ハリー・ポッターと椿の聖母   作:よもつ

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 学祭準備の合間を縫って書きためております四方津です。
 早くアズカバン編が書きたいんじゃー

11月12日 カメリアさんの名前を修正しました。


1.さようなら日常

 ハリーと私に何やらお手紙が届きました。今どき珍しい羊皮紙の封筒にシーリングワックス―封蝋で綴じられた中世ヨーロッパチックなお手紙。しかも住所に部屋の位置まで書いてあるとか一体ドウイウことなの。なんで私の部屋が東の角部屋だって知ってるの、この手紙を送ってきた人。悪戯かストーカー被害かしらと表裏をひっくり返し、慎重に封を解く。剃刀が出てくるのか虫の死骸が出てくるか、それとも視線の合わない写真がはいっているのかしら。どきどき。

 

 

「――なあに、これ」

「ホグワーツ魔法魔術学校……?悪戯かな?」

 

 

 封筒の中から出てきた二枚の羊皮紙を読んでびっくり、なんと中身は【ホグワーツ魔法魔術学校】からの入学許可書だったのです。悪戯確定ですねわかりま……ちょっと待てよ?

 

 そういえばこの家、ちょこちょこ超常現象起きてない?ハリーが泣いたらグラスが割れた赤ちゃんの頃。奇妙に成長の早い、私の部屋の観葉植物。そして極めつけに、私とダドリーの誕生日に行った動物園で起こった窓ガラス消失事件に、私の異常なまでの動物ホイホイ体質。この二つが合わさるとただのカオスだった。何で私についてくるんだお散歩タイムのペンギンたち。ライオンさん、窓ガラス越しにスリスリされても困ります。蛇さん脱走ついでに私にまとわりつくのやめよ?ママ上が発狂しそうだったよ?

 

 あ、私の周りだけちょっとしたパニック映画の様相を呈していたせいで聞くのが遅れたが、どうやら蛇と会話ができたらしい、うちの息子(ハリー)。動物全般と話せるわけではないと言っていたが、蛇と話せるとか十分不思議だと思うんだな、(マードレ)。え、私のホイホイっぷりも大概だって?それを言うのはやめて。オーケィこの話はなかったことにしましょうハリー、私も貴方も傷つくだけだわ。

 

 

「……ハリー、本物かしら?」

「正直心当たりがありすぎて否定できない」

「わかる」

「……とりあえず、おじさんとおばさんに報告しようか」

「そうしましょうか……」

 

 

 ハリーと二人、朝にふさわしくない低めのテンションでのろのろとリビングに向かうと、新聞片手にモーニングティーを楽しむ父が爽やかに目を細めた。ワァイ今日もハンサムダナァ、HAHAHA。現実逃避ですって?自分が一番理解しているわ!

 

 

「おはよう、メリー、ハリー。どうした、ずいぶん沈んでいるじゃあないか。何かあったのか?」

「おはようパパ、早速だけどこれを見て」

「な、それは――チュニー!ペチュニア!ちょっといいか!」

 

 

 おや、これは何かしら知っている反応だわ。私の手から抜き取った手紙を持ってキッチンに駆け込む父を見送り、何が起きたのかよく分かっていないダドリーに、ハリーへの手紙を見せて説明する。細かいことは知らないけど私とハリーは魔法使いなんですって。へー、まほうつかい……魔法使い?!嘘でしょすごいじゃん!じゃあ猫と話せるの?僕、蛇となら話せたよ。というか、なんでピンポイントで猫?ジャパニーズ・アニメーションで魔女の話があったんだよ、すっごく面白かったぜ。知ってる!カメリアが友達と見に行ったやつでしょ?確かビデオが発売されていたはずよ、今度買ってもらいましょうか。いいな、それ。わ、僕楽しみだなぁ。

 

 気付いたら黒猫の魔女子さんの話に移り変わっていたが特に問題はない。ダドリーとハリーが楽しいなら私は満足である。あははうふふと暢気に姉弟で戯れていたら、死人と見紛うほどに顔色の悪い母を伴って父が戻ってきた。ちょ、何事。ママ上体調悪いの?大丈夫?ベッド整えてこようか?パン粥かミルク粥か卵粥作ってくるよ?

