(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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117話 試験、そして――

 トールズ士官学院。

 今から230年程前、エレボニア帝国中興の祖『ドライケルス大帝』によって設立された伝統ある士官学校。

 当初は火薬式の銃や大砲を使った近代戦術を学ばせるための本格的な軍事学校だった。

 しかし、50年前の導力革命による既存技術の刷新の影響もあり、現在では士官学校の体裁を残しつつも貴族の子弟や平民出身の秀才などが集まる『名門高等学校』としての側面が強くなっている。

 卒業後の進路も幅広く、それを目当てにして進学する者も多く、それこそ帝国各地から入学を希望する者は多い。

 当然、試験の規模は大きく当日は帝国の四大都市の軍施設の一部を使い、筆記試験と体力試験を執り行う。

 リィンとセドリック――クリス・レンハイムは帝国北部ノルティア州の州都、ルーレ市で試験を受けることになった。

 試験会場の入り口でクリスと別れたリィンはそのまま、割り当てられた教室へ向かう――ことなく屋上に出た。

 

「そこで何をしている?」

 

「わたくしの気配に気付くなんて……あの時から随分腕を上げられたようですねリィン様」

 

 リィンに睨まれた女性は一礼して朗らかに微笑む。

 

「先日は申し訳ありませんでした。カンパネルラ様にも誘われたのですが、今の仕事が忙しく顔を出すことができずに」

 

「それは構わないけど……もう一度聞く、ここで何をしているんだ?」

 

「フフ……実は先日ロールアウトしたばかりの新作のオーブメントの試運転に参りました」

 

「新しいオーブメントか……どんな実験をするつもりか知らないが、今日の試験を邪魔するつもりなら――」

 

 リィンは持ち込んだ太刀を袋越しに構えて威嚇する。

 

「邪魔するなんてとんでもない。わたくしはアリサお嬢様の雄姿を記録するためにここにいるんですから?」

 

「え……?」

 

 予想外の答えにリィンは呆気に取られる。

 

「結社の実験じゃないのか?」

 

「そちらはただいま休業中です。実験と言うのはラインフォルト社の新作、オーバルビデオのことです」

 

 そう言って見せたのはオーバルカメラによく似たオーブメントだった。

 

「こちらはオーバルカメラと違い、映像を記録することができる画期的なオーブメントです。これを使ってアリサお嬢様の初めてのお受験の一部始終を記録することがわたくしの使命……

 それを邪魔すると言うのなら、例えリィン様といえど全力で排除させていただきます」

 

 殺気をちらつかせて目を細める女性にリィンは何とも言えない顔になる。

 

「えっと……何だか邪魔をしたみたいですね。すいませんでした、失礼します」

 

 構えを解いてリィンは踵を返す。

 

「いえいえ、こちらこそ最後の追い込みの貴重な時に時間を取らせてしまって申し訳ありませんでした……リィン様、試験頑張ってください」

 

「は、はい……シャロンさんも変な騒ぎを起こさないように気を付けてくださいね」

 

 頭を下げてリィンは屋上を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 午前中の座学試験は滞りなく進んだ。

 計算力や導力工学を試す理工学。

 現代文の読み取りに作文力を試す文学。

 そして歴史や政治を試す社会学。

 作文では《愛とは何か?》という誰かの趣味を感じるものだったが、知り合いの持論をそのまま書いた。

 そして午後の体力テストを受けるその前の昼食のためにリィンはクリスと合流しようとして、女の子の声に呼び止められた。

 

「ちょっと待ちなさい」

 

「ん……?」

 

 振り返るとそこには長い金髪の少女がリィンを睨みつけていた。

 

「何であんた生きているのよっ!」

 

「いきなり御挨拶だな……それはそうと久しぶりだなアリサ」

 

 以前、リベールのツァイスで会った少女に笑いかける。

 

「お、覚えてたんだ」

 

「それはもういろいろな意味で衝撃的だったからな……」

 

 リィンは当時のことを思い出しながら遠い目をする。

 

「う……それよりも何で生きているのよ!? いや帝国時報で生きていることは知ってたけど、ああもうっ!」

 

 支離滅裂なことを言って勝手に混乱するアリサにリィンは苦笑いを浮かべる。

 

「とりあえず落ち着いてくれ」

 

 注目を集めることを嫌ってリィンはアリサの手を取ってその場から歩き出し、クリスと待ち合わせした場所に向かうのだった。

 

「リィンさん、お疲れ様です……あれ? そちらの女性は?」

 

「紹介するよ。こちらはアリサ・ラインフォルト……こっちはクリス・レンハイムだ」

 

 クリスにはアリサを、アリサにはクリスを紹介してリィンは特にアリサの様子を伺う。

 

「は、初めまして……」

 

 若干の気後れをしながらもアリサはクリスに違和感を抱かずに頭を下げる。

 

「初めましてクリス・レンハイムです」

 

 クリスはクリスで正体を指摘されるのではないか緊張しながら名乗る。

 

「とりあえず、二人とも食堂へ行こうか」

 

 そんな二人を促してリィンは解放されている兵員食堂へ向かった。

 

「アリサは食べないのか?」

 

「えっと……その……財布を持ってこなかったのよ……ほらリィンはうちのメイドを知っているでしょ?

