(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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 今回は短いです。
 もう少し進めようかと思いましたが、この話の後だとテンポが悪いと思い投稿させていただきました。


109話 月下の密会

 

 

 七耀歴1204年1月1日。

 日が変わり、夜も更けたバルフレイム宮の一室でリィンは覚えのある気配を感じて目を覚ました。

 

「……?」

 

 身体を起こすと抵抗を感じ、見下ろすとそこにはレンが丸くなって寄り添っていた。

 

「まったく……」

 

 思わずリィンは苦笑する。

 別のベッドで眠ったはずなのに、リィンに悟らせないで潜り込むその技に感服すればいいのか、それとも自分の未熟を恥じるべきなのか迷う。

 ともかく朝はエリゼ達が来る前に起きなければいけないとリィンは考え、レンを起こさないように寝台から下りる。

 隣のベッドで眠っている父を起こさないようにリィンは上着を羽織り、少し迷って太刀はそのままにして部屋を出る。

 最低限の照明が灯る廊下。

 扉の開けると、丁度巡回の警備員がそこにいた。

 

「どうかしましたか?」

 

「ちょっと眠れなくて、少し外に出ても大丈夫でしょうか?」

 

「ああ、構わない」

 

 聞けば警備はもちろんだが、急なワガママを言う貴族もいてメイドなどはまだ起きて仕事をしているようだった。

 怪しい素振りはするんじゃないぞと、釘を刺されてリィンは歩き出す。

 途中で足早に急ぐメイドたちとすれ違いながら、リィンは気配に誘われるまま、そこに辿り着く。

 晩餐会の会場となっていた《翡翠庭園》はすでに片付けられていた。

 閑散とした広いホールにリィンは足を踏み入れ、階段の下で足を止める。

 

「よく……来てくれました」

 

 月光を背にした美しい女性は振り返り、微笑みを浮かべてリィンを迎えた。

 

「っ……」

 

 神々しいとさえ思うその美しい情景にリィンは息を呑む。

 

「《鋼の聖女》アリアンロード」

 

 デュバリィが一緒に来たと口走っていたから彼女が帝都にいることは分かっていた。

 どうやって皇宮の警備を掻い潜ってきたのか、という考えるのも無駄だろう。

 それだけの力がある存在だということをリィンはよく知っている。

 

「私のことはリアンヌ、と呼んでください」

 

 アリアンロード――リアンヌは首を横に振ってリィンの言葉を訂正する。

 

「えっと……」

 

 心なしか期待を含む目にリィンは思わずたじろぐ。

 

「リ、リアンヌさん……俺は貴女に聞きたいことがたくさんあります」

 

「そうでしょうね。私も《影の国》であの後どうなったのか知りたいと思い、出向かせていただきました」

 

「クロチルダさんから聞かなかったんですか?」

 

「彼女とはどうやら入れ違いになってしまったようです……それにやはり自分で確認したかったのもあります」

 

「そうですか……」

 

 《影の国》での強引に戦いを仕掛けてきた必死さを思い出す。

 危険を冒して皇宮に忍び込んだのも、それを考えると当然なのかもしれない。

 

「すいません。貴女が求めた《力》を得る機会は確かにありました……でも、俺は別のものを選んでしまいました」

 

「……そうですか」

 

 リアンヌは怒ることもせず、静かにリィンの言葉を受け止める。

 

「貴女には詳しいことを説明すべきなんでしょうけど、俺の質問にも答えてもらえますか?」

 

「ええ」

 

「貴女は…………俺の本当の母さんなんですか?」

 

 迷った末に出て来た質問はそれだった。

 リアンヌはその質問に驚いたと言わんばかりに目を丸くして、少し寂しそうに首を横に振った。

 

「いいえ。私は貴女の母ではありません」

 

「…………でも、俺の出生のことについて知っているんですよね?」

 

「はい。ですがそのことについて話すことはできません」

 

「だからって、はいそうですかって引き下がれるわけないだろ……

 ドライケルスの息子とはどういう意味なんだ!? 俺はこの時代の人間じゃないのか!?」

 

「誤解を与えてしまったことは謝ります……ですが安心してください。貴方はこの時代で生を受けたことは間違いありません」

 

「それなら――」

 

「私が言えるのはここまでです。これ以上は部外者の私が告げる資格はありません」

 

「っ……」

 

「申し訳ありません」

 

