(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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123話 二人の帰還

 

 

「うあ……」

 

 クロスベルに来て一週間の月日が流れたその日。

 リィンは扉に手を触れて唸る。

 

「どうしたのリィン君? 入らないの?」

 

 扉の前で固まっているリィンに後からやって来た遊撃士のエオリアが声をかける。

 

「エオリアさん……えっと……その……」

 

「ふふ……もうリィン君が来て一週間になるんだから、遠慮しなくていいんだよ」

 

「あ……待って――」

 

 リィンが止める間もなく、エオリアは扉を開けた。

 

「おはようございます」

 

 元気の良い、朝の挨拶がギルドの中に響き――

 

「おはようエオリアさん」

 

 同じく元気の良い声が返ってきた。

 

「あ、エステルちゃん。もう戻ってきたんだ。お帰り」

 

「ただいま、エオリアさん……でも、ごめんね。ちょーっと先にお話ししないといけない子がいるから」

 

「うっ……」

 

 エオリアとにこやかに応対するも、エステルの目は入り口で固まるリィンに固定されて離れない。

 以前見た太陽のように眩い笑顔は相変わらず、しかし今のエステルの笑顔には触れたら火傷する熱が篭っていた。

 

「っ……」

 

 リィンは気押されて後ずさる。

 こうなることは半分くらい覚悟していたのだが、あまりにも彼女からのプレッシャーが強すぎて腰が退ける。

 そんなリィンの肩を背後から誰かが掴んだ。

 

「ヨシュアさん……」

 

 振り返って確認するまでもなく、リィンはそれが誰なのか察した。

 

「《影の国》以来だけど元気そうでよかったよ」

 

「ヨシュアさん…………その……」

 

「うん……リィン君がレンの味方に着いている理由は分かっているし、その方が良いって僕も思うし、エステルも納得しているんだ……でもその……ごめん」

 

 取り繕うもヨシュアは途中で諦めてリィンに謝る。

 

「リィン君……」

 

 エステルは綺麗な笑顔を浮かべて一歩、また一歩とリィンに歩み寄る。

 恐らくヨシュアも向けられたことがない種類の笑顔だろうが、ちっとも嬉しくなければ、ヨシュアも羨ましいとは思わない。

 

「リィン君、お話があるからそこに正座」

 

「…………はい」

 

 微妙に懐かしいやり取りを感じながらリィンはエステルからのお説教を甘んじて受けるのだった。

 

 

 

 

 

「それはまた……随分と濃い一週間だったみたいだね」

 

 幸いなことに玄関先では邪魔だとミシェルに注意され、二階のテーブルの席にリィンは着くことが許された。

 

「ええ……俺もまさかこんなことになるとは思っていませんでした」

 

「それにしてもオリビエとミュラーさんの弟か」

 

「二人ともまだクロスベルにいますから、その内会えると思いますよ」

 

 クルトは迷惑をかけたということで、特務支援課で奉仕活動を行うことにしたらしい。

 クリスこと、セドリックはそんな彼を傍で見守ると言っていたが、行動が彼の兄に似てきたことにリィンは嘆かずにはいられない。

 ただやはり数日時間を置いた程度ではまだクルトは立ち直った様子はないようだった。

 

「うーんそれは楽しみだけど、話を聞く限り会わない方が良さそうな気もするわね……ところでリィン君、本題なんだけど」

 

「レンのことですね?」

 

「うん……」

 

「それについては俺から言えることは一つだけです。ちゃんと元気にしていますから安心してください」

 

「そっか……まあルシアさんとテオさんからも聞いていたけど、改めて聞いて一安心かな……

 それは良いんだけど、やっぱりリィン君から言って会わせてくれないかな?」

 

「それについてはいくらエステルさんのお願いでも聞けません……

 それにそんな方法でレンを掴まえてエステルさんは納得できますか?」

 

「それを言われると、そうなんだけどさ……」

 

 口ごもるエステルに苦笑する。

 

「エステル……それについてはリィン君の言う通りだよ……

 レンも完全に逃げに徹しているわけじゃない。いろいろなヒントを残しているのがその証拠だよ」

 

「うん……それは分かってるんだけどさ」

 

 リィンとヨシュアに諫められてエステルはため息を吐いて、その気持ちを呑み込んで話を進める。

 

「ミシェルさんから聞いたけど、リィン君もハロルドさんのことを調べているんだよね?」

 

「はい……お二人が調べた資料を盗み見てしまったようで申し訳ないとは思っていたんですが」

 

「それは別に良いわよ。残した資料なんて時間を掛ければ調べられるようなモノだけだったし……

 それよりもリィン君はハロルドさんのことをどこで知ったの?」

 

「あ……そういえば話していませんでしたね……

 実はハロルドさんとはリベールで会っていたんです」

 

