真のエースアルバイトさん   作:反町龍騎

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 感想頂けるって凄く嬉しいですね


第五話

 彼は求めていた。何者にも負けない力を。それは、魔導師としての力ではない。魔導師すら圧倒する程の力を、ただの人間である彼は求めていた。

 魔法が無くても、魔導師で無くても、魔導師に勝てる。ずっとそれを目指してきた。だが違う。何かが違う。勝つだけではない気がする。それだけが、彼の目標ではない気がする。

 ずっと疑問なのだ。これを誓ったあの日から、ずっと疑問だった。だから彼は求め続ける。力を。純粋な力を。何者にも負けることのない、何者にも馬鹿にされない、そんな力を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フォワード四人との模擬戦を終えた宗二は創設式を抜け出して、ハーシャのいる医務室へと来ていた。

 

「やぁ、宗二君。式はもう終わったのかい?」

 

「――いや、抜けて来た」

 

「え!?いいのかい?」

 

「いいだろ、別に。⋯⋯俺が居なくても式は進められる」

 

 ぬけぬけと言った宗二は、驚くハーシャにごく当たり前の様にそんな事を言う。

 

「いやぁ、そんな事は無いと思うけど」

 

 ハーシャの言葉に溜息を吐き、

 

「関係ねぇだろ、俺が居ようが居まいが」

 

 あからさまな不快感を表し、言葉を紡いだ。それで?と続け、

 

「何の検査だ」

 

「ああ、うん。まぁ、検査をする前に聞きたいことがあるんだけど」

 

 ハーシャは机の引き出しから紙を取り出す。

 

「はやてちゃんにも聞かれたかもしれないが、君が行った体力測定についてだ」

 

「あ?」

 

「シャトルランについては、純粋に君の努力の賜物だろうね。スタミナは魔法じゃ購えない。でも、百メートル走、垂直跳びなんかは、普通の人間としてはおかしい数値なんだ」

 

「⋯⋯何が言いたい」

 

 宗二の殺気を纏った視線と問いかけに、真剣な表情で答える。

 

「この数値はね、鍛えただけで出来る事では無いんだよ。――それに君、体力測定本気でやってなかっただろう?」

 

「⋯⋯」

 

「沈黙は肯定と受け取るよ。本気でやっていなくてこの数値なら、何かしら秘密があるはずなんだ」

 

「⋯⋯秘密?」

 

 何を言っているのか分からない、とでも言いたげな宗二に、笑顔を向ける。そして、宗二の後ろにある機械を指差す。

 

「それを今から、シャルタージで調べようと思うんだ」

 

 シャルタージ。管理局随一と言われるほどの魔法医師、ハーシャ・クリットンの固定型のデバイスである。過去にどんな病気にかかったか、今の体調はどうか、今後どんな病気にかかるか、その可能性は幾らかなどなど、新人医師でも調べる事が出来る事から、未来予知に等しい事まで、何でも知ることが出来る。まさに神の知恵とも呼ばれる程の機械である。

 その事を知っているから、宗二は嫌な顔をしつつも拒否はしない。

 

「じゃあ、早速ベッドに仰向けで寝て貰えるかな」

 

 宗二はハーシャの言う通りにベッドに仰向けで寝転がる。すると、シャルタージから放たれたであろう光が宗二の体を足先から頭までを通る。

 

「――もう起きていいよ」

 

「あ?もういいのか?」

 

 体を起こしながら問う。

 

「ああ、後は結果が出るのを待つだけだ」

 

 数十秒が経過した後、印刷機から数枚の紙が出てくる。それを取り、ハーシャはじっくりと読み始める。

 

「――ふむ。過去に大きな病気は無し。過去に大きな怪我を負ったのは一度だけ。⋯⋯これはあの時かな?」

 

「⋯⋯だろうな」

 

「うん⋯⋯。今、大きな怪我や病気は無し。このままの生活を続けていれば、余程の事が無い限りは病気をする事は無い。――ただ、この一年の間に大きな怪我をすると出ている。気を付けた方がいいね」

 

「大きな怪我ってのは?」

 

「分からない。これは何でも分かる訳じゃない。起こった事、起こっている事、起こるかもしれない事を知れるだけなんだ。具体的な事までは分からない」

 

 そう言ってまた紙に目を落とすハーシャ。読み進めていくと、どんどん表情は暗く、驚愕の色に染まっていく。

 

「――嘘、だろ⋯⋯。こんな事があるなんて」

 

「――なんだ?何が書いてある」

 

 ハーシャの驚きように、流石の宗二も不安になる。目を閉じ、深呼吸をしたハーシャは、静かに口を開く。

 

「――ここに書いている事を、嘘偽り無く教えるよ。⋯⋯君は、魔法が使えないんだよね」

 

「⋯⋯」

 

 無言で見つめる宗二の瞳には、だからなんだ、という殺気が籠っていた。

 

「君が魔法が使えないのは、リンカーコアが無いからだと、君も僕も、他の誰もがそう思ってきた。でも違ったよ」

 

「あ?」

 

「君が魔法が使えない理由は、リンカーコアが無いからじゃない。リンカーコアが、破損しているからだ」

 