 真摯に頭を下げるリアンヌにリィンはそれ以上何も言えなくなる。

 印象通りの人物像から考えて彼女がどれだけ問い詰めたところで口を割ることはないのは明白だった。

 別にテオやルシアのことに不満があるわけではない。

 勝手に家出をして、一年近く音沙汰なしで心配を通り越して、心労を掛けてしまった。

 そんな自分の帰還を温かく迎えてくれた義理の両親にはいくら感謝してもし足りないのだが、やはり目の前に産みの親の手掛かりがあると思うと気になってしまう。

 

「貴女は……本当にあのリアンヌ・サンドロットなんですか?」

 

 自分の中の葛藤を振り払うようにリィンは話題を変える。

 

「はい……とはいえ、死にぞこないの亡霊のようなものですが」

 

「不死者か……《幻焔計画》……どうやら随分と根が深いものみたいですね」

 

 リアンヌはリィンの口から出て来た言葉に虚を突かれる。

 

「まさか貴方の口からそれが出てくるとは思いませんでしたね。深淵殿の入れ知恵ですか?」

 

「ええ。クロチルダさんからは《結社》に入らないかと誘われましたけど、辞退させてもらいました」

 

「そうですか……それは少し残念ですね」

 

「《結社》は《鋼の至宝》をどうするつもりなんですか?」

 

「《鋼の至宝》……どうして貴方がそれを?」

 

「《影ノ相克》で俺が得たものがそれです。でも至宝とは言っても《七の騎神》に力を奪われて何の力も持たない意志だけですけど」

 

「なっ!?」

 

 リアンヌはリィンの答えに絶句する。

 

「貴女達が何をあの子にさせようとしているのかは知りませんが、またリベールのようなことを起こすつもりなら俺は全力で貴女達と戦います」

 

 宣戦布告をするようにリィンは言い切るが、リアンヌはそれどころではなかった。

 

「《鋼の至宝》を……貴方が得た……?」

 

 聡明な彼女はそれをリィンの戯言と一笑することもなく、可能性を吟味して有り得ると結論する。

 《影の国》という想念が結実する世界。

 紛い物であっても《相克》が果たされ一瞬でも《鋼》の力があの場に顕現してもおかしくはない。

 そもそもリアンヌは具体的に分かっていたわけではないが、それに近いものを求めてリィンに挑んだのだから。

 

「ふふ……情けないですね……

 250年……《黒》の計画を超えようと足掻き、私は何も見出すことができなかったというのに」

 

「リアンヌさん……?」

 

「あの時の赤子が……こんなにも大きく育ってくれたなんて……感慨深いものですね」

 

 毅然とした顔は今にも泣き出してしまいそうな程に弱々しい笑みを浮かべ、手を伸ばす。

 真っ直ぐに向かってくる手にリィンは身構えることを忘れ、その手はリィンの頭を優しく撫でる。

 

「私の《銀》を貴方に託すべきなのかもしれません……《鋼の至宝》がそこにあるのなら《相克》を経ずに《騎神》を一つにできるかもしれませんから」

 

「それは困ります」

 

「え……?」

 

「たぶんそんな馴れ合いで本物の《相克》で勝ち抜けるとは思えません……

 《影ノ相克》は騎神の性能が全部同じだったから勝ち抜けたようなものだと思います。そして多分本物の《黒》はワイスマンが操っていたものとはそれこそ桁が違うでしょう」

 

「それは……」

 

「貴女は今、貴女の250年が無駄だったと言いましたが、そんなことありません……

 貴女が《影の国》で俺と戦ってくれたから、その後の《紫》と《黒》に勝てたんだと思っています……

 だからこそ、貴女が今ここにいることは決して無駄じゃない。あまり自分のことを卑下しないでください」

 

「貴方は……ふふ……そういうところはドライケルスとよく似ていますね」

 

 リアンヌは柔らかな笑みを浮かべる。

 

「リィン・シュバルツァー…………私は――」

 

「失礼」

 

 リアンヌの言葉を遮って、静かな翡翠庭園に厳つい声が響く。

 

「っ!?」

 

 リアンヌは息を呑み勢い良く振り返り、リィンもそれに続く。

 上の階から見下ろしてくるのは鉄血宰相ギリアス・オズボーン。

 

「ああ……」

 

 その姿にリアンヌは大きく目を見開き、彼の名を――

 

「初めまして、《結社》の聖女殿」

 

「あ……」

 

 期待が宿った目はギリアスの言葉に揺れる。

 そんな彼女の様子を無視してギリアスは高圧的に続ける。

 

「やれやれ……確かに私は《結社》と懇意にしているが、ここまでの無法を許した覚えはない……

 ここは神聖な皇宮。できることなら血を流すようなことはしたくないのだが、疾くと去らなければ――」

 