「…………え?」

 

 思いも寄らない答えにエステルとヨシュアは目を丸くする。

 

「それって……確かティータと一緒にゴスペルの実験のためにキャンプをしていた時のこと? あれはレンが操っていた人形だったんだけど」

 

「そっちじゃありません……

 リベル=アークが現れた時に、ちょうどハロルドさんがグランセルに来ていたんです。避難誘導している時に会いました」

 

「あ、あ、あ……あんですってー!!」

 

「いや、ハロルド氏は貿易商だからリベールに来てもおかしくはないよエステル」

 

「いえ……ハロルドさんがリベールに来たのは仕事ではなく、死んだはずの娘さんを探しに来たからなんです」

 

「え……それってまさか……」

 

「そうです。レンが操っていた人形の自分を人伝に知って確かめに来たそうです」

 

「何でその時に教えてくれなかったの!?」

 

 エステルは思わず激昂してテーブルを叩く。

 

「すいません。ハロルドさんの言っていた娘さんの名前がレンとは違ったからそれを確かめてから報告しようかと思っていたんですけど――」

 

「レンの名前!? ヨシュアそれってどういうこと!?」

 

「いや、僕も知らない。結社であの子を保護した時にはレンって自分で名乗っていたんだけど」

 

「リィン君!?」

 

「う……すいません。それについてはレンに口止めされて言えません」

 

 喋り過ぎたことを自覚してリィンは謝る。

 

「ふーん……へー……はー……」

 

 エステルから向けらえる冷たい視線に冷や汗が湧いて来る。

 

 ――何で俺……エステルさんに嫉妬されているんだろう?

 

 何だか理不尽なものを感じてしまう。

 恋愛に疎い自覚があるし、エステルがレンに向けている感情はそういうものではないと分かっているのだが何だか納得がいかない。

 

「あ……あのエステルさん……」

 

「べっつに良いけどね……リィン君がレンと仲良さそうでも全然構わないんだけど、全然羨ましくないんだからねっ! うーっ!」

 

 口ではそう言いながらも目は羨ましいと訴えている。

 

「と、ところでヨシュアさん、例の《グノーシス》ってクスリはクロスベルの何処で手に入れたんですか?」

 

「《グノーシス》? リィン君まさか――」

 

 強引に変えた話題を咎めるようにヨシュアが目を細める。

 リィンは慌てて弁明して続ける。

 

「俺が必要としているわけじゃありません。レンがそれについて調べているんです……

 その情報を持っていけば、もしかしたら会ってくれるかもしれないですよ」

 

「ヨシュアッ!」

 

 テーブルに突っ伏していじけていたエステルは次の瞬間、目を輝かせて顔を上げる。

 

「うん……調べてみるけど、だいぶ前のことだし、今は遊撃士だから売人と接触できるかはちょっと怪しいけど調べてみる価値はあるね」

 

「よーしっ! それじゃあ――」

 

「三人共、ちょっと良いかしら」

 

 気合いを入れようとしたエステルに水を差すようにミシェルが階段を昇ってきて声をかけた。

 

「どうしたんですか、ミシェルさん?」

 

「実はついさっき、こんなものがギルドの扉の隙間に挟まっていたのよ」

 

 ミシェルがそう言ってリィン達に見せたのは《B》と書かれた一枚のカードだった。

 

 

 

 

 

 

「アンタがブルブランなの……?」

 

「フフ……久しぶりだなエステル・ブライト。それにヨシュア……レンからの温泉旅行のプレゼントは堪能できたかな?」

 

 クロスベルの歓楽街。

 その一角に並ぶ、カフェテリアでエステルとブルブラン男爵は邂逅した。

 流石に店の中で棒を構えることはせず、争うつもりはブルブランもなく先に注文した紅茶を堪能していた。

 

「そんな顔をしていたのね。何だってあんなヘンテコな仮面をしているのよ」

 

「ヘンテコとは嘆かわしい……怪盗の美学というものだよ。分からないかね?」

 

「分かるわけないでしょ」

 

 ため息を吐き、エステル達三人は促されてテーブルに着く。

 

「さて、まずは一息吐くといい。ここは私が支払うから好きなものを注文したまえ」

 

「ふーん……じゃあ遠慮なく」

 

「エステル……」

 

 ブルブランの申し出を素直に受け取ってメニューに手を伸ばすエステルにヨシュアは呆れが混ざったため息を漏らす。

 結社と遊撃士、そうでなくても《怪盗B》というだけでもすぐに捕まえるべき相手なのだが、何も事件を起こしておらずただ話すということならばとエステルはあっさりと受け入れる。

