脊髄反射で書く朝潮型短編集   作:哀餓え男

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去年書き始めてお蔵入りしていたお話です(゜ロ゜)


霰のエイプリルフール

 

 

 

 霰は朝潮型駆逐艦九番艦。

 本当は十番艦になるはずだったんだけど、色々あって霞ちゃんより先に生まれました。

 色々の部分が知りたければウィキペディア先生にでも聞いてください。きっと詳しく教えてくれますから。

 

 「ちょっと霰、聞いてるの!?今は大事な会議中なのよ!?」

 「あ~……うん。聞いてるよ霞ちゃん」

 

 本当は聞いてません。

 でもこう言わないと霞ちゃんがしつこいのでそう返したんです。

 ちなみに今、八駆の姉さんたちと霞ちゃん、そして霰は学校の教室みたいな会議室で、恒例の朝潮姉さん主催のどうでもいい会議の真っ最中。

 あ、それと九駆の姉さんたちは出撃中です。けっして人数が多くなりすぎるとさばききれなくなるからじゃありません。

 で、議題はたしか……あれ?何でしたっけ?

 

 「大丈夫ですよ霞。霰は聞いてないようでちゃんと『エイプリルフールに卯月さんが嘘をつくのを阻止しよう作戦』会議の内容を聞いています」

 

 買い被ってくれるのは大変ありがたく思うのですが、朝潮姉さんが思っているほど霰は聞いてません。

 と言うかどうでも良いです。

 エイプリルフールは年に一度の嘘をついて良い日なんだから、思いっきり嘘をつかせてあげれば良いじゃないですか。

 それに会議の名称が安直過ぎます。ハッキリ言って()()()です。もう少し捻ってください。

 

 「どうせやめろって言ったところでやめないんだから、いっそ監禁したらどうですか?」

 「ナイスアイディアよ大潮。そうすれば今年は騙されないですむわ」

 

 睦月型は遠征の主役と言っても良い艦型だからそれは無理だよ大潮姉さん。

 って言うか満潮姉さん。

 卯月ちゃんのわかりやすい嘘に毎年騙されたんですか?

 あんな「今日はお日様が西から昇ったぴょん!」とか「今日のお昼ご飯にはフレンチクルーラーがデザートでつくぴょん!」なんて、子供でも騙されそうにない嘘に。

 

 「いっそ解体しちゃいましょうよぉ。そうすれば今後悩まされる事もないでしょう?」

 

 相変わらず恐ろしい事をニコニコしながら平然と言いますね荒潮姉さん。

 でもそれは、先に言った理由から司令官が絶対に認めないと思います。

 

 「いやいや、解体はマズいから、やっぱり大潮姉さんが言う通り監禁が良いと思うわ」

 

 だからね霞ちゃん。

 それは鎮守府の事情を考えると無理なんだよ。それにね?みんな欠片も疑問に思ってないようだけど、仲間を嘘をつくって理由だけで監禁していても良いの?

 霰はどうしても思えないなぁ……。

 

 「霰はどうしたら良いと思います?」

 「霰は……」

 

 霰に話を振らないで、が素直な感想です。

 話を振られても、口下手な霰じゃ姉さん達が満足するような回答ができません。

 でもそれなりに、姉さん達に合わせようと悩むくらいはするんです。

 もっとも悩んでいる内に「霰はたぶんこう考えているはず」と、姉妹の誰かが明後日の方向に勘違いをするのが落ちなんですが。

 

 「霰ちゃん。無理に発言しなくて良いんだよ?」

 

 姉妹の中で一番姉妹の事を想ってる(霰基準)の大潮姉さんはそう言ってくれていますがそうはいきません。

 だって、朝潮姉さんに名指しで意見を求められているんですから。

 

 「霰は……」

 「なるほど、良くわかりました」

 

 いや、何も言ってない。

 と言うか考えてさえいないのに、朝潮姉さんは何がわかったの?