 威嚇するようにギリアスは軍刀の柄を握り締める。

 

「リアンヌさん……」

 

 リィンは武器を持ってこなかったが、それはリアンヌも同じだった。

 もっとも彼女の方は術であの騎兵槍をすぐに呼び出すことはできるだろう。

 しかし、初めから戦うつもりのなかったリアンヌはギリアスの殺気に満ちた言葉に、消沈した様子で頷いた。

 

「……そう……ですね……失礼しました……

 リィン・シュバルツァーの無事な生還に一言申し上げたかっただけですので、どうか御容赦ください」

 

 リアンヌはギリアスに向かって頭を下げて歩き出す。

 

「リアンヌさんっ!」

 

 もう一度リィンは彼女の名前を呼ぶが、リアンヌは振り返ることなく翡翠庭園を出て行った。

 その背はどことなく寂しそうに見えた。

 

「ふう……君も不審者を見つけたのならすぐに警備の者を呼んでもらわないと困る。今この皇宮には各地の諸侯が集まっているのだから何かが起きてからでは遅いのだよ」

 

 出ていくリアンヌを見送るためなのか、階上から下りて来たギリアスは咎める口調でリィンを睨む。

 

「申し訳ありませんでしたオズボーン宰相」

 

 彼の言い分は正しい。

 むしろリィンが手引きしたと疑われても仕方がない状況だった。

 

「君も早く部屋に戻りたまえ……

 明日は暇になるとはいえ、妹子達の御機嫌取りをしなければいけないのだろう?」

 

「はい……失礼します」

 

 一度ギリアスと目を合わせて、リィンはリアンヌの後に続くように踵を返し、背中を向けたままリィンはギリアスに尋ねる。

 

「オズボーン宰相閣下……」

 

「何かね?」

 

「彼女とは本当に初対面なんですか?」

 

「ああ、誓ってギリアス・オズボーンは彼女と初対面だ」

 

 リィンの言葉をギリアスは即答で答えるのだった。

 

 

 

 

 






いつかの帝都IF
アリアンロード
「それではこれより《結社》は《鉄血宰相》ギリアス・オズボーンの軍門に下ります。ところで……」

ギリアス
「まだ何かあるのかね、結社の聖女殿?」

アリアンロード
「貴方は転生という概念を信じますか?」

ギリアス
「突然何を言い出すかと思えば下らない」

アリアンロード
「そうですか…………
 ところで私はドライケルス大帝が残した当時の日記を所持しているのですが、これを公開してもよろしいでしょうか?」

ギリアス
「なっ!?」

アリアンロード
「イヴリンとリアンヌの二人の間で揺れる心を綴られた渾身の力作……
 まあ、過去の偉人の話であってギリアス・オズボーンには全く関係ない話ですからお気になさらずに……
 ええ、貴方には全く関係ない他人に過ぎないのですから」

ギリアス
「うぐぐぐ……」





ありえないIF

 オルディーネ
「起動者は復讐に極まったクロウ・アームブラスト……
 帝国解放戦線の魂を生贄にした《オルディーネ・デスティニー・ブルー》」

 テスタ=ロッサ
「起動者は古の血の力を持つセドリック・ライゼ・アルノール……
 暗黒竜の呪いを浄化した《テスタロッサ・オブ・ヴァーミリオン》」

 ゼクトール
「起動者は歴戦の猟兵王ルトガー・クラウゼル……
 現在技術の最先端、黒の工房が作ったSウェポンで完全武装した《フルアーマー・ゼクトール》」

 アルグレオン
「起動者は《鋼の聖女》アリアンロード……
 250年の研鑽を経て辿り着いた第三形態《スーパー・アルグレオン》」

 イシュメルガ
「起動者は前世の獅子心皇帝だった男ギリアス・オズボーン……
 対話の末に完全な人騎一体となった《アルティメット・イシュメルガ》」

 ヴァリマール
「起動者は《超帝国人》リィン・シュバルツァー……
 《鋼の意志》を宿し、《白》と融合を果たした《白のヴァリマール》」

 エル=プラドー
「起動者はルーファス・アルバレア……
 ………………
 …………
 ……
 最後の《相克》が始まるので目覚めたら、同胞たちが信じられない程に強化を繰り返して魔境となっていました……
 永遠の輝きを示す《金》と持ち上げられていますが勝てる気がしません……
 起動者は確かに天才かもしれませんが人の枠の中だと思います……
 いったいどうすればいいでしょうか、教えてくださいミスティさん」





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