真のエースアルバイトさん   作:反町龍騎

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第三話

 いつからだろうか。魔導師という存在を嫌いになったのは。

 初めてなのは達に出会った日。あの時は単純に、かっこいいと思った。魔法という力を使い、自分に出来ない事をやってのける。

 例えば人助け。自分では絶対に救えない人を助けた。それは凄くかっこいいものだった。

 例えば空を飛ぶ。自分一人の力では絶対に見ることの出来なかった景色を見せてくれた。それは凄く綺麗だった。

 やはり子供というものは単純で、自分に出来ない事を見ると、かっこいいと、憧れの感情を抱く。

 だからこの時ではない。

 初めてフェイトに出会った日。人見知りだと思った。初めの方はなのはの後ろにずっと隠れていた。だがしかし、彼女もまた、なのはと同じく自分の出来ない事をやってのける。だから彼女にも、憧れの感情を抱いた。

 だからこの時ではない。

 初めてはやて達に出会った日。愉快な子だと思った。守護騎士達も個性的な者が多い。この時は純粋に、憧れの感情を抱いていた。

 だからこの時でもない。

 本当に、いつからだろうか。魔導師という存在を嫌いになったのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました時初めに見たものは、白い天井だ。

 続いて目にしたのは、長く黒い髪に黒目の男性だった。

 

「やぁ。目が覚めた様だね宗二君」

 

 この男性はハーシャ・クリットン。管理局本部に所属する医者である。

 ちなみにハーシャとは、宗二が管理局に入った時からの顔見知りである。

 

「⋯⋯」

 

「傷はもう完治してるよ」

 

 そう、宗二に微笑みかけるハーシャ。そのハーシャに対して宗二は「だろうな」と思い、目をそらす。その宗二にハーシャは「そうだ!」と手を打ち、

 

「先に目が覚めたなのはちゃんからの伝言だ。目が覚めたら私の部屋まで来てほしい、と」

 

「そうか」

 

 素っ気ない返事をしてベッドから降りる。医務室から出ようとしたところで、ハーシャが宗二の背中に声を掛ける。

 

「そうだ宗二君。――あまり無茶はしないようにね」

 

 宗二の動きが一瞬だけ止まる。だが宗二はハーシャに返事をする事なく、医務室を出た。

 その宗二にハーシャは肩をすくめる。

 

「やれやれ。変わらないな、彼は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宗二はドアを叩く。すると部屋の中から「どうぞ」と声が聞こえた。

 部屋の中に入って最初に目にしたのは、制服姿のなのはだった。

 

「さっきぶりだね、宗二君」

 

「⋯⋯」

 

「⋯⋯」

 

 二人の間に沈黙が流れる。その沈黙を引き裂くように、宗二があからさまな嫌悪感を孕ませた溜息を吐く。

 

「⋯⋯用ってのは?」

 

「あ、うん。えっとね。――さっきの模擬戦の事なんだけど」

 

 そう言って押し黙り俯くなのは。そのなのはを、何処までも純粋な嫌悪感を含んだ眼差しで見つめる宗二。

 その視線に気付いたのかどうかは分からないが、なのはが顔を上げ無理矢理作ったような笑みを浮かべる。

 

「やっぱり強いよね、宗二君って」

 

「⋯⋯上から偉そうに言うなっつったろうが」

 

 声は小さい。だがはっきりと、なのはの耳に届く。なのでなのははまた俯く。

 

「そう、だね。上から目線だったのかも」

 

 その言葉に宗二のなのはを見る目に殺気がこもる。それを感じ取ったのか、なのはの肩がピクリと跳ねた。

 

「口でも態度でも心の中でも、宗二君に対して油断してないなんて言ったり思ったりしてたんだけど、――心の奥底では油断してたのかもしれない。多分それが、模擬戦での行動だったんだと思う」

 

 模擬戦での行動。それは試合開始と同時に高速魔法弾をセットし全周防護膜を展開する格闘型封じの王道の戦術を使わなかった事を言っているのだろう。

 震える声で、ときに蚊の鳴くような声でそう言ったなのは。その目に恐怖の感情がはっきりと映っている。

 

「だから⋯⋯、ごめんなさい」

 

「⋯⋯はぁ?」

 

 宗二はなのはの行動に疑問を感じた。何故ならなのはは、頭を下げて謝ったのだから。

 多分、これで少しでも宗二との壁が無くなればいいと考えているのだろう。

 ならばそれは、宗二にとっては逆効果だ。

 

「⋯⋯ふざけんなよ」

 

「え?」

 

「ふざけんじゃねぇよッ!なんで誇らねぇんだよ!なんで驕らねぇんだよ!なんで謝んだよッ!俺はお前の、そういう所が嫌いなんだよ!俺より優れてるくせに、俺に出来ない魔法を使うくせに!俺がどれだけ頑張っても!!どれだけ頑張ってもッ!!俺の百歩をお前の一歩が俺を追い越す!!!だから俺が百歩も二百歩も三百歩も先へ行かなきゃならなくなる!!そのくせお前はそれを誇ろうともしねぇぇ!!その態度が気に入らねぇぇぇッ!!だから俺は、お前みたいな奴が嫌いなんだよッ!!!」

 

 宗二の咆哮が、部屋全体に鳴り響く。多分、外に声が漏れているだろう。だがこの時の二人は、そんな事を考える余裕など無かった。

 宗二の咆哮を聞いたなのはは、またも俯いてしまう。

 