 

 「流石は霰です。まさか、私と同じことを考えていたとは」

 「いや、あの……」

 

 だから何も考えてない。

 だいたい、朝潮姉さんがどんな案を考えていたかなんて想像もつかない。

 

 「霰、アンタの頭って朝潮姉さん寄りだったの?」

 

 え?やめてよ霞ちゃん。

 朝潮姉さんのことは姉として尊敬してるけど私はあそこまで馬鹿じゃない。

 

 「ちょっと霞、それは霰に対して失礼じゃない?」

 「あらあら、満潮ちゃんの言い方は朝潮ちゃんに対して失礼じゃないかしらぁ」

 「そんなことないよ荒潮。満潮が言うとおり、朝姉と同列に扱われるなんて霰が可哀想だよ」

 「言いたいことはわかるけどぉ。さすがに本人の目の前では……ねぇ?」

 

 朝潮姉さんと最も近しい八駆の姉さんたちは相変わらず辛辣だな~。

 まあそれだけ仲が良いって事なんだろうけど、朝潮姉さんがショック受けて泣きそうになってるからそれくらいにしてあげて。

 

 「朝潮姉さん」

 「え?はい!なんですか霰!」

 

 しまった。

 朝潮姉さんが不憫だからついつい声をかけちゃった。

 こうなったら朝潮姉さんが考えそうなことを予想して助け船を出そう。もし合ってれば、朝潮姉さんのテンションも復活するかもしれないから。

 

 「え~と、霰?」

 

 朝潮姉さん、ちょっと考え事してるから黙ってて。

 まず大前提として、先に出た監禁や解体は鎮守府の懐事情を考えると現実的じゃない。それは秘書艦である朝潮姉さんが一番わかっているはず。

 

 「なんかボケーっとしてるね」

 

 別にボケーっとしてるわけじゃないよ大潮姉さん。

 で、そんな事情を知っている朝潮姉さんが監禁とか解体なんて案を考えてるとは思えない。

 そこで私はもっと現実的で、かつ平和的な方法を考えてみる。

 

 「霰ちゃんのほっぺたって、相変わらずプニプニして気持ち良いわよねぇ♪」

 「ちょっとやめなさいよ荒潮。何か考え事してるかもしれないでしょ」

 「あらぁ~。そんなこと言って、本当は満潮ちゃんもプニプニしたいんじゃないのぉ?」

 「っな!んなわけないでしょ!」

 

 荒潮姉さん大正解。ピンポーン。

 満潮姉さんは霰と二人っきりの時は飽きもせず霰のほっぺを突っついてるよ。

 おっと、また気が散っちゃった。

 卯月ちゃんにエイプリルフール当日に嘘をつかないようにさせるのは恐らく、いや100%不可能。

 なら、被害を減らす方法を考えれば良い。

 つまり、当日から翌日まで鎮守府から遠ざける。要は遠征に出せば良い。

 そうすれば被害は遠征メンバーだけに抑えられるし、鎮守府的にも問題ない。

 姉さんたちも、四六時中卯月ちゃんの行動に目を光らせなくてもよくなる。

 

 「霰、そろそろ何か言ってくれない?」

 「え?霞ちゃん、なぁに?」

 「いや、なぁに?じゃなくて、アンタ何か意見を出そうとしてたんじゃないの?」

 

 そうだよ?

 でも霞ちゃんに急かされたせいで口に出すタイミングを逃しちゃった。

 注目されながら何か言うのは苦手なんです。

 

 「霰が言いたいことは私が代わりに言いましょう。何せ、霰は私と同じことを考えていたはずですから」

 

 どうぞどうぞ。

 本当に同じことを考えているのなら霰が言う必要はない。朝潮姉さんと思考が同じなことに複雑な気分にはなるけど……。

 

 「まず大前提として、監禁や解体は鎮守府の事情を考えると現実的じゃありません。しかし、エイプリルフールという公然と嘘をつける日に卯月さんに嘘をつかさせないようにするなど不可能。そこで私は、嘘をつかさせないのではなく被害を最小限に抑えることに尽力すべきだと考えました」

 

 あ、やっばいこれ。

 本当に同じこと考えてたっぽい。

 しかも、ここまでなら朝潮姉さんの説明には筋が通ってるから、他の姉さんたちも真面目に聴く姿勢になった。朝潮姉さん、今日はまともな日だったんだね。

 

 「じゃあ、当日は遠征にでも出すの?」

 「良いところを突いてきましたね大潮。エイプリルフール当日から翌日までかかる遠征に出すのが一番被害が少なく、かつ鎮守府の財政的にも助かる方法……」

 

