脊髄反射で書く朝潮型短編集   作:哀餓え男

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三月三日はとうに過ぎてしまいましたが、書き上がったので投稿しまーす\(^o^)/


朝潮のお花見

 

 

 

 突然ですが『花見』とは。

 主に桜の花を鑑賞し、春の訪れを寿ぐ日本古来の風習です。

 ちなみに、桜だけではなく梅や桃の花でも行われます。

 観桜(かんおう)とも呼ばれますね。

 で、どうして花見の解説から入ったかといいますと……。

 

 「大潮は花より団子の方が良い~」

 「上に同じ」

 

 今現在、私たち朝潮型姉妹が司令官とご一緒に、鎮守府内の桜の下で少し早いお花見をしているからです。

 

 「あらあら、大潮ちゃんと満潮ちゃんは風情がないわねぇ」

 

 とか言ってますが、荒潮も花など見ずに重箱をつついています。

 もっともそれは荒潮だけでなく、残りの五人も同様ですが。

 そして司令官は……。

 

 「花よりお酒。ですね。相変わらず」

 「ダメか?」

 「ダメではありませんが、せめて何か食べてください。空きっ腹にお酒はお体にさわります」

 

 と、私が苦言を呈すると、渋々ながら重箱にお箸を持つ右手を伸ばしてくださいましたが……。

 司令官が摘まんでお口に運んだのは予想通りお漬け物。胃を満たすつもりはないようです。

 

 「そう心配しないでくれ、朝潮。ちゃんと泥酔しない程度に量は制限している」

 「それは承知しています」

 

 司令官は人前で泥酔などけっしてしません。

 お偉いさんとの接待でも、どれだけ勧められようとお得意の話術で煙に巻き、絶対に自分のペースを崩したりはしません。

 ですが私は、それでも心配せずにはいられません。

 例えあなたがどれほど飲み方がお上手でも、酔って呂律が回らなくなっても頭は素面なのだと知っていても、あなたのお体を心配せずにはいられないのです。

 

 「なあ、朝潮。私と君が出会って何年になる?」

 「そろそろ、七年になります」

 「そうか。そんなに経ったか」

 

 私は、彼が提督として着任して初めて建造した艦娘です。

 私が建造されるなり、司令官は私に一目惚れしたなどとおっしゃって、初期艦である叢雲さんを差し置いてずっとお側にいさせてくれています。

 ですが……。

 

 「今でも、あの時司令官がおっしゃった言葉の意味が、私には理解できません」

 「もう一度言おうか?今でも一言一句、違わずに言えるぞ?」

 「いえ、けっこうです」

 

 少し言い方がキツかったでしょうか。

 私にそう言われて、司令官が少ししょげてしまいました。

 ですが、妹たちの前であの時の台詞を言われるのが恥ずかしかったのです。

 当時は「何言ってんだこの人」と、私のキャラと合っていない台詞を脳内で言いながら首を傾げてしまった程度でしたが、この人のことを深く知ってからは、あの時の台詞全てが私を褒めるための言葉だったとなんとなくわかるようにはなりました。

 あの時、司令官は生真面目かつ凛々しいお顔をして、私の目を真っ直ぐ見つめながら……。

 

 「まさに天使!世の提督どもは大天使時雨とかフルタカエルとかフミィとかをもてはやしているが私にはそれらが霞むほど朝潮が眩しく見えた。いや眩しい!後頭部をハンマーで殴られたような衝撃とはまさにこのこと!それまでどこか斜に構えたような生活をしていた私に天が与えたもうた心の癒し、いや天啓と言っても過言ではない!もちろん見た目だけではない。その真面目という言葉を具現化したような性格と容姿。どこまでも私に尽くそうする、まさに忠犬と呼ぶべき忠誠心!そうかと思えば夜戦になるとテンションが上がるのか「一発必中肉薄するわ!」と駆逐艦らしい勇猛な一面も覗かせる。そう!私にとって朝潮は……」

 「いや、けっこうです。と、言いましたよね?」

 

 なのにどうして言っちゃったんです?

