女にまとわりついて離れようとしない。
「この炎は私の宿業、私の意志でなかったとはいえ、多くの命を私は殺めてきました。許されようなどとは思っていません。謝罪で命が戻るのならば私はここまで苦しむことにならなかった。......直に再び私は理性を失うでしょう。英霊剣豪が一人、キャスター・リンボという術者によって霊基に埋め込まれた術式が先ほどより強く私を強制します。これ以上私は自身を抑えられる気がしません。ですからお願いです、そこな武人。私を、止めてくだ
彼女のことが切れるより先に炎が彼女を完全に包み込む。
轟々と爛々と燃え続ける炎の塊に変化が起きたのはそのすぐあとであった。
「ガァァァァァァァッ!!!!!」
炎から再び狂化に落ちた彼女が現れる。
さらに魔力が膨れ上がった彼女に対してペンテシレイアは出血が止まらない。ついに地に膝つき、苦しげにインフェルノを見やる。
「無理難題を押し付けてくれる。......だが、いいだろう」
彼女は自分の胸から剣を引き抜く。勢いよく血が流れるが彼女は気にも止めない。英霊になったことで耐久力が跳ね上がった?いや、違う。あの傷はその程度のモノではない。立ち上がることすら地獄のような痛みが続くはずだ。
「ならば出し尽くせッ!貴様の怒りも悲しみも全てだッ!!余すとこなく全てを力に変えて私にぶつけてみせろッ!!」
「グゥルルルルアアアアアアアアアアッ!!!!」
吠える、猛き魂を秘めた強き女王が。叫ぶ、己に埋め込まれた呪いと必死に戦う強き戦士が。しかしどう考えてもペンテシレイアの劣勢は火を見るよりも明らかだった。みるみると魔力を高揚させるインフェルノに対し、片や傷も深く、こちらの魔力供給を間に合わないほど消耗しているペンテシレイア。俺は弱々しく彼女の名を呼ぶことしかできない。
「ペンテシレイア...」
「案ずるな、我が同胞よ」
今まで背をこちらに見せ続けていた彼女が振り向く。
笑み、彼女が浮かべていたのは柔らかな笑み。大丈夫だ、そう伝えてくれた気がした。
「危ないッ!ペンテシレイアッ!!!」
視線を切ったことが災いしたのか、これを機にと、インフェルノがこちらへと襲い掛かる。彼女が手にしていたのは薙刀。刃先に炎を帯びたそれを彼女は思い切り振り下ろす。紙一重、寸前のところで身体を捻って重撃を避けた彼女は素早く腰に差した短刀を手にして、首元に向けて刃を突き刺す。
「ガアアアッ!!!!」
「ッッッ!?」
短刀が首元を掻き斬るよりも先に、ペンテシレイアの足元に魔力が集まっていることに気づく。次いで轟く爆発音。炎柱が勢いよく足元から噴き出す。後ろに大きく飛び退いたペンテシレイア、その背後には既にインフェルノが回り込んでいた。
「キャッキャッキャッ!!!!!」
「ちッ......!!」
狂った笑みを発しながら彼女はペンテシレイアの首元をつかみ、大きく彼方へ放り投げ、獣じみた雄たけびをあげる。俺の背筋に冷や汗が垂れる、悪い予感というやつだ。
「グルアアアアアアアアアッ!!!!!」
インフェルノの手元に大弓が投影される。
高まり極まった魔力を一本の矢に込め、彼女はその怪力で弦をギリギリと引き絞る。今までの経験からそれがサーヴァントの切り札、宝具であることに気づくのにそう時間はかからなかった。全魔力をそれに込めたことを肌で感じた俺は無意識的にも女王の名前を強く叫ぶ。彼女にもらった勇気を少しでも返せるように、少しでも彼女の力になるように、俺は彼女の名を強く叫んだ。
「ペンテシレイアッ!!!!!!」
「これほどの強者に会えるのだから英霊になるというのも悪くはないな。......なあ、そちらの強き女よ。奴を救ってやってくれ」
彼女のその言葉によって脳裏にあのフレーズが浮かび上がる。