 そうなるよね。

 まともな日の朝潮姉さんは本当に頼りなるし、姉としても人としても尊敬できる自慢の姉。

 そんな日の朝潮姉さんと同じことを考えてたことに少しだけ嬉しく……。

 

 「でした」

 「でした?なによ、それって遠征に出せないってこと?」

 「はい、その通りです満潮」

 

 あれ?なんだかおかしな空気になってきた。

 朝潮姉さんは心底悔しそうに下唇を噛んで肩をワナワナと震わせてるし、拳も血が滴りそうなほど握りこんでる。

 

 「あの嘘つきウサ……失礼。卯月さんは、去年から休暇届を出していやが……いたんです」

 「休暇届って、まさかエイプリルフールに休むための?」

 「そうです!しかも司令官が大した確認もせずに判を押しちゃったせいでその休暇届は受理されています!しかも!代わりに遠征に出てくれる人を探し、さらに遠征要員全員に自腹で特別手当てを出すという徹底っぷり!おかげで、その日遠征に出る予定の人から「その日は卯月ちゃんを絶対に休ませてあげて」と言われる始末です!正直、嘘をつくためにそこまでするとは想定していませんでした!」

 

 ああ、それで遠征に出すことができないんですね。

 まあ、嘘をつくために一年も前から休暇届を出して、味方を得るために自腹で特別手当てまで出すなんて普通はしないよね。

 

 「してやられたわね。で?それを踏まえて、朝潮姉さんはどうするつもりなの?」

 

 霞ちゃんの言葉で、それまで地団駄を踏むほど激昂状態だった朝潮姉さんが真顔になりました。目からも光が消えていますね。

 所謂、ハイライトオフってやつです。

 

 「故に、大潮が言ったように監禁しようとも考えましたし、荒潮が言ったように誤解体を装って解体してやろうとも考えました。ええ考えましたよ。同じ鎮守府の仲間である卯月さんを監禁とか解体とか、仲間を仲間と思わぬような非情なことを考えました」

 

 これはさっきの仕返し?

 非情呼ばわりされて大潮姉さんと荒潮姉さんがバツが悪そうに目をそらしちゃったよ?ついでに満潮姉さんも。

 

 「私は艦娘として最低です。人としても屑の部類です。人非人です。いっそ卯月さんではなく自分を解体しようと何度思ったことか」

 

 そのくらいでやめてあげて。

 それって姉さんたちにも刺さってるから。淡々と事務報告するような口調だけど凶器のようにグサグサッ!って音が聴こえてきそうなほど刺さってるから。

 実際、三人は揃って「うっ!」とか言って平らな胸を押さえてるよ。

 

 「そんな時にふと思ったんです。卯月さんの行動を阻止するのが不可能なのならば……」

 

 ならば……何。

 なんだか、今にも泣き出しそうなほど瞳を潤ませてるけど……。

 

 「いっそ、その日はお休みして部屋に引き籠ろうかなって」

 「は?朝姉ってその日に休暇取ってるの?」

 「取ってません」

 「じゃあ無理なんじゃない?それとも、仮病でも使って休むの?」

 

 これは大事(おおごと)です。

 黙り込んだ様子をみるに、朝潮姉さんは大潮姉さんが言った通り仮病を使って休む気です。嘘をつくのもつかれるのも大嫌いで、40度の熱が出ても仕事を休もうとしない朝潮姉さんがです。

 

 「そこまで嫌!?朝潮姉さんが卯月に騙されるのなんていつものことじゃない!」

 

 きっとそれほど嫌なんだよ満潮姉さん。

 だって、朝潮姉さんの騙されっぷりは異常だよ?ハッキリ言って正気を疑うレベルで騙されるからね?

 去年のエイプリルフールで、「今日は全日本逆立ち連盟が決めた逆立ちの日だから逆立ちで移動しなきゃダメだぴょん」なんて、赤ん坊でも騙せそうにない嘘を信じて本当に逆立ちで移動してましたから。

 満潮姉さんだって、逆立ちした朝潮姉さんの後ろを拝みながらつきまとってた司令官を蹴り飛ばしてたんだから憶えてるでしょ?

