脊髄反射で書く朝潮型短編集   作:哀餓え男

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満潮の逃避行

 私の名前は満潮。

 朝潮型駆逐艦の三番艦よ。

 過去の大戦で沈んだはずのに、気がついたら艦娘として第二の生を与えられていたわ。

 

 最初は戸惑ったなぁ。

 だって、船だった私に手足がついてるのよ?しかも、幼女と言ってもいいような年頃だし。

 他の駆逐艦も似たような年頃だから、船だった頃の大きさが関係してるのかしら。

 あ、そうだ。関係してると言えば、船だった頃の出来事が影響してるのか、私は他の子達と比べて素直じゃない。

 着任した時なんか司令官に、『私、なんでこんな部隊に配属されたのかしら』って言っちゃった。後で朝潮姉さんに注意されたけどね。

 

 聞くところによると、私はツンデレってやつみたい。

 同型艦の霞と、綾波型の曙と合わせて『駆逐艦のツンデレ四天王』とか呼ばれてるらしい。

 四人目は誰よってツッコミたいところね。たぶん叢雲辺りでしょうけど。

 

 そんな私も、艦娘になって早四年。

 色々危ない目にあったけど、今私は、その中でも最大の危機に見舞われている。

 危機とは言っても、べつに死にかけてるわけじゃないわ。今いるのは戦場じゃなくて鎮守府だけど。10を軽く超える艦娘達に追い回されてるの。

 なぜ追い回されてるのかと言うと……。

 

 「追い詰めたわよ満潮!大人しくお祝いされなさい!」

 

 「怯えさせてはダメよ山城。これでは私達がイジメてるみたいに見えるわ」

 

 私を壁際に追いつめて、扶桑型姉妹の二人がそんな事を言いながらジリジリと距離を詰めてくる。

 

 これで私が震えながら泣いてたら、扶桑が言ってる通り本当にイジメられてるみたいに見えるかもね。

 もしくは誘拐されそうになってるか。

 

 「お祝いなんてしなくていいって言ってるでしょ!改二改装ができるようになったくらいで、みんな大袈裟なのよ!」

 

 そう、私はお祝いされそうになっている。

 大本営から発表された私の改二改装を祝して、朝潮姉さんを筆頭に、姉妹達と西村艦隊のメンバーがお祝いパーティーを計画している事に気づいた私は、祝われる前に逃亡したの。

 そしたらみんなして私を追いかけ始めてさ。

 おかげで、せっかく出来るようになった改二改装もまだ受けれてないわ。

 

 「大袈裟なんかじゃないわ!改二なのよ?待ちに待った満潮の改二なのよ!?これが祝わずにいられますか!姉様もそう思いますよね!」

 

 「その通りよ山城。この日のために、常日頃から主砲で花火を撃ち出す練習をしてたのだから」

 

 いや、何の練習してんのよ。アンタら戦艦でしょ?

 数が多い駆逐艦より、数が限られてる航空戦艦のアンタ達の方が出番多いでしょ。

 花火を撃ち出す暇があったら敵を蹴散らしなさいよ。

 

 「満潮、もしかして改装を受けるのが怖いの?大丈夫よ。天井のシミを数えてる間に終わるから」

 

 「姉様、セリフの使いどころがおかしい気がします」

 

 「あ、あらそう?やだ、私ったら」

 

 相手してらんない……。

 なんとか逃げる方法はないかしら。一度振り切ってしまえば扶桑達に追いつかれることはないはずだけど、壁際に追いつめられてる今の状況じゃ、そもそも振り切れない。まずはこの包囲を突破しないと。

 

 「あ、そうだ山城。この間買ってた宝くじ結果見た?」

 

 「え?宝くじ?そう言えば買ってたわね。どうせハズレるのに……」

 

 よし、この様子だと結果はまだ見てない。

 ならば!

 

 「山城が買った宝くじ、当たってたわよ」

 

 「嘘!ホント!?い、いやいや、騙されないわよ!私が買った宝くじが当たるわけないじゃない!」

 

 さすがに騙されないか。

 でもね山城、その当たりが現実的な等級ならどう?そう、例えば。

 

 「4等が当たってたわ」

 

 「い、今何と……?」

 

 「4等って言ったの。良かったわね、4等とは言え当選したわよ」

 

 4等で数万円くらいだっけ?

