戦闘の折りに片腕を失ってしまった朝潮型三番艦 満潮。
だが不思議なことに、目が覚めると失ったはずの腕は元通りになっていた。
しかし。
その腕は満潮本来のものではなく、実はナノマシンの集合体だったのである。
そして満潮は内なる声に導かれるように、大国による世界規模の陰謀に巻き込まれていくのであった。
「と、いう感じでどうだ?満潮」
「どうだも何もないでしょ司令官。なんでわざわざナノマシンの塊なんか移植するの?
「力が欲しいか?」
「いるかバーカ!それより縄をほどけ!なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ!」
ふむ、満潮の不思議の国のアリスのような服装、個人的に『満潮 アリスフォーム』と呼んでいる衣装が実装された時に満潮を主役とした劇でもしようという話になり、その内容を決める会議を第八駆逐隊の面々としているのだが……。
どうやら、私の案は椅子に無理矢理縛り付けて参加させた満潮のお気に召さなかったようだ。
「今のってA○MSだっけ?」
「そうねぇ。AR○Sで間違いないわぁ」
ふむ、大潮と荒潮は知っていたか。
個人的にはARM○よりス○リガンの方が好きなんだが、不思議の国のアリス繋がりで○RMSしか選択肢がなかったんだよなぁ。
だがまあ、一応……。
「力が欲しいのなら」
「くれてやる!」
「くれてやるぅ!」
「だからいらないって言ってんでしょ!って言うかそのネタ大丈夫!?どっかから怒られたりしない!?」
よし!大潮と荒潮は乗ってくれた!
朝潮も乗ってくれたら最高だったんだが、どうやら彼女は知らないらしく「何かの暗号でしょうか?」と言って首を傾げてしまった。
「だいたい、実装されるかどうかもわかんない物に期待して馬鹿なんじゃないの!?そんな暇があるなら海域の攻略を進めなさいよ!」
「うちはライトプレイだから良いの」
「良くないでしょ!?そんなだから未だに甲勲章貰えないのよ!」
いやぁ、そりゃあ私も甲勲章欲しいよ?欲しいけども。
ほら、リアル事情がね?
私みたいな社畜が艦これに割ける時間は一日1~2時間が限界なわけ。いや、そのくらいのプレイ時間で甲勲章貰ってる提督もいるでしょうよ?
でも私は無理したくないの。ゲームでまでストレスを感じたくないわけよ。
「あの、司令官。なんだか脱線している気がするのですが……」
「おっとすまん。ついつい脳内で愚痴ってしまった」
「はぁ、そうですか」
では、朝潮にも呆れられたところで話を戻そう。
だが困ったな。
A○MS案が没なのなら、無難に不思議の国のアリスのストーリーに添ったものにせざるをえない。
そうなると次に考えるべきは……。
「配役だな」
「あらすじも決まってないのにですか?」
「その辺はもう原作の丸パクリで」
では原作に添い、さらに満潮と縁の深い第八駆逐隊と西村艦隊の面々を基本に配役を決めてみよう。
まずは冒頭に出てくる一緒に本を読むお姉さん。
これは朝潮で問題ないだろう。実際に満潮のお姉ちゃんだし、大潮と違って挿し絵がない本も読むからな。
そしてアリスが追いかける白ウサギ、これはまあ時雨で良いか。懐中時計とか似合いそうだし。
「そしてホワイトラビット時雨はアリス満潮に問う。「力が欲しいか」と」
「問わないわよ!アンタそれが言いたいだけなんじゃないの!?」
「力が欲しいのなら」
「くれてやる!」
「くれてやるぅ!」
「く、くれてや……る?」
「それももういい!朝潮姉さんも無理に乗らなくていいから!」
よし!変に空気を読んだ朝潮も加わってくれた!
おっと、それは置いといて。
次はアリスに助言を与えるイモムシだが……これは最上で良いな。原作では終始ぞんざいな態度だが、最上にぞんざいに扱われるのも悪くない。私が!