 

 「今まで私は卯月さんを必死に止めようとしました。ええ、やりました。やったんですよ! 必死に! その結果がこれなんです!!毎年毎年、エイプリルフールだからと言って嘘をつきまくって、今年はあれだけ用意周到な準備をしたんですから、明日は例年以上の被害をもたらすはずです! もう我慢の限界なんです。それなのに、まだ私に我慢しろって言うんですか!? 今年も人間不信になるまで騙されろって言うんですか!?」

 

 朝潮姉さんがバナ○ジみたいになってる。

 は、どうでもいいか。

 本当に嫌なんですね。

 さすがにここまで思い悩んでいたとは考えていなかったのか、大潮姉さんと荒潮姉さんは朝潮姉さんを慰め始めたし、いつもなら「どこのバ○ージだ」くらいのツッコミを入れるはずの満潮姉さんと霞ちゃんが、朝潮姉さんの演説紛いの熱弁に圧倒されてしまいました。

 

 「わかった。そんなに嫌なら明日は休も?司令官には大潮から言っとくから」

 「で、ですが私は秘書艦で……」

 

 とか言っても、まだ葛藤はしてたのか。

 きっとまだ、仕事をしなきゃって使命感と司令官と一緒にいたいって感情が、休んで卯月ちゃんの嘘から逃げたい気持ちと拮抗してるんだろうね。

 顔も真っ青になって今にも吐きそうな感じだから、すでに体調にも影響が出てるんなら仮病を使わなくても休めそうです。

 

 「いやいや、さすがに無理でしょ。それとも、卯月の嘘に怯えながら仕事する?」

 「怯える朝潮ちゃん……。閃いたぁ!」

 「荒潮はちょっと黙ってなさい」

 

 満潮姉さんの言葉で何を思い付いたのかなぁ。

 きっとろくでもない事だし、話が脱線しそうだからツッコマずにいよっと。

 

 「嘘ごときで体調を崩すなんて情けないったら!」

 

 あのさぁ、霞ちゃん。

 せめて台詞と態度は合わせよ?泣きそうな顔でオロオロしながらじゃあ決まりが悪いよ。

 さてと、じゃあ霰は……。

 

 「霰ちゃん、どこ行くのぉ?」

 「ちょっとお手洗い」

 「本当にぃ?」

 

 本当。

 と、言っても荒潮姉さんには通じないだろうな。

 朝潮姉さんにかかりっきりの三人ならともかく、荒潮姉さんは霰がやろうとしてることくらいお見通しだろうから。

 って言うか、霰がやらなかったらたぶん荒潮姉さんがやるんじゃないかな。

 

 「やりすぎちゃダメよぉ?」

 「うん。わかってるよ」

 

 そう言い残して、霰は荒潮姉さんの視線から逃げるように会議室をでました。

 朝潮姉さんの様子が激変して事情が変わりました。

 監禁も解体もダメだとは思いますが、朝潮姉さんが体調にまで異変をきたしているのなら話は別です。

 大切な姉妹を傷つける人は誰であろうと、悪気がなかろうと絶対に許さない。

 そして翌日……。

 

 「霰、朝潮の容体はどうだ?」

 「布団にくるまってガタガタ震えてます」

 「卯月のことは伝えなかったのか?」

 「伝えましたよ」

 

 それでも布団から出てこようとしません。

 卯月ちゃんは入渠してるから被害に遭うことはないと言っても、「それも嘘なんでしょう!?だって今日はエイプリルフールです!」とか言って、私たちが言うことすら信じてくれないんです。

 

 「重症だな……。卯月の方は?」

 「似たような状態らしいです」

 「あの卯月がか?」

 「はい。よほど、恐い思いをしたんでしょうね」

 

 昨日の晩。

 正確には午前0時を過ぎた直後くらいに、鎮守府で事件が起きました。

 まあ事件とは言っても、真夜中に部屋を抜け出したと思われる卯月ちゃんが階段から派手に落ちて大破し、入渠したってだけなんですが。

 

 「霰、お前まさか……」

 「なぁに?」

 「いや、なんでもない」

 

 何を聞いても無駄だと悟ってくれたのか、司令官はそれ以上追及してきませんでした。

 まあ、追及されても、霰は卯月ちゃんが階段から()()()()()()()しか知らないんですけどね。

 でも、すっとぼけても許されるでしょ?

 だって今日は、エイプリルフールなんですから。

 

 

 

 

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