 士官学院を受けるのは家族に伝えてないから、誤魔化すのにわざと置いて来たのよ」

 

「そうなのか……」

 

 自信満々に胸を張るアリサの背後で件のメイドが満面の笑顔を浮かべてリィンにスケッチブックを開いて紙面に書かれた文章をリィンに見せる。

 

『問題ありません。後でわたくしが払いますので立て替えておいてください』

 

 文章からにじみ出る過保護さにリィンは苦笑を堪えて、アリサに提案する。

 

「午後は体力テストなんだから何か食べておかないと力が出ないぞ。ここは奢って上げるから好きなものを頼めばいい」

 

「そんな気にしなくていいわよ。ダイエットだと思えば――」

 

 と、言ったところでアリサのお腹が空腹を訴えて鳴る。

 リィンは聞かなかったことにしてもう一度提案を繰り返すと、アリサは渋々と言った様子でリィンの情けを受け入れるのだった。

 

「ところでお二人はどういった御関係なんですか?」

 

 昼食を終えたところでクリスはリィンとアリサを見比べながら尋ねる。

 

「アリサは俺がリベールに行った頃に知り合った子でな……アリサも家出をしてツァイス工房に働かせてくれって押し掛けていたんだ」

 

「ちょっとやめてよっ!」

 

 リィンの説明にアリサは顔を赤くして話を止める。

 

「アリサ……家出したお嬢様……もしかしてアリスさんの元になった人ですか?」

 

「は? アリスって何のこと?」

 

「この本の登場人物です」

 

 そう言ってクリスが取り出したのは《Rの軌跡》の第二巻。

 

「ちょっと待てクリス」

 

 アリサがそれを取るよりも先にリィンが取り上げる。

 

「何よ、どうしたの突然?」

 

 リィンの行動にアリサは首を傾げる。

 

「い、いや……それよりもアリサはお母さんと仲直りはできたのか?」

 

「べ、別にそんなこと貴方に関係ないでしょ」

 

 振られた話題を拒絶するようにアリサはそっぽを向く。

 

「そ、それよりもあれからヨシュアさんはどうなったのかしら?」

 

「え……? ヨシュアさん?」

 

 突然出て来た名前にリィンは首を傾げる。

 

「ほ、ほら……あの時いろいろと迷惑をかけちゃったじゃない? だからうちに帰ってから手紙を出したんだけど結局返事はこなかったから……その……」

 

「あー」

 

 ツァイスでアリサと会った時とその後のことを逆算してリィンは思わず同情する。

 時期的に彼女が書いた手紙が届いたのはちょうどヨシュアがエステルの元から離れて一人で行動をし始めた辺りだろう。

 当然、彼はその手紙を受け取っていなければ、事件が解決した後も忙しく立ち回っていたそうなので気付いているかどうかも怪しい。

 

「…………シャロンさんから何も聞いてないのか?」

 

「え……? シャロンが知ってたの?」

 

 横目で彼女を確認すると、メイドは目を逸らした。

 

「えっと…………その……何だ……その内良い人に出会えるよ」

 

 気まずい気持ちになりながらリィンは精一杯のフォローをするのだった。

 

 

 

 

 午後の体力テストは簡単なものだった。

 身体測定から始まり、武を尊ぶ帝国らしく用意された剣、もしくは持ち込んだそれぞれの武器を使っての受験生同士の仕合。

 導力銃を使った射撃のテスト。

 戦術オーブメントを使った術式制御のテスト。

 そして最後には持久走。

 リィンとクリスは他を圧倒するような差を付けて試験は終了した。

 

「はあ……」

 

 帰路についたアリサは重いため息を吐いた。

 

「どうかしましたかアリサさん?」

 

「どうかしたじゃないわよ。何なのよ貴方達……」

 

 恨むようにアリサは声を掛けて来たクリスを睨む。

 リィンはある程度出来ることは知っていたが、一見線の細い貧弱な見た目のクリスさえ、仕合も持久走も他の受験生たちを寄せ付けないほどの力を見せて二位。

 しかも持久走では二人とも他の受験生と違って背嚢や導力銃を持って走らされた上での順位なのだから理不尽さを感じてしまう。

 そして唯一リィンに勝てるだろうと思っていた射撃テストこそリィンに勝ちはしたものの、アリサはクリスに負けて二位だった。

 

「えっと……」

 

「まあ、これでもそれなりの修羅場を潜り抜けてきたわけだからな」

 

 口ごもるクリスをフォローするようにリィンが答えると、深みを感じさせる物言いにアリサは思わず怯む。

 

「何か貴方……リベールで会った時とは全然違うわね」

 

「そうか?」

 

「うん……何て言ったら良いか分からないけど。あの時と比べるとすっごく落ち着いている」

 

 そう言いながらアリサは視線を下にして自分を見る。

 見違える程に大人になったリィンに対して、自分はどうだろうかとアリサは自問自答する。

 そうすると途端に子供の癇癪で飛び出した家出の時と、家を出たいがために士官学院を受験している今の自分が何も成長していないようで情けなくなる。

 

「どうかしたのかアリサ?」

 

「ううん……何でもない」

 

 精一杯の虚勢を張ってアリサは首を横に振る。

 

「ところで二人とも、これからどうするの? ルーレに一泊して行くならお昼のお礼もしたいし、夕食くらい御馳走させてよ」

 

「すまないアリサ。実は先約があるんだ」

 