 しかも両手を天に掲げるように広げて大声で!

 これではきっと、妹たちが何事かとビックリして……。

 

 「あ、あれ?」

 

 いませんね。

 何事もなかったように食事を続けていますし、いつの間にか、司令官が持ってきたお酒を一瓶奪って酒盛りを始めています。

 

 「はぁ……あの子たちったら。未成年の飲酒は法律違反です」

 「まあ、花見の時くらい良いじゃないか。それに、鎮守府の中は治外法権だ。なんてな」

 「司令官がそうやって甘やかすから……!」

 

 あの子たちが付け上がるんです!

 と、続けようとしたのですが、顔を真っ赤にして泣き出した大潮や逆に壊れたように笑っている満潮。

 寝てしまった朝雲に管を巻いている山雲と、それを止めようとしている峯雲。

 キーン!と言いながら両手を広げて走り回っている霰に、峯雲のオッパイを後ろから鷲掴みにして揉み拉きながらトロンとした顔をして、耳元で「ここか~?ここがええのんか~?」などと言っている霞。

 そんな、醜態を晒し続けている妹たちを愛おしそうに眺めている司令官を見たら言えなくなってしまいました。

 

 「君も飲むか?」

 「以前、散々な目にあったので遠慮しておきます」

 

 私がジト目で断ったのに、司令官は気分を害した様子もなく、むしろ予想通りと言わんばかりに「そうか」とだけおっしゃりながらほくそ笑んでから、左手に握られたグラスの中身を飲み干しました。

 名残惜しそうにグラスの底を眺めていますからたぶん……。

 

 「ん」

 

 やっぱり、グラスを少しだけ私に突き出しておかわりを求めてきました。

 もっとお食事とお水を摂っているなら「はいはい」と言いながらお注ぎするのですが……。

 

 「お酒しか飲んでないからダメです」

 「まあそう言わずに」

 「ダメと言ったらダメです!司令官にもしもの事があったら……!」

 

 鎮守府の運営にも支障が出ますし、お見舞いと偽って司令官の貞操を奪おうとする上位艦種の方々がお部屋に殺到します。

 いやいや、それ以前に私が……。

 

 「君のそういう顔は、いつ見ても新鮮だ」

 「睨まれるのがお好きだとは知りませんでした」

 「知らなかったか?ちなみに、汚物を見るかの如く見下されるのも好きだ」

 「正に、今のような感じですね?」

 「ああ、その目だ。その、体ごと引きながら見下げる感じ。私の業界ではご褒美だよ」

 

 海軍自体が誤解されかねないのでやめてください。

 と、それはともかく。

 いつの頃からでしょうか。

 司令官は私と出会った当初は、先に口走った台詞からもわかる通り、何かと私を持ち上げました。祭り上げたと言っても過言ではないレベルです。

 改二改装を受けた時など……。

 

 「改二になって少し身長が伸び、どう見ても小学生くらいだった改装前に比べて少し大人っぽくなっている。長い黒髪と、真面目を体現するような佇まいの朝潮はまさに正統派美少女と言っていい。制服も大潮達と同じ、白の長袖ブラウスに黒のサロペットスカート、襟元の赤いリボンタイが黒の割合が多い制服の中でいいアクセントとなっている。うん、控えめに言って天使だ」

 「などと……ってぇ!どうして言ったんです!?」

 「いや~、なんとなく言わなきゃ行けない気がして」

 

 と、悪びれるどころかウィンクしながら舌を出して「テヘペロ」とおっしゃっていますが……。

 おっと、司令官のせいで話が脱線してしまいそうになりました。

 とにかく司令官は、つい先ほどの台詞からもわかる通り私を誉めちぎっていました。

 なのにいつの頃からか、私が呆れたり軽蔑したりせざるを得ない台詞を言う頻度が増えていきました。

 例えば……。

 

 「愛する朝潮型駆逐艦たちがくんずほぐれつと……。朝潮、米はないか?」

 「おにぎりならあります。が、一応お聞きします。どうして急にお食事をする気になられたのですか?」

 「どうしてって、最高のオカズが目の前にあるからだが?」

 

 だが?

