(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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107話 御前試合

「どうしてこうなったんだろう……」

 

 快晴の空を仰いでリィンは思わず現実逃避をする。

 《紅毛のクレイグ》と呼ばれる帝国軍屈指の名将との御前試合。

 彼の本領は軍隊の指揮ではあるが、個人の武力も先の三人に決して劣るものではない。

 木剣に、五分間一方的に攻撃できるハンデ。

 そして相手がお披露目を終えたばかりの年齢と言うことからの油断。

 リィンに有利過ぎる条件だったが、そこは空気を読んでクレイグ中将に恥を掻かせないように立ち回り、一本を取ることはできた――と思う。

 しかし――

 

『いい加減、ちゃんと現実を見た方がいいわよ』

 

 内なる声がリィンを現実に引き戻す。

 

「さあ、リィン・シュバルツァー。君が戦いたいと思う相手を選びたまえ」

 

 貴賓席からマイクでオズボーン宰相が無慈悲な言葉を投げかけてくる。

 そしてリィンの目の前には『自分を選べ』と、一見誰を選んでも文句はないという態度を装いながら、ギラついた眼差しを向けてくる《雷神》と《黄金の羅刹》、そして《光の剣匠》がリィンの答えを待っていた。

 

 

 

 

 時は遡り。

 

「行きます」

 

 すでに開始の合図は出ているが改めてリィンはオーラフに向けて宣言する。

 

「うむ……存分に来るが良い」

 

 斬馬刀型の木剣を構えオーラフは頷く。

 一見隙だらけにしているが、それはおそらくリィンに打ち込ませるために敢えてオーラフ自身が作った隙。

 行事の主旨を考えれば、オーラフの行動は決して間違いではない。

 

 ――今ならすぐに終わらせることはできると思うけど……

 

 闘気の練りも甘く、このゼムリアストーンの太刀ならば一撃で木剣など真っ二つにすることもできるだろう。

 もちろんそんなことはせず、リィンは抜刀した太刀の峰を返す。

 

「二の型《疾風》」

 

 まずは試すように距離を詰めて一撃を繰り出す。

 

「むっ!?」

 

 鷹揚に構えていたオーラフは想定していたよりも遥かに速いリィンの踏み込みに目を見開いて驚き――それでも木剣でその一撃を受け止めた。

 そのままオーラフの横を駆け抜け、すぐ背後で急停止。

 残った慣性による勢いを《螺旋》に乗せ、次の一撃に繋げる。

 

「一の型《螺旋撃》」

 

「ぬおっ!?」

 

 振り返ったと同時に盾として構えた木剣に凄まじい衝撃を受け、抑え込むことができずオーラフは大きく吹き飛ばされた。

 が、きっちりと態勢を立て直してオーラフは足から着地する。

 

「流石ですね」

 

 しっかりと受け切ったオーラフにリィンは流石は帝国正規軍の名将だと納得する。

 

「あ……ああ……君は……その……随分と腕が立つようだな? 《八葉一刀流》というのはみんな、君くらいの歳だと同じような腕前なのか?」

 

「そうですね……同年代の使い手は一番歳が近い人でも姉弟子しか知らないので分からないですが、少なくともまだ、自分の師であるユン老師はもちろん、カシウスさんや姉弟子には遠く及ばないと思います。ただ、帝国を離れる前よりも少しは強くなれたとは思っていますが」

 

「そうか……」

 

 リィンの返答にオーラフは冷や汗を浮かべる。

 

 ――計ったなギリアスッ!

 

 そしてこの御前試合の話を持ってきた元上司に悪態を吐く。

 確かに以前顔を合わせた時には珍しく、彼の方から愛しの息子であるエリオットのことを話題に振って来た。

 彼の事情から子供の話を自重していたオーラフはつい《少し》だけ羽目を外してエリオットのことを語ってしまった。

 後からそのことに思い当たり、引け目を感じていたため、年末は愛しい娘と息子と共に過ごす予定だったのをキャンセルし、急なギリアスの要件を引き受けてしまった。

 そうして相手をすることになったのが目の前の少年、リィン・シュバルツァーだった。

 

 ――リィンとシュバルツァー……

 

 その二つの名の意味を知る者として、この目の前の少年が何者なのか凡その検討がついてしまう。

 オーラフの脳裏に上司だった頃のギリアスではない、鉄血宰相としてのギリアスの不遜な笑みが思い浮かぶ。

 