「ええ、申し訳ありません。これから僕にとっては受験よりも大事なことがあってリィンさんには立ち会ってもらうことになっているんです」

 

「そうなの?」

 

 クリスの緊張した声音にアリサは首を傾げる。

 士官学院の試験はもう終わったというのに、クリスは昼に顔を合わせた時よりもずっと緊張した面持ちをしている。

 これが試験の前だったら納得なのだが、試験が終わってから緊張することに不自然さを感じる。

 

「ねえ、その用って――」

 

「お嬢様?」

 

 好奇心を刺激されたアリサの言葉を遮るように柔らかな声が掛けられた。

 

「シャシャシャ……シャロン!?」

 

 アリサは買い物袋を抱えたメイドに慄く。

 

「こんなところで何を――」

 

 シャロンはアリサと領邦軍屯所前の場所を見比べてから、リィンとクリスを見る。

 

「あらあらあら……これはイリーナ会長に御報告しないといけませんね」

 

「ちょっとシャロンッ!?」

 

「朝早くから人目を忍んで御自宅を出て行かれたかと思ったら、殿方と! それも二人と! 逢引をしていたなんてこのシャロンの目を持ってしても見抜けませんでした……

 お嬢様……おめでとうございます。大人になられたんですね」

 

 満面の笑みでシャロンはアリサを祝福する。

 

「違う! 誤解よ! 変な想像しないでよ!」

 

「あ、リィンさん。お久しぶりです。あの時はヨシュア様とエステル様のことを悪く言ってしまい申し訳ありませんでした」

 

「二人とも気にしていなかったみたいですから別に構いませんよ」

 

「軽いっ! あの時の強情さは何だったのシャロン!?」

 

 あの時険悪な別れをしたから身構えたが、二人はそんなことを忘れたかのようににこやかに挨拶を交わす。

 そんなアリサの反応を楽しみつつシャロンはクリスに顔を向ける。

 

「フフ……初めての方もいらっしゃるようなので名乗らせていただきます……

 私はシャロン・クルーガー。ラインフォルト社に勤めている使用人です。このような格好で申し訳ありませんが、以後よろしくお願いします」

 

「御丁寧にありがとうございます……僕はクリス・レンハイムといいます」

 

「クリス……レンハイム……」

 

「えっと……何でしょうか?」

 

「失礼しました……わたくしの同僚が貴方の名前を話していて聞き覚えがありましたので……

 なんでもこれから無謀な挑戦を為さるとか、ここで出会ったのも何かの縁、御武運をお祈りさせてください」

 

「あ、ありがとうごさいます」

 

 戸惑いながらもクリスはシャロンの言葉を受け取り、リィンを伺い見る。

 するとリィンは無言のままで頷いた。

 

「むう……」

 

 何だか一人だけ蚊帳の外に置かれた気分になってアリサは唇を尖らせる。

 

「ふふ……そんな顔しないでください。お嬢様、今日はめでたい日なのでお嬢様の好物を作って差し上げますから」

 

「ほんとっ!? って、だからそういう関係じゃないんだってば!」

 

「リィン様、クリス様……こんなお嬢様ですが、末永く仲良くしてください」

 

「だーかーらっ!」

 

「ふふふ……」

 

 とうとう物理的な手段で止めようと腕を振り上げたアリサからシャロンはすかさず距離を取る。

 

「それではわたくしはこの辺で失礼いたします」

 

「シャロンッ!」

 

 そのまま前を向いたままシャロンは後ろに歩き出し、アリサは声を上げて追い駆ける。

 が、不意に足を止めるとリィン達を振り返った。

 

「えっと……今日はありがと、もしもお互い合格してたら今度はトリスタで会いましょ」

 

「ああ、そうだな」

 

「えっと……その時はよろしくお願いします」

 

「待ちなさいシャロンッ!」

 

 挨拶もそこそこにアリサはシャロンを追い駆ける。

 結局、直前の持久走の疲労もあってシャロンに追い付くこともできず家に帰り着いたアリサだった。

 そしてその夜、受験勉強が終わった解放感に浸りながらアリサはシャロンに尋ねた。

 

「そういえばシャロン……《Rの軌跡》って知ってる?」

 

 

 

 

 

 スピナ街道に出ると、そこで待っていたクレアが用意した導力車に乗って郊外へと移動する。

 その車中ではクリスの緊張に当てられる形で誰も口を開こうとはしなかった。

 そうして辿り着いた街道から外れた広場にはすでに役者が揃っていた。

 鉄機隊の三人を背後に従え、鎧兜を纏った完全武装状態で佇むアリアンロード。

 こちら側のギャラリーとしてはレン、レクターとルーファスにオーレリアとテオ、そしてオズボーン宰相が固まっており、少し離れたところには《赤い星座》や《執行者》、《魔女》の面々がバラバラに広場を中心にその始まりを待っていた。

 

「オズボーン宰相、来ていたんですか?」

 

 導力車から降りたリィンは最初に彼に声を掛ける。

 

「ああ……陛下に御報告したところ、あまり吹聴することではないと、私かオリヴァルト皇子のどちらかが出向くことになったのだが、結局私が来させてもらったよ」

 

「そうですか……」

 

 オリヴァルトが来なかったことにリィンは安堵する。

 

「して、殿下の仕上がりはどうかな?」

 

「それが……」

 

