(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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122話 ヴァンダール

 

「リィンさん……これはいったい?」

 

「はは……何だかすまない」

 

 東クロスベル街道の橋の先の広場にリィンとクルトは対峙していた。

 が、挑戦者であるクルトは遠巻きに見ている観客たちに困惑する。

 特務支援課の四人に、ツァイト。それは分かるのだが、他には見知らぬ者たちばかり。

 遊撃士らしき二人の女性。

 黒いジャケットを着た二人の男。

 不自然に停まっている黒塗りの導力車からも視線を感じる。

 

「勝手に集まって来ているだけだから、気にしないでくれ」

 

「いえ……ですが……」

 

「それとも周りを気にしている余裕があるのか?」

 

「っ……」

 

 張り詰めたリィンの声にクルトは息を呑み、思わず剣に手を掛ける。

 

「まだ待ってくれ。立会人が来ていない」

 

「立会人?」

 

 首を傾げてクルトはクロスベルの方に目を向ける。

 

「待って待って待ってー!」

 

 橋からは騒がしい女性とカメラを持った男が駆けてくる。

 

「立会人とは彼女たちのことですか?」

 

「違うから」

 

 見るからに報道関係者と分かる二人にクルトは不快そうに顔をしかめると、リィンは肩を落として否定した。

 

「グレイスさん、申し訳ないですが。これはプライベートな話なので取材はやめてください」

 

「そんな固いこと言わないでよリィン君」

 

「ダメです」

 

 リィンは女性を追い返そうとするが、女性はのらりくらりと聞く耳を持とうとしない。

 交渉の末、記事にしないことを取り付けていたが、クルトにとってはどうでも良いことだった。

 

「リィンさん、早く始めたいのですが」

 

「……もうちょっとだけ待ってくれ――って来たみたいだな」

 

 痺れを切らしたクルトの言葉に答えるようにリィンは呟く。

 その視線を追ってみれば、クロスベル市から一台の導力車がやって来た。

 導力車はクルト達の前まで来て止まり、ミュラーと彼の従者と思わしきサングラスをかけた少年が降りる。

 

「兄上……どうしてここに?」

 

 顔をしかめて導力車から降りて来たミュラーにクルトは呆然と尋ねる。

 

「どうしてだと? まさかそれを説明しないと分からない程にお前は愚かだったのか?」

 

 不機嫌さを隠そうとしないミュラーの言葉にクルトは息を呑む。

 生まれてこの方、厳しい態度でいられた事はあっても、こんな冷たい態度を取る兄の姿を見るのは初めてだった。

 

「兄上…………僕は――」

 

「シュバルツァー待たせてすまなかった……もう始めてくれていい」

 

 何かを言おうとしたクルトを無視してミュラーはリィンを促す。

 

「分かりました……クルトそれじゃあ始めようか?」

 

「っ……」

 

 そんな兄の態度に、納得と苛立ちを感じながらもクルトは双剣を抜く。

 対するリィンは太刀を剣帯から外すと、鞘ごと地面に突き立てた。

 

「何のつもりですか?」

 

「君が望んだ通り仕合うだけだ……だが太刀を使うとは言っていない」

 

「っ……ヴァンダール流では……いや、僕の剣では太刀を抜くまでもないということですか!?」

 

「ああ、その通りだ」

 

 クルトの激昂を軽く受け流してリィンは頷く。

 

「いくら才に恵まれていようが、仕方なく剣を振るっているような“半端者”に合わせる刃はない……

 どうしても太刀を抜かせたいと言うのなら、その双剣で抜かせてみろ」

 

「馬鹿にするなっ!!」

 

 リィンの易い挑発にクルトは激昂し、開始の合図も待たずに突撃する。

 間合いを詰め、二刀から繰り出す息もつかせない連続斬撃。

 クルトが一番最初に覚え、最も自信がある技だったにも関わらず、無数の斬撃は全て紙一重で見切られ躱される。

 

「終わりか?」

 

「っ――」

 

 余裕の問いかけにクルトはさらに剣戟の回転数を上げる。

 風を巻き起こし風の刃と双剣の刃を合わせた乱舞。

 先程の比ではない手数にも関わらず、リィンは歩法と上体のわずかな動きだけで躱し切る。

 