 本当に当たってたら、ちょっと嬉しいレベルかしら。

 

 「山城?ねえ山城?どうしよう、立ったまま気絶してる……」

 

 「嘘でしょ!?」

 

 4等が当たった程度で気絶するとは思わなかった。普段どんだけついてないのよ。普通の人なら精々飛び上がって喜ぶ程度よ?

 

 「ね、ねえ満潮。本当に当たってたの?」

 

 「いいや?全部ハズレ。10枚買って300円すら当たらないって、どんだけ運が無いのよ」

 

 連番で買えば300円は絶対当たるのに、わざわざバラで買ったりするから……。

 

 「ほら、やっぱりハズレだって。だから気をしっかり持って山城。いつも通りハズレよ?良かったわね」

 

 よし、扶桑が山城を慰めてる間に逃げよう。

 って言うか、宝くじ結果一つで気絶するってどんだけ?扶桑の慰め方もどうかと思うけど。

 正直、動揺してくれたらラッキー程度にしか思ってなかったんだけどなぁ。

 

 「おっと!ここから先は通行止めだよ満潮。諦めてボクたちについて来てよ!」

 

 「改二になったらお祝いしなきゃ。こればっかりは譲れないよ」

 

 扶桑姉妹の包囲を突破して鎮守府の玄関から出ると、今度は最上と時雨が立ち塞がった。

 この二人にはさっきみたいな手は通じない。って言うか通じる方がおかしい。

 だけど、アンタ達の攻略法は考えてたわ。

 

 「ちょうど良かったわ!二人を探してたの!」

 

 「「ボクたちを?」」

 

 私は二人の前で足を止め、必死の形相でいかにも『やっと見つけた!』風を装った。

 

 「山城が気絶したの!今は扶桑が見てるけど二人も早く行ってあげて!私も後から行くから!」

 

 「なんだって!?早く行かなきゃ!」

 

 「ちょ、ちょっと待ってよ最上!じゃあ先に行くけど、満潮も早く来てね?」

 

 いってらっしゃーい。

 私は去り行く二人を、冷めた目で見送った。

 二人が仲間思いの良い奴でよかったわ。

 騙しやすかったからじゃないわよ?私は嘘言ってないし。ああでも、後から行くってのは嘘か、このまま何処かに隠れるつもりだし。

 

 そんな感じで西村艦隊の追跡から逃れた私は、鎮守府にいくつかある倉庫の中に入った。

 多少埃っぽいけど、追い回されるよりは遥かにマシね。しばらく、物陰にでも隠れて様子を見よう。

 

 「改二かぁ……。嬉しいことは嬉しいけど……」

 

 第八駆逐隊で改二じゃなかったのは私だけだったから、改二改装が受けれるようになったと知った時は内心、嬉しかったわ。

 なんて言うの?疎外感?的なものを感じてたし……。

 

 「けど、パーティーはやり過ぎよ。そこまで大事にしなくたっていいのに」

 

 朝潮姉さんは、姉妹に何か良い事があると、なぜかお祝いをしたがる。

 朝潮型で始めて改二が実装された霞なんか、礼号組の人達と朝潮姉さんに揉みくちゃにされてたもんなぁ……。終いには讃えられてたし。

 

 「姉妹想いの良い姉ではあるんだけどね……」

 

 だけど、祝われる訳にはいかない。

 今回、私が改二改装を受けれるようになった事で、第八駆逐隊はメンバー全員が改二という異例の事態となった。

 それを聞いた朝潮姉さんの喜びっぷりは、当事者の私が冷めちゃうくらい凄かったわ。

 『これが、朝潮型駆逐艦の力なんです!』とか『よし!突撃する!』とか言って、まだ実装前なのに工廠に私を連れて行こうとしてさ。

 いい迷惑よ……まったく……。

 

 「見つけましたよ!満潮!」

 

 私が物思いに浸っていると、倉庫の入り口から朝潮姉さんの声が響いてきた。その後ろには人影が六つ、まさか朝潮型が全員来てる!?

 まずい、尾行には注意したし、索敵機が飛んでないことも確認して隠れたのにもう見つかった!

 入り口を固められたんじゃ逃げ場がない!