 ――これは遠回しな息子自慢というわけか……

 

 どんな経験を経てこれほどの実力を備えたのかは分からない。

 何故、目の前の少年がシュバルツァーを名乗っているのかも、オーラフには想像することしかできない。

 しかし、ギリアスの思惑は理解できる。

 手放したとはいえ、これ程に大きくなった息子を大々的に自慢したいと、この晴れ舞台を用意したのだろう。

 

「だが……甘いな鉄血宰相……」

 

 オーラフは木剣を構え直し、闘気を漲らせる。

 

「今の私はフィオナとエリオットに見守られている……その私が貴様の汚い奸計に屈すると思うなよっ!」

 

「えっと……続けていいんですよね?」

 

 よく分からないが本気になったオーラフにリィンは首を傾げながら確認する。

 

「ああ、来たまえっ!」

 

 もはやリィンに対する油断は微塵もない。

 そんな眼差しと気当たりをぶつけて来るが、ルールを守り時間まで防戦に徹する。

 その本気具合に最初は手加減をしていたリィンも徐々に引き出す力の段階を引き上げていく。

 

「くっ……なんて硬いっ!」

 

「うおおおおおっ! エリオット、フィオナッ! 私に力をっ!」

 

 攻撃を解禁された瞬間、オーラフはこれまで溜め込んだ鬱憤を晴らすように木剣を大きく振り被り、大技を繰り出す。

 

「どりゃああああっ!!」

 

 《サイクロンレイジ》――限界を超え高揚した状態から繰り出された横薙ぎの一撃。

 

「一の型《螺旋撃》」

 

 オーラフの力の技にリィンもまた力で対抗する。

 その結果、オーラフの木剣は砕け散り――

 

「どうやら私の――」

 

「あっ――」

 

 負けを認めた無防備なオーラフについリィンは返しの二撃目を叩き込んでしまうのだった。

 

 

 

 

 アリーナに新人の四人と、その相手をした四人が貴賓席に並ぶ。

 幸いなことに咄嗟に剣速を落として派手に吹き飛ぶだけでオーラフは大事には至らず、御前試合を締めくくる最後の場に無事に参加することができた。

 オリヴァルトの父、ユーゲント・ライゼ・アルノールが双方を労い、見事に勝利したラウラとリィンにはこの後の夜会での勲章授与を約束され御前試合は終わるはずだった。

 

「申し訳ありません。少々よろしいでしょうか陛下?」

 

「ふむ……何かね宰相?」

 

 ユーゲントはギリアスに耳打ちされ、一つ頷くと彼にマイクを渡した。

 

「まずは式辞の言葉を遮ってしまった非礼を詫びさせていただこう」

 

 そう切り出してギリアスは不遜な笑みを浮かべて続ける。

 

「双方共に素晴らしい戦いだったことは私も認めよう……

 しかし、この御前試合の主旨はお披露目を済ませた新人が全力で帝国最強に挑むもの……

 その点を考慮すると、果たしてクレイグ中将はリィン・シュバルツァーの全力を引き出せたのか少々疑問に感じてしまう戦いだった……

 勘違いしないで頂きたいが、私は中将を貶めるつもりはない……

 ただリィン・シュバルツァーに他の新人と同じようなハンデが必要だったのかと思うのだよ?

 そこで提案なのだが、アルゼイド子爵、ヴァンダール子爵、そしてルグィン伯爵……

 貴殿達が良ければ、リィン・シュバルツァーとハンデを抜きに手合わせをしてみないかね?」

 

「ほう……」

 

「そう来たか……」

 

「ふむ……」

 

 突然の宰相の提案に名指しされた三人は意味深にリィンを見る。

 

「…………え?」

 

 宰相の提案に答えを返す前にやる気に満ち溢れている三人の目に、リィンは引きつった声をもらすことしかできなかった。

 

 

 

 

「お前達……」

 

 年治めの式典の進行が進む裏側で、ユーゲントは呆れた顔で席に着く四人を睥睨した。

 

「少しは自重したまえ」

 

 式典の進行の妨げになるため、リィンの追加試合は最後に回されたが、観客の盛り上がりを見るにもはや取り消すことはできない状況になっていた。

 観客の好奇な目もそうだが、何よりも間近でこの三人の殺気が混じった視線にさらされることになったリィンに同情する。

 

「それで、いったいどうするつもりだ?」

 