「破損⋯⋯?どういう事だ」

 

 ハーシャは目尻を押さえ、ふぅと息を吐き、

 

「シャルタージは細かな所まで調べる事は出来ないから、これはあくまでも僕の憶測なんだがね⋯⋯。リンカーコアは、完全には破損していないんじゃないかな」

 

「はぁ?」

 

 眉根を寄せ、意味が分からないと言外に言う。

 

「例えば、だけど。宗二君のリンカーコアの破損が、放出する所の破損だけである場合。大気中の魔力を体内に蓄積し、それを体外へ放出する。放出する所だけが破損しているなら、溜め込むだけで、外に出ることは無い。でも、放出する所と溜め込む所が破損しているなら、君の化け物じみた身体能力にも説明がつくんだ」

 

「⋯⋯俺が魔法を使ってるって?」

 

 地獄の底から聞こえる様な、腹の奥に響くドスのきいた声。誰もを震え上がらせる様な声を聞いても、ハーシャは一つの同様も見せず、宗二を見つめていた。

 

「意識的にじゃなく、無意識的に、いや、強制的にと言っていいかな。まあ、君が望もうと望むまいと、魔法は使われる。底に穴の空いたコップに水を入れても穴から水が漏れ出るように、君のリンカーコアの破損部分から、取り込んだ魔力がそのまま漏れ出ている。ただ、放出する所も破損しているから、体外へ放出される事は無く、体中を魔力が巡っている。要は、二四時間三六五日、身体強化をしている状態になっているんだろうね。――あくまで憶測だから、本当の事は分からないけど」

 

 少し間をあけ、

 

「シャルタージが、過去に起こった事でこの事が調べられなかったのは、生まれた時から、リンカーコアが破損していたからなんじゃ無いかな」

 

「⋯⋯」

 

 宗二は言葉が出なかった。出せなかった。今まで嫉妬してきた魔導師だけの力。自分には無い力、いや、自分には無いと思っていた力。それが自分にもあったという事。それが何とも言葉にし難い感情として、腹の中をグルグルと回っている。自分には無いと、あいつらにはあると、嫉妬し続けてきた力。それが自分にもある。なんとも言えない、言葉にし難い、歯痒い、煩わしい、胸糞悪い、そんな気分。

 ずっと自分が否定し続けてきた力が自分にもある。しかも彼女らとは別の。だというのであれば、

 

「――同じ土俵で、叩きのめせるんだよな」

 

「⋯⋯ん?」

 

「いや」

 

 宗二はベッドから腰を上げ、医務室の扉へと向かう。その背中にハーシャは、

 

「今後なにが起こるか分からない。無理はしないようにね」

 

 宗二は肩越しにハーシャを見ると、

 

「⋯⋯悪いな」

 

 一言。たった一言である。だがその一言は、ハーシャの知る限り、宗二の口から一度も聞いた事の無い言葉で。だからハーシャの顔は綻ぶ。と同時に、恐怖に震える事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぜ彼は、あんな凶悪に頬を歪めているのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 創設式から数日が経った。宗二不在の創設式は、終始グダグダであったが、なんとかやり遂げる事が出来た。

 宗二の機動六課での役職は、教導官である。だが宗二は、一度も教導に顔を出した事がない。

 今も宗二は、教導には顔を出さず、機動六課のオフィスにて事務仕事をこなしていた。それに見かねたはやてが声を掛ける。

 

「宗二君。ええ加減教導官としての仕事をしてくれな。宗二君が事務仕事してくれて、めちゃくちゃ助かってるんは事実やけど、発展途上で磨けば光る原石の新人達に、宗二君の技術を少しでも教えてあげてもええんと違う?」

 

 言われた宗二は、キーボードを打っていた手を止め、椅子の軸を回転させはやての方に向く。

 

「お言葉ですが八神部隊長。俺は魔導師に教える技術なんてありませんよ」

 

 自分にもリンカーコアはある。だが彼の魔導師という概念は、リンカーコアの有無ではなく、自分の意思で魔法を使えるかどうかにある。だから宗二は、彼女らの事を、今も魔導師と呼んでいる。

 

「別に魔法や無くても、君が模擬戦の時にやった技術でもええし⋯⋯」

 

「あれは一朝一夕で出来る技じゃ無いですよ。それにあれは魔法を戦術の核に置いた魔導師には必要の無い技術です。必要があるとしてもスバルぐらい。だが、絶賛詰め込み中の新人に、上級者でも習得の難しい技術を習得させるなんて、土台無理な話ですよ」

 

 と、はやての言葉を一刀両断する。

 自分には無理だ。自分は必要ない。それだけではなく、彼女らの事まで否定されては、口の出しようが無かった。

 彼の上司であるゲンヤに話してみても、「アイツは一度決めた事は、余程の事がねぇ限り曲げねぇからなぁ」と言われ、宗二自身が動こうとするのを待つしかないと、そう言われてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

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 口うるさいはやてがフェイトと共に出掛けてからも、宗二はオフィスで事務仕事をしていた。

 それからどれくらい時間が経っただろうか。

 宗二の耳に、アラームが鳴り響く。宗二初の実践の機会が訪れた。

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