 

 「ど、どうしてここがわかったの?」

 

 「匂いです!この朝潮、満潮の匂いなら、例え地の果てまでも追っていけます!」

 

 犬か!って言うか私ってそんなに匂いキツい!?軽くショックなんだけど!

 

 「さあ、もう逃げ場はありませんよ?大人しく投降しなさい」

 

 「い、嫌よ!投降したら祝うつもりでしょ!西村艦隊のみんなと一緒に揉みくちゃにする気でしょ!」

 

 「ふふふ、甘いですよ満潮。その頭についてるフレンチクルーラーより甘いです」

 

 いや、これ髪の毛だから。

 たまに一航戦の赤い方が齧り付いてくるけど、別に甘くないからね?

 

 「御神輿に乗せて、鎮守府中を練り歩きます!どうです?素敵なプランでしょ?」

 

 「やめて!羞恥プレイにも程があるわよ!拷問と言っても過言じゃないわ!」

 

 霞の時にもやってたやつじゃない!

 絶対に投降なんて出来ない。それで喜べるのは大潮か荒潮くらいのものよ!

 

 「朝潮姉ぇ、それじゃ出てこないよ。私に任せといて」

 

 物陰から少し顔を出して見てみると、朝雲が何やら手に持って朝潮姉さんの前に出てきた。

 アレはまさか……猫じゃらし?

 

 「ほぉ~らぁ♪満潮姉ぇの大好きな猫じゃらしだよ~出ておいで~♪」

 

 猫か!アンタって、私を猫だと想ってたの!?

 ああでも……猫じゃらしの揺らし方が上手いわね。思わず目で追っちゃうじゃない!

 

 「ほらほら~♪ボールもあるよ~♪」

 

 朝雲がそう言って、野球ボール位の大きさのゴムボールを私の方に転がした。

 猫じゃらしで狩猟本能を呼び覚ました後にボールか……。私が本当に猫だったら、アンタの勝ちだったわ。

 けど、私ボールってあんまり好きじゃないのよね。

 

 「ふぅんぬ!」

 

 私は転がってきたボールを掴み、朝雲の顔面目掛けて力一杯投げつけた。

 うん、我ながら見事な投球。朝雲と言う名のミット目掛けて一直線だわ。

 

 「ぶべら!?」

 

 私が投げたボールは、『へ?』って感じの顔をしていた朝雲の鼻っ柱に見事命中。朝雲は鼻血を吹いて背中から倒れた。

 まずは、一人。

 

 「朝雲ちゃんがやられたみたいねぇ」

 

 「朝雲姉さんは…朝潮型の中でも最弱(練度的な意味で)……」

 

 「フン!あんなボールも避けれないなんて、だらしないったら!」

 

 荒潮、霰、霞が順に朝雲を扱き下ろした。

 確かに朝雲は、うちの鎮守府に居る朝潮型で一番練度が低いけど、世の中には朝雲が一番練度が高い鎮守府だってあるのよ?敵に回しても知らないからね。

 

 「次は私が行くわぁ。山雲ちゃん、手伝ってくれるぅ?」

 

 「わかりました~。朝雲姉ぇの仇、取らせてもらいますね~」

 

 次は二人同時か。しかも何を考えてるかわかり辛い荒潮と山雲、相手としては最悪ね。

 

 「山雲ちゃん、アレを」

 

 「はい~。どうぞ~」

 

 荒潮に言われて山雲が取り出したのは、紙ナプキンの上に乗せられた……フレンチクルーラー?いったい何のつもり?

 あ、念のため言っとくけど、山雲が持ってるフレンチクルーラーは髪型的な意味のフレンチクルーラーじゃなくて、ミスターなドーナッツで買えるフレンチクルーラーね。

 凄く……美味しそう……。

 

 「さあ満潮ちゃん、この子(・・・)の命が惜しかったらぁ。大人しく投降してぇ?」

 

 「は、はぁ!?」

 

 え?何言ってるの?荒潮が何を言ってるのかわからない。って言うか何をしてるのかわからない。

 どこからか取り出したナイフを、おもむろにフレンチクルーラーに押し当てて妖艶な笑みを浮かべて私を見てる。

 この子(・・・)ってまさか、フレンチクルーラーの事!?

