(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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 最悪にして最低の手段。
 あーみーくーがーのカルテッドなツインブレード――だけでは足りないのでオルディーネの《核》や武器を強化するための《魂食い》。
 つまりはケルディックの焼き討ちが虐殺に……

 閃Ⅰで暗殺が失敗して、《黒》との力差を思い知らされればこれくらい行くかもしれないと思います。
 またクロウが一方的にリィンがオズボーンの子供と知るか、《贄》としての呪いによって箍が外れる可能性もあるでしょう。




106話 三人の貴族

 

 

「兄様、大丈夫でしょうか?」

 

「あら、エリゼったらもう何回目? リィンなら平気だって何度も言ったでしょ?」

 

 ヘイムダルの闘技場。

 人で埋め尽くされた観客席の片隅でエリゼはもうすぐ始まろうとしている御前試合に思いをはせる。

 

「フフ……そうおっしゃらないでくださいレンさん。エリゼ先輩がそれだけリィンさんのことが大好きだというだけなんですから」

 

 からかうミュゼの言葉もこの時ばかりはエリゼにも聞こえていない。

 年を締めくくる最後の式典。

 御前試合の他にも様々なプログラムがあり、今は宮廷楽団による雅な演奏が振る舞われているが、それさえもエリゼの耳には届いていない。

 

「しかし、リィンがこんな大舞台に出ることになるとはな」

 

 そんな娘たちの微笑ましいやり取りに苦笑しながら、今朝方に合流したテオ・シュバルツァーは呟く。

 吹雪の中、突然呼び出されて彼に託された子供。

 自分の子供のように慈しみ愛を注いできたが、致命的な部分ですれ違い家出してしまった息子の成長にテオは感慨深い気持ちになる。

 一時は生存が絶望視されて行方不明となったが、それでも約束を果たしてちゃんと帰ってきてくれた息子を誇らしく感じる。

 本来なら正式にお披露目をしていないリィンが御前試合に出ることはない。

 元々、そういうことに関わろうとは考えていなかったテオからすれば帝都へ着いて早速のサプライズなのだが不思議と嫌な気はしなかった。

 

「さて……どれほど強くなったのだろうなリィンは」

 

 一年程前に八葉一刀流の《初伝》を授かった息子の成長をテオは今か今かと楽しみに待つのだった。

 

 

 

 

「どうぞこちらでお待ちください」

 

 そう言われて案内されたのはグラン=アリーナの時のような内門に続く控え室だった。

 そこにはすでに三人の貴族の子女が御前試合に備えて精神を集中していた。

 

 ――騎士剣が二人と、もう一人は大剣か……

 

「む……なんだ貴様は?」

 

 リィンは素早くそれぞれの武器を確認すると、控え室に入って来たリィンを咎めるような口調で貴族然とした少年が振り返った。

 それに倣って他の二人、濃い金髪の少年と青い髪を後ろでまとめた少女が振り返る。

 

「初めまして。この度オリヴァルト皇子の計らいで皆さんと一緒に御前試合に出ることになりましたシュバルツァー男爵家の嫡男、リィン・シュバルツァーと申します。以後お見知りおきを」

 

 高圧的な言葉を受け流してリィンは頭を下げる。

 

「シュバルツァー……? 知らない名だな」

 

 少年は胡乱な眼差しでリィンを探る様に不躾な目を向けてくる。

 そして少年はリィンの太刀袋を見つけると、鼻で笑った。

 

「それはまさか太刀か?」

 

「ええ、その通りです」

 

「ふざけるなっ! この神聖な御前試合によりによって東方などの武器を持ち込むなど恥を知れっ!」

 

 突然の罵倒にリィンは面を食らう。

 しかし、勝手な誹謗中傷にも関わらずリィンはむしろそんな傲慢な、如何にも貴族らしい少年に安堵を感じた。

 

「っ……何を笑っているっ!」

 

「あ……すまない」

 

 笑みをこぼしていたことを指摘され、リィンは思わず謝罪するがそれが気に障ったのか少年はさらに眦を上げる。

 

「貴様……僕が誰だか分かっていないようだな」

 