 そんな割り切りの良さにリィンは感心する。

 自分なんて、そんな割り切りを覚える前に次から次へと押し寄せてきて麻痺させられたようなものだったから。

 

「さあ、リィン君も遠慮はせず頼みたまえ」

 

「はあ……」

 

 緩んだ返事をしてリィンはメニューを受け取る。

 

「って……なにこれっ!」

 

 一足先にメニューを開いたエステルが驚きの声を上げる。

 

「ケーキ一つ四桁ミラ……ど、どうしようヨシュア!?」

 

「エステル、目立ってるから静かに」

 

 大きな声で慄くエステルにヨシュアは恥ずかしそうに注意する。

 

「ハハハ、流石エステル・ブライト。期待以上の反応をしてくれる」

 

 そんな庶民丸出しのエステルをブルブランは楽し気に笑うのだった。

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

「はあ……これが2000ミラのケーキの味……」

 

 注文したケーキを食べ終えたエステルは夢現と言った様子でその余韻に浸っている。

 

「さて、ではそろそろ本題に入るとしようかリィン君」

 

 そんなエステルを横目にして、ブルブランは呼び出した要件を切り出した。

 

「はい。これです」

 

 その申し出に頷いたリィンは袋に入れた拳大の銀耀石の結晶をテーブルの上に置いた。

 

「おお……これはまた見事な……」

 

 その輝きにブルブランは口に笑みを作り、手に取って目の前に持ち上げる。

 

「随分大きな銀耀石だけど、どうしたんだい?」

 

「実は先日、このクロスベルにいた《聖獣》と接触することができました」

 

 ヨシュアの問いに答えると、エステルが夢から返ってきて聞き返す。

 

「《聖獣》ってレグナートと同じ!?」

 

「はい。《幻の至宝》の《聖獣》……いろいろ情報交換はしたんですが、あまり吹聴しないで欲しいと口止め料としてそれを押しつけられたんです」

 

「そっか……それじゃあ聞かない方がいいのかな?」

 

「そうしてくれると助かります」

 

「それでどうして《聖獣》からもらった銀耀石をブルブランに?」

 

「実は――」

 

 リィンは簡単に帝国で《焔の聖獣》と会ったことを説明し、彼女からも似たような経緯で紅耀石の結晶をもらったことを説明する。

 

「その扱いに困っていたところで、彼に声を掛けられたんです……

 何でも懇意にしている細工師がいて、格安で加工してくれると言われたから頼んだんです」

 

「細工師ってまさか結社の?」

 

「フフ……残念ながらマイスターは結社の一員ではない、市井の職人に過ぎないよ……

 しかし、リィン君。そのことについてだが謝らなければならないことができてしまったのだよ」

 

「謝らなければいけないこと?」

 

 リィンはブルブランの突然の言葉に嫌な予感を覚える。

 

「うむ……君の妹君のエリゼ・シュバルツァー嬢に似合う一品を作る注文だったが、マイスターに熱が入ってしまってね……

 余った端材を加工料として引き取るつもりだったのだが、逆に余った端材でエリゼ嬢へのアクセサリーを作ることになってしまいそうなのだよ」

 

「それは別に構いませんが」

 

「そう言って貰えると助かるよ……ではこれを受け取ってもらえるかな」

 

 そう言って差し出してきたのはトランクケースをテーブルに置いた。

 

「これは?」

 

「一千万ミラ入っている。紅耀石の代金だ。今回の銀耀石については後日、同じ分支払わせてもらおう」

 

「なっ!? ちゃんと鑑定もしてないのに?」

 

「そこは君の人柄を信用してのことだよ……

 それからリィン君。この契約書にサインをしてもらえるかな?」

 

「契約書……?」

 

「君の紅耀石、そしてこの銀耀石……それらを使った装飾品は採算度外視の趣味に走ることに決めてしまってね……

 無事に完成しても値段が付けられない代物になるだろう。だからその所有者の権利であることを明確にしておこうということなのだよ」

 

「何でそうなるんだ!?」

 

 平然と宣うブルブランにリィンは抗議する。

 

「そんなものユミルでは管理し切れないって言ったよな!?」

 

「落ち着きたまえリィン君。まだ完成したわけではないが……マイスターの伝手で帝都の宝飾店に非売品として展示する方法もある……

 まあ、そこら辺の話はおいおい決めればいいさ……とにかく誰の持ち物か今の内にちゃんと決めておくべきだと私は思うのだよ……

 ちなみにできたものをマイスターに買い取ってもらうとなると……」

 

「なると?」

 

「おそらくマイスターは破産する」

 

「そんな大袈裟な」

 

「そう思うかな? まあ最終手段には我が美のライバルに献上品として差し出せば丸く治まるだろうから難しく考えなくて大丈夫さ」

 

「それは……確かに……」

 

