脊髄反射で書く朝潮型短編集   作:哀餓え男

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峯雲の侵略

 

 

 

 

 

 「さて、みんなに集まって貰ったのは他でもありません」

 

 まるで学校の教室のような内装の、鎮守府の数ある会議室の一つ。

 その会議室のホワイトボードを背にして立つ我が鎮守府の秘書艦、朝潮型駆逐艦一番艦の朝潮が、七つの机をU字に並べた面々に重々しく言った。

 

 「また朝姉の病気が始まった……」

 

 と、頭の後ろにズ~ンという擬音が文字になって現れそうなくらいゲンナリした顔の大潮が言う。

 普段は無駄に元気な大潮に元気がないのはいつ見ても新鮮だ。

 

 「姉さんの病気が出るようなイベントなんかあったっけ?」

 

 こら満潮、そんな事を言いたくなるほどウンザリしているのは表情から察するが、イベントなどというメタ的な発言をするのは控えなさい。

 

 「私の期間限定グラはよ」

 

 それは大本営に言ってくれ荒潮。

 たしかに私も、小悪魔サンタな荒潮を期待してたがまだ正月にワンチャンあるじゃないか。

 だから、ニコニコしながら青筋浮かべるのはやめてそっちに期待しよ?

 

 「それより、早く峯雲を迎えに行こうよ。それとも、峯雲の歓迎パーティーについての会議なの?」

 

 恐らくそれはないぞ朝雲。

 ほら、朝潮の顔をよく見てみなさい。

 妹を迎えるパーティーについて話し合うとは思えないほど眉毛が釣り上がってるだろう?

 

 「パーティーと言えば~。村雨ちゃんがパーティーを開くなら喜んで手伝うって言ってたわ~」

 

 村雨は史実関係で峯雲と絡みがあるからな。

 それよりも山雲は妹、と言うよりは九駆のメンバーが増えて嬉しいのか?なんだかいつも以上に笑顔が眩しい。

 

 「峯雲姉さんをお神輿の上に縛りつけてワッショイするとか言い出したらどうしよ……」

 

 峯雲の身を案じているような事を言ってるが顔がニヤけてるぞ霞。

 満潮に改二が実装されたときも嬉々として手伝っていたが、もしかして被害者仲間を増やしたいのか?

 

 「んちゃ」

 

 って言っとけば問題ないとか思ってないか?霰。

 この子は普段から無口で無表情だから、荒潮と山雲以上に何を考えているかわからない。

 

 「何を呑気に自己紹介などしているのですか!朝潮型が侵略の危機にさらされているのですよ!?」

 「朝姉が侵略とか訳わかんない事言いだしたんだけど……」

 「それよりも、した覚えもない自己紹介をするなと怒られた事に理不尽を感じる」

 「それはいつもの事だよミッチー」

 

 ふむ、お土産で貰ったウィスキーボンボンを一緒に摘まみながら執務をしていた朝潮が、急に姉妹会議を開きたいので会議室を貸してくれと言ってきたから何事かと思っていたが、想像よりずっと深刻な事態が進展していたようだ。

 念のために、朝潮達が使用する前に明石に命じてカメラと盗聴器を仕掛けさせておいて正解だったな。

 

 「で?姉さんは誰が私たちを侵略しようとしてるって言うの?あのクズ?」

 「司令官が霰たちを侵略……。霞ちゃんのエッチ」

 「な!?そういう意味で言ったんじゃないったら!」

 「じゃあどういう意味?」

 「そ、その……私たちの心を侵略……的な?」

 「霞ちゃん頭大丈夫?そういう事なら、もう侵略は終わってるから司令官じゃないよ?」

 

 はて?霰の言っている意味が良くわからない。

 今の二人の会話の内容を鑑みると、私はすでに霞の心を侵略済みということになる。

 だが霞は心当たりでもあるのか「んな!?」と変な鳴き声を上げた後、真っ赤になって口をパクパクさせている。

 

 「司令官をクズ呼ばわりした霞には後でお仕置きするとして、私たちを侵略しようとしているのは私達と同じ朝潮型の一人。八番艦の峯雲です!」

 

 な、なんだってー!

 と、某MMRみたいなリアクションをしてしまったのは私だけの様子。朝潮型姉妹は揃って「何言ってんだコイツ」と言わんばかりに冷めた表情を浮かべている。

 もうちょっとリアクション取ってあげて?