「分かるも何も俺達は初対面だろ?」

 

「ぐっ……僕はパトリック・T・ハイアームズ。この名を聞けば流石に分かるだろ?」

 

「ハイアームズ……四大名門の……」

 

 意外に格の高い名前が出て来たことにリィンは驚くが、動揺は少なくやはり安堵の方が大きかった。

 

「何だその目は!?」

 

 全く動じないリィンにパトリックは激昂する。

 

「いや……その……うん、君はそのままの君でいてくれ」

 

「訳の分からないことを……そこに直れっ! 僕がこの場で――」

 

「そこまでにするがいい」

 

 剣に手を掛けたパトリックを制止したのは青い髪の少女だった。

 

「そろそろ試合が始まる。パトリック、そなたが一番手だったはず。準備をするといい」

 

「っ……覚えてろっ!」

 

 捨て台詞を吐いてパトリックは奥の内門へと歩いて行く。

 それを見送り、リィンは少女に向き直る。

 

「すまない、助かった」

 

「そう思うならもう少し言葉に気を付けるが良い」

 

 リィンの謝罪に少女はため息を吐いて名乗る。

 

「ラウラ・S・アルゼイド……レグラムの出身だ。名で分かると思うがアルゼイド流を嗜んでいる」

 

「改めてリィン・シュバルツァーです。流派は《八葉一刀流》です」

 

「ふ……敬語は不要だ。ユーシス、そなたも名乗るくらいはしたらどうだ?」

 

 ラウラは振り返り我関せずといった様子の三人目の少年に声をかける。

 

「ユーシス・アルバレアだ。どうせこの場限りの縁だ。覚えておく必要はない」

 

 素っ気ない言葉だけで終わってしまった自己紹介にラウラはため息を吐く。

 

「すまない。二人とももうすぐ始まる戦いに緊張していてな」

 

「そういうラウラはあまり緊張していないようだな?」

 

「そんなことはない……私が戦う相手は帝国最強とうたわれるものの一人、私も平然としてはいられない……

 だが緊張よりもあの人に今の自分の剣がどれだけ届くのか試してみたいという気持ちの方が強いようだ」

 

「それは頼もしいな」

 

 立ち姿からも武人然とするラウラのらしい言葉に早くも彼女の人となりが分かってくる。

 

「しかし――」

 

「ん……? どうかしたのか?」

 

 口元に手を当て考え込むラウラにリィンは首を傾げる。

 

「《八葉一刀流》……《剣仙》ユン・カーファイが興した東方剣術の集大成というべき流派……

 皆伝に至った者は《理》に通じる達人として《剣聖》と呼ばれるという」

 

「詳しいんだな。帝国では殆どしられていない流派のはずなんだけど」

 

「父に言われたのだ『剣の道を志すならばいずれ八葉の者と出会うだろう』と……

 だが、こうして向かい合ってみても、父から聞いていたほどの使い手とは思わなくてな」

 

「ハハ……期待に沿えなくてすまない」

 

 真っ直ぐな物言いにリィンは苦笑する。

 

「《八葉》と言っても俺はまだ《初伝》の未熟者なんだ」

 

「そうなのか? オリヴァルト殿下に推薦されたと聞いていたから少なくても《中伝》には至っていると思ったのだが……いや、すまない不躾だったな」

 

 頭を下げるラウラに気にしなくていいとリィンは言葉を返すと、アナウンスが流れた。

 

「これより御前試合を始めます……

 第一試合パトリック・T・ハイアームズ、ヴィクター・S・アルゼイド。両名アリーナの中央へお進みください」

 

「アルゼイド……もしかして?」

 

「うむ……私の父だ」

 

 リィンの呟きにラウラは誇らしげに胸を張って頷いた。

 

 

 

 

 御前試合。

 今回のそれの主旨は実力が伯仲している者同士の戦いではなく、今年にお披露目されたばかりの貴族の子女達が帝国の名のある武人にその胸を借りて挑む、いわば新人への洗礼の儀式だった。

