脊髄反射で書く朝潮型短編集   作:哀餓え男

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荒潮の晴着

 

 

 

 

 いきなりメタ発言してしまって申し訳ないが、朝潮型姉妹は2016年のクリスマスに朝雲と山雲のクリスマスモードが実装されるまで季節限定グラに恵まれていなかった。

 私の友人の某七駆提督は「改二艦が多いんだから七駆より恵まれてるだろ」と言っていたが、私から言わせれば季節限定グラが多く、改でグラが変わる七駆の方がはるかに恵まれている。

 朝潮型は八駆のみならず初期実装組すべてに改二が実装されるという快挙を成し遂げたがハッキリ言おう、改二なんてどうでも良い。

 七駆のように改でグラが変わっただけでも私は感謝の五体投地をしただろうし、性能が改のままでも海域攻略に使用し続けただろう。

 

 実際に私は、霞の改二が実装された日にPCの前で泣き、大潮に改二が実装された時には無駄に町内を駆け回り、荒潮の改二実装時には壊れたように「あらあらあらあらあら」と呟き続け、満潮の時は決戦モードの実装と言うダブルパンチのせいで鼻血を噴いた。霰の時は現実味が無さ過ぎて夢だと思ったほどだ。

 そして待望の、私が最も愛する朝潮に改二が実装された日にはPCの前にキュウリを山盛りにし、土下座しながらコニシ氏に感謝の言葉を一晩中言い続けた。

 

 だがそのおかげで、季節限定グラが他の艦型に比べて少ないことにもさして不満はなかった。不満はなかったが見たかった。

 その願いが大本営に通じたのか、2018年に霞の水着モードが実装されて私は気絶した。

 同じ年の秋刀魚祭りで大潮と満潮のジャージ姿を見て初めてジャージに欲情した。

 朝潮のハロウィンモードが実装された日には「我が人生に一片の悔いなし」とラオウの如く昇天しかけた。

 

 そんな彼女たち朝潮型に新艦が加わり、荒潮に季節限定グラが来るのは早くて正月かなと淡い期待を抱いていたら本当に実装された。

 そう!荒潮に晴着モードが実装されたのだ!

 

 その事に気づいたのは、不覚にも期間限定海域の攻略中だった。

 大破進軍にだけ気を付けてながら作業で攻略を続けていた折に、目の端に映った画面に見慣れぬ着物姿の艦娘が映った。

 あれは誰だ?編成しているメンバーは軽巡を除いて朝潮型だけだった。

 その朝潮型に、今の時期に期間限定グラが実装されている者はいなかったはずだ。

 そして画面を凝視して見逃さないようにして初めて、荒潮に晴着モードが実装されている事に気づいたのだ。

 

 「笑えるだろう?朝潮型提督を自称しておきながら大本営のツイートを見逃し、彼女の晴れ着姿を目の当たりにするまで気づきもしなかったんだからな」

 「何を言っているかわかりませんが仕事してください」

 

 と、若干不貞腐れ気味にツッコミを入れて来たのは我が麗しの秘書艦、朝潮である。

 

 「朝潮から見て荒潮の晴着姿はどうだ?」

 「どうだ?と言われましても……。よく似合ってるとは思いますが、あの格好で出撃するのはいかがなものかと」

 

 あ、今日の朝潮はまともだ。

 いや、普段から朝潮は真面目な良い子なんだが、彼女は稀に真面目さが行き過ぎて暴走する事があるのだ。

 

 「司令官こそどうなんですか?」

 「語っても良い?」

 「……仕事をしながらだったら構いません」

 「わかった。では語ろう!」

 

 正直言って、あそこまで色香を醸し出す駆逐艦が存在するとは思っていなかった。

 着物姿の駆逐艦は何名かいるが、荒潮ほど押し倒したくなるような色気を纏った駆逐艦は他に居ないと私は断言する!

 

 ご存知の通り、彼女にはオッパイと呼べるほどの大きさの胸部装甲はない。

 だが考えてみて欲しい。

 和服の特徴はその直線的なラインで、裁断の時点で直線的に切られているせいで体のデコボコに合わないようになっている。

 つまり洋服のように、身体のラインを強調するような造りではなくその逆、身体のラインが出さないようにしているのが和服なのだ。

 故にオッパイが大きく、身体のラインがハッキリとしている女性は本当の意味で着物を着熟せない。

 本来なら、潮や浜風や浦風、大和やアイオワのように帯にオッパイが乗るような大きさのオッパイを持つ艦娘が、動けばたゆんたゆんと揺れるような着付け方をするのは正しくないのである!

