あのですね、学祭と研修とレポートがだだ被ってですね、あの……申し訳ない。
やって参りました、7月末の日曜日。本日はホグワーツ魔法魔術学校より現役の先生が説明にいらっしゃる日です。ダーズリー家は朝からみんなそわそわしています。具体的に言うとママ上が食器を3つおしゃかにし、パパ上とダドリーがシャドーボクシングを始め、ハリーは軽いストレッチをしています。落ち着けよ特に男性陣、本当に落ち着け。大会じゃないわよと。
「まあまあ、とりあえず座りましょうみんな。リラックスよ、リラックス!」
「カメリアのお茶飲んだら落ち着くよ……たぶん?」
「ウーン心配になってきたぞぅ!気休めになるか分からないがいれてくるね、座ってお待ちなさいなハリー」
とうとうハードめのメニューに手を出してしまったハリー。大会前じゃないんだからその闘志はしまい込みなさい。ママはお皿を置いてソファーで待っててね、4つめの被害は出したくないわよ。パパとダドリーはスパーリングするのやめて、なんでだんだんガチになるの。
熱くなる野郎どもをなだめ、心配すぎて具合の悪そうな母を励まして、私はようやくキッチンにたどり着いた。なんだかすでに一日分の元気を使ったような気がするわ、
さて、ヤカンを火に掛けてガラスのティーポットを用意して……おや、インターホンが鳴ったぞ、もしかしていらしたのかしらん。
「ダドリー、火元を見ていて頂戴。パパ、お迎えにでるわね」
「頼む。ハリー、お前も行ってこい」
「はい、おじさん!」
てこてこ駆け寄ってきたハリーと仲良く手をつなぎ、玄関のドアを開ける。扉の向こうには、厳格そうなおばあさんと、サンタクロース髭のおじいさんが。……え、魔法使いに定年って言う概念はないの?どう見ても60歳超えてますよねお二方。隣でぽかんとあごを落としたハリーのお口を強制的に閉じ(舌を噛んだ?そりゃごめんネ)、にこにこ微笑むおじいさんと気持ち表情が柔らかくなったおばあさんを招き入れる。ささ、お入りくださいまし。ママ上に魔法の話をして、安心させてあげて。いまにも倒れそうな顔してるから。
「こんにちはハリー、カメリア。こうして会うのは初めてかの?」
「ええ、少なくとも私の記憶のなかでは。初めまして、カメリア・ダーズリーです」
「僕、ハリー・ポッターです。初めまして、先生!」
「ほっほっほ、元気が良いのう、ハリー。君はお父さんにそっくりじゃ……瞳の色だけはお母さん似じゃの。カメリアの綺麗な赤毛は、ハリーのお母さんとおそろいじゃ」
朗らかなおじいさんはホグワーツの校長、アルバス・ダンブルドアさん。ミドルネームまでいれると長すぎて覚えきれなかったことは内緒です。べ、別に脳が老化してるわけじゃないし。で、きりっとしたおばあさんが副校長のミネルバ・マクゴナガルさん。入学許可証を書いてくれた人だ、字は人をあらわすものだなあ。
終始るんるん気分のダンブルドア先生と、緩みそうな表情を必死に引き締めているマクゴナガル先生をお連れして、リビングへ行く。父と母はなんとか平静を取り戻したようだ、まあ若干髪が乱れたり口紅がずれたりダドリーが酸っぱい顔をしていたりするが。なるほどいちゃついてママ上を正気にしたのね、それはパパ上にしか出来ないわ。
「パパ、ママ、お連れしたわ。お茶をいれてくるわね」
「お願いね、カメリア。さあ先生方、どうぞお掛けになって」
「ありがとうミセス、突然お伺いして申し訳ないですのう。お詫びと言ってはなんじゃが、魔法界の菓子を持参しましたのでの、後でご家族と楽しんでください」
「まあ、ご親切にどうも」
微かに緊張を孕ませた空気を背に感じながら、途中で止めていた準備を再開する。ポットにお湯を入れ暖めている間に追加のカップを出し、そっちにもお湯を注ぐ。ポットのお湯を捨て人数分のハーブとリンゴ、オレンジの皮をいれたら、沸騰間近の熱湯を注いで素早くふたを閉めた。熱いお湯はハーブの成分をたくさん抽出してくれる、らしい。専門店に行ったときにもらったリーフレットに書いてあった。
