真のエースアルバイトさん   作:反町龍騎

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第六話

 アラームが鳴り響いたあと、宗二のパソコン画面にはやてが映る。

 

「宗二君、緊急出動や。高町一尉と一緒に六課のヘリに乗って、現場に向かって欲しいんやけど?」

 

「行きますよ。俺は元々前線メンバーとして入っているのでしょう?」

 

「――そうやね。お願いや」

 

 鼻を鳴らし、宗二はヘリポートへと向かう。

 

 

 

 

 ヘリポートに向かうと、茶髪の男が声を掛けてきた。

 

「やあ、宗二さん。ご無沙汰してます」

 

 男の名はヴァイス・グランセニック。機動六課のヘリパイロットであり、管理局内で数少ない、何の悪感情もなく宗二が接している後輩でもある。

 

「ああ、ヴァイスか。お前も六課のメンバーだったか」

 

「そうっすよ〜。やっと宗二さんを俺のヘリに乗せて運べるんすね〜。いや〜、嬉しいのなんのって」

 

「ところで他の連中は?」

 

「ん?ああ、もう乗ってますぜ」

 

「そうか。――揺らすなよ?」

 

「任せて下さい」

 

 ヴァイスと軽く話したあと、ヘリに乗り込むと、スバル、ティアナ、エリオ、ピンク髪の少女、なのは、リインがいた。

 

 

「「宗二さん!」」

 

 そう言ったのはスバルとエリオである。他のメンバーは、皆、気まずそうや、恐怖や畏怖、怒りといった表情をしていた。

 

「もう、遅いですよ、宗二三等陸尉!」

 

 リインが注意してもどこ吹く風。自分は悪くないとでも言わんばかりの態度だ。

 

「そんじゃ、皆さん。出発しますぜ!」

 

「あ、うん!お願いね、ヴァイス君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくすると、ヘリの窓から貨物車が見えてきた。あれが問題の貨物車両なのだろう。

 

「ヴァイス君、私も出るよ。フェイト隊長と二人で、空を抑える」

 

 なのははヴァイスに向かって言う。

 

「うっす。なのはさん、お願いします」

 

 なのはにサムズアップして、ハッチを開く。

 なのははフォワード四人の方を向き、

 

「それじゃあ行ってくるけど、皆も頑張って、ズバッとやっつけちゃおう。――宗二君も、頑張ってね?」

 

 宗二はなのはの言葉に反応する事なく、ピンク髪の少女を見つめていた。

 

「あ、あの⋯⋯」

 

「――怖いか?」

 

「え、えっと⋯⋯?」

 

「独りになるのが、怖いか?」

 

 いきなり宗二に話し掛けられた少女は恐怖により戸惑っていたが、なんとか応えを絞り出す。

 

「――はい、怖いです。独りになるのが、失敗するのが、迷惑をかけるのが」

 

 そう言い震える少女の頭に手を置く。不意を突かれて顔を上げた少女の目には涙が浮かんでいた。

 

「新人ってのはな、失敗するもんだ。迷惑をかけるもんだ。それは、新人にだけ許された特権ってやつだ。たとえお前が失敗をして、迷惑をかけても、誰もお前を責めたりはしない。お前が独りになる事は無い。安心しろ。お前はただ、自分の出来る事を、全力でやればいい」

 

「はい」と、そう言いかけて、少女の口は結ばれた。まだ、不安は取り除ききれていないのだろう。

 

「まだ怖いか」

 

 呟いて、少女に目線を合わせる。

 

「ふにゃっ!?」

 

 宗二は少女の柔らかそうな頬を引っ張る。

 

「前だけ見てろ、背中は守る」

 

「――っ!はいッ!」

 

 宗二の一言に背中を押され、笑顔になった少女を見て、なのはは嬉しそうな、寂しそうな顔をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⋯⋯なぁ、ヴァイス。俺も飛ぶのか?」

 

 リインが五人に今回の任務の説明をし、二人ずつ貨物車に飛び移った後、宗二の順番となったのだが、その宗二が中々飛ぼうとしないのだ。自分の意思で魔法を使えず、飛行する事も下降速度を減速する事も出来ないのだから、怖いのは仕方が無い事なのだろう。

 その宗二を見て、ヴァイスはにやりと笑い、

 

「勿論」

 

 宗二は後頭部を掻くと、

 

「あんま高いの得意じゃないんだが――なっ!」

 

 言いながら、貨物車目掛けて跳ぶ宗二。着地する際、着地点がへこんでしまうがしょうがない。

 

 貨物車の中からガジェットが出てくる。と同時に、ガジェットに近づき拳で貫く。

 

(⋯⋯こいつは)

 

 違和感。ガジェットを貫いた瞬間から生じた身体の重さ。それは疲労や緊張などといったものでは決してない。

 

(アンチ・マギリンク・フィールド。魔法を阻害する魔法、だったか?)