 ではありません。

 それって意味深がつきますよね?オカズのあとに(意味深)がつきますよね?確実に!

 私だって艦娘になって長いんですから、司令官がせ、性的な目的で今の台詞を口にしたんだってわかるようになったんです。

 ええ、わかりますとも。

 荒潮がレクチャーしてくれたおかげで、一般的な性知識は獲得済みなのですから。

 

 「片寄ってる気がするなぁ……」

 「何がですか?」

 「何でもない。それより、あの中に全裸でルパンダイブしたいんだが……すみません。無言で防犯ブザーに手を伸ばすのをやめてください」

 

 とか言ってる割に嬉しそうなのは無視します。

 まあ、今のやり取りでおわかりいただけたと思いますが、ここ数年の司令官は私を誉めるより不機嫌にすることに注力しているようなのです。

 それなのに……。

 

 「おバカなことを口走るくらいならお花見を楽しんだらどうです?花なんて見向きもしてないじゃないですか」

 「花なら見ているよ」

 「ですが……」

 

 司令官は桜を見上げていません。

 ずっと私を見ています。

 

 「君以上に美しい花なんてないさ」

 「褒めすぎです。そういう台詞は金剛さんとか大和さんとか……。とにかく、もっと大人な女性に言うべきです」

 

 私の機嫌がドン底まで悪くなり、もう相手をするのをやめようかと考え出した途端に、今度は逆に褒めてきます。いえ、口説いてきます。

 これで機嫌が治ってしまう私もどうかしているのですが……。

 

 「おいおい、私はロリコンだぞ?その私が、どうして育ちきってしまった娘らを褒めなければならないんだ?」

 「それ、絶対に本人たちの前でおっしゃらないでくださいね」

 

 じゃないと消し炭にされかねません。

 もちろん、文字通り消し炭です。もしかしたら微塵も残さず吹っ飛ばされるかもしれません。

 なのに、聞く人によっては即通報しかねない言葉だったのに、何故か私は嬉しく感じています。

 今も、優しい眼差しで私を見つめているこの人は私以外に興味がありません。

 私以外の艦娘を、恋愛対象として見ていません。

 この人は、同性からですら羨望の対象とされる人たちを差し置いて、心身ともに未熟な私だけをみてくれる。

 そのことが嬉しくて、誇らしくて、時には優越感にまで浸ってしまいます。

 

 「なあ、朝潮。どうして私が、毎年この日に君たちと……。いや、君と花見をするのかわかるか?」

 「いえ、わかりません。今日が桃の節句だからでは?」

 「それだけなら、わざわざ『河津桜』を植樹してまで今日しないさ」

 

 はて、そういえばどうして今日なのでしょうか。

 一般的な桜の開花時期は3月中旬から4月上旬です。

 ですが、司令官がわざわざ植樹したこの『河津桜』の開花時期は2月中旬から3月上旬。他の種の比べて開花が早く、しかも開花期間が短い桜です。

 司令官は、私たちと今日この日にお花見するためだけに、この木を植えた。と、言うことなのでしょうか。

 

 「私はね。毎年、この日を君と一緒にいられることが嬉しいんだ」

 「何か、特別な日なのですか?」

 「ああ、特別さ。今日を君と一緒に祝い、そして明日を迎えられることがね」

 

 そうおっしゃった司令官は、思い出したように桜を見上げて私から目をそらしてしまいました。

 照れているのか、それともお酒に酔ったのかどうかはわかりませんが耳まで真っ赤です。

 そんな司令官の言葉と態度の意味がわからない私は、ついついいつもの調子で返してしまいました。

 

 「それは何かの暗号ですか?」

 

 と、再び私に視線を戻した、私の最愛の人へ。

 

 

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