創設式で最初に挨拶をするのは、勿論部隊長である八神はやてだ。
「機動六課課長、そしてこの本部隊舎の総部隊長、八神はやてです」
そう言うと、その場に拍手が鳴り響く。その拍手を宗二だけがしていない。
「平和と法の守護者、時空管理局の部隊として事件に立ち向かい、人々を護っていくことが、私達の使命であり、成すべき事です」
その言葉を聞いて、宗二は鼻をふんっと鳴らす。
「実績と実力に溢れた指揮官陣。若く可能性に溢れたフォワード陣。それぞれ優れた専門技術の持ち主の、メカニックやバックヤードスタッフ。全員が一丸となって、事件に立ち向かっていけると信じています」
「信じる」という言葉に吐き気を催し、眉根を寄せて口を覆う。その後、誰にも聞こえない程度に舌打ちをする。
「以上、機動六課課長、及び部隊長。八神はやてでした」
笑顔になり手を挙げたはやてに対して、拍手が鳴り響く。その拍手を、宗二だけがしていない。
「続いての挨拶は、――小鳥遊宗二三等陸尉」
と、はやてが言う。小鳥遊宗二という名前は、この場に一人しかいない。だが、宗二は三等陸尉という階級では無い。ただのアルバイトに階級など存在しないからだ。
何のことかと宗二が聞く前に、なのはがはやてに問いかける。
「あの、八神部隊長。三等陸尉、というのは?」
幾ら内輪の創設式といえど、公的な場である以上は敬称を付けて呼ぶ。そのなのはにはやては笑顔で答える。
「ほら、宗二君はアルバイトやろ?幾ら一年間の試験運用部隊とはいえ、敬称が無いのはあかんかな思て。それに高町一尉を倒すだけの実力がある人やし、三等陸尉ぐらいがええと思うしね」
それと、と付け加える様にはやては口を開く。
「宗二君には、教導官をやって貰いたいと思うてる」
どうかな?と言わんばかりの視線を向けられた宗二は、自分に集まる視線を気にすることなく、盛大な溜息を吐く。
「あのですね、人に敬称を勝手に付けないで欲しいんですが」
憎悪感丸出しの鋭利な刃物の様な視線をはやてに向ける宗二。そんな視線を向けられているというのに、自分には何の関係もないと言わんばかりの笑顔を浮かべ続けるはやて。
その二人に、隊長であるなのはとフェイトや、はやての守護騎士であるシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラは心配そうに見守っている。そして、何かあれば直ぐに対処出来るようにもしている。
そんな緊迫した状況をぶち壊したのは、オレンジ色のツインテールの少女だ。
「すみません、発言宜しいでしょうか?」
「はい、ティアナ・ランスター二等陸士」
「はい。ずっと気になっていたんですが⋯⋯、小鳥遊三等陸尉は、本当に高町一等空尉を倒したのでしょうか?」
「勿論や。それは、その試合の審判役をしてた私が保証するよ」
「――ですが」
ティアナの質問に笑顔で答えたはやてに対し、納得のいっていない様子を浮かべる。
そのティアナに何事かを口にしようとした時、宗二が口を挟む。
「信じられないのも当然だ、ランスター二等陸士。だって俺は、魔法が使えないんだから。八神部隊長も見たでしょう?俺には貴方方のような信頼に足る実力が無い。こんな奴に教えを乞う者なんて居ませんよ」
子供をあやす様な表情をティアナに向け、はやてには確かな嫌悪感を浮かべた表情を向ける。はやてに向けたその表情は、何者をも震え上がらせる程のもので。現になのはやフェイトという実力者すらも足を震わせ動けずにいた。
そんな中でただ一人だけずっと笑顔を浮かべ続けていたはやては、指を立ててこう言った。
「なら今度は、フォワード四人と模擬戦してみるか?」
「⋯⋯は?」
これではやては納得して、自分にそんな面倒な事を回さないだろうと高を括っていた宗二に、またしても予想外の事を言い出すはやて。
宗二は戸惑いを隠すように溜息を吐き、
「あのですね、何でもかんでも模擬戦で、なんて⋯⋯。脳筋じゃないんですから、もっと賢いやり方ってものがあるでしょう」
「賢いやり方って?」