茶こしで細かい茶葉を除きながら温まったティーカップにハーブティーを注ぐと、甘く爽やかな香りがふんわり広がる。本当ならハーブだけでも十分なのだが、子どもにはフルーツの甘さがある方が取っつきやすいだろう。比較的くせのないジャーマンカモミールを用いたとはいえ、独特の風味がある。後は各自、お砂糖か蜂蜜で甘さの調節をしてほしい。
「Mr.ダーズリー、儂は貴方に、大きく感謝している。普通を愛する貴方が、ハリーを立派に育て上げてくださった。とても素晴らしいことじゃ」
「その礼はカメリアに言ってやってくれ、私たちはあの子の愛にうごかされただけだ」
「それは……一体どういう意味です?」
「Mrs.マクゴナガル、あの子は昔から聖母のような娘だったんだ。物心ついた頃には夜泣きをするハリーをあやして寝かしつけていたし、言葉を覚えればマザーグースの子守歌をうたってやるような……そうだな、
「自分のかわいい子が自分のこともそっちのけでハリーを愛していたのよ、もう変な子嫌いなんていってられなくなったわ」
「ああ、そうだな。私たちは【カメリアが愛する】ハリーを愛し始めたのが最初だ。最も、今では我が子と変わりないがね」
そりゃ自分のことも後回しに世話するわ、あの頃はネグレクト気味だったもんうちの両親。大人がやらないんなら
そういや、このお茶どうやって運ぼうか?さすがに持ちきれないよなあ、ダドリーでも呼ぶかなあ。大きなトレーに乗っけた6つのカップを見て、思考を巡らせてみる。ケーキのお皿は……よし、浮かせられる。じゃあ、カップのお盆もいけるかも。ちょっと、三倍強くらい重いだけだわ、やってみよう。む、うむむむむむむむむ……っしゃ、浮いた!、後は運ぶだけ……!
「むむむむむ……お茶がはいりましたよーう!」
「まあ!メリー貴方危ないわよ!ダドリー、カップのトレーを持ってあげて?」
「うん、ほらメリー、貸して?」
「ありがとうダドリー。もうこの子ったら、いつもはしないことをなんでし始めたのかしら!心配でママの心臓が止まってしまうところだったわ!」
「ごめんねママ、ケーキのお皿が浮かせられたら、少し気になってしまって。ダドリー、ありがとうね」
「あんまりママや僕を心配させないでよね、
つ、疲れた。ほんの10mくらいがめっちゃ長く感じたわ、はじめて意識的に魔法を使ったせいかもしれないわね。額にこさえた汗を腕でぬぐい、ダドリーとハリーの間に身体を収める。あ、タオル?ありがとねハリー。さっきのは何かって?浮かべーって念じたら浮いたよ、死ぬほど集中力がいるし疲れるからコスパは悪そうだけど。ハリーも出来るんじゃあない?後で小枝あたりを使って練習してみましょうか。
「カメリア……君はとても大きな才能を持つ魔女じゃな」
「え?ものを浮かせるなんて、きっと誰でも出来ることでしょう?」
「いいえ、Ms.ダーズリー。杖無しでの魔法の行使というのは本当に難しいことなのです。人間が行うにはあまりにも膨大な魔力と驚異的な集中力を必要とします……魔力の暴走であれば杖無しでものが浮くなどはよくあることですが、貴女の場合、任意のものを的確に浮遊させている。これは完璧な魔法です!」
突如テンションがあがったマクゴナガル先生に両手をとられた。なんでも、全魔法使いのトップ1%の中でも特に優れた1%だけが杖無しの魔法を行使できるそう。いや偶然だと思いますよ、何だっけ、ビギナーズラック?だって今まで魔女っぽいことはあまりしたことがないし、あったとしても精々植物の生長が早くなるくらいだし?ローテーブの花瓶から抜き取った、白いバラの蕾にふぅと息を吹き込み満開にして差し出せば、マクゴナガル先生は少女のように頬を染めた。おっとかわいいぞ、このばあちゃん。
「まあ、私が天才だろうが凡才だろうが、
「ほっほっほ、大人らしい子かと思えば、なかなかどうして好奇心の強い子じゃ!よかろう、なにから話そうかの……?」
それから2人は、いろいろな話をしてくれた。魔法族と
マクゴナガル先生が貸してくださったクヌート銅貨やシックル銀貨、ガリオン金貨を弟たちと協力して積み上げながら、両親が校長先生に投げかける問いに耳を傾ける。ふむ、こっちの紙幣は魔法通貨と両替出来るのね……学校のセキュリティは魔法界最高?セコムしてるのかしら……あれ、セコムはもうあるのかな?学校の安全は校長先生の魔法障壁で守られている……ファンタジーかな?
