(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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蒼の強化プランについて様々な御意見ありがとうございます。
そのおかげか、正直ドン引きするくらいの最悪にして最低の手段を一つ思い付いてしまいました。
これやったらもうクロウは生き残っても絶対に処刑レベルのものです。

流石にまだ未定にしますが。



105話 祝宴

「それでは改めて、リィン君の奇蹟の生還を祝して乾杯っ!」

 

 オリヴァルトの音頭で各々は手に持ったグラスを合わせて鳴らす。

 

「すまないねリィン君……

 できることなら宮殿で豪華な料理で持て成して上げたかったのだけど、この時期は各地の領主が集まっていて慌ただしくてね」

 

「いえ、そんな気にしないでください。このお店も十分に豪華ですから」

 

 恐縮した言葉をリィンは返すが、それは決して虚勢ではなかった。

 むしろ緊張している意味合いでは両隣に座っているエリゼとレンの存在が原因だった。

 

「うふふ……」

 

「むう……」

 

 余裕で小悪魔的な笑みを浮かべるレンに対してエリゼは頬を膨らませる。

 以前、アルティナの時も同じようなことがあったがあの時よりも不機嫌なエリゼにどうしたものかとリィンは途方に暮れる。

 

「まずは改めて紹介しよう……

 この二人が以前に話していたボクの弟妹だ」

 

「アルフィン・ライゼ・アルノールです。エリゼのクラスメイトをさせていただいています。どうかよろしくお願いします」

 

「セドリック・ライゼ・アルノールです。リィンさんのことは兄上からたくさん聞いています。お会いできて感激です」

 

 金髪の双子が名乗り、それに続いて彼らに控えていた二人も名乗る。

 

「クルト・ヴァンダールです……リィンさんのことは兄から聞かされていましたが、思っていたよりも――いえ、何でもありません」

 

「フフ……ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンと申します。どうぞ気軽にミュゼとお呼びください、リィン様」

 

 彼らの名乗りにリィンは思わず絶句する。

 アルノールを初めとしてヴァンダールもカイエンもシュバルツァー家とは格が違う雲の上のような存在――だからではない。

 

「兄様?」

 

 じっと探る様な眼差しで四人のことを睨むように観察するリィンをエリゼが咎めるように名を呼ぶ。

 

「ああ……すみません。失礼しました……

 リィン・シュバルツァーです。申し訳ありません。本来なら俺の――自分の方から名乗るべきなのに」

 

「お気になさらなくていいですよリィンさん……

 公の場ならともかく、お兄様が開いたリィンさんのための祝宴の場ですから、それにリィンさんは私たちよりも年上なのですから」

 

 恐縮するリィンにアルフィンは朗らかに笑って応える。

 代表して応えたアルフィンの言葉に他の三人は特に嫌な顔も気配もなく頷く。

 

「っ……まともだ……オリビエさんの弟妹なのに……四大名門なのにまともな帝国人だ」

 

 ミュラーの弟は言うまでもなく、アルフィンもセドリック、そしてミュゼも多少の遊び心がありそうだがリィンの理解の範疇で収まりそうな少年少女たちだった。

 予想の斜め上を超えていく《放蕩皇子》でも、愉快犯な《元生徒会長》でも、同性愛者な《四大名門の令嬢》でも、結社の《怪盗紳士》でもない。

 何処からどう見ても真人間な帝国人にリィンは思わず感動する。

 

「むう……」

 

「リィン君……そんなにも……」

 

 そんなリィンの心情を察してミュラーとクレアは思わず同情して目を伏せる。

 

「失礼しました……それなら俺も気軽にリィンと呼び捨てにしてくれて構いません……年もあまり変わらないですから」

 

「でしたら……そうですねリィン兄様とお呼びしてもいいですか?」

 

「……え゛?」

 

「実は事あるごとにお兄様からリィンさんの素晴らしさを聞かされているうちに他人とは思えなくなってしまって……」

 