 未だに導力車から降りず呼吸を整えて自身を落ち着かせようとしているクリスをリィンは一瞥する。

 

「テストそのものの手応えはあったみたいですが、ルーレ市を出てからずっとあの調子です」

 

「まあ、無理もあるまい……殿下が挑むにはあまりにも大き過ぎる壁なのだから」

 

 オズボーンはアリアンロードを見て、やむなしと頷く。

 

「ええ……本当に……オーレリア将軍が何を考えているかは分かりませんが、本当にどうするつもりか……」

 

 この一ヶ月、確かに彼は強くなった。

 気力、体力、精神力。剣の腕も目覚ましい成長を遂げているが、それはあくまでも常識の範囲内に過ぎない。

 それに加えて彼には《鬼の力》のようなドーピングがあるわけでもない。

 それにリィン自身、ここで彼女と再戦をしたところで勝てるイメージはまるで浮かばない。

 

「まあ、相手の力量を測れるようになっただけでも十分な進歩と言えよう……

 殿下が腹を括るまでもう少し待つとしようじゃないか」

 

 その意見に異論はなく、アリアンロードも特に彼を急かすようなことはしなかった。

 

「やれやれ、相変わらず武芸の事になると融通が効かん奴よの」

 

「ロゼさん……」

 

「うむ……試験御苦労じゃったな……それにしてもあの小僧、一ヶ月前と比べると随分逞しくなったのう」

 

「ええ、本当に頑張っていましたから」

 

 弱音を吐かず、与えられた課題に疑問を挟まずひたすらに努力してきた彼の姿を間近で見て来ただけに例え敵わない相手でも胸を張って挑めばいいと思う。

 

「努力は認めるが、やはり蛮勇が過ぎるのう……やれやれドライケルスの子孫とはいえこんなところまで似なくてもいいのに」

 

「そういえばロゼさんとアリアンロードさんは獅子戦役の当事者だったんでしたね……。

 ・・・ドライケルス大帝というのはどんな人だったんですか?」

 

「ほう……試験が終わったばかりだというのに勤勉だなリィン君」

 

 リィンの問いに意外そうにギリアスが言葉を被せる。

 

「そんなんじゃないですよ……

 ただ帝国史には度々上がる名前でしたし、トールズ士官学院もドライケルス大帝が設立した学校みたいですから」

 

「確かにその通りだな。私も彼の御方がどのような御仁だったのかは気になりますので、答えて頂けないでしょうか魔女殿」

 

「ふむ……ドライケルスか……ま、一言で言い表すなら朴念仁の大馬鹿者じゃな」

 

「大馬鹿者ですか……」

 

 うむ、とローゼリアは頷いて続ける。

 

「行く先々で八方美人を振り撒き、どれだけリアンヌとイヴリンをヤキモキさせたか……傍から見ていて本当にどうしようもない鈍感な男じゃった」

 

「へえ……偉大な皇帝もやはり普通の人と変わらなかったんですね」

 

「それだけではないぞ。大将だというのに一番槍で突っ込む馬鹿でな、その度にロランとリアンヌが追い駆けてフォローに走ったものじゃ」

 

「それは周りも苦労しそうですね」

 

「極めつけはあの阿呆は生身で騎神と戦おうとしてな……本当に大変だったわ」

 

「魔女殿……あまり馬鹿とか阿呆と言って、若者の夢を壊すのは感心しませんよ」

 

「ふん……嘘偽りのない事実じゃ、例えヌシが今の帝国の宰相であったとしてもその事実は覆せん……

 だいたい何が《獅子心皇帝》じゃ、内戦を終わらせても帝位なんて継ぎたくないと言ってノルドに逃げようと駄々を捏ねておったぞ」

 

「むう……」

 

 聞く耳持たないローゼリアの更なる暴露にギリアスは唸る。

 

「随分と教科書とかけ離れた人みたいですね」

 

「まあ人の歴史など、後世に聞こえの良いように綴るものでもあるからな……

 だが、まあ最後にはちゃんと皇帝となってくれたが……ま、一緒にいて楽しい馬鹿者だったな」

 

 昔を思い出すようにローゼリアは虚空を見つめ微笑みを浮かべる。

 

「不思議な男じゃった……

 暢気で気楽な、締まりのない男……だが、何があっても何とかしてくれる。そう思わせてくれる妾の自慢の朋友じゃ」

 

「そうか……」

 

 誇らしげに締めくくるローゼリアの言葉にギリアスは口元に笑みを浮かべて頷いた。

 その様子にリィンは首を傾げたところで、導力車の中からセドリックは出て来た。

 

「大丈夫ですか、殿下?」

 

「はい……戦えます」

 

 オーレリアの問いにセドリックはぎこちなく頷く。

 

「ならば良し……では殿下、わたくしめがあの者に勝つための策を教えて上げましょう」

 

 オーレリアはそう言うと、セドリックの耳元に口を寄せ囁く。

 

「え……?」

 

「どうですか? これならあの《聖女》にその刃を届かせることもできるでしょう」

 

 自信満々な笑みを浮かべるオーレリアに対してセドリックは意味が分からないと呆然と言われた策を頭の中で反芻する。

 

「オーレリア将軍……それは本気で言っているんですか?」

 

「むろん、本気だとも」

 

「っ……ふざけるなっ!」

 