 なので挑戦を受ける側にはいくつかのハンデが課せられている。

 武器は木剣。

 開始から五分の間は防戦に徹すること。

 その上で一本取ることができたら新人の勝ち。

 そしてこの条件であっても勝利した者には名誉ある勲章が授与される。

 とはいえ、この勲章を得た者は少ない。

 何故ならば、これ程のハンデがあったとしても帝国の最強は揺るがないのだから。

 

「がっ……」

 

 五分が経つと同時にパトリックは片手で軽々と振られた大剣――の木剣の一撃に吹き飛ばされた。

 

「ふむ……五分という時間に全てを掛けてきたか……中々良い割り切りだが焦り過ぎたようだな」

 

「っ……そのようですね……御指南ありがとうございました。アルゼイド子爵閣下」

 

 試合終了が審判に告げられ、パトリックは悔しそうにしながらも礼を尽くし控え室に戻る。

 

「惜しかったな」

 

「うるさいっ!」

 

 リィンが労いの言葉で彼を迎えるが、パトリックは顔をしかめて怒鳴り返して、備え付けのベンチに腰掛ける。

 

「第二試合ユーシス・アルバレア、マテウス・ヴァンダール。両名アリーナの中央へお進みください」

 

「ふん……」

 

 アナウンスが響くと、それまで目を瞑って瞑想していたユーシスは立ち上がる。

 

「頑張れよ」

 

 リィンが激励の言葉をかけるが、ユーシスは返事も一瞥もせずにアリーナへと自信に満ちた足取りで進んでいく。

 それを見送ってリィンは口を開いた。

 

「それにしてもラウラのお父さんは強いんだな」

 

「うむ……

 身内自慢になるが、アルゼイド流の筆頭伝承者でもあり《光の剣匠》とあだ名される帝国最強の剣士の一人なのだ……

 だがリィンよ。言っておくが父上の実力はあんなものではないぞ」

 

「ああ……分かっているよ」

 

 パトリックのフェンシングを主体にした剣術による、息も吐かせない連続突きは確かな実力があってのものだった。

 しかしその突きでヴィクターの守りを突き破れなかったのは、パトリックの力が足りないというよりもヴィクターの方が余りにも強すぎるからだろう。

 攻撃が解禁される五分であっさりと一撃を受けて落とされたが、決して無様な戦いではなかった。

 しかし、負けた本人を前にその相手を褒めるのはどうかと思ってリィンはパトリックに振り返ると、目が合った。

 

「そんな目で見るなっ! 憐れみも同情も必要ないっ!」

 

 強がるパトリックの言葉にリィンは何も言わずに、内門の中からユーシスの戦いに意識を向ける。

 パトリックの前のめりな戦いに対してユーシスの戦い方は堅実だった。

 最初の五分はそれこそ攻め手を強くしていたが、それを過ぎると互いの間合いを測るようにジリジリと見ている方を緊張させる睨み合いに移る。

 しかし善戦は空しく、いくら攻撃しても崩せない守りからくる鋭い反撃が重なり、その末にユーシスが膝を着いて勝敗が決した。

 

「さて……次は私の番か」

 

 戻って来たユーシスに変わってラウラが大剣を手に、アナウンスが流れるのを待つ。

 

「頑張れよラウラ」

 

「うむ……そなたも誰が相手かは知らないが頑張ると良い」

 

「第三試合ラウラ・S・アルゼイド、オーレリア・ルグィン。両名アリーナの中央へお進みください」

 

「では、行ってくる」

 

 颯爽とした足取りでアリーナへと踏み入ったラウラを見送り――

 

「くそ……」

 

 悔しそうな声が背後から聞こえて来た。

 

「ユーシス?」

 

「…………何でもない」

 

 振り返ったリィンの視線を感じてユーシスは取り繕うが、リィンは構わずに声をかける。

 

「意外だな。こういう勝負事に興味がないような素振りだったのに、そういう顔をするんだな?」

 

「別に……やるからには勝つつもりだっただけだ」

 

「それにしては気合いが入っているように見えたけどな……そんなに勲章が欲しかったのか?」

 