「それならっ!」

 

 双剣に陰陽の力を宿して、剣閃を交差して放つ。

 横に広がって突き進む剣閃。

 それを躱すには上に跳ぶにしろ、横に回り込むにしろ大きな動きをしなくてはならない。

 そこに生じるだろう隙を待ち構え、クルトは必殺を叩き込むために集中する。

 しかし、リィンはその場から一歩も動かずに陰陽の剣閃を喰らった。

 

「え……」

 

 かに思えたが、目の前のリィンは霞となって消える。

 代わりに背後から声がかかる。

 

「こっちだ」

 

「っ――!?」

 

 声に反応して思考するよりも反射的に剣を振る。

 

「軽いな」

 

「なっ!?」

 

 リィンはあろうことか素手のまま剣の横腹を叩いて弾く。

 そして次の瞬間、クルトは腹に重い衝撃を受けた。

 

「がっ――」

 

 身体の芯に響く一撃はたったそれだけでクルトの膝を笑わせた。

 そしてリィンは動けなくなったクルトの頬に平手打ちを叩き込んだ。

 踏ん張ることさえできなかったクルトは無様に地面に転がる。

 

「どうした早く立て」

 

 リィンからの追撃はなく、冷ややかな声が浴びせられる。

 

「く――そっ……」

 

 クルトはたった一撃で荒くなった呼吸を整え、震える膝を叩いて喝を入れ、時間を掛けて立ち上がる。

 

「遅い……実戦なら今の間で何回死んだと思っている」

 

 必死に立ち上がったにも関わらず、リィンから叩きつけられた言葉は全く容赦のないものだった。

 

「うるさい」

 

 叫ぼうとした反論はかすれた声でうまく言葉にならなかった。

 

「威勢が良いのは口だけか? それとももう諦めるか?」

 

「誰がっ!!」

 

 呼気を整え、クルトは顔を上げる。

 出来るならリィンの切り札の後に出すつもりだったクルトの切り札を切る。

 

「コオオオオオオオオッ!」

 

 溜めた闘気を解放する。

 闘気は風雷になってクルトを中心に吹き荒れる。

 

「ヴァンダールの双剣、篤と味わえ――」

 

 双剣を振り、雷刃を牽制に放つ。

 リィンは焔を宿した手でその雷刃をあっさりと払い除ける。

 もっともそれは先に述べた通り牽制でしかない。

 本命は闘気で膂力を限界以上に引き上げた突きの一撃。

 

「ラグナストライクッ!!」

 

 ただひたすらに威力を求めた雷光を纏った突進。

 駆け抜けたクルトは手に手応えを感じて、ほくそ笑む。

 

「はっ……はっ……はっ……」

 

 たった一合。元々体に合わない方向での身体強化の反動にクルトは息を喘ぐが、それよりも達成感にも似た高揚の方が強かった。

 

「どう……ですか……兄上……見ての通り……僕だって《剛剣》を――力の剣を使うことができたでしょ?」

 

 振り返って結果を確かめるよりもクルトは立ち会ったミュラーに向かって話しかける。

 

「だから……だから……」

 

「何をしているクルト。まだ仕合は終わってないぞ」

 

 縋るようなクルトの言葉をミュラーは腕組をしたまま跳ね除ける。

 

「何を言っているんですか兄上? だって見ての通り――」

 

 促されて振り返ったクルトが見たのは何事もなかったかのように立っていたリィンだった。

 

「そんなっ! 確かに手応えがあったはず!?」

 

 当たった感触があった右の剣を慌てて確認すると、そこにはあるべき刀身がなくなっていた。

 

「…………え……?」

 

 呆然とクルトは軽くなった剣に見入ってから、ゆっくりと顔を上げるとリィンはその手に持っていた折れた剣の刀身を見せつけるように地面に投げ捨てた。

 信じられない悪夢を見たかのようにクルトは頭を振りながら後ずさる。

 

「どうした……もう終わりか?」

 

 心底つまらないと言わんばかりの侮蔑の眼差しにクルトは怖気づいた心を無理やり奮い立たせる。

 

「ああああああああああああっ!」

 