「あら姫様ずるいです……それなら私もリィンお兄様と呼ばせてください。私はずっと一人っ子だったので兄弟というものに憧れていたんです」

 

「え……?」

 

 アルフィンに続いてミュゼもそんなことを言い出して――

 

「あらあら、大変ねリィンお兄ちゃん」

 

 レンまでそれに便乗する。

 

「い い か げ ん に し て く だ さ い」

 

 更に追い打ちを掛けようと口を開くアルフィン達をエリゼの凍てついた言葉で止める。

 

「エリゼのケチ」

 

「ああん、あの氷のようなエリゼ先輩がこんなお顔をされるなんてっ!」

 

「フフ……レン知っているわよ。お姉さんみたいな人の事ブラコンって言うのよね?」

 

「黙りなさいと言っているんです!」

 

 すっかり馴染んでしまった様子のレンに安堵するも、突拍子のないことを言い出したアルフィンとすかさず便乗したミュゼにやっぱり帝国人なのだなあ、と嘆く。

 そしてそれまで黙っていたセドリックは緊張した面持ちで声を上げた。

 

「あ……あのリィンさんっ!」

 

「はい、何ですかセドリック殿下?」

 

「サ……サインをいただけないでしょうか!?」

 

 そう言って差し出された本にリィンは首を傾げる。

 しかし、その本の題名と著者を見てリィンは嫌な予感に背筋を振るわせてオリヴァルトに視線を向ける。

 

「ふ……《Rの軌跡》……

 とある少年が宿した異能に悩み、家出したことから始まる冒険譚……

 惜しむらくは影の国で知り得た彼の気持ちを修正する前に一巻を出してしまったことだね」

 

「何をしてくれているんですかあなたという人はっ!?」

 

 誇らしげに語るオリヴァルトにリィンは思わず吠える。

 

「最初はテオ殿に、今すぐではなくてもいつかリィン君の死を受け入れた時に彼の冒険の一部始終を知らせるために書いたのだけど、レクター君に取材をしたあたりからオズボーン宰相と父上に興味を持たれてしまい……

 ついでに我が《美》のライバルが何処からか聞きつけたようで結社側の取材を仕切ってくれたりと多くの人に支えられてこの世に生まれた冒険譚なのだよ」

 

「だ……だからって……」

 

 父を引き合いに出されてリィンは反論できなくなる。

 元はといえば、生死不明になってしまったのが原因でもあるのだから。

 それにしてもレクターはともかく、ブルブランまで関わっていることに頭痛を感じてしまう。

 

「あれをそのまま書いたらいろいろとまずいじゃないですか」

 

「安心するといい、帝国政府の検閲はクリアしているからね。それに創作の誇張表現として受け入れられているみたいだよ」

 

 自分がいない間に完全に外堀を埋められていたことにリィンは己の負けを悟る。

 しかも取材という言い方からリベールの人達も協力しているのだろう。

 その事実にリィンはがっくりと肩を落とし、セドリックの要望に断る。

 

「すいません。セドリック殿下……サインと言われても自分には無理です。そもそもそういうことをしたことがないので」

 

「そうですか……」

 

 残念そうに肩を落とすセドリックにリィンは少なからず罪悪感を覚える。

 

「あの……代わりというわけではありませんが握手をしてもらってもいいですか? あと僕のことはセドリックと呼び捨ててください」

 

「それくらいなら構いません……いや、構わないよセドリック」

 

 砕けた口調に変えてリィンは差し出されたセドリックの手を取って握手を交わす。

 嬉しそうに顔を綻ばせるセドリックの純粋さに改めてリィンは彼が本当にオリヴァルトの弟なのか疑ってしまう。

 

「えっと……何か気に障ることをしたかな?」

 

 そしてクルトと名乗った少年がリィンを睨んでくることに首を傾げる。

 

「……いえ、何でもありません」

 