 そう、着物とは胸が無い方が似合う服なのだ!

 

 そこでもう一度荒潮の晴着姿を見てみよう。

 うん、見事としか言えない。

 胸から尻にかけて凹凸の無いスッキリしたシルエットに、握れば折れてしまいそうなほど細く繊細な指と腕。アップにした茶髪も桜模様の晴着の色合いを邪魔せず、かと言って埋もれもせずに見事に共存している。

 さらに素晴らしいのは中破姿だ。

 いやもう何なのあれ。

 胸があれば谷間でも拝めそうな位置からはだけているのに、谷間の存在などハッキリと確認できない程真っ平らな胸部装甲。そしてあらわになった肩、鎖骨、首筋!

 もうこれだけで丼ぶり三杯はいけますね。

 私がロリコンなだけかもしれないが、オッパイがポロリしてる子よりよっぽど興奮するよ!本有にお世話になりました!

 

 「朝潮が天使なら、差し詰め荒潮は悪魔だな」

 「あらぁ?それは褒めてるのかしらぁ?」

 「もちろん褒めている。って荒潮?いつの間に来たんだ?」

 「司令官が判子を押しながらブツブツと独り言を言ってる途中よぉ。ちなみに朝潮ちゃんはぁ、「長くなりそうなのでお手洗いに行って来ます」って言って出て行ったわぁ」

 

 ふむ、荒潮の悪魔的な可愛さに惑わされて朝潮のトイレについて行く事ができなかったか。

 だがまあ、代わりとばかりに目の前に晴着姿の荒潮がいるから良いとしよう。

 しかし何をしに来たんだ?まさか、お年玉をねだりに来たか?

 

 「うふふ♪そんなにじ~っと見つめちゃってぇ、荒潮の晴着姿に欲情したぁ?」

 「うん。欲情した」

 「あらあら大胆ねぇ。そんなにハッキリ言うとは思わなかったわぁ。でもぉ……司令官がどうしてもって言うならサービスするわよぉ?」

 

 などと言いながら、上目遣いで裾をチラチラと捲ってふくらはぎを見せつけて来る荒潮のエロさに理性が吹き飛ばされそうになってしまった。

 これが例えば鈴谷なら、私は無言で諭吉を五枚ほど手渡して押し倒しただろう。

 如月だったら、少し挑発に乗るふりをすれば途端に慌てて執務室から出て行くだろう。

 金剛だったら……いや、金剛の場合は挑発云々などせずに私を逆に押し倒すか。

 だが、荒潮の場合はいずれもする気になれない。

 彼女は本当に誘っているのだ。と、勝手に思っている。

 彼女の挑発に乗って手を出せば彼女は受け入れてくれる(意味深)のだろうが、そうすると朝潮の機嫌を損ねるばかりか満潮と霞に殺されかねない。もちろん、他の子に手を出しても同じ事になる。

 故に、いくら挑発されても手は出せない。

 朝潮に嫌われたくないしまだ死にたくもないからね。

 

 「そういうはしたない真似はやめなさい荒潮。せっかくの晴着姿が台無しだぞ?」

 「あらぁ、司令官はこういうの嫌いぃ?」

 「嫌いじゃない」

 「じゃあいいじゃなぁい♪荒潮と姫初め、しちゃうぅ?」

 

 ははははは、まいったなこれは。

 一応説明しておこう。

 姫初めとは『初め』とつくことで勘違いされがちだが、本来は一月二日の行事である。大切な事なのでもう一度言おう。()()である!

 しかし民間で製造された仮名暦が初出のため、由来やその内容などは諸説あってはっきりしていないらしい。

 例えば、姫飯(ひめいい)(柔らかいご飯)を食べ始める=「姫始め」という解釈や、その年の初めて火や水を使うことを指している『火水初め』、馬の乗り初めの日と言う事で『飛馬始め』「女伎始め」等々、元の表記が『ひめはじめ』と平仮名であったせいで様々な解釈が存在する。

 だが、現在の日本人が『ひめはじめ』と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、年が明けてから男女が初めて秘め事をする『秘め始め』。これが鬼の『姫初め』と呼ばれる物と混ざって伝わっているのだろう。(鬼の姫初めは内容がかなりエグイのでここでは割愛する)

 要は、その年一発目の情事のことを『姫初め』というわけだ。

 

 「これぇ、引っ張ってみたくなぁい?」

 

 私が理性を維持するために脳内で長ったらしい説明をしている苦労など知らず、荒潮は腰の後ろにある帯の端をヒラヒラさせている。

 いや、正直に言えば引っ張りたいよ?