 残った剣に再び雷光を纏わせてクルトは叫び、駆ける。

 駆け引きもなければ、牽制の雷刃を飛ばす余裕もない。

 ただ愚直な力任せの一振りをリィンは上体を退いて紙一重で避ける。

 

「どうして……何で……当たらないっ!」

 

 片方の剣を失っていることを差し引いても、クルトの剣にはもはや最初の勢いはない。

 

「何で……何で……!?」

 

 息を切らせ目端に涙を浮かべながら、もはや型も何もない子供が棒切れを振り回すかのようにクルトはがむしゃらにリィンを追い駆ける。

 

「負けるわけにはいかないのに……負けちゃいけないのに……僕は……」

 

 どうして自分たちの前に現れたのだと理不尽にもリィンを責める。

 皇族の護衛役として、クルトは決して負けることは許されない。

 だからこそ、《剛剣》への憧れを捨て、確実に強くなるために《双剣》を覚えた。

 だからこそ負けるわけには――認めるわけにはいかない。

 クルトが負けることはセドリックの死を意味し、さらにはクルトに才能を見出した父と兄の否定を意味し、《双剣》を選んだ意味さえも無意味にする。

 

「君の剣は欺瞞ばかりの剣だな」

 

「何だとっ!?」

 

 リィンの言葉にクルトは怒鳴り返す。

 

「義務感と惰性……君は《双剣》じゃなく《剛剣》を覚えたかったんだろ?」

 

「っ……仕方がないだろ! 僕には《剛剣》の才能がないんだから!」

 

「だから逃げたんだろ……親がそう言うからって言い訳をして」

 

「それは……」

 

「本当に《剛剣》を覚えたいのなら、親の言うことを無視することだってできたはずだ……

 それをしなかったのは《双剣》の方が合ってると自分でも思ったからじゃないのか?」

 

「ちがう」

 

「コンプレックスも言い様だな……そうやって予防線を張っておけば《双剣》で負けた時に言い訳ができる」

 

「ちがう……ちがう……」

 

 クルトは必死にリィンの言葉を否定する。

 だが、本人の思いとは裏腹にその言葉はクルトの胸に落ちてはまり込んでしまう。

 

「違わないさ……現に君の剣は――」

 

 リィンは無造作に振られた剣に合わせて、剣の腹に拳を叩き込み砕く。

 

「――こんなに脆い」

 

「あ……」

 

 半ばから折れた剣にクルトは呆然と立ち尽くす。

 

「どうしたヴァンダール? 君も剣を失った時のための素手格闘術は習っているはずだろ? それともまさか剣を無くしたら敗北を受け入れるのか?」

 

 リィンの声にクルトは反応しない。

 ただ呆然と折れた剣を見下ろすだけで隙だらけだった。

 

 ――潮時かな?

 

 リィンは目端でミュラーを伺い見る。

 ミュラーは今のクルトの、護衛役としてあるまじき様子に目を伏せるが、止める言葉は発しなかった。

 この後のクルトの行動。

 それが知りたいと言わんばかりにミュラーは弟を見守る。

 ならばと、リィンもさらに挑発を重ねた。

 

「どうしたクルト? セドリックは最後まで折れなかったぞ」

 

「っ……」

 

 その言葉に自失していたクルトは反応した。

 力の差は思い知った。

 双剣を失ったクルトには万が一にも勝ち目はない。

 

「来ないならそれで良い。護衛役だって人間だ、死にたくないという思うのは当たり前だ……

 だからその《畏れ》は決して間違いじゃない。君が《剛剣》に向いていなかったように《護衛役》に向いていなかっただけの話だろ?」

 

「それでも……僕は……」

 

 葛藤を振り払い、クルトは折れた剣を投げ捨て顔を上げる。

 

「まだ終われないっ!」

 

 勢いよく上げた顔にはまだ迷いはあるが、目は死んでいない。

 クルトは拳を固めてリィンに突撃する。

 それにリィンは苦笑を浮かべて身構えて――世界が書き換わった。

 

「くそっ!」

 

 悪態を吐き、クルトは折れた剣を投げ捨て駆け出した。

 リィンに向かうのではなく、横に、目指した先にはリィンが地面に突き立てた太刀。

 クルトは飛びつく様にそれを掴み、躊躇うことなく鞘から抜き出した。

 