 

 

「あー、メリー。ママはお前がそばに居る方が気分が良くなる。ここに居なさい。三人とも、まずは朝食にしよう。その後に、ハリー、お前の両親の話をせねばなるまい」

「ぼ、僕の両親?交通事故で亡くなった?」

「その辺のこともあわせて、だ。少し早いが、真実を話すときが来たようだからな」

 

 

 若干お通夜ムードで、もそもそとイングリッシュ・ブレックファストを頂く。空気が重くても美味しいのがイギリスの朝食・・・・・・うまうま。ブラックプディング(ブラッドソーセージ)は癖があるけど、食べ慣れるとなかなかどうして良いものだわ。ハリー、目の前のオレンジジュース取ってもらえる?ありがとう、貴方もう少し食べなさいな……え、私が食べ過ぎ?そうかしら、パパと同じくらいでしょう?成人男性と同じ量……言われてみればその通りだわ。カロリーの消費をせねば、あとでダドリーと一緒にスパーリングしよう。久しぶりに道場に顔を出してもいいわね、師範に稽古をつけてもらおうか?

 

 

「きょうだいの仲が良いのは素晴らしいが、本題に入って良いかね、レディ?」

「あら、ごめん遊ばせ?どうぞ始めて頂戴」

「では、遠慮なく。ハリー、お前のご両親は、どちらも魔法使いだ」

「魔法使い!僕のパパとママが?」

「ええ、そう。お前には、今まで嘘をついていたわ、ハリー。あの二人は事故で亡くなったのではないの。殺されたのよ、悪い魔法使いにね」

 

 

 衝撃の真実。ハリーの両親は魔法使いで悪い魔法使いに殺されてしまったそうだ。いままで本当のことを教えなかったのは、ハリーに余計な心労を与えないためらしい。この手紙さえ来なければ、一生秘密にしておくつもりだったと、父は言った。出来るだけ危険から遠ざけて育てたかった、普通の子どもとして日の当たる人生を歩ませたかった、と。

 

そうだね、言い方は悪いけれど、交通事故で親を亡くしたのならまだ諦めもつく。何トンもある鉄の塊にぶつかられたら、人間はひとたまりもないって子どもでも分かるから。けれど殺されたのなら話は別だ、人を殺すのは武器ではなく、人なのだから。悲しみ犯人を恨むだけならマシ、最悪は復讐に手を染めてしまう。

 

 目には目を、歯には歯を。そして、死には死を持って償いを。復讐心は、憎悪は、薄れることがない。それは生半可な思いでは太刀打ちが出来ない、強烈な感情であるが故に。父と母は、きっとそれを恐れたのだ。ハリーが復讐に取り憑かれることを恐れたのだ。だから、真実を隠した。

 

 

「けれど、手紙が来てしまった。最悪なことに、カメリアにまで!何が悲しくてうちの子どもたちを危険なところに放り込まなければならないんだ!」

「ねぇ、メリー、ハリー。逃げましょう?大丈夫よ、貴方たちのためなら地の果てまで逃げ切ってみせるわ」

 

 

 白い肌を赤く染めて怒りをあらわにする父。青白い顔で微笑んでみせる母。二人とも、私たちを思いやって言っている。だがしかし、だ。本当に私たちが魔法使いであるならば、私たちはその【ホグワーツ】とやらに行かねばなるまい。魔法をコントロールする術を身につけなくては、いつの日か両親やダドリー、友人を危機にさらしてしまうことだってあるだろう。

 

 同じ考えに至ったのか、心配されて嬉しそうだったハリーの頬がざっと血の気を失った。そうよね、パパとママを吹っ飛ばしたり消し飛ばしたりはしたくないわね。でも、説得にはだいぶ骨を折りそうな予感がするわ特にママ上。泣かれる覚悟だけしておこうかしら。そうだね、僕も手伝うよ、頑張ろう。ハリーと目線で会話して、ひくつく口元を引き締める。さて、お話ししましょうマイ・ペアレンツ。腹をくくって口を開こうとした、そのとき。

 

 

「メリーとハリーはホグワーツに通わせるべきだよ、パパママ」

「な、ダドリー?!」

 

 

 まさか、ダドリーの援護だと。母の隣に座る弟を見ると、青い瞳は真っ直ぐに私とハリーを見つめていた。心配と、決心が強くにじむサファイアが朝日を浴びて輝いている。

 

 

「ハリーのご両親は悪い魔法使いに殺されたんでしょ?じゃあ息子のハリーやいつもそばに居るカメリアが狙われる可能性だってあるよ。自衛のためにも魔法を学ぶことは必要だ、きっとね」

「でも!」

「やめるんだペチュニア。そうだなダドリー、お前の言う通りだ。私たちは少し考えが先走りすぎていたようだな。メリー、ハリー、お前たちはどうしたい?望むのならば、どこまでも逃げよう。望むのならば……ホグワーツにも通わせよう」

 

 

 驚いた。普通を愛する父が、魔法を学んでも良いと言ったこと。すでに進学する中学校だって決まっているのに、名門の中の名門と呼ばれるそこを蹴って、ホグワーツに通っても良いと言ったこと。自分の子どもが、自分の嫌う世界に飛び込むことを許したのだ、あの父が!嫌いなものはトコトン嫌う、あの父が!