あ、そうだ。
「ダンブルドア先生、ホグワーツに通いながらマグルの勉強ってできますか?」
「ほう、カメリア。君はマグルの教育も受けたいのかね?」
「ええ。私、保育士になりたいの!そのためには必要なことでしょう?」
「その年で明確な目標を持つか!素晴らしい女性じゃのう……しかし、茨の道になるぞ?きっと血がにじむような努力が要る」
「覚悟の上です。私が望んでそう【成る】のですから」
「……まこと、君は素晴らしい。それほどの情熱があるのならば、儂はもう止めんよ。ご両親とよく話をしなさい、どうなるにしろ、ホグワーツは君を全力で応援する。さてミネルバ、そろそろお暇するとしようかの」
「はい。カメリア、美味しいハーブティーありがとうございます。ガトーショコラも、よく焼けていました。貴女はきっと、良い母に成りますね」
絶賛母とお母さん業を分業しているなど言うまい。私は大人っぽいだけの11歳女児なのです……ただのおませさんなのです……中身は三十路ではありません……どうか気付かないでくれ……。私の祈りが通じたのか、マクゴナガル先生は柔らかく目を眇めると、私とハリー、ダドリーの頭を撫でて校長先生の後を追っていた。あ、お待ちになって、お土産にマンダリンオレンジのプチタルトを持っていって。
「先生、私たちの娘と、リリーの息子を、よろしくお願いします」
「確かに、頼まれました。大丈夫じゃ、2人とも優しく、賢い。貴方がたの教育のおかげじゃろう」
……や、やめて。そんな温かい目で見るのやめて。恥ずかしいわ。じんわりと熱を持った耳を髪で隠し、お二人にケーキ箱を押しつける。未だ微笑む先生たちの視線に耐えかねてダドリーの背に逃げ込むと、弟と従弟は苦笑いして頬を撫でたり耳をくすぐったりしてくださった。悪戯するのもやめて!
「そうじゃ、忘れておった!ハリー、カメリア、7月31日に学用品を買うために人を寄越そうと思うのじゃが。予定はあるかね?」
「ない、と思います。おじさん、どう?」
「誕生祝いは次の日曜日だ、その日は何もないぞ。だが、夕方には戻るんだ。誕生日のディナーくらいはできるからな」
「はい!だそうですダンブルドア先生!」
「ほっほ、仲の良い家族だの!よろしい、では31日の10時に。ではまた、入学式で会おう、魔法使いの卵たち!」
「ではハリー、カメリア。貴方がたが我がグリフィンドール寮に入るよう、願っています」
そう言って、2人はパチンと音を立てエントランスから消えてしまった。わあお、ファンタジー!
拙作のダーズリー家は本当にクリーンです。
きっとカメリアさんが空気清浄機の機能を保持しているのでしょう。
カメリアさんの中の人は割とキャラがぶれます。そして考え方が若干脳筋です。レベルをあげて物理で殴るタイプ。
聖母一辺倒なら、たぶん武道を修めることはなかったでしょう。