 クルトは短く答えるものの、不躾な目をやめない。

 

「ハハハ……モテモテだねリィン君。いっそハーレムを築いてみないかい?」

 

「冗談が過ぎますよオリビエさん」

 

 帝国だというのに、思わず以前からの呼び方をしてしまったリィンは先が思いやられるとため息を吐いた。

 

 ………………

 …………

 ……

 

「さてリィン君。明日からの予定を話させてもらっていいかな?」

 

 歓談を交えた食事も終わったところでオリヴァルトはそう切り出した。

 姦しかった女性陣は場の空気が変わったことで、彼女たちも口を噤んでそれまでの騒ぎが嘘だったかのようにオリヴァルトの話を聞く姿勢を取る。

 その切り替えの早さにリィンは感心しながらオリヴァルトの言葉を待つ。

 

「まずは父上と宰相閣下への謁見だけど、確かテオ殿は今年の最後の日に登城するんだったよね?」

 

「はい。この年末に行われる社交界には極力関わらないつもりで、皇帝陛下への挨拶と領主会議を済ませたらすぐにユミルに帰るつもりです」

 

 なのでリィンはエリゼに少しでも早く無事な姿を見せるために一足早くヘイムダルに来た。

 

「ではテオ殿の登城に合わせてセッティングして構わないかな?」

 

「はい」

 

「それから年内にケビン神父とリース君が、年が明けての二日目にクローディア姫とカシウス准将がこちらに来るそうだ」

 

「ケビンさん達はともかく、クローゼさん達もですか、この時期に?」

 

「この時期だからだよ。去年の初めの方に《異変》が起きたわけだからね……

 周りに二つの国がきちんと友好だということを示すためにも以前から彼女たちの訪問は決まっていたんだよ……

 もちろんリィン君のことに関してはお二人とも随分と気に掛けていたのだから覚悟するといい」

 

「はい……分かりました」

 

「後はそうだね……リィン君には御前試合をさせてみないかと宰相閣下から打診を受けているけど、どうするかい?」

 

「御前試合ですか?」

 

「うん……この時期には毎年、その年にお披露目された貴族の子女達から三名ほど代表を募り、皇帝陛下や帝国市民の前で現役の軍人などと手合わせする催しがあるんだ……

 日程はそれこそ、この年の最後の日。ちょうどリィン君たちが父上にお目通りする日になるから丁度良いかもしれないね」

 

「ですが、そういうものは何日も前に代表は決まっているものではないですか?

 俺なんかが出ても、代表に選ばれた貴族の方たちが良い顔をしないと思いますが」

 

「そこら辺は気にしなくていいさ……枠を増やすだけで彼らの内の一人に辞退してもらうわけじゃない……

 何よりリィン君の実力を見てみたいと皇帝陛下と宰相閣下直々の要望だからね。とはいえリィン君が本調子ではないというなら断ってくれて構わないよ」

 

 あくまでもリィンの事情を優先して良いと言うオリヴァルトの言葉にリィンは考え込む。

 

「そうですね……」

 

 体調という面では特に問題はない。

 自分の体を取り戻し、いろいろな意味で変わったその性能もすでに一通り試しているので戦うことについては問題ない。

 そして何より、ゼムリアストーンの太刀を頂いた手前、断ることは不誠実だろう。

 それにエリゼやテオにもう大丈夫だと示すには絶好の機会なのかもしれない。

 

「分かりました。その話、御受けいたします」

 

「分かった……では、そう伝えておくよ……それから一つ聞いておきたいのだけど、リィン君はこれからどうするつもりだい?」

 

「どうするというのは?」

 

「リィン君も十六歳という節目の歳になったわけだ。その気になれば遊撃士になる道を選べるだろう?