そしてやっぱり、イモムシ最上はアリス満潮に問う。
「キノコが欲しいか?と」
「キノコ!?力じゃなくて……てぇ!腰を突き出すな!キノコが欲しいかとか言いながら腰を突き出さないで!」
何故キノコか。
それは、イモムシがアリスに「キノコの一方を噛れば大きく、反対側を噛れば小さくなれる」と教える役だからだ!けっして他意はない!
そう、最上なら生えていても不思議はないとか断じて考えてなどいない!
余談だが、このキノコのくだりは某配管工オジサンのスーパーなキノコの元ネタともなっている。
「さらに余談だが、私のキノコはキノコ自身が大きくなったり小さくなったりするぞ」
「知るか!って言うかこれってセクハラじゃない!?完全にセクハラよね!?」
おっと、私としたことがついハッスルしてしまった。
このままだと食い千切られそうだし、朝潮と大潮が無言で胸元の探照灯兼防犯ベルに手を伸ばそうとしているから引っ込めよう。荒潮なんかハサミをチャキチャキと鳴らしてるしね。
あまりの恐怖に、私のチャーリーが小さくなってしまったよ。
「うおっほん!次はアリスに帽子屋と三月ウサギの家に行くよう促すチェシャ猫だが……。私は松風とか山風とか鈴谷とか、とにかくその辺のいずれかを推したい」
「一応お聞きしますが、どうしてその方々なんですか?」
「だって緑っぽいじゃん?」
「緑?チェシャ猫は緑色をした猫なのですか?」
やはり朝潮にはわかってもらえないか。
だが他の三人はわかってくれたようで、大潮は「そう言えばグリーンでしたね」と言っているし、荒潮は「ヒロインに横恋慕した人かぁ」と言っている。満潮など「いつまでA○MSネタ引っ張るのよ!」と憤慨している。
「じゃあ次はぁ、お茶会のシーンで出てくる帽子屋と三月ウサギとネムリネズミねぇ」
「そうだな荒潮。帽子屋と三月ウサギは朝雲と山雲を適当に宛がうとして、ネムリネズミは初雪と望月、それに加古の内誰かで良いだろう」
「雑すぎなぁい?」
「いやぁ、そろそろ休憩したくってさ。お茶にしないか?」
お茶会のシーンだけに。
満潮もツッコミで大声を出しすぎたからか「喉が痛い……」とか言ってるしね。
「司令官、お茶請けは何がよろしいですか?」
「お土産で貰ったミスターなドーナツがあるからそれを出してくれ」
「よろしいのですか?たしかご友人からのお土産ですよね?」
「一人で食べきれる量じゃないから構わないよ。それに、アイツは私が甘い物が苦手だと知ってて甘い物ばかり土産で持ってくるんだ。要は嫌がらせさ」
まあ、艦娘たちに配ればすぐに無くなるから処理には困っていないがね。
実際、今も大潮と荒潮が奪い合ってるくらいだし。
「満潮はどれが良いですか?」
「どれが良いかだなんて無粋だよ朝姉。満潮が選ぶのはソレしかないでしょ?」
「そうねぇ。大潮ちゃんが言う通り、満潮ちゃんはソレしか食べないわよぉ」
ふむ、朝潮は頭の上にハテナマークを浮かべながら首を傾げてしまったが、大潮と荒潮が妙にニヤニヤしながら言ったソレとは恐らくアレだろう。
満潮と言ったらアレだし、本人も「どうせアレでしょ?」って言ってるから察しがついているようだ。
「「ポン・デ・リング~♪」」
「いやそっちかよ!普通、私と言えばフレンチクルーラーでしょうが!」
「え?ミッチーはフレンチクルーラーが良いの?」
「いつもは「髪型が似てるからって好きって決めつけるな!」って怒るのにねぇ」
今日は朝潮がまともな分、大潮と荒潮が悪ノリしてるな。被害が自分達に及ぶ可能性が低いのも手伝ってるんだろうが、イジられている満潮はたまったもんじゃないだろう。額に浮かんでいる血管とか弾けそうだ。
「ねえミッチー」
「な、何よ」
はて?大潮がフレンチクルーラー片手に不適な笑顔を浮かべて満潮ににじり寄っているが……まさか。
「フレンチクルーラーが欲しいか?」
やっぱりか。
そうかそうか、大潮もその台詞が言ってみたかったんだな。だが残念ながら……。
「語呂が悪い!」
「え~?そうかなぁ。でもミッチー、フレンチクルーラー食べたいでしょ?」
うん、司令官も語呂が悪いと思う。
フレンチクルーラーの部分を『コレ』とかに変えればまだ語呂は良いと思うが、フレンチクルーラーだとちょっと……ねぇ?