 

 「まずはこちらを見て頂きましょう。ハイ!ドン!ブフッ!?」

 

 朝潮がドン!と言うと同時にホワイトボードの下の方をバン!っと叩くとクルリと回転し、それまで上を向いていた部分が朝潮の頭頂部に見事命中。

 余程痛かったのか、頭を抱えてうずくまってしまった。

 

 「アレで少しは朝姉の馬鹿が治らないかな~」

 「無理じゃない?馬鹿は死ななきゃ治らないって言うし」

 「あらぁ?でも満潮ちゃん、私達ってある意味一度死んでないかしらぁ?」

 「え?じゃあ朝姉って治ってアレなの?」

 

 姉が涙を堪えて痛みに堪えているのに散々な八駆の面々。もうちょっと心配してあげて?

 

 「痛たた……。と、とにかくコレを見てください。コレが何かわかりますか?」

 

 ようやく痛みが治まってきたのか、朝潮はヨロヨロと立ち上がってさっきまで裏を向いていた面を姉妹達に見せた。そこに貼ってあったのは一枚の写真。

 その写真に写っているのは……。

 

 「何って……峯雲じゃん!」

 「正解です朝雲。さすがは朝潮型の絵師が違う仲間、一発でわかったようですね」

 

 絵師が違うとか言うんじゃありません。そういうメタ発言は禁止!ダメ!絶対!

 普段は率先してツッコむ満潮と霞は何してるの!

 

 「ではここで問題です。ジャジャン!峯雲と私達の違いは何でしょう。はい、大潮から」

 「絵師が違う」

 「それはさっき私が言いました。はい次、満潮」

 「声帯の妖精さんが違う」

 「合ってますが私が求めている答えとは違います。あと、メタ発言禁止です」

 

 なんて理不尽な……。

 自分はハッキリとメタ発言しておいて、ダメだと言われた大潮と満潮はあまりの理不尽さに呆気にとられてしまっているじゃないか。

 でもそこが可愛い抱きしめたい!

 

 「はい荒潮。あなたには期待していますよ」

 「制服が違うかしらぁ」

 「そうですね。スカートがお腹の辺りまでありますし、さらにブラウスの肩の部分にボリュームがありますね。ですが、やっぱり私が求めている答えとは違います」

 「あらあらぁ残念」

 

 とか言ってる割にまったく残念そうじゃないな。

 無駄にニコニコしているが、もしかして朝潮が暴走しているのを楽しんでる?

 

 「みんなの目は節穴ですか!?あるでしょ!?私達八人と決定的に違う部分があるじゃないですか!」

 「ちょっと朝姉、他の四人には聞かないの?」

 「思い付かなかったんですよ!」

 「何が!?」

 「知りませんよ!私が聞きたいくらいです!」

 

 ホント、何を思い付かなかったんだろうね。

 私も唖然としていている7人同様サッパリわからないよ。

 

 「で?朝潮姉さんはどこが違うって言いたいの?サッサと教えてったら」

 「わかりませんか霞。そんなの見ればわかるでしょう!?みんなだって、本当は気付いてるのに気付いてないフリをしてるだけなんじゃないんですか!?」

 

 朝潮の指摘に、7人はまるで打ち合わせでもしていたかのように同じタイミングで朝潮から、いや、峯雲の()()から目を逸らした。

 なるほど、今いる朝潮型8人と峯雲の決定的とまで言える違い。それは絵師でも声帯の妖精さんでもなく……。

 

 「目を逸らさずに見なさい!この朝潮型とは思えないほどたわわに実った胸部装甲を!ほら大潮!コレを見た感想は!?」

 「お、大きく見えるだけなんじゃないかな~。ね?満潮」

 「そ、そうね。その……そう!光の加減とか解像度の悪さとかで大きく見えるだけよ!荒潮はどう思う!?」

 「きっと背伸びしたい年頃なのよぉ。例え本当に大きかったとしても中は詰め物だわぁ」

 

 あくまでも現実を受け容れる事を拒否する八駆の三人。他の4人も似たような反応をするのだろうか。

 

 「朝雲、あなたはどう思いますか?」

 「い、良いんじゃないかな。ほら、他にも1人だけ胸が大きい姉妹が居る艦型もあるし。ね?山雲」

 「私も良いと思うわ~。むしろ、朝潮型に待望の巨乳枠が来たことを喜ぶべきだと思うわよ~」

 

 意外なことに九駆の2人は肯定意見。

 だが妙だ。肯定してはいるのに、2人がどこか悔しそうに見える。

 