 自信満々に頷くオーレリアにセドリックは堪え切れずに怒鳴りつけ、乱暴な手付きで彼女を目の前から押し退けて《聖女》の前に進み出る。

 

「ふふ……」

 

 そんなセドリックの背中をオーレリアは愉快そうに見送る。

 

「よく逃げずに我が前に立つことができましたね」

 

「はい……そのためにこの一ヶ月とにかくがむしゃらに頑張りましたから」

 

 オーレリアに乱された心を落ち着けて、セドリックはアリアンロードの言葉に応える。

 

「まず最初に謝らせてください……

 一ヶ月前の僕は本当に何も分かってなくて、貴女の凄さも分からずに無礼な物言いをしてしまって」

 

「構いませんよ……私も実力は隠していましたから、ですがその時に感じた感覚は忘れないことです……

 本当の強者はその強さを巧妙に隠していますから」

 

「……はい」

 

 アリアンロードのアドバイスをセドリックは神妙に受け止める。

 

「その上で改めて聞きます……貴方は実力差を知ってなお、私に挑みますか?」

 

 言外に退いても良いのだと優しい声音で兜の中から問いかけてくる。

 

「退くことは決して恥ではありません。ただの蛮勇は身を滅ぼすだけです」

 

「そうかもしれません……」

 

 アリアンロードの言葉を認めながら、セドリックは剣を抜き放つ。

 

「でも、これは僕が初めて僕の意志で始めたことなんです……だから……どんな結果になったとしてもここで退きたくないんです!」

 

 腹の底から叫んだセドリックの本心からの言葉にアリアンロードは用意しておいた木剣を手にする。

 

「その意気やよし。ならばこの胸を貸すとしましょう」

 

 最後の引き返せるタイミングを自分から放棄し、《畏れ》ながらも前へと踏み出したセドリックにリィンは嘆息しながら二人の間に立つ。

 

「立ち会いは自分、リィン・シュバルツァーが勤めさせていただきます」

 

 予め指名されていたリィンは改めてルールの最終確認をする。

 

「勝敗は御前試合の時とほぼ同じ、セドリックは持ち得る全ての力を使ってアリアンロードに一撃を通せば勝ちとする。異論はありませんね?」

 

 そしてオーレリアに指示された通りのルールの確認をする。

 

「はいっ!」

 

「ええ……」

 

 怪我をしないように気を付けて、と言うのは無粋だろうとリィンはあえて言わないようにした。

 代わりに玉砕を覚悟して自棄になっているようにも見えるセドリックにリィンは一言言葉を掛ける。

 

「勝てよ……セドリック」

 

「はいっ!」

 

 開始の合図にセドリックは一気に走る。

 瞬く間に距離を詰め、大きく剣を振り被り――後ろ腰に付けていた小型の魔導銃を抜いて連射する。

 《赤い星座》からもらった携帯性を重視した軽量なSウェポン。最も小型で殺傷能力が低いため、使う者がいなかった在庫処分だったりする。

 導力銃とは違いアーツを撃ち出すことができる銃撃はダメージを目的をするのではなく、身体を痺れさせる《封技》で行動を縛ること。

 だが、セドリックの思惑を超え、アリアンロードは至近距離から撃たれたにも関わらず、アーツの弾丸を全て木刀で弾き飛ばす。

 

「はああああっ!」

 

 その結果に目もくれずセドリックは《メルトスライサー》、炎を纏った連続突きを放ち、力を溜めた薙ぎの一撃に繋げる。

 太刀筋はあっさりと見抜かれて木剣に捌かれる。

 斬り抜けて背後に回ったセドリックはそのまま距離を取ると同時に赤い結界を戦技で作って閉じ込める。

 そこにヴァンダール流の《ブレイドダンサー》で周囲を踊るように剣を何度も斬りつけ、アルゼイド流の《鉄砕刃》、渾身の唐竹割りに繋げる。

 

「終わりですか?」

 

 全身を乗せた剛の一撃を片手で受け止め、小揺るぎもしないアリアンロードは涼し気な声で尋ねる。

 

「まだまだっ!」

 

 距離を取ったセドリックはがむしゃらに剣を振りながら、同時に戦術オーブメントで導力魔法を駆動する。

 

「サウザンドノヴァ」

 

 足元に紅い魔法陣が走り、三つの火柱が立ち昇り竜巻となってアリアンロードを呑み込む。

 が、次の瞬間戦技の颶風が炎を吹き飛ばす。

 

「くっ……」

 

 呼吸を整えながらセドリックは剣を構え直す。

 剣を交え、全力を尽くしているというのに一歩も動かせないことに彼我の実力差を思い知らされる。

 それでも心でだけは負けたくないと、歯を食いしばってアリアンロードを睨む。

 

「なるほど……気概だけは十分のようですが、《緋》に至るにはまだまだですね」

 

「《緋》……?」

 

「これからの帝国に纏わる《巨いなる騎士》の一つとだけ今は言っておきましょう……

 それに口を動かしている暇はあるんですか? 五分などすぐに経ってしまいますよ」

 

「っ……」

 

 興味が惹かれる言葉だったが、セドリックはそれを振り払う。

 五分。

 それは御前試合で挑戦者が与えられたハンデの一つ。

 時間はすでに半分は過ぎただろうか、最初から全力疾走しているセドリックには時間の感覚は曖昧だった。

 もっともだからと言って、時間など気にしている余裕はセドリックにはなかった。

 ペース配分も考えず、ひたすらに全力でこの一ヶ月、教わった技の全てをアリアンロードにぶつける。

 だが、その全てをアリアンロードは受け切って見せた。

 