 そして失態は宰相の提案に三人が頷き、名乗りを上げてしまったことだった。

 リィンは自分を選べとプレッシャーをかけてくる三人にその場で答えることはできなかった。

 

「やはりここは私が妥当でしょう。私ならアルゼイドとヴァンダールの双方に面目が立ちます故に」

 

「何を言うか。君はラウラ嬢に一本取られたではないか、息子も世話になったようだから私がやろう」

 

「いや、ここは私に譲ってもらえないだろうか。彼の師、ユン殿とは一度手合わせをしたことがあるのでね……

 リィン君のことも以前から聞いていたのだよ。惜しい弟子を失ったとね」

 

 譲ろうとしない三人にユーゲントは呆れ、その三人を愉悦の笑みを浮かべて見守るギリアスに目を向ける。

 

「なかなかの男ぶりのようだな。リィン・シュバルツァーは?」

 

「ハハ……シュバルツァー卿の薫陶があればこそでしょう」

 

 誇らしげに笑うギリアスにユーゲントはここにいないリィンに同情する。

 そんな彼にため息を吐き、ユーゲントは譲り合わない三人の仲裁に入る。

 

「決定権はリィン・シュバルツァーに与える……各自、自分が選ばれなかったことで遺恨を残さない。また周りからの声にも十分に注意しておくように」

 

 鶴の一声で、それまでの諍いを呑み込んで三人は皇帝陛下の言葉に頷く。

 三人共、自分が選ばれなかったとしてもそれでリィンに不利益をもたらすことはないと信頼しているが、周りまでそうとは限らない。

 誰かを選べばそれが以後の繋がりになり、選ばれなかった方は蔑ろにされたと思ってしまうのが貴族の世界の常。

 せめてまだまだ若い新たな可能性を潰さないようにユーゲントは最大限の助力をしようと決意する。

 

 そして――

 

 式典の全てが終わり、日が落ち始めた夕暮れ。

 アリーナの中央でライトアップされたリィンは三人の最強の前で己の選択を――提案を口にした。

 

「自分を含めた四人全員でのサバイバル戦にしていただけないでしょうか?」

 

 一同が、ギリアスや観客も含めてリィンのその無謀な提案に絶句した。

 

「……宰相、それからあの三人にも後で伝えておくように、お前達は始末書を――いや反省文を提出しろ」

 

「わ……分かりました」

 

 さしもの鉄血宰相も震えた声で皇帝の言葉に頷く。

 そして、ユーゲントは改めてそれを考えてみるが、意外と悪い手ではないとそれをこの短い時間で考えたリィンに感心する。

 三人全員を選べば、当然どこにも角は立たない。

 そして四人での戦闘となれば、共闘という形で二対二の状況を作り、うまくいけば最後は一対一になる。

 さらには最強同士を戦わせることでリィンが負けたとしても話題性を隠すことにも繋がる。

 

 ――オリヴァルトの考えではないだろうな……

 

 無謀な試みだが戦闘のリスクにだけ目を瞑れば、全てが丸く収まる提案に思えた。

 既にその提案をされた三人は目の前の少年から、滅多に手合わせできないライバルたちにその意識の何割かが移っている。

 最強を潰し合わせる。

 そこまで考えているのなら、空恐ろしい子供だとユーゲントは思うが代替案も思い浮かばなかった。

 

「良いだろう。これよりその特別試合をユーゲント・ライゼ・アルノールの名において認めよう」

 

 ユーゲントはリィンの提案を認めた。

 しかし、彼はまだ知らなかった。

 リィンがどんな相手であっても負けていいという気持ちで戦わないことを、《聖女》とうたわれるものに教えられたことを。

 勝機とは事前の準備の段階で用意して掴み取るものだということを《猟兵》から教わっていることを。

 

 そして《超帝国人》の真の姿を……

 

 

 

 

「どうしたものか……」

 

 広いアリーナの四方に散った中の一人、ヴィクター・S・アルゼイドは思わぬ試合に笑みを隠し切れなかった。

 リィン・シュバルツァーへの関心は変わらないが、マテウスとの試合などいつ以来だろうか。

 昔は互いに鎬を削り何度も剣を交えて高みを目指したが、互いに立場を持つようになり疎遠となってしまった。

 さらには周囲の目もあり、気軽に手合わせをすることもなくなってしまった。

 その点において、ヴィクターはこの場を作ってくれたリィンに感謝をしたかった。

 

「さて……どう出るか……」

 