「いっその事、俺を解任するとか」
「それは一番愚かなやり方やで。折角出向許可が下りたのに、君みたいな優秀な局員をのこのこ帰らせるような事する筈ないやないの」
確かに。なのは達はそう思う。
なのはを負かせるほどの実力者を手放すなど愚の骨頂。むしろ何がなんでも手放さないようにする方が利口だ。
「やから、君が三等陸尉、ひいては教導官をする事を認めてもらうために模擬戦をしよう。な?」
笑顔で相手に問いかける素振りを見せてはいるものの、お前に拒否権ねぇから、とでも言っているような顔だ。
その表情の意図を理解していながら、納得のいっていない顔の宗二にはやてがダメ押しの一言を口にする。
「ふむ。納得いってないって顔やな。ならこう言おうか?――上官命令」
その言葉で一層嫌悪感と憎悪感を溢れ出す宗二。その表情で、はやてはなんとなく宗二の心情を察した。
「お前なんか上司だと思ってなんかいない」と。
それでもやはり、今現状でははやてが上司である。なので模擬戦をするしか無かった。
その後、創設式を中断し、六課メンバーはなのはが指定した場所に集まっていた。
「さて、今から模擬戦をやって貰うにあたって、一人紹介しておかなあかん人がいます」
はやてが言うと、隣に立っていた長い茶色の髪に眼鏡を掛けた女性が笑顔になり手を挙げる。
「メカニックデザイナー兼機動六課通信主任のシャリオ・フィニーノ一等陸士です。皆はシャーリーって呼ぶので良かったらそう呼んで下さいね。――小鳥遊三等陸尉も、良かったらそう呼んで下さい」
宗二の方を向きぎこちない笑みで言った。だが宗二は、返事をすること無く、むしろ話を聞いていないと言わんばかりに黙って腕を組んでいるだけだった。
「あーっと、シャーリーはデバイスの改良や調整もしてくれるのでフォワード陣の訓練を時々見る事もあるから挨拶はその時でもええかなって思ってたけど早い遅いの違いやし今でも問題は無いなと思って自己紹介してもらいました」
シャーリーに無視を貫いた宗二が作った何とも言えない空気を壊すべく、はやてが言葉を紡ぐ。
一方無視されたシャーリーは、膝を抱えてしょぼくれていた。そのシャーリーを励まそうと、なのはやフェイトが語りかけているのが見える。
「それじゃシャーリー、お願いしてもええか?」
「はーい」
先程とは打って変わって元気に笑顔で返事をしたシャーリーが、パネルを出しそれを操作する。
「機動六課自慢の訓練スペース。なのはさん完全監修の陸戦用空間シミュレーター。ステージ、セット!」
すると空間が変化し、廃墟ビルの並ぶ空間となる。
「それじゃあ両方とも、位置について」
なのはの指示で、宗二達五人は所定の位置につく。そしてフォワード四人は、デバイスを展開してバリアジャケットを装備する。
「それでは試合、開始!」
「ウィングロード!」
スバル・ナカジマのレアスキルであるウィングロード。空中に道を作るそれをなのはの宣言と同時に発動し、宗二に特攻する。そのスバルに対し、宗二は構える事をせず、両手を下げてスバルを見ているだけだ。
「行きますよ、宗二さん!」
そう意気込んだスバルだったが、何故かすぐに後ろへと飛び退いた。
「――どうした、来ないのか?」
スバルが受けたそれは宗二の殺気。あのエース・オブ・エースですら震え上がらせる程のものでないにしても、それでもスバルの動きを止めるには充分過ぎる程の殺気。
スバルが動きを止めた意図を理解出来ないのか、ティアナがスバルに念話をかける。
《どうしたのよスバル!相手は何もしてないのに》
念話をしてもスバルからの返事は無く、それに苛立ちを覚えたティアナは、
「シュート!」
ティアナのオレンジ色の魔力弾が宗二に迫るが、それを殴って破壊する。すると今度は、
「ストラーダ!」
ストラーダを構え加速した赤髪の少年が、宗二の背後から攻撃を加えんとする。宗二はそれを最小限の動きで避け、ストラーダの柄を掴み手首を回す。それにより少年は空中で回転し、地面に背中から激突する。
「がはっ⋯⋯!」