 「ふん!そりゃあ朝雲姉さんと山雲姉さんはそう言うでしょうよ。そう言っとかなきゃ、改二が実装されて大きくなったときに困るもんね」

 「霞ちゃんの言う通り。霰たち実装済み組はチャンスないもんね」

 

 なるほど、そういう事か。

 つまり朝雲と山雲は、改二が実装されたときに間違って胸が大きくなってしまった場合、最初から巨乳である峯雲が居れば隠れ蓑にできる。もしくは責められないと考えたのだろう。

 そんな心配をしなくても、朝雲と山雲に改二が実装されてもきっと無乳のままだよ。

 

 「でもさぁ朝姉。胸がデカいことがどうして侵略されるって事になるの?」

 「わかりませんか?大潮。ならば説明しましょう。今まで、私たち朝潮型には胸がある子が1人もいませんでした。言う前に言っておきますが、改二になって多少は膨らんだという意見は却下です。そんな自分を慰めるだけの負け惜しみは、潮さんや浜風さんの前で言えるようになってから言いなさい」

 

 あの2人を引き合いに出すのは卑怯だぞ朝潮!

 駆逐艦とは思えない胸部装甲を持つあの2人を前にして「私、改二になって胸が大きくなったんです」と言える駆逐艦は皆無と言っても過言ではない!言えるとするなら長波と浦風くらいのものだ。

 磯風や夕雲ですら、あの2人の胸部装甲の前では無いに等しいんだぞ!

 

 「さらにコレを見てください。ハイ!ドン!」

 

 朝潮が頭を打たないよう横に避けて再びホワイトボードを叩くと、今度はいつ貼り替えたのか中破姿の峯雲の写真がデカデカと貼られていた。

 うむ、デカい。

 かつて、これ程までに胸の存在をハッキリ確認できた朝潮型がいただろうか。いや、いない!

 見ろ!あの見事な谷間を!あの柔らかそうな膨らみを!

 あれだけ立派なモノを、胸や胸部装甲などのオブラートに包んだ言葉で言い表すのは失礼に値する。

 アレはまごう事無きオッパイだ!

 

 「む、紫?いや、紺色かしら」

 「良いところに気がつきましたね満潮。そう!この子は何をとち狂ったのか、こんないかがわしい色のブラジャーを身に着けているのです!きっと下も同じ色で同じくらいいかがわしいに違いありません!」

 

 朝潮たちは改二になっても色気がないジュニア下着だものな。ん?だが大潮はたしか……。

 

 「待ってよ朝潮姉!ブラジャーの事を言うなら大潮姉だって紫のカップ付きブラジャーだよ!?」

 「ちょっ!やめて朝雲!大潮に飛び火するから言わないで!」

 「だって峯雲ばっかり責められて可哀想じゃない!大潮姉も一緒に責められてよ!」

 

 そうそう、忘れられがちだが大潮もカップ付きのブラジャーを身に着けているのです。

 つまり!大潮は無いように見えてカップ付きブラジャーが必要な程度には胸が有るのだ!

 

 「あ、大潮の場合は問題ありません」

 「なんでよ!」

 「だって、大潮に色気なんてないでしょう?」

 

 なんて事言うの朝潮ちゃん!

 あまりにもあんまりなお言葉に姉妹一同騒然としてますよ!?

 大潮に飛び火させようとした朝雲ですら「ご、ごめんなさい」と大潮に謝り、飛び火どころかフレンドリーファイヤされた大潮は、悔しさと悲しさと情けなさが同居したような顔して「いっそ殺せよ」と言って涙を浮かべているじゃないか!

 

 「常々、世間様から朝潮型は『小学生みたい』だの『ガチロリ御用達』だの『朝潮型はガチ』などと言われているのはみんなも知っているでしょう?そこで峯雲の中破姿を見ながら今の挙げたモノを言ってみてください。言えますか?こんな胸がデカい子を前にして小学生みたいだと言えますか?ガチロリ御用達だと言えますか?言えるわけがないでしょう!私達がそう呼ばれてきたのはこの凹凸の無い体型だったからです!もっとハッキリ言いましょう。胸が無かったからです!そんな私たちの存在意義を揺るがしかねない程の胸。いえ、これはもうオッパイですね。オッパイを持つ子が加入したら、私達はもうロリコン御用達とは呼ばれなくなってしまうかもしれません!」

 「「「「「「「呼ばれたくねぇよ!」」」」」」」

 

 と、姉妹全員から総ツッコミされたが朝潮に怯む様子はない。

 だがこれでわかった。

 朝潮が言ったように、朝潮型は侵略の危機に晒されている。

 世間一般にロリ巨乳だと呼ばれているキャラがどうしてもロリに見えない私には君の気持ちが良くわかるぞ。 

 貧乳、いや無乳と言っても過言ではない朝潮型が、峯雲と言う名の巨乳に侵略されそうになっている事に危機感を覚えている朝潮の気持ちが!