 暗黙の了解で三人はリィンの出方を待つ。

 三人共皇帝と同じようにリィンがこの中の一人を味方につけて立ち回るだろうと考える。

 彼がマテウスを選ぶならば、ヴィクターは気になる二人と戦えるため、言うことはない。

 自分を選んだとしても、二人を下せばリィンと戦えると考えれば問題はない。

 オーレリアを選んだとしても、マテウスと肩を並べて戦うというのも一興だろう。

 まるで若返ったかのようにも感じるワクワクとした胸の昂りは、他の二人も同じく感じているようで、似たような笑みを浮かべている。

 

「それでは――特別試合の開始を宣言する」

 

 オリヴァルトの声に合わせて、鐘の音が響く。

 次の瞬間、リィンは分け身を使い四人に増えた。

 

「孤影斬っ!」

 

 そのうちの三人が同じ動作で極大サイズの鎌鼬をヴィクターへと向かって撃ち放つ。

 

「来たか……」

 

 自分に狙いを定めて来たことにヴィクターは口角を釣り上げると、三つの鎌鼬に対して宝剣を横に構えて受け止める。

 

「エアリアルッ!」

 

 四人目のリィンがすかさずヴィクターを中心に導力魔法を駆動する。

 御前試合は純粋な剣術のみと定められていたが、この試合もその延長と考えていたため、その事を失念していたヴィクターは、三つの鎌鼬がぶつかり合って起きた竜巻と導力魔法の竜巻が絡み合った暴風の中に釘付けにされる。

 

「――だが甘いっ!」

 

 緑光の風を突き破り、刃の切先が襲い掛かるがヴィクターは風をものともせずに大剣を振り抜く――

 

「――何?」

 

 リィンごと薙ぎ払ったつもりの一撃は空を斬る。

 しかし、ヴィクターを襲った切先はまだ目の前に浮かんでいて、ワイヤーに繋がれたそれはまるで意志を持った蛇のように剣を振り抜いたヴィクターに絡みつく。

 

「はあああああっ!」

 

 風が晴れたその向こうで法剣で繋がったリィンが吠えるとそれを力一杯引き寄せ、振り回した。

 

「ぬおっ!?」

 

 まだ残る竜巻に煽られ、加えてリィンの力で大きく振り回されたヴィクターは空中に投げ出される。

 そしてヴィクターに絡みついた刃を纏ったワイヤーが弾けると、彼の周囲を取り囲む。

 

「っ……」

 

 《八葉一刀流》の剣士が何故七耀教会の《法剣》を使うのか理解できないが、法剣ならばと次に来る攻撃に対してヴィクターは、空中でありながら剣を構え――

 

「鬼気解放――」

 

 その下、無数に飛び交う剣片を足場にして空へと駆け登った白い影を見過ごした。

 

「七ノ太刀《黒葉》」

 

 その瞬間、ヴィクター・S・アルゼイドは降された。

 

 

 

 

「あ……」

 

 ヴィクターに渾身の一撃を叩き込んだところでリィンは彼の手から勢い余って弾き飛ばした宝剣を目で追った。

 それなりの勢いで弾き飛ばされた宝剣は放物線を描いて観客席に向かって落ちていく。

 周囲を見回すが、警備の人達は何が起きたのか理解できていない様子で揃って呆けており、それに気付いた様子はない。

 

「…………すいません。アルゼイド子爵閣下」

 

 リィンは少しだけ迷うも、前にいるヴィクターと体を入れ替えると、彼を上空に蹴り飛ばし、その反動を使って落下する速度を急加速させる。

 そして地面に着地するやいなや、リィンはマテウスとオーレリアを無視してアリーナを駆け、宝剣の落下地点に向かって走る。

 

「間に合わない……なら――」

 

 もう一度《鬼気》を使おうと意識を集中するが、それが発動する前に、呆けた様子の人々がひしめく観客席へと突っ込むはずだった宝剣は、横から現れた女性の影に掻っ攫われた。

 

「え……?」

 

 宝剣を受け止めた彼女は、空中でその勢いを体を捻って受け流し、そのまま急停止したリィンの前に着地する。

 

「ふん……まだまだですわね」

 

 宝剣を一瞥したその女性は、辛口の評価をリィンに向けて言い放つ。

 

「デュバリィさん……どうしてここに?」

 

 鎧姿ではなかったが、そこに居たのは以前戦った結社の一員、《神速》と呼ばれる女剣士だった。

 