「――ごめん⋯⋯、なさい」

 

「――謝んなって⋯⋯言ってんだろうが⋯⋯ッ」

 

 その言葉を残して、宗二はなのはの部屋を出た。

 ただ一人残されたなのはは、悲しそうに、ただただ俯いているだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのはの部屋を出ると、ドアのそばに金髪の女性が、フェイト・T・ハラオウンが立っていた。

 フェイトは先程の話を聞いていたのか、オロオロとした態度で宗二を見ていた。

 

「あ、えっと、宗二。久しぶり」

 

 フェイトと最後に会ったのは、二年前の火災事故の日。その時には既に、フェイトの事は嫌いになっていた。

 

「⋯⋯ああ」

 

 だから宗二は、素っ気ない返事をする。

 

「えっと、 機動六課の創設式をするから、ロビーに集合して欲しいって伝えに来たんだけど⋯⋯」

 

「ああ」

 

 それだけ言って、すぐにその場を去る。

 宗二の背中を、フェイトは悲しそうな目で見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロビーへ向かう途中、ハーシャに出会う。

 

「あ、いたいた」

 

 ハーシャは宗二に手を振る。宗二はハーシャを鋭い目で見つめる。

 

「宗二君、言わなきゃいけない事を言い忘れていたよ。――創設式が終わったら、僕のところに来てくれないか」

 

「⋯⋯なんでだ」

 

「ちょっと、君を検査したいんだ」

 

 ハーシャの言葉の意味は、宗二には分からなかった。

 鼻をふんと鳴らし、その場を去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロビーへ行くと、既に大勢の機動六課のメンバーであろう局員達が集まっていた。

 宗二は他の者とあまり関わらぬように、壁際へと移動する。

 壁にもたれかかり、暇を潰そうとしようとした時、一人の少女に声を掛けられた。

 

「あ、あれ?宗二さん?」

 

 ゆっくりと顔を上げ、声の方へ目だけを向ける。そこには藍色の短髪、翠の瞳をした少女がいた。

 その少女は宗二の顔を見ると、花のような笑顔を咲かせる。

 

「やっぱり!久しぶりです、宗二さん!」

 

「⋯⋯誰だ?お前」

 

「⋯⋯え?」

 

 久しぶりだと笑顔で言った少女に会った事が無いと、ド直球に告げる宗二。その態度にショックを受けた様な反応をする少女。

 

「あ、えっと。陸士108の部隊長ゲンヤ・ナカジマの娘、スバル・ナカジマ⋯⋯です」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

 

 そう言われ、顎に手をやりスバルの顔をジロジロと見つめる。ゲンヤの娘という事は、同じ108の部隊員であるギンガ・ナカジマの姉妹であるという事か。

 そういえば、何処と無くギンガに似ている気がする。そういえば、会った事がある気がする。

 

「⋯⋯お前、会った事があるか?」

 

「はい!五年前に一度だけ」

 

「⋯⋯そうか、まぁ、宜しくな」

 

 スバルに手を差し出す宗二。

 この行動を、宗二の事を少しでも知っている者が見たら天と地がひっくり返るほどの驚きをするだろう。あの魔導師嫌いの宗二が、魔導師であるスバルに手を差し出すなんて、と。

 その宗二の手を握り、スバルは笑顔で返事をする。

 

「はい!宜しくお願いします!」

 

「ねぇ、スバル、知り合い?」

 

 この二人のやり取りを見たオレンジ色のツインテールの少女がスバルに声を掛ける。

 

「あぁティア!うん、そう。私のお父さんの部隊に所属している小鳥遊宗二さん」

 

「え!?小鳥遊宗二って、あの!」

 

 ティアナが宗二の名前を聞いて驚愕する。

 ティアナは知っているのだろう。宗二がなのはに勝ったことを。現に、ロビーへ向かうまでにすれ違った局員にチラチラ見られていたのだから。

 その時に聞こえてきた言葉は、「イカサマ」「八百長」である。

 管理局が誇るエース・オブ・エースに魔法を使えない者が勝ったなど、そう思われても仕方の無い事なのだろうが、流石の宗二も気分のいいものでは無い。

 だからティアナを、無意識ではあるが、睨みつける。

 

「あ、えっと⋯⋯」

 

 宗二の視線にたじろぐティアナ。

 

「ちょっ!宗二さん!?」

 

「――ん?ああ、悪い」

 

 そこでスバルが宗二を注意し、宗二はティアナに謝る。

 

「あ、い、いえ。気にしてないので」

 

 無理矢理笑顔を作り、手を振り大丈夫だと空元気を振る舞うティアナ。大丈夫でない事は誰の目からも明らかで、その証拠に足が震えている。

 

「おー、皆揃っとるなー」

 

 聞き慣れた耳障りで癪に障る声が、宗二の耳に届く。

 嫌悪感丸出しの目で見つめる先は、八神はやて。彼女がロビーにやってきたのだ。

 彼女だけではなく、なのはやフェイト、はやての守護騎士達、それと、時空管理局本局運用部提督であるレティ・ロウランの息子、グリフィス・ロウランもやってきた。

 

「さーそれじゃ、創設式を始めよか」

 

 はやての一言で、時に厳かで、時に賑やかな創設式が始まる

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