「っ――」

 

 直後、太刀を握った瞬間に感じたものにクルトは固まった。

 

「何だこれ……こんなものを使っていたのか……」

 

 握っただけで沸々湧いてくる《力》にクルトは薄暗い笑みを浮かべる。

 

「ずるいな……こんなすごい魔剣なら父上達と剣を交えることができて当然じゃないか」

 

 クルトは黒い何かを纏いながら、赤い刀身の太刀の輝きに魅入られる。

 リィンはクルトに注意を払ったまま、周囲を窺う。

 

「何ですか……あの黒くて怖いもやは?」

 

「ティオちゃん、何を言っているの?」

 

「グルルゥ」

 

 おぞましい気配を感じ取って身を震わせているのはティオとツァイトだけ。

 それ以外の者たちはただクルトの豹変に戸惑っているだけ。

 

 ――あれが呪いか……

 

『おそらくそうでしょうね』

 

 リィンの考えにルフィナの返事が返ってくる。

 《鋼の至宝》が帝国に残した《闘争の呪い》。

 クルトの最後の誇りを踏みにじり、蛮行に走らせた原因にリィンは怒りを禁じ得ない。

 

「これならリィンさんっ! 僕は貴方を殺せるっ!」

 

 勝利を確信した醜い笑みを浮かべてクルトは駆け出す。

 それはもはや見ていられない程に酷い踏み込みだった。

 ただ力任せに地面を蹴り、身体の連動も太刀の性質を気にせずに、身体能力と刃の鋭さを当てにした振り下ろし。

 ゼムリアストーンを拳で砕くことはできないだろうという思考もあって、クルトは勝利を確信する。

 現にその踏み込みは《呪い》の影響か、それとも《太刀》の力か、今までにないほどに速く力強い。

 もっとも、それに反して何処までも稚拙な踏み込みだった。

 

「奥義――破邪顕正っ!」

 

 振り下ろされた技は見様見真似だが、その名に恥じない《剛剣》の一撃。

 

「っ――!」

 

 リィンは白羽取りで受け止め、その衝撃に地面が大きく陥没する。

 

「なっ!?」

 

「……これが……これが君が望んだ力か?」

 

 凄まじい力で押してくるクルトにリィンはあえて《鬼の力》を使わずに自分の力だけを振り絞って拮抗する。

 

「うそだ……何で……どうして……」

 

「君は剛剣を振るうだけで満足なのか!? 君が憧れたものは本当にそんなものなのかっ!?」

 

「何で何で何で――」

 

「いい加減――」

 

 子供のように癇癪を叫ぶクルトにリィンは呪いの影響だと分かっていながらも、叱る様に叫び。

 白羽取りを化頸で受け流し、太刀は深々と大地に突き刺さる。

 

「――目を覚ませっ!」

 

 死に体を晒したクルトをリィンの破甲拳の一撃が捉えた。

 

 

 

 

「すまんシュバルツァー」

 

 起き上がる気配のないクルトをミュラーは簡単に診て、嘆くようなため息を吐いてからリィンに声をかけた。

 

「いえ……」

 

 深々と地面に突き刺さった太刀を引き抜き、太刀の汚れに顔をしかめながらリィンはミュラーに尋ねる。

 

「ミュラーさん。最後のクルトですが、ミュラーさんの目から黒いもやは見えていましたか?」

 

「黒いもや……何のことだ?」

 

 やはり見えていたのはこの場ではティオと自分だけだったと確信する。

 

「そのことについては後で話します」

 

 とりあえず問題のクルトは破甲拳の一撃を受けて、気を失っている。

 

 ――起動者よ……

 

「イシュメルガ?」

 

 珍しく呼び掛けて来た《鬼の力》にリィンは首を傾げる。

 

 ――小僧の胸に手を当てろ……

 

 指示は短く、意図は計り切れない。

 それでもリィンは言われた通り、倒れたクルトに抱き起こして胸に手を当てる。

 するとクルトの胸から黒い呪いが滲み出て、リィンの腕に燃え移る様に広がる。

 リィンは慌てず自身の《鬼の力》にそれを呑み込ませた。

 

「何をしたんだ?」

 