「限界のようですね」

 

「まだっ!」

 

 アリアンロードが見切りをつけた瞬間、セドリックは残った力を振り絞って剣を振る。

 

「炎よ唸れ、全てを喰らい尽くせ――プルガトリーセイバーッ!!」

 

 剣から作り出した炎の竜巻でアリアンロードを捉え、鋭い炎の礫が襲い掛かる。

 

「どうだっ!?」

 

 がくりと膝を着き、剣で身体を支えながらセドリックは舞い上がった煙を期待を込めて睨む。

 

「悪くない一撃でした……ですが、まだまだですね」

 

 煙を風で振り払ったアリアンロードは悠然とそこに立っていた。

 それどころか、鎧には焦げ跡の一つすらついていない。

 

「そんな……」

 

 その事実にセドリックは愕然とする。

 アリアンロードとの力の差は認めていたが、心の片隅では一撃くらいならと夢想も一片くらいは考えていた。

 だが、結果は当てるどころかその場から一歩も動かすこともできなかった。

 

「さて、五分経ちましたね」

 

 そう言って、アリアンロードはそれまでセドリックが何とかして動かそうとした足を一歩前に踏み出した。

 

「あ……う……」

 

 立ち上がり、剣を構え直すがそこで止まってしまう。

 それまで感じていなかった、猟兵やオーレリアとも違う静かな殺気に少しでも動いた瞬間に首が飛ぶイメージが浮かび上がる。

 気を少しでも抜けば、その瞬間全身が震え出してしまいそうな自分の体をセドリックは何とか抑え込んでいると、アリアンロードはセドリックの目の前で足を止めた。

 手を伸ばせば触れることができる距離。

 兜に覆われて見えない目にまるで全てを見透かされているようで、そうしているだけで息が荒くなる。

 

「あ……っ!?」

 

 意味もなく口が開いた瞬間、セドリックの頬に衝撃が走り吹き飛ばされた。

 木剣ではない。無造作に振られた篭手に覆われた裏拳の一撃だったと認識することもできずにセドリックは地面を転がる。

 

「どうかしましたか?」

 

 まるで軽く撫でただけだと言わんばかりの口調にセドリックは打たれた頬を押さえて身を震わせる。

 

「本当にもう終わりですか? 本当に全ての力を出し切りましたか?」

 

 重ねて掛けてくる言葉にセドリックは何も返せない。

 がむしゃらに、ハンデを当てにしてそれこそ後先考えずに突き進んだ。

 しかし、どれだけ攻撃を繰り出してもその都度に思い知らされるのは圧倒的な壁の高さと硬さ。

 次元そのものが違っている。

 この人に勝ったというリィンと何度も手合わせしたが、ようやく手加減されていたことを実感する。

 完全に戦意がなくなっていることを見て、アリアンロードはセドリックを見下ろしながら言葉を続ける。

 

「そもそも貴方がリィンやドライケルスのようになろうなどとは全くの的外れです」

 

「っ……」

 

「貴方には彼らのような才はありません。それを認められない貴方が何を為せると言うのですか?」

 

 慈悲のない言葉がセドリックを貫く。

 

「貴方の気概は尊いものかもしれませんが、在るものを否定するのはただの《欺瞞》でしかありません」

 

「それでも……僕は……」

 

「そしてこの期に及んでも、まだ自分の持っている力を理解できないのなら……その《欺瞞》を抱えたままここで終わりなさい」

 

 膝を着きそこで固まるセドリックの前に立ち、アリアンロードはこれ見よがしに木剣を掲げる。

 

「僕の力……?」

 

 次の瞬間にも容赦なく振り下ろされそうな木剣。

 例え、訓練用のものであっても致命打になりかねない凶器を前にセドリックはアリアンロードの言葉を繰り返していた。

 

 ――まるでまだ力が残っているみたいな言い方……

 

 この五分の間、セドリックは全ての力をそれこそ振り絞った。

 残っている力などない。自問自答はそう答えを出しているのに脳裏には直前の彼女の言葉が浮かぶ。

 

『もしも助力が必要だと感じたならば、私達の名を呼んでください。セドリック殿下』

 

 その言葉は裏切りに等しかった。

 あの人はただ自分をダシにして目の前の《聖女》と戦いたいだけだと思った。

 しかし、もしそうでないなら――

 

「…………どうやら終わりのようですね」

 

 固まったままのセドリックに木剣が振り下ろされる。

 その瞬間――

 

「オーレリア将軍っ!」

 

 なけなしのプライドをかなぐり捨てて、セドリックはその名を呼んだ。

 

「待ちわびたぞっ!」

 

 すかさずオーレリアが二人の間に割って入り、振り下ろされた木剣を宝剣で受け止め、そのまま薙ぎ払う。

 アリアンロードはその一薙ぎの勢いに逆らわずに後ろに跳んで受け流す。

 

「ちょっ! この金もやしいったい何を――」

 

「ルーファス卿っ! クレア大尉っ! レクター大尉っ! 力を貸してくださいっ!!」

 

 デュバリィの声を掻き消すようにセドリックは腹の底から叫ぶ。

 