『ここに召喚された時、マスターの記憶をだいたい知識として引き継いだ』
その時に俺は気づいた。
インフェルノが背にしていた、あのぶ厚かった炎の牢獄の壁が布一枚程度の薄さにまで弱まっていたことに。全力を出せ、それはインフェルノを助けるためでもあり、そして彼女につかまったあの人を助けるためでもあった。映る、炎の向こうに刀を構える彼女の影が映る。
「命懸けの果し合いならいざ知らず、あなたを助けるために今だけは剣士としての矜持を胸にしまいましょう」
一閃、一刀両断された牢獄から武蔵ちゃんが姿を現し、背を見せるインフェルノに刀を振り下ろす。仮にそれが目に見えていたのなら避けられる余地もあったのだろう。しかし見えない。突如現れた第三の敵、背後からの奇襲、それは絶対不可避の一撃。そのたった一度のチャンスに、打ち合わせもなしで武蔵ちゃんはキッチリとそれに応えた。
「アーチャー・インフェルノ、......いえ、巴御前。あなたの宿業 一切焼却、確かにこの武蔵が断ち斬った」
武蔵ちゃんの一撃はインフェルノの背とその宿業を確かに斬った。
無駄のない、時間と空間をねじ伏せるその一刀は避けることは不可能、防ぐことも到底
「ペンテシレイアッ!!」
仰向けに倒れている女王。血を流し過ぎた彼女の身体が少しずつ霊体化している。傷が深すぎたのだろう、これは座に戻る予兆、決して彼女が死ぬわけではない。けれど俺は自分の頬に涙が伝っていることに気づいた。
「泣くな、メソメソと。うっとおしい」
「けどッ...!けれどッ......!!!」
涙が止まらない。
その場限りの契約、共闘だったとはいえ、自分の為にここまで傷ついた彼女を見ていると心が痛んで仕方がない。どうして、どうして俺なんかのためにここまで
「どうして俺なんかのために、そう考えているな」
「え...」
「いいか、どのような差異はあれどサーヴァントを使役する以上、これは聖杯戦争、戦争だ。そしてお前は私を扱う王だ。兵が王のために死ぬことに涙を流すな。迷うな、非情になれ、小より大を想え」
「違うよ、君は兵なんかじゃない。仲間だ。仲間が消えてしまうのは辛くて耐えられない」
ふいにそんな言葉が出た。
誰かの言葉だったかもしれない、どこかで聞いたことのある言葉だったかもしれない。けれど、その想いだけは確かに感じていた。
「......ふん、甘いことを。やはり弱者であったな、お前は。―――だが、まあ
「ありがとう、ペンテシレイア」
「よせ、それ以上は次に私を召喚した時にしろ」
そう言い残すと彼女の姿はきれいさっぱりこの世界から消える。無事に座に帰れていればいいけど。
「お別れはすんだ?」
「あ、武蔵ちゃん。......彼女は?」
「しっかりと成仏しましたよ。最後なんか笑ってました、きっと想い人の夢でも見たんでしょう」
「そっか、それならよかった。さ、小太郎たちのこともあるし町に戻ろうか」
涙を拭った。さっきまで赤黒く染まった空を見た。
うん、俺は生きてる。色んな人のおかげで生きていられていることを実感する。生き残った俺にできることはこの狂った世界を元に戻すことだけだ。一歩踏み出す、―――うん俺はまだ歩ける。
第終刀 桜の木の下にて
夢を見た気がしました。とっても怖い夢。
「―――――――――――」
え、忘れてしまいました。だってそれほど怖かったんですもの。
「―――――――」
ありがとうございます。それなら今宵はあなた様と共に枕を並ばせていただけるのですね。
「―――――――――――」
もう、そのような甘いことを囁くのは寝所だけにしてくださいまし。なんだか私、眠たくなってきてしまいました。
「――――――――――――――――」
ええ、そのように。だってあなた様の懐はとっても暖かいんですもの。ふふ、お慕い申し上げております。義仲様。