「勘違いしないでもらえますか……

 貴方が生きていたことの確認をマスターがどうしてもしたいとおっしゃったので、私は仕方なく同伴しただけですわ……

 それはそれとして……」

 

 デュバリィはおもむろに鋭い視線を向ける。

 まさか、ここで再戦を仕掛けてくるのかとリィンは咄嗟に身構え――

 

「よくやりましたわ」

 

 何故か出て来たのはお褒めの言葉だった。

 

「ククク……この大舞台で傍流のアルゼイドをコテンパンに……ふんっ、ざまーみろですわ!」

 

「えっと……」

 

 この場にいるアルゼイドに関わる全ての人間に喧嘩を売るような高笑いを上げるデュバリィに、リィンは困った顔をする。

 できることなら他人の振りをしたいのだが、すでに言葉を交わしてしまった以上それは無理だろう。

 

「おほん、ともかくこの戦いはマスターも御覧になられているので無様は許しませんわよ」

 

 落ち着いたデュバリィは宝剣を無造作にリィンに投げ渡し背を向けると、一度の跳躍で観客席へと戻っていった。

 礼を言う暇もなく行ってしまったデュバリィにリィンは肩を竦め、宝剣をその場に突き刺してマテウスとオーレリアの下に戻る。

 

「傍流……っ……」

 

 その背後。観客席で一人の少女が固く拳を握り締めていることにリィンは気付かなかった。

 

 

 

 

 

 長い滞空の末に落ちて来たヴィクターだったが、危なげなく着地するとその場で自分の負けを認めて、その足でアリーナを退場した。

 峰打ちとはいえ結構強めに叩いたのにピンピンしているその様子にリィンは目を疑いながらも帝国最強の凄さを実感する。

 

「さてと……」

 

 奇襲はこの上なくうまく嵌り、一人を脱落させることができた。

 この試合は特別ルールであるため、予め簡単なルールが追加されている。

 順位をつけるためのポイント制がそれに当たり、リィンは開始早々に1ポイントを得ることができた。

 これでマテウスとオーレリアはこの戦いで一番になるには、2ポイントを得なければならない。

 二人が協力してリィンに挑む可能性もあるが、御前試合の延長だと考えれば二人掛かりでリィン一人に集中することはしないだろう。

 または三つ巴になった場合でも、いつ潰しにくるか分からないもう一方の敵を警戒して、リィンへの攻めが全開になることはないと考えられる。

 

「ククク……ハハハハハッ!」

 

 と、そこまで考えを巡らせていると、ようやく動き出したオーレリアが声を上げて笑い出した。

 

「まさかこんな大それたことを仕掛けてくるとは思わなかったぞリィン・シュバルツァーッ!」

 

 奇襲について責めるわけでもなく、むしろ上機嫌となってオーレリアは彼女の持つ宝剣をリィンへと向ける。

 その目は先程以上に爛々と輝いていた。

 

「マテウス卿。不躾で申し訳ないが手を出さないで頂けますか?」

 

「それは無理な相談だな……そう言うお前こそ、退くがいい」

 

 オーレリアはリィンとの一騎打ちを望むが、マテウスはそれに首を横に振った。

 

「ふむ……では貴方も斬らせてもらいましょう」

 

「抜かせ御転婆娘が。十年早いわ」

 

 これ以上ない程にスイッチが入った二人を前にリィンは臆することなく太刀を構える。

 

「そうだ……シュバルツァー。やり合う前に一つ言っておく……」

 

「何ですか?」

 

「この勝負、私が勝ったら婿に来い」

 

「え……?」

 

 そしてリィンの決して負けられない戦いが始まった。

 激しい三つ巴の攻防。

 オーレリアはリィンとマテウスの同時攻撃を受けて倒れ、最後に一対一となった戦いはマテウスに軍配が上がった。

 ポイントの上でもオーレリアへの止めを取ったことで最後まで立っていたマテウスが勝者となったが、リィンはこの試合によって新人の枠を超えた勲章を得ることになった。

 

 

 




おまけ

観客A
「それでこそです」

観客B
「見たまえ、あれこそが超帝国人だっ!」

観客C
「大穴キターッ!!」

観客D
「まあ、アルゼイドをやっただけ良しとしておきましょう」

観客E
「ふう……(気絶)」

観客T
「リィン……健やかに育ち過ぎじゃないか?」

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