 

 父に縋りつき取り乱す母は、ただただ心配なのだろう。頭では、私たちに自衛のすべが必要だとわかっているのだ。しかし、心はついて行かない。たった一人の妹を殺した、未知の世界に、愛娘が飛び込む。腹を痛めて生んだ我が子が、わざわざ死にに行くように感じてしまうのも無理はあるまい。私だって、同じ状況に陥ったら泣き落としてでも止めるわ。

 

 けれど、私は。私は学びたい。母の思いを踏みにじることになる。心配を、足蹴にしてしまうことになる。それでも、学びたいの。

 

 すべては、私のために。私が、家族を守るために。

 

 

「パパ、ママ、お願い。私を、魔女にさせて。魔法を学ばせて頂戴」

「僕もお願いします、おじさん!ホグワーツに通わせてください!」

「……フー、分かった。お前たちの望むように、学んできなさい。一般家庭には学校から個別で説明があるそうだ、7月末の日曜日は予定を空けておくように。……ハリーの誕生祝いはその次の日曜だな」

 

 

 悲嘆の声をあげて崩れ落ちた母を抱え、父は困ったように笑った。両親が寝室に引き上げてしまえば、残るのは3人姉弟と綺麗に食い尽くされた朝食の皿くらいのものである。むう、カフェオレが冷えてしまったわね。これはこれで美味しいし、まいっか。今日の朝ご飯も美味しかったわママ、お昼は和食が食べたい。たぶんママは復活できないだろうから、冷やし中華でもつくろうかなー。

 

 

「ねえ、カメリア。もう一回手紙見せてよ」

「あら、良いわよ。その前に食器片付けてくるわ、少し待っていてね」

 

 

 ぱぱっと手早く洗った食器やグラスを乾燥機に入れ、リビングに戻る。ソファに座る2人の間に腰を落ち着かせて改めて手紙を手に取った。世にも珍しいエメラルド色のインクで私の名を綴った封筒から羊皮紙を引き出し、開けば。

 

 

 ――親愛なるカメリア=P・ダーズリー様

 

 この度ホグワーツ魔法魔術学校にめでたく入学を許可されましたこと、心よりお喜び申し上げます。教科書並びに必要な教材のリストを同封いたします。

 新学期は9月1日に始まります。7月31日必着でふくろう便にてお返事をお待ち申し上げております。

追伸

 来る7月末の日曜日、ホグワーツより教職員が説明に参ります。是非ご家族で予定を組んでくださるよう、お願いいたします。また、お返事は訪問いたしますものに直接くださっても差し支えありません。

 

 敬具 副校長 ミネルバ・マクゴナガル

 

 

 美しい筆記体の流れが紙面を踊る。ああどうしよう、今更震えが走ってきたわ。生まれ変わったってだけでも驚嘆ものなのに、その上魔法使いになれる?まるで夢でも見ているようだわ、実は植物状態で眠りこけている【私】が描いた幻想なんじゃあないかしら。

 

 ああ、でも。不安なのはハリーも同じか。

 

 

「カメリア、僕、本当に魔法が使えるようになるかなあ」

 

 

 眉を下げて、どこか楽しそうに囁いた愛し子の頭を抱き寄せ、さらさらと髪を梳いてやる。大丈夫、大丈夫よ、きっとなんとかなる。貴方に流れる血は一滴残らず純粋な魔法使いのものだから、その血がすべて教えてくれるでしょう。

 

 

「それでも駄目なら、私も一緒に退学になってあげる」

 

 

 そう言ってハリーと笑い合っていたら脇腹にダドリーがくっついた。どうやらお拗ねになっているご様子である。

 

 ごめんて。すぐ構うから。




 カメリアさんに入学許可証が届いたようです。
 ホグワーツのママとして崇め奉られる日も近い。
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