 リィンの見透かすような言葉にユーシスは顔をしかめて押し黙る。

 そのまま答えはしなかったが、奥から内門に戻ってくるとユーシスはラウラと銀の長い髪の女性との戦いをリィンと並んで見守る。

 ラウラとオーレリアがそれぞれ身の丈ほどある大剣をぶつけ合う。

 その度に大気が震え、両者の気迫が伝わってくる。

 小細工なしに正面から挑むラウラを同じように真っ向からオーレリアは迎え撃つ。

 足を止め、意地の張り合いのような重撃の打ち合い。

 その拮抗は徐々にラウラが押され始めていく。

 

「オオオオオオッ!」

 

 その拮抗を打ち破り、最後の力を振り絞るような雄叫びを上げ、ラウラは渾身の一撃を振る。

 その一撃がオーレリアの大木剣を打ち砕き、ラウラはそのまま前のめりに倒れた。

 

「見事……そなたの勝ちだ、ラウラ」

 

 オーレリアが負けを認め、アリーナが歓声に包まれる。

 その光景を羨ましそうな目で見つめていたユーシスは小さく呟いた。

 

「兄が……兄上と同じ勲章を俺も取りたかった……だけだ……」

 

「そうか……」

 

 リィンはその呟きに短く頷き、それ以上は何も言わなかった。

 

 

 

 

 予定していた三つの試合が終わったところで、貴賓席でそれまでの戦いを見守っていたオリヴァルトはマイクを取り話し始める。

 

「今年は隣国のリベールで人智を超えた《異変》に見舞われた大変な年だった……

 幸いなことに、《異変》の影響は我が帝国において被害は小さくて済んだ……

 またあんなことが起きるのではないか、多くの人がそんな不安を抱えて過ごした一年だったと思うが、こうしてこの1203年を無事に終わりを迎えられることを心から嬉しく思う……

 そこで一つ、この場を借りてみんなに伝えたいことがある」

 

 オリヴァルトは会場を右から左へと見渡して続ける。

 

「みんなも知っての通り、《リベールの異変》で私はオブザーバーとして護衛役のミュラーとある一人の少年を伴って王国軍と共にかの浮遊都市に乗り込んだ……

 そして王国軍と遊撃士が力を合わせ、浮遊都市を崩壊させることに成功した……

 しかし、そのためにその少年は尊い犠牲となって帰らぬ人となった――はずだった」

 

 オリヴァルトは大きく息を吸って間を取り、改めて口を開く。

 

「だが彼は生きていた。あの浮遊都市の死闘の末に脱出できなかったはずの彼は女神の奇蹟によって先日、私の下に帰ってきてくれた……

 この場を借りて改めてみんなに紹介させてほしい……彼の名は――リィン・シュバルツァー……

 そしてここにリィン・シュバルツァーと帝国正規軍、第四機甲師団指揮官、オーラフ・クレイグ中将との御前試合、第四試合を執り行うことを宣言するっ!」

 

 

 

 

 




 もしも騎神が残ってリィンが結社に入ることになったらIF

シャーリィ
「ねえねえリィン……騎神の起動者って改めて決め直すことになったんだよね?
 ならシャーリィにテスタ=ロッサ使わせてよ」

セドリック
「シャーリィさん!? テスタ=ロッサは僕の騎神だったんですけど」

シャーリィ
「いいじゃん。リィンには黒に乗り換えてもらって、坊ちゃんは灰にでも乗りなよ」

セドリック
「僕が灰に……ゴクリ……いやいや、やっぱりダメです!」

デュバリィ
「もちろん銀はわたくしが受け継ぎますわよ。シュバルツァー」

アイネス
「待てデュバリィ、銀の次の起動者はこの私だ」

エンネア
「ふふ……流石にこれだけは譲れないわよね」

デュバリィ
「何を言っているんですか。順当に鉄機隊の筆頭隊士であるわたくしこそがあの方の銀を継ぐのが当然でしょう!?」

アイネス
「よろしい、ならば戦争だ」

エンネア
「鉄機隊の最強が誰なのか、改めて決めるには丁度いいかもしれないわね」

リィン
「…………どうしてこうなったんだろう」

シャロン
「あらあら、困りましたわね」

レン
「フフ……レンはどれにしようかな?」



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