 

 「い、一応聞くけど……何のつもり?」

 

 「わかりませんか~?人質です~。満潮姉ぇのお友達でしょぉ?」

 

 うん、とりあえず山雲が私にケンカを売ってる事はわかった。

 人質じゃないじゃん。物質じゃん。って言うか友達じゃないし。ミスターなドーナッツに行ったら文字通り売るほどあるわよ。

 

 「どうするのぉ?ほらぁ、切り分けちゃうわよぉ?いいのぉ?」

 

 好きにすればいいじゃない。

 あ、でも、山雲の手を切らないように気を付けてね?それ、ガチのナイフでしょ?なんでそんな物を持ち歩いてるのかはあえて聞かないけど。

 

 「強情ねぇ。じゃあぁ、可哀そうだけどぉ……」

 

 ため息混じりに、荒潮がフレンチクルーラーを真っ二つに切り分けた。

 変な感じね、ただのお菓子が切り分けられてるだけなのに、髪を結ってる部分に幻痛を感じるわ。

 

 「ほらぁ、こんなにクリームが出ちゃったじゃない」

 

 「くっ!」

 

 荒潮がナイフについたクリームを舐め取る光景から、私は思わず目を逸らしてしまった。

 アレはお菓子、私とは無関係。なのにどうして、こんなに胸が痛むの?フレンチクルーラーが切り分けられてるだけなのに、まるで私の体が切られているような錯覚を覚えてしまう。

 

 「もう一回いっとくぅ?」

 

 「ダメ!それ以上その子を傷つけないで!」

 

 荒潮が再度、ナイフでフレンチクルーラーを切り分けようとしたのを思わず止めてしまった。

 酷いわ荒潮、フレンチクルーラーを四つに切り分けるなんて。

 一思いに食べてあげてよ!それは切り分けて食べる物じゃないわ!両手で持って齧り付くのが美味しいのよ!

 

 「早く投降しないとぉ、もぉ~っと細かく切り分けちゃうわよぉ?」

 

 荒潮がニヤニヤしながら、クリームがついたナイフをチラつかせた。

 投降するしかないか……。

 私が投降すれば、あの子がこれ以上切り刻まれる事は……って、山雲の隣にいつの間にか一航戦の赤い方が……。

 

 「あ~~!赤城さんダメですぅ~!」

 

 山雲が気づいた時には遅かった。

 食う母赤城は、フレンチクルーラーが乗った山雲の手ごと口に含んだ。

 恐怖すら感じる動きだったわ。

 こう、なんて言うの?『し』の字を描くように下から山雲の手に噛り付いたその動きは、なびく長髪のせいもあって、赤城さんの顔をした蛇に見えたもん。しかも真顔。

 怖いというより不気味だったわね。

 

 「上々ね」

 

 「上々ね。じゃないですよぉ!人質が無くなっちゃったじゃなぁい!」

 

 「もぅ~!手がベトベトになっちゃった~!」

 

 満足したように踵を返した赤城さんを、荒潮と山雲が文句を言いながら追って行った。

 これで三人、赤城さんには感謝しないと。

 

 「荒潮姉さんと山雲姉さんもやられたか……」

 

 「じゃあ…次は……霰と霞ちゃんが行く……」

 

 次の相手は霰と霞か。

 霰は荒潮や山雲以上に何考えてるかわかんない子だけど、霞は逆にわかりやすい。霰にさえ気を付けてれば勝てる!

 

 「満潮姉さん、話をしましょう」

 

 「話ですって?この期に及んで、何を話そうってのよ」

 

 朝潮型で一、二を争うほど血の気が多い霞が話?

 意外だわ。問答無用で取り押さえに来ると思ってたのに。

 

 「私は姉さんの味方よ」

 

 「はぁ!?今さら何を……!」

 

 「聞いて!私なら姉さんの気持ちがわかるわ!姉さんだって見たでしょ?私が礼号組の連中に祭り上げられてた光景を!」

 

 ええ見たわ。あの地獄の様な光景は今でも忘れられない。

 霞が改二になった時、今回みたいに朝潮姉さんがお祝いパーティを企画し、礼号組もソレに参加した。

 その結果、霞の改二姿を見た礼号組は、輪形陣で霞が怯えるまでお祝いし、お神輿に乗せて鎮守府内を『霞ちゃんを讃えよ!』の掛け声ととも練り歩いた。 

 あの時は霞に同情したわ。完全に拷問だったもの。

 だけどね、霞……。

 

 「だから投降して!私が味方になるから!」

 

 「でもアンタ、私の改二が決まった時、散々煽ったわよね?」

 

 「へ……?」

 

 『嬉しい?ねえ嬉しいでしょ?』とか『ねえ今どんな気持ち?ねえねえねえ』とか言ってさ。

 それだけならまだしも、嬉々として準備を手伝ってたよね?