「エリオ撃墜」
なのはが宣言する。
「気配が消せていないな。それじゃあ死角からの攻撃の意味が無い」
「はっ、はい」
倒れた少年――エリオに助言する宗二。口ではやりたくないなどと言っていても、本心は違うのだろうか。それともただの気まぐれか。
エリオに気を取られていた宗二の体を、鎖が拘束する。
「――バインドか?」
「いいえ、召喚魔法です!」
桜髪の少女が言った。それに鼻を鳴らし、少女の鎖を腕力で簡単に引きちぎる。
「そんな!?」
「ちびっ子、威力強化お願い!」
「はっ、はい!」
少女がティアナに威力強化の魔法をかける。
「クロスファイアシュート!」
多数のオレンジ色の魔力弾が宗二に迫る。それを宗二は全て受け止め、ティアナと少女の元へ投げ返した。
その光景を見て守護騎士四人、特にシグナムが驚いている。
「馬鹿な!」
「どうしたんですか?シグナムさん」
「――ああ。先程宗二がやって見せたあれは、古代ベルカの覇王流という流派の技の一つ、旋衝破。相手の射撃魔法を受け止め、そのまま投げ返す。その技術だ」
「まあ簡単に言えば、すげー技術のいる技って事だ」
「シグナムさんやヴィータがそこまで言う程の技なんだ」
「ああ。やはり凄いな、あいつは。生半可な修練で得られる技術では無い」
「ティアナ、キャロ撃墜」
なのはがまた宣言する。
「呆気ないな」
ティアナとキャロを見て呟いていると、正面からスバルが突っ込んでくる。
「はああぁっ!」
馬鹿正直な右ストレート。首だけを動かしそれを避け、ボディブローを放つ。スバルの口から胃液が押し出される。宗二はそれだけでは足りないと、スバルの顔面に後ろ回し蹴りを放つ、が。
「ッ!」
それはスバルの両腕によってガードされていた。だが、攻撃の勢いまでは受け切れず、砂埃を伴い後方へと下がってしまう。その後、スバルが反撃しようとガードを解いたところで宗二の親指、人差し指、中指の三本が、スバルのおでこに添えられる。その指に、押し込む瞬間力を加える事により、スバルの体は後方に、縦回転しながら吹き飛んでいく。
スバルは数秒の間、ただぼーっと空を眺める事しか出来なかった。
(攻撃の隙を窺いつつ防御にも目を配る。大雑把に見えて、意外に器用な奴だ。まあ、クイントさんの娘でギンガの妹なだけはあるか)
スバルに対してそんな感想を抱いた宗二。スバルは起き上がると、宗二に肉薄する。
「――え?」
前に、いつの間にか目の前に来ていた宗二に顔面を鷲掴みされ後頭部を地面に叩き付けられた。
「スバル撃墜――って、宗二君今何したの!?」
なのはが宣言と同時に宗二に疑問を投げかける。
「――抜き足」
それだけ言うと、宗二はその場を去った。
「えっと⋯⋯」
それだけ言われても意味が分からないなのはは、知ってそうなシグナムに視線を向ける。
「抜き足、歩法の一つだ。特殊な呼吸法により自分の存在のリズムを相手にすり込ませる。その状態でそのリズムとズラしたテンポで移動すれば相手にとっては、瞬間移動でもしたかのように見える、脳が危険だと判断するまで認識させない、という技術だ」
「?」
「つまりだ。おめーの兄貴ぐれー武を極めてねーと出来ねーような、そんなすげー技だって事だ」
「なるほど!やっぱり宗二君って凄いね!」
「なのは、それ、本人に直接言ったら?」
「やめとけって。そんな事言ったらぜってー怒るぜ、あいつ」
模擬戦を見ての隊長達の会話がキリのいいところになってから、はやてが手を叩く。
「それじゃあ皆に質問やけど、小鳥遊宗二三等陸尉。この階級と、教導官って立場を認めないって人は手を挙げて」
誰一人として、手を上げる者はいない。それもそのはず。相手が新人である事を抜きにしても、魔法抜きで魔導師四人を圧倒する程の実力者を認めない分からず屋の頭でっかちは、ここには居ない。
「じゃあ、小鳥遊宗二三等陸尉にはこの階級と教導官をやって貰うって事で決定します」
その場にいた皆が拍手をする。ただ一人、悔しそうにする少女には、今はまだ誰も気付いていない。