 帯を引っ張って女の子に「あ~れ~」と言わせて「よいではないか!よいではないか!」と言うのは男の夢だからね(異論は認める)でもそれをやっちゃうと歯止めが効かなくなるからやらない。

 YESロリータNOタッチ!

 

 「もう、強情ねぇ。私がこぉんなに誘ってあげてるのにぃ」

 「荒潮は私を檻の中に入れたいのかな?」 

 「逆に聞くけどぉ、司令官は私に入れたくないのぉ?」

 「何を!?」

 「ナニを♪」

 

 鹿島でもしないような淫靡な表情を浮かべているが、この子は自分がどれだけ危険な事を口走っているかわかってないのか?

 もし私が紳士じゃなかったら、君が私の目の前に現れた時点でルパンダイブしているんだぞ?

 それに加えて直接的過ぎるお誘い、私が紳士じゃなけりゃ押し倒してるね。

 

 「あらぁ?口では嫌がってるのにぃ、こっちは正直ねぇ♪」

 「こっちってどっち……ってうお!?私はいつの間に!」

 

 さっきまで、荒潮の誘惑に堪えながら執務机に座って書類に判子を押していたはずなのに、私は気づいたら荒潮の目の前に立っていた。

 何を言っているかわからないと思うが私も何を言っているかわからない。

 だが私は今、間違いなく荒潮の目の前に立っている。起たせて立っている!

 この絵面は非常にマズいぞ。

 私と荒潮の身長差のせいで、荒潮の誘惑と言うカンフル剤を投与された元気過ぎる息子のチャーリーが荒潮のお腹に突き立たんばかりに背伸びしている。

 

 「うふふ♪今年のお年玉はこれかしらぁ♪」

 「や、やめろ!そこは……あふん!」

 

 荒潮が私に体を預け、反応を楽しんでいるような笑顔で私を見上げながらジョニーとマイケルを優しく弄んでいる。 

 なんてテクニックだ。この子は本当に駆逐艦か?

 こんな、ジョニーとマイケルを弄られただけで果ててしまいそうになる程のテクニックは堀之内の風呂屋で経験して以来だ。

 

 「我慢しなくていいのよぉ?」

 「ほ、本当にいいのか?」

 「ええ、いいわぁ。早く荒潮にお年玉ちょぉだい♪」

 

 荒潮のその一言で、私の中の何かがプツンと音を立てて切れた。

 そうだ。難しく考える必要も我慢する必要もない。

 私は荒潮にお年玉をあげるんだ。

 ジョニーとマイケルと言う名のポチ袋の中に詰まったお年玉を荒潮にあげるのだ。

 だからこれは健全な行為。

 提督である私が駆逐艦にお年玉をあげる行為が間違っているはずも、ましてや不健全である訳がないのだ!

 

 「うおぉぉぉぉぉぉ!荒潮ぉぉぉぉぉ!」

 

 と、叫びながら荒潮が着た晴着の前をはだけさせたところで私は正気に戻った。

 その理由は、執務室のドアが少し開いている事に気がついたからだ。

 その少し開いた隙間からこちらを覗く青い瞳に見覚えがあったからだ。

 そう、ギギギ……と軋むような音を上げながら開いた執務室のドアの向こうに、私が最も愛する駆逐艦である朝潮が立っていたからだ。

 

 「べ、弁解の余地は……」

 

 背中に冷たい汗が流れる。

 浮気の現場を見られた男はこんな風に硬直して動けなくなってしまう物なのだろうか。

 そんな私を尻目に、荒潮は「司令官に乱暴されそうになったのぉ!」と朝潮に泣きつき、朝潮はそれを信じたのか「大丈夫ですよ」と言って荒潮の頭を撫でながら、ハイライトが消えた瞳で私を見続けている。

 そして彼女は……。

 

 「あると思いますか?」

 

 と言って、左肩に装備された防犯ブザー(探照灯)の紐を引いた。

 


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