「え……えっと……」

 

「おいおい……お坊ちゃん、それは……」

 

 呼ばれたクレアとレクターは困惑する。

 

「おや、聞こえなかったのかな? セドリック皇子殿下が助力を求めている。ならば帝国に仕えるものとして従うのが道理ではないかね?」

 

 既に剣を抜き放ち、そうなることを知っていたかのようにルーファスは事態を呑み込めてない二人を煽る。

 

「そうかもしれませんが……」

 

 踏み切れないクレアはどうしたものかと、セドリックとアリアンロードを見る。

 

「この金もやし、何を言って――」

 

「セドリック殿下……御自分が言ったことの意味、理解できているのですか?」

 

 憤慨するデュバリィを遮ってアリアンロードは落ち着いた様子で尋ねる。

 

「……分かっているつもりです」

 

 呼吸を整え、セドリックは立ち上がる。

 侮蔑の目や困惑の目が向けられ、膝が先程とは違う意味で膝が笑う。

 だが、言ってやれと語っているオーレリアの背中に力を貰ってセドリックは声を張り上げた。

 

「これが僕の――いや……アルノールの力ですっ!!」

 

「なっ…………」

 

 開き直ったセドリックの言葉にデュバリィは思わず絶句し、さらに憤慨する。

 

「フ……フフ……何て厚顔無恥な開き直り、それなら――」

 

「アハハハハッ!」

 

 デュバリィの怒声はシャーリィの歓声によって掻き消された。

 

「良い開き直りっぷりじゃない皇子様! 嫌いじゃないよそういうのはさ……だから特別にシャーリィも手を貸して上げるよ!」

 

 長大なチェーンソーライフルを担ぎ、シャーリィがセドリックの横に並ぶ。

 

「さて……猟兵の娘はああ言っているが、付き合い切れないと言うならばそれでいいさ……

 セドリック殿下もその身に流れる血を当てにして言っていることは自覚しておられる、個人的な求心力がないことは殿下も分かっておられるようだ……

 だからこそ、私たち、貴族派はセドリック皇子殿下の呼び掛けに疾くと応じさせてもらうがね」

 

 そして未だに困惑しているクレアとレクターを煽るような言葉を言い残してルーファスも進み出る。

 

「閣下……」

 

 クレアはギリアスに答えを縋る。

 

「私はただの観客に過ぎないので助言をするつもりはない。だがあえて言わせてもらうなら好きにするといい……

 この一ヶ月の殿下の努力を間近で見て来た君たちが、支えるに値する存在かどうか、革新派も貴族派も関係なく己の意志で決めるが良い」

 

 突き放された答えにクレアは少し迷って――

 

「なら俺パス」

 

 目の前でそんなことを宣って踵を返したレクターの首根っこを掴んで止めた。

 

「行きますよ。レクターさん」

 

「いや待て、クレアッ! 俺は剣なんて持ってきて――」

 

「何を言っているんですか? レクターさんの剣ならあそこにあるじゃないですか」

 

 そう言ってクレアは地面に鞘ごと突き立っている細剣を指す。

 

「謀ったなゴリラ将軍……最初から全員巻き込むつもりだったのかよ」

 

 レクターの勘がそれが誰の仕業なのか察して、顔を引きつらせる。

 そうして無言で佇むアリアンロードの前に計六人が並び立つ。

 

「ぐぬぬ……何て恥知らずな。ならば私たちもマスターの力として――」

 

「デュバリィ、下がっていなさい」

 

 剣を抜いたデュバリィを諫めて、アリアンロードはセドリックに向けて言葉を投げかける。

 

「それが貴方の答えなんですね?」

 

「僕は弱いです……今も、これから先もずっと貴女には敵わないかもしれません……

 だけど、僕は貴女に勝ちたい……

 今はこんな風にオーレリア将軍の意向に乗って、皇族の血の誼で従わせることしかできていませんが、これが僕の力です」

 

「その通りです……

 勝てない相手を前に誰かを頼ることは決して恥ではありません……

 そして時には卑怯と罵られても、勝たなければならない戦場もあります……ましてや王ならばなおさら貴方は負けることが許されない戦場に立つことになるでしょう」

 

 言外にセドリックの主張を受け入れるアリアンロードにオーレリアは口角を釣り上げる。

 

「それでこそ《伝説》……こちらの無茶な理屈を呑み込んでもらったのだ。その木剣、騎兵槍に持ち替えてもらっても構わんのだぞ?」

 

「いえ、このままで十分です」

 

 オーレリアの申し出をアリアンロードは首を横に振って拒絶する。

 

「でしたらマスター。わたくしたちも一緒に――」

 

「それも必要ありません」

 

 デュバリィの申し出も拒否してアリアンロードは進み出る。

 

「…………それは些か、増長が過ぎるのではないか、《鋼の聖女》?」

 

「そう思うのなら……次の一撃を耐えてみなさい」

 

 空気が変わる。

 一気に張り詰めた空気に一同は息を呑む。

 そんな彼らを睥睨して、アリアンロードは木剣を構えずに、呟いた。

 

「神騎合一」

 

 静かな呟きに対して、膨れ上がった力は激しいなんて言葉では言い表せない程に凄まじい。

 

「なっ……こんなの計算できません」

 

「嘘だろ……おい……」

 

「これが《伝説》か……」

 