 しかも、西村艦隊のメンバーに『満潮を讃えよ!』の掛け声を練習させてたし。

 

 「そ、それはそのぉ……。姉さんをからかうのが面白かったからで……って違う!」

 

 「味方のフリして、私も同じ目に遭わせようとしてたんでしょ?」

 

 「ち、違……」

 

 「普段は見れない程ウキウキしてたものね。そんなに私を晒し者にしたかったの?」

 

 考えを見抜かれて悔しそうね霞、準備中の光景を私に見られたのが運の尽きよ。

 むざむざと晒しものにされてたまるか!

 

 「霞ちゃん下がって……後は霰がやる……」

 

 「で、でも……」

 

 「下がって……」

 

 次は霰か。

 何をしてくる気なのかしら……。

 

 「満潮姉さん……」

 

 「な、なによ!」

 

 真顔で霰が見つめてくる。

 正直、この子苦手なのよね。

 話しかけても訳わかんないことばっかり言うし、気づいたら後ろに立ってる事もあるし。

 

 「んちゃ」

 

 ほらこれだ。

 挨拶のつもり?会話のタイミングが人とズレてるのよね、この子。

 

 「満潮姉さんは…嬉しくない……の?」

 

 「何がよ、お祝いパーティー?嬉しいわけないじゃ……」

 

 「霰だけ…改二じゃないよ?」

 

 は?アンタだけじゃないでしょ?朝雲と山雲だって改二じゃないじゃない。

 まあ、あの二人はなぜか冬服が支給されたけど……。

 

 「霰だけ……改二じゃないんだよ?」

 

 「いや、だからアンタだけじゃ……」

 

 「霰だけ…。なんだよ?」

 

 う……霰から妙な迫力を感じる……。

 なんでこの子が、自分だけ改二じゃないと言うのかわからない。

 ええ、わからない。全くわからないわ。絵師的な問題とか全っ然わかんない。

 けど、その内きっと、アンタも改二になれるわよ。

 いつになるかはわかんないけど……。

 

 「だから……お神輿に乗ろ?」

 

 「乗るわけないでしょ!?」

 

 泣き落としで来るのかと思ったけど、全然そうじゃなかった!説得する気あるの?ないよね?単に自分だけ改二が実装されてないのを訴えただけよね!?

 

 「ダメだった…霞ちゃん帰ろ?」

 

 「え?ええ……」

 

 これで五人……で、良いのかしら。

 私何もしてないんだけど……。勝った気が全くしないわ……。

 

 「みんな情けないなぁ。じゃあ次は、大潮がいっきまっすよー!」

 

 次は大潮か。朝潮姉さんと二人がかりじゃなくて安心したわ。大潮一人ならどうにでもなるし。

 

 「大潮は搦め手なんて使わないからね!ドーン!っていきますよ、ドーン!って!」

 

 「フン!魚雷でも撃ち込もうっての?」

 

 本当にやられたら不味いけど、いくら大潮がアホだと言ってもさすがにやらないはず……。

 やらないわよね?

 

 「甘いよミッチー。大潮は大和さんを連れて来たよ!」

 

 「え、あの、艤装を背負って来てくれと言われたんですけど……。どういう状況なんですか?」

 

 まさかの46センチ砲!?魚雷の方がマシだった!

 倉庫ごと吹き飛ばす気か!今までで一番たちが悪いわ!

 

 「じょ、冗談よね大潮。いくらなんでも……」

 

 「いやぁ、大潮もここまでしたくなかったんだけど。よく言うじゃない?『ツンデレは死ななきゃ治らない』って」

 

 殺す気か!

 それに、死ななきゃ治らないのはツンデレじゃなくてバカでしょ!つまりアンタの事よ!