 君を親衛隊に推薦するという話も一度は流れてしまったが、ボクとしては改めて君を勧誘したいと思っているのだけど」

 

「お気持ちは嬉しいですが、とりあえず沢山の人に心配を掛けてしまったのでもう一度リベールに行こうかと思っています」

 

「兄様!?」

 

「大丈夫だエリゼ。クローディア王太女殿下やカシウスさんの他にもリベールでは沢山の人にお世話になったからちゃんと挨拶しておきたいんだ……

 その後は……レンとの約束を果たすためにクロスベルに行こうかと思います」

 

「クロスベルというと、レン君の御両親に会いに行くという話だったね」

 

「……兄様?」

 

「っ……オリヴァルト皇子、誤解を招く言い方をしないでください」

 

 エリゼの温度が下がった声にリィンは身震いしながら弁明する。

 

「誤解も何も、事実その通りだと思うんだけどそこのところ、レン君はどう考えているんだい?」

 

「別に今更レンはあんな偽物のパパとママのことなんてどうでもいいわ……

 でもリィンがどうしても気になるって言うから仕方なく付き合ってあげるだけよ」

 

「フフ……というわけで少々複雑な事情があるのでね。エリゼ君、君の気持ちも分かるけど大目に見て上げてもらえるかな?」

 

「…………はあ……分かりました」

 

 オリヴァルトに言われてエリゼはため息を吐き、リィンを睨むのをやめる。

 レンの言葉の中にあった不穏な言葉。そして明らかに強がりだと分かる言葉。

 おそらくお人好しの兄が放っておけないと感じてしまったのだろうと、エリゼは考える。

 

「えっと……あとはトリスタに行くつもりです」

 

「ん……それはいったいどうしてだい?」

 

 思わぬ名前が出てきたことにオリヴァルトは首を傾げる。

 

「実は……クロチルダさんから聞いたんですが《アレ》がそこにあるみたいなんです」

 

 エリゼ達がいる手前、リィンは騎神のことをぼかして説明する。

 

「具体的な場所は教えてもらえませんでしたが、俺なら近付けば分かるだろうと……

 《アレら》は今後の計画に関わるもののようなので、早いうちにちゃんと本体を手に入れるように言われたんです」

 

「トリスタ……、これも運命かな……? リィン君、ボクにはその場所の心当たりが一つだけあるよ」

 

「本当ですか?」

 

 オリヴァルトの言葉にリィンは驚く。

 

「うん……そのことについて少しリィン君とレン君に相談したいことができたのだけど、クロスベルへ行くのを少し待ってもらってもいいかな?」

 

「それは……?」

 

 オリヴァルトの提案にリィンはレンを見る。

 当のレンは興味深そうな笑みを浮かべ、とりあえず続きを促す。

 

「トリスタには220年前、ドライケルス大帝が設立したトールズ士官学院がある……

 《アレ》との関係性から考えると、そこにあると考えるのが妥当だろうね……そこでリィン君、トールズ士官学院に入学してもらえないかね?」

 

 

 

 

 




もしも彼らが《Rの軌跡》の原本を読了したら。

アルティナ
「……これがいわゆる黒歴史というものでしょうか?」

セドリック
「流石リィンさん……僕もこんな風に強くなれたらいいけど……」

クルト
「ありがとう。アルティナ……君のおかげで守るということの本当の意味が分かった気がする」

ユウナ
「うわ~んっ! アルが……アルが……ぐす……えぐ……」

エリゼ
「兄様こんな無茶なことばかりして……それはそれとしてエステルさんとヨシュアさんのお二人についてもっと詳しく」

アッシュ
「ゲオルグ・ワイスマン、超ウゼエェェェェッ!」

アルフィン
「レーヴェ×リィン……やはり殿方の熱いぶつかり合いは良いものですね」

ミュゼ
「異議ありです姫様。リィン×レーヴェこそが一番だと思います」




同士D
「リィンさんを中心にたくさんの人たちが……
 レーヴェ、ヨシュア、ブルブランにマクバーン、他にも……私はいったいどれを選べば……いっそう“ぜんぶ”…………ぶばっ!」



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