 クレアとレクター、そしてルーファスはアリアンロードの本気に慄く。

 戦えば勝てないとは思っていたが、それでもセドリックよりは善戦できるとどこかで思っていた余裕が一瞬で消し飛ぶ。

 

「へえ……こんな化物にリィンってば勝ったんだ……」

 

「う……あ……」

 

 先程までのハイテンションと啖呵は何処に行ったのか、シャーリィとセドリックは絶句する。

 

「ククク……まさかこれ程とは……さあ肚を括れっ! ここが正念場だぞ、エレボニアッ!!」

 

 誰もが戦意を揺るがしている中で、一番間近の正面からその気を叩きつけられているオーレリアはむしろ活き活きと背後に檄を飛ばす。

 

「ああくそっ! やってやるよっ!」

 

 自棄になってレクターが叫び、細剣を光らせる。

 

「っ……ミラーデバイス……集束モードにセット」

 

 計算するまでもなく意味がないと分かっていながらも、鏡面装置を導力銃の周りにクレアは展開する。

 

「やれやれ……世界は本当に広いな」

 

 いっそう清々しいと言わんばかりに肩を竦め、剣に闘気を走らせ、その形状をより鋭くする。

 

「アハハッ! 何だか楽しくなってきたねっ!」

 

 逆にハイになったシャーリィは声を上げて笑い、テスタ=ロッサを構える。

 

「ハハ……本当に僕は何て人に挑んだんだろう……」

 

 自分の無謀さを改めて自嘲してセドリックはそれでも剣を構え直す。

 一同は一斉に各々の必殺技を繰り出す。

 

「ナイツ・オブ・ルブルムッ!」

 

「カレイドフォースッ!」

 

「アグリオスキャリバーッ!」

 

「デス・パレードッ!」

 

「プルガトリーセイバーッ!」

 

「王技っ! 剣乱舞踏っ!」

 

 それに対してアリアンロードは――

 

「神技――ナインライブズ」

 

 一瞬九撃の凄まじい突きが、その全てを突き破り、セドリック達を吹き飛ばした。

 

 

 

 

「…………のう……リィンよ」

 

「何ですか、ロゼさん?」

 

「……《神騎合一》とは……何だ?」

 

「俺のとは少し違いますけど、騎神の霊力を逆流させて、神気と自己相克をして高める気法です」

 

「ほう…………騎神の霊力を逆流……そんなことができたのか……」

 

 リィンの答えにローゼリアは遠い目をする。

 

「…………リィン君……」

 

「何ですか、オズボーン宰相?」

 

「……あのナインライブズという技は……?」

 

「お恥ずかしい話ですが、俺の八葉一刀流七の型の技を盗まれてしまったものです……

 一瞬九撃、全てがグランドクロスに迫る九連撃……なんですが、何故か九撃同時に当たっています」

 

「グ、グランドクロスの九連撃……う、受けたことがあるのかね!?」

 

「いえ、自分ではなく結社の《火焔魔人》に使っているところを見ただけです」

 

 《影の箱庭》を使って盛大に暴れてくれた二人を思い出してリィンは遠い目をする。

 概要を少し話しただけで、《神騎合一》に辿り着き、さらには《七の型》をこうも簡単に模倣されたことに自信が揺らぐ。

 余談だが、記憶を取り戻すために人の姿から魔人となって魔神になった彼だったが、その記憶を取り戻す前にあの技で意識を一瞬で消し飛ばされていたりする。

 

「リィンは…………あの御婦人に本当に勝ったのか?」

 

「勝ったと言っても、勝ちを譲ってもらっただけだよ父さん……だけど、次に戦う時には乗り越えないといけない相手だけど」

 

 リィンの答えにテオは絶句する。

 

「……ここまでのようですね」

 

 倒れ伏し、起き上がる気配のない面々を睥睨し、アリアンロードは手に残った木剣だったものの灰を払う。

 アリアンロードは兜越しにリィン達、正確にはギリアスを睨み付ける。

 

「っ……」

 

「リィン。それでは例の話、考えておいてください」

 

 その視線はすぐにリィンへと移り、一方的に言うと背中を向けた。

 

「行きますよ。デュバリィ、エンネア、アイネス」

 

 そして、鉄機隊の三人を促してその場を去って行くのだった。

 

 余談だが、気絶から回復したオーレリアは大口を叩いておいてこの始末だったことに、一同に土下座をして詫びたのだが、それを責める者はいなかった。

 

 

 




 おまけ
 その後の呟き

《黒》
「し、白銀などしょ所詮は我の力になるだけの鉄くず……鉄くずなのだ……」

オーレリア・ルーファス
「「騎神か……」」



 いつかのトリスタIF

クロウ
「最後に一つだけ忠告しておいてやろう……
 お前がまだオレを《大事な悪友》だとか思っていやがるなら……
 それは今――この場で捨てることだ。殺す気でかかってきな……でなきゃ――死ぬことになるぜ」

リィン
「クロウ…………分かった。全力でやらせてもらう」

クロウ
「生憎だが、オレは三年前からコイツを乗りこなして――」

リィン
「オオオオオオオオッ! 《神鬼合一》ッ!」

 ヴァリマールは第二形態へと変形した。

クロウ
「………………へ?」
 
リィン
「行くぞクロウッ!」

クロウ
「待て待て待て待てっ! あーっ!!」


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