 

 「や、大和さん!まさか撃ったりしないわよね!?」

 

 「撃つ?満潮ちゃんをですか?撃つわけないじゃないですか!」

 

 よかった、どうやら大和さんはまともみたいね。

 これで『撃ちます』とか言われたら本気で絶望してたわ。

 

 「大和さん、ここは心を鬼にして撃って!ツンデレをこじらせすぎた満潮を素直にするには、もうショック療法しかないんだよ!」

 

 ツンデレはこじらせるようなモノじゃない!

 本当に撃たれたら素直になるどころか、倉庫ごと更地になるわよ!

 大和さんも悩んでないでハッキリと断って!お願いです!

 

 「わかりました。満潮ちゃんのため、戦艦大和、推して参ります!」

 

 参らなくていい!

 普通に考えて?46センチ砲で撃ってツンデレが治ると思う?治るわけないでしょ!万が一生き残れたとしても一生入院コースよ!

 

 「落ち着いて大和さん!そんな物撃ったら倉庫が吹き飛んじゃう!」

 

 「で、でも満潮ちゃんのために……」

 

 「私の事を思ってくれるなら撃たないで!それにほら……そ、そうだ!パーティーで大和さんの料理を振る舞ってくれないかしら!」

 

 「私の料理ですか?」

 

 「うん!一度食べてみたかったのよ!大和ホテルのフルコース!」

 

 さあ、自慢の料理の準備をしに帰ってちょうだい!

 ん?なんで泣くの?私、大和さんを泣かすようなこと言った?

 なんか、姉さんたちが一目散に逃げてるけど……。

 

 「大和は……。大和はホテルなんかじゃ……」

 

 「や、大和さん?」

 

 どうしたのかしら、肩をプルプルさせて、まるで怒ってるみたいじゃない。

 それに主砲が動いて……。

 

 「大和はホテルなんかじゃありません!」

 

 大和さんがそう叫んだ瞬間、鼓膜が吹き飛びそうな音が物理的な力となって、私を倉庫ごと吹き飛ばした。

 戦艦大和の全力射撃が、音だけでここまでの威力があるなんて思わなかったわ。

 

 「し、死ぬかと思った……」

 

 空が青いなぁ……。

 艦娘であることをこれほど感謝した事は今までないわ。だって艦娘じゃなかったら確実に死んでたし。

 空砲で倉庫を吹き飛ばすとかどんだけよ。

 って言うかバカなの?ホテル呼ばわりされたくらいで主砲を撃たないで!迷惑よ、物理的に!

 

 「まだ、祝われる気になりませんか?」

 

 朝潮姉さんが、仰向けに倒れた私の頭の上まで来てそう言った。

 この角度だと、パンツが丸見えね。

 相変わらず飾り気のない、実用性重視のパンツ。もうちょっと拘っても良いんじゃない?

 

 「やだ、ほっといてって、いつも言ってるでしょ……」

 

 「そうですか。わかりました」

 

 あれ?やけにあっさり引き下がったわね。

 いつもなら『心配なんです』とか『もう少し素直になれないの?』とか小言を言ってくるのに。

 そんなにあっさり引かれたんじゃ、寂しくなっちゃうじゃない……。

 

 「でも、今動けませんよね?」

 

 いや、確かに動けないけど……。

 まさか嫌だって言ってる私を、無理矢理連れて行こうなんて事しないわよね?

 今引き下がったよね?

 私を置いて静かに立ち去る場面じゃないの!?

 え、ちょっと、なんか他の姉妹達もゾロゾロと私の周りに……。

 

 「確保!逃げられないようにしっかり縛ってください!このまま工廠で改装、後にパーティー会場に連行します!」

 

 「ちょお!嫌だって言ってるじゃない!コラ!アンタ達縛るな!」

 

 動けない私は、姉妹7人がかりで拘束され持ち上げられた。

 なんで嫌だって言ってるのに、無理矢理お祝いしようとするのよ。しかも何?この縛り方、亀甲縛りってやつじゃないの!?