 

 「じゃあどうするのよ。姉さんは峯雲を朝潮型だって認めないつもり?」

 「心配しないでください満潮。彼女も私の大切な妹ですから歓迎はします。しますが……」

 「しますが?」

 「迎えるついでに削ぎましょう」

 「どこを!?いや、考えるまでもないか。峯雲の胸を削ぐ気!?」

 「その通りです!朝潮型に相応しいくらいになるまで削いで削いで削ぎまくります!」

 

 こりゃいかん!峯雲の身がガチで危険な流れになってきた!

 ん?それまで黙っていた大潮が、ユラリと立ち上がって朝潮の方に移動し始めたな。何をする気だ?まさか一緒になって峯雲のオッパイを削ぐつもりなのか?

 

 「もうあったまきた。みんな、朝姉をふん縛って病気治まるまでどっかに監禁するよ」

 「賛成よ大潮。胸を削ぐとか想像しただけで身の毛がよだつわ」

 「さすがにこれ以上は見ていられないから私も賛成よぉ」

 「やっと来た妹の危機。私達もやるよ!山雲!」

 「りょ~か~い。徹底的にやっちゃうね~」

 「みんな、やるのは良いけど気をつけなさいよ。朝潮姉さんは強いわよ」

 「霞ちゃん、大丈夫。みんなでボコれば怖くない」

 

 姉妹全員が朝潮に反旗を翻しただと!?

 さすがの朝潮も、姉妹たち全員を一度に相手にして勝つのは無理だと察したのか顔が青ざめている。

 いや?

 朝潮の眉間に眉を寄せ、今にも嘔吐しそうな程青ざめている様子は見覚えがある。そう、リバースする寸前の酔っ払いの表情に似ているんだ。

 あ、そう言えば朝潮は……。

 

 「ぎぼぢわるい……」

 「え?何か言った?って朝姉大丈夫!?顔が真っ青だよ!?」

 「様子がおかしいわ。誰でも良いから明石さんを呼んできてくれない?」

 「私が行ってくるわぁ。満潮ちゃん達は姉さんを看ててあげてぇ」

 

 気持ち悪いと言ってうずくまってしまった朝潮の背中を、大潮と満潮が心配そうな瞳で見つめながら背中を撫でいる。

 霞は朝雲と山雲に、部屋に布団を敷いておいてと指示を出し、霰は……ん?霰は何をしている?朝潮のスカートの中を弄っているようだが……。

 

 「あった。たぶん朝潮姉さんがおかしかったのはコレが原因」

 「何コレ。飴の包み紙?いや、残ってる匂い的にチョコレートかしら」

 「霞ちゃん正解。ピンポーン」

 「あ!それって、クズ司令官がお土産で貰ったとか言ってたウィスキーボンボンの包み紙なんじゃない!?」

 

 大正解です霞ちゃん。ピンポンピンポンピンポーン!

 まさかウィスキーボンボン数個で朝潮が酔ってしまうとは私も思いませんでした!

 

 「ねえ満潮、つまり朝姉がいつも以上におかしかったのも、大潮が色気がないと馬鹿にされたのも……」

 「ええ、そうよ大潮。私たちが惨めな想いをさせられたのも全部司令官のせいって事よ」

 

 やっべ。

 このままだと、酔い潰れている朝潮を除く姉妹全員からフルボッコにされかねない雰囲気になってきた。

 だがまあ、愛する朝潮型の面々に罵倒され、殴られ、蹴られ、唾を吐きかけられるのは私の業界ではご褒美なので座して待つとしよう。

 今はご褒美を待つ間に、()()の気持ちを聞いておこう。

 

 「姉妹達を見た感想はどうだ?峯雲」

 

 私は一緒に一部始終を観察していた峯雲に、艦娘となった姉妹達を目の当たりにした感想を聞いてみた。

 最初の内こそ「コレが今の姉さんたち……」と感極まっていた峯雲も、話が進むうちに「え?なんだかおかしな流れに……」と狼狽し始め。終いには「コレさえなければ……」と、死んだ魚のような目をして自分のオッパイを握り締めていた。

 そんな峯雲は、ハイライトがオフになった瞳から一筋の涙を流しながら私にこう返した。

 

 「解体してください」と。

 

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