 ――呪いを種ごとこちらに移して呑み込んだ。今後、この小僧が呪いによって暴走することはないだろう……

 

「そうか……ありがとう。イシュメルガ」

 

 礼を言うが、返事はなくそれはまた己の内側に引き籠る。

 

「シュバルツァー今のは何だ?」

 

 今度のは見えたのか、ミュラーが困惑した様子で尋ねる。

 

「さっきも言いましたが詳しいことは後で話します……

 今はとりあえずクルトを寝かせられる場所に移動しましょう」

 

 

 

 

 

「何ですかそれは……」

 

 特務支援課の一室で目を覚ましたクルトは荒唐無稽な話を聞かされて頭を抱えた。

 

「帝国の呪い? そんなもの信じられるわけないじゃないですか!」

 

 激昂して否定するも、セドリックとの決闘の頃から苛まれていた頭痛に似た不快感はなくなっている。

 そしてそれまでの自分でやったとは思えない蛮行の数々を思い出し、リィンの言う呪いの存在を理解するも、クルトは受け入れることができなかった。

 

「信じられない気持ちは分かるが、これは事実なんだ……

 帝国人のほとんど全てには呪いの種が植え付けられている」

 

「違う……呪いじゃない……あれは……本当に僕がずっと前から抱えていたもので……僕は……何てことを……」

 

 コンプレックスも《最強》でなくてはいけない義務感も、力に魅入られたことも全て自分の所業だった。

 そこに呪いによる線引きをしようにも、何処までが自分の意志で、何処からが呪いに背中を押されたのかクルトには分からなかった。

 

「リィンさん……僕を……殺してください」

 

「クルト……」

 

「呪いのせいじゃありません。僕は本心から貴方の存在を疎んで殺そうとしたんです……もはや死んで詫びることしかできません」

 

「クルト、だから――」

 

「甘えるなクルト」

 

 自暴自棄になっているクルトにリィンは優しい言葉を掛けようとするが、ミュラーが厳しい口調でクルトを叱責した。

 

「兄上。ですが、呪いに振り回された僕はもうヴァンダールの面汚しです。《護衛役》も《双剣》を握る資格も僕にはもう……」

 

「そうだろうな……だが、介錯をシュバルツァーに求めるのは筋違いだ……お前の命をシュバルツァーを背負わせるつもりか?」

 

「それならどうすれば良いんですか!?」

 

 堪らず叫んだ懇願にミュラーはため息を吐き、意を決してそれを口にした。

 

「クルト・ヴァンダール……今この時をもってセドリック・ライゼ・アルノール皇子殿下の守護役を解任する」

 

「っ……」

 

「また、今日の仕合については当主に余さず伝える。処分については追って伝える。それまでは――」

 

 ミュラーは顔をしかめて、頭を手で押さえ重苦しいため息を吐いて続けた。

 

「彼――三月中までクリスと共に行動してもらう。それ以外は好きにしろ」

 

「初めまして、クルト様。ただいま御紹介あずかりましたクリスと申します。以後よろしくお願いいたします」

 

 仕合の時にミュラーと一緒にいた従者――執事服を着て眼鏡をかけた金髪の少年が恭しく頭を下げた。

 

「監視というわけですか……当然ですね」

 

 クルトは自嘲してそれを受け入れる。

 しかし、隣でリィンがミュラーと同じように頭を抑えて唸っているのにクルトは気付かなかった。

 

 

 

 





 クルトの行動について一応補足
 セドリックに負けてから一連の行動は呪いによってそれまで溜まっていた鬱憤や責任感の反動がブレーキがなくなって爆発したせいです。
 そして戦闘中の因果の書き換えはキーアによるリィンを排除するための行動に挿げ替えられ、《鬼の力》の残滓が宿っているゼムリアの太刀を持つことで《闘争の呪い》が目に見える形で具現化しました。

 また、リィンは一連の現象が全て《呪い》によるものだとまとめて解釈しているので、クルトの誇りをキーアが穢したことには気付いていません。




 そう遠くないクロスベルNG

クリス
「やあ、クルト……久しぶり、結局最後まで気付かなったみたいだね」

クルト
「ダマシタナアアアアアッッッ!!」



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