 

 それから、縛られたまま改装を受けた私はパーティー会場に連行され、現在は私を祝おうと集まってくれた人達に代わる代わる料理を食べさせられている。

 フォアグラになるために飼育されるアヒルの気持ちが、なんとなくわかっちゃった。わかりたくなかったけど……。

 

 「どうです?みんなにこれだけお祝いされたら、少しは嬉しいでしょ?」

 

 「姉さん、今の私の状況わかってる?」

 

 「椅子に縛り付けてお料理を食べさせてますが……。なにか?」

 

 いや、なにか?じゃないでしょ。

 これ、完全に拷問の域に達してるわよ?

 身動きは取れないし、お腹いっぱいなのに無理矢理口に料理を放り込まれるし。

 その上、青葉さんを筆頭に曙や霞がニヤニヤしながらこの光景を写真に収めてるのよ?肉体的にも精神的にも殺しに来てるじゃない!

 

 「みんな満潮の改二改装を心から喜んでるんですよ?だから、ほんの少しでいいから笑顔を見せてください。満潮の笑顔はとっても素敵なんですから」

 

 そりゃね?私もお祝いされる事自体は嬉しいのよ?

 私を祝おうと一生懸命準備してくれてたのも知ってる。

 だけどね?その準備が、私を晒し者にする準備と知ったら逃げるでしょ?

 お神輿担いで、『満潮を讃えよ!』とか叫びながら練り歩く練習してるの見ちゃったら逃げるわよね?

 しかも今は、逃亡に失敗して椅子に縛り付けられてるのよ?

 これで笑顔になれとか無理でしょ!ツンデレとか関係ないわ!

 怒りを通り越して真顔なっちゃってるわよ!

 

 「ホント、この鎮守府は温いわね。仲良しごっこしてんじゃないんだから」

 

 主役であるはずの私を差し置いてパーティで浮かれる面々を見て、私は呆れ気味にそう言ってしまった。

 ホント、なんで私って、こんな言い方しかできないんだろ。

 

 私は自分の性格が嫌いだ。

 変えれるものなら変えたいと思ってる。

 朝潮姉さんみたいに真面目で、大潮みたいに明るく、荒潮のようにオマセで、朝雲のように快活で、山雲みたくのんびりで、霰みたいにちょっと不思議系、そして、霞のように厳しくなりたいって。

 そう思ってた時期が私にもあったわ……。

 

 「仲良しごっこじゃありません。みんな満潮と仲良くしたいんですよ。だって、仲間じゃないですか」

 

 仲間……か。

 姉さんの顔を見れば、本気でそう言ってるのがよくわかるわ。

 きっとみんなも、本当に私の事を仲間と思ってくれてるんだと思う。

 私だって、本当にみんなの事を仲間だと思ってるし、本当は仲良くしたいと思ってる。

 

 パン!パンパーン!

 

 『満潮!改二おめでとう!』

 

 盛大にクラッカーを鳴らした後、パーティに集まってくれたみんなが、声を揃えてお祝いの言葉を贈ってくれた。

 心からのお祝いの言葉が、私の心にゆっくりと沁み込んでくるのがわかる……。 

 もしかしたら『ありがとう』って、素直に言えたかもしれない。

 椅子に縛り付けられてなければ。

 

 「で、なに?」

 

 「え?だからおめでとうって……」

 

 うん、だからね姉さん。それはわかってるの。

 もしかして姉さんは、私みたいな状態でも笑顔になれるの?椅子に縛られて、吐きそうになるぐらい料理を食べされても笑顔でありがとうって言えるの?いや、姉さんなら出来そうね。

 さすが姉さん、素直に感心するわ。

 でも私には無理!

 

 「こんな状態でありがとうなんて言えるかぁぁぁ!縄をほどけぇぇ!」

 

 抜けてみせる!この状況から脱してみせる!スリガオ海峡で夜戦した時に比べたら、高が縄で縛られてるくらいなんでもないわ!

 

 「絶対に抜け出して、倍返ししてやるんだからぁぁぁ!」

 

 それから、私は必死の抵抗を試みたけど、結局逃げる事はできなかった。

 それどころか、椅子ごとお神輿に乗せられて、鎮守府中をワッショイされちゃったわ。『満潮を讃えよ!』と言うコールと共に……。

 

 「私……なんでこんな鎮守府に配属されたんだろ……」

 

 他の子達が私に注ぐ、奇異にまみれた視線に耐えながら、私はボソッと呟いた。




 

 お祝いって何だっけ。
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