 

 なるほど、納得である。常時身体強化を行ってしまっている自分のその魔法を阻害していると。だがしかし、倒せない訳では無い。この拳で一撃で貫けるのなら、やれる。

 

「さて、あいつにああ言ったはいいが⋯⋯。何処にいるんだ?」

 

 宗二が周りを見渡していた時、

 

「エリオ君ー!」

 

 叫びながら貨物車を飛び降りる少女が見えた。

 一瞬焦りかけた宗二だが、大型ガジェットを見て成程と思う。

 

(AMFから離れれば、ちゃんと魔法が使える様になる。――守る必要ねぇかもな)

 

 少女に安堵した直後、背後で殺気を感じた。

 すかさず飛び退くと、宗二がいた場所は、焼け焦げていた。それをやったであろう人物を睨みつける。黒髪黒瞳、三白眼。長身痩躯の印象があるが、ただ細いだけでなくしっかりとした筋肉が付いている。ナイフを手に持ち、人を馬鹿にしたかのようにニヤニヤと口角を吊り上げている、黒い全身タイツの様なものを着ている男。

 この男は、ガジェットを動かしている人物と繋がりがあるのだろうか?

 

「誰だ、お前」

 

「名乗る名前かぁ。僕の名前なんか忘れちゃったなぁ。――あぁそう言えば、あの世界じゃ僕ってこう呼ばれてたんだよね」

 

 すると男は、凶悪で残虐で残酷で非情で非道で外道な笑みを浮かべると、

 

「――腸喰い」

 

「ッ!?」

 

 聞いたことの無い名前である。そんな気持ちの悪い名前、一度聞けば忘れる筈も無い。

 

「んんー。美味しそうな臭いがして来たんだけど、この臭いは何処かなぁ?ねぇ、君は知ってる?」

 

 腸喰いは、鼻をヒクヒクと動かし、臭いを嗅いでいる。

 

「――なんの話をしてやがる」

 

「何って、この凄くいい臭いの、腸の話だよォ!」

 

 危険。こいつは危険だと、全身が警告する。こいつをここで止めなければ、被害が増える。

 

「気持ち悪ぃ事、言ってんじゃねぇッ!」

 

 咆哮と同時に接近。宗二が拳を振れば、空を殴る。腸喰いがナイフを振れば、血飛沫が舞う。次、宗二の足は腸喰いの鳩尾へ。腸喰いの投擲は宗二の肩へ。武器を投げればもう無いだろうと宗二が腸喰いへ間を詰めると、腸喰いはどこからか取り出したナイフで宗二の腹を切る。間一髪、反応できた宗二は後ろに跳ぶ事で、傷を浅くする事が出来た。腸喰いは、獲物は一つでは無いぞとでも言わんばかりに、ナイフを幾つもどこからともなく取り出し、ナイフでジャグリングをし始める。

 

「君の腸は美味しいかなぁ?あんまり臭って来ないんだよねぇ」

 

 宙に浮いたナイフを一度で全て指で挟み、

 

「――まぁ、見ればいいよねぇ」

 

 凶悪で残虐で残酷で非情で非道で外道で残忍な笑みを浮かべた。次は腸喰いが間を詰める。全部で六本のナイフで切りつける。宗二は躱しながら、隙を窺う。窺っているのだが、この男、隙がない。フラフラしている様に見えるそれは、相手を誘い出す罠。危なく引っ掛かりかけた宗二は一度体制を立て直そうと、後ろに飛び退く。

 この後宗二は安堵する。ここからガジェットが出て来たから。

 

「んん?なにこれぇ?」

 

 腸喰いは、特に驚いた様子も無く、ガジェットを切り裂く。

 その様子に宗二は眉根を寄せる。

 

(ガジェットを攻撃⋯⋯。少なくとも、これを動かしている奴との繋がりは無い、か?)

 

 だからといって、自分に攻撃して来た者を逃がす程馬鹿ではない。

 

「ねぇ君。これ何か知ってる?こいつが出て来た瞬間、身体が重くなったんだけど」

 

 腸喰いの言葉を無視して、腸喰いにローキック。これは避けられたが、桜色の球体が腸喰いに命中する。

 

「宗二君!」

 

 それを放った本人、なのはが宗二の元に降り立つ。

 

「大丈夫?宗二君」

 

「⋯⋯」

 

 宗二はなのはに応えること無く、倒れた腸喰いを見つめていた。

 

「宗二、君?」

 

「――目を離すな」

 

 宗二の言葉にハッとなって、なのはも腸喰いを見る。腸喰いは、糸に吊るされた人形の様に起き上がり、凶悪で残虐で残酷で非情で非道で外道で残忍な笑みを浮かべた。

 

「――君だったんだぁ。このいい臭いはぁ」

 

 なのはも宗二も戦慄する。不気味。気持ちが悪い。そんな言葉では片付けられないほど、不可解な存在だと、二人は認識した。

 

「あぁ、でもぉ⋯⋯。これじゃぁ分が悪いなぁ。――出直すよぉ」

 

 そう言って、貨物車から飛び降りた。

 

「ま、待ちなさい――」

 

「追うな」

 

 なのはが腸喰いを追おうとするのを、宗二が止めた。

 

「――あいつには関わるな」

 

 その表情は、今まで敬遠していたときのものではなく、一人の管理局員として警告をしているものだった。なのでなのはは小さく頷き、宗二と共にヘリへと戻る。

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