「じゃあ、満潮ちゃんはフレンチクルーラーいらないのぉ?」
「いやいや、別にいらないとは……」
「だったら素直に食べたいって言ってぇ?だったらねじ込んであげるからぁ」
「ねじ込むの!?普通に食べさせてくれないの!?」
「フレンチクルーラーが欲しいぃ?欲しいのならぁ……」
荒潮が艶かしい声音でそう言いながら、満潮の口元にフレンチクルーラーを近づけて誘惑し始めた。
満潮は「べ、べつに欲しくなんて……」と強がりを言っているが、首を伸ばしても届かない微妙な位置に差し出されたフレンチクルーラーから目を離せないでいる。
「こら!荒潮!意地悪しちゃダメです!」
「えぇ~でもぉ~」
「でもじゃありません!あんまり意地悪するとお姉ちゃん怒りますよ!」
腰に両手を当て、頭の上にプン!プン!という擬音が文字になって現れてそうなほど眉を吊り上げている様子を見るにすでに怒ってないだろうか。
だが、怒っている朝潮は新鮮なので、むしろ怒られたくなるから不思議だ。
「今日は朝潮姉さんがまともで良かった……」
「はて?私はいつでもまともですが?」
「いやいや、いつもは……やっぱ何でもない。それより、ドーナツよりも先に飲み物の方が欲しいんだけど」
「わかりました。紅茶で良いですか?」
「うん、それで言い訳……って、ヤカンがヤバイレベルで湯気蒸かしてるけど……」
「あ、私としたことがウッカリしてました」
うん、完全に沸騰してるね。100度だね。
アレで淹れた紅茶はさぞかし熱いことだろう。猫舌じゃなくても確実に口の中を火傷しちゃうよ。
「水で良いからね。贅沢なんて言わないから水にして!間違っても沸騰しきったお湯で淹れた紅茶を飲ませようとしないでね!?」
「安心にしてください満潮!この朝潮、紅茶も全力で淹れる覚悟です!」
「そんな覚悟いらない!むしろ、そんな物を飲まされる私の方に覚悟がいるから!」
などと、満潮が必死に抗議しておりますが、変なスイッチが入ってしまった朝潮の耳には届いていないご様子。
ハッキリ言って、大潮と荒潮のイジリが可愛く思えるレベルの非道を、無自覚かつクソ真面目に行おうとしている朝潮のなんと恐ろしいことか。
「氷でも口にふくんどくか?」
「そんな暇があるんなら朝潮姉さんを止めてよ」
「無理だ。見ろ、あの如何にも「ツッコミし過ぎて喉がカラカラの妹に美味しい紅茶を飲ませるんです!」とか、考えてそうなあの顔を」
あの顔を見てしまったら止められない。
なぜなら、朝潮の行動は完全に善意。妹を想っての行動だ。
満潮もそこは理解しているらしく、約100度の紅茶を飲む覚悟を決めたらしい。もっとも、瞳からは光がなくなっているが。
まあこれ以上は満潮に酷すぎるし、最後にこう問うて締めるとしよう。
「氷が欲しいか?」
「製氷機ごとちょうだい……」