 自分で管理することばかり考えていたが、確かにオリヴァルト皇子に丸投げしてしまうことはこの上ない良案だった。

 リィンは上質な紙に書かれた契約内容を隅から隅まで読み込む。

 

「この今後手に入れることになった七耀石の結晶はマイスターに卸すという、一文は?」

 

「いわゆる専属契約というものだよ……

 他の場所で売るよりもマイスターのところに優先して欲しいというだけさ」

 

「その程度は別に構いませんが……」

 

 元々シュバルツァー男爵家にそういった伝手はないのだから、ブルブランの申し出を拒む理由はない。

 

「そして今後、同じような七耀石を見つけたらその都度報酬を払うということだ……

 また契約金については別に用意させてもらうよ」

 

「はあ……まあ買い取ってもらえるなら何でも良いですけど、今回の二回が特別なだけですよ」

 

「果たしてそうかな? 私は運命だと考えているよ」

 

 仰々しい台詞にリィン達は何とも言えない表情をする。

 

「時に君たちは《黒の競売会》というものを知っているかな?」

 

「黒の競売会……?」

 

「ヨシュア、それって確か……」

 

「うん……ナイアルさんが言っていた話だね」

 

 心当たりのないリィンに対してエステルとヨシュアは神妙な顔をして頷き合う。

 ブルブランは知らないリィンのために説明を続ける。

 

「このクロスベルの地で、記念祭の期間中に開かれる非合法の競売会のことさ……

 扱われる品々はどれも曰くのある盗品の類。途方もない価値のついた表に出せないものが出品されるそうだが、今年はその中で《聖獣の涙》と呼ばれる宝石が出品されるらしい……

 リィン君には是非私と一緒にオークションに参加してもらい、その《聖獣の涙》が本物かどうかその場で鑑定してもらいたいのだが、どうかね?」

 

「ちょっと待ちなさいっ!」

 

「いいや、これは千載一遇のチャンスなのだよエステル・ブライト……

 リィン君が手に入れた紅耀石に銀耀石、そしてリベールから流れて来た聖獣から賜ったという曰く付きの金耀石……

 奇しくも三つの聖石が揃ったのならば、残り四つの聖石を探さない道理などないはずっ!

 私はこれを女神の天啓だと感じたよ。七つの聖なる石を揃え究極の美となる至宝をこの地に生み出せと女神は仰っているのだ」

 

「むむむ……」

 

 熱を孕んだブルブランの主張に反論しようとしたエステルは唸る。

 

「いや……そもそもクロスベル創立記念祭の頃にはたぶん帝国に帰って、合格していたらトールズ士官学院に進学しているはずなんだけど」

 

「ふ……その程度何の問題もない……

 《黒の競売会》は帝国の安息日の夜、トリスタからクロスベルなら鉄道で左程時間もかかるまい……

 帰宅に関しても、結社の特殊飛行艇で送るから全く問題はないから安心したまえ」

 

「…………ねえブルブラン……一つ聞いていい?

 その《黒の競売会》の招待状って、もしかして持っているの?」

 

「ふ……愚問だね」

 

 自信に満ちた返事は、エステルの問いに何よりの答えだった。

 

「ぐぬぬ……」

 

「まあ、急な話であることは確かだ。だが、是非考えてみてくれたまえ」

 

 語り切ったブルブランは満足そうに紅茶で喉を潤すと、席を立つ。

 

「それでは今日の所はこの辺で失礼するとしよう。早くマイスターにこの銀耀石を渡したいからな」

 

 ブルブランは意気揚々とした足取りで会計を済ませて出て行った。

 

「リィン君……どうするの?」

 

「いや……どうするって言われても……」

 

 取り残されたトランクケースを前にリィンは途方に暮れる。

 ポンっといきなり手に入った大金。

 リィンは貴族の養子だが、シュバルツァー男爵家でそれだけの金額のミラを見たことはない。

 

「《黒の競売会》のことよりも、まずこれをどうにかしないと……」

 

「普通に実家に送るのはダメなの? 領地の運営資金とかにすればいいんじゃないかな?」

 

「いや、たぶん父さんは受け取ってくれません」

 

 その様子を簡単に想像できてしまいリィンは悩む。

 

「だったらとりあえず銀行の口座でも作って預けるのが無難じゃないかな?」

 

「そうですね……とりあえずそうしておくのがいいですかね」

 

「それにしても一千万ミラか……それだけあったら釣り竿もスニーカーも新調できるけど、リィン君は何か欲しいものはないの?」

 

「俺は特に思いつくものは――あ……」

 

 一つだけ、この一千万ミラの使い道を思い付いた。

 

 

 

 

「毎度、カプア特急便です」

 

 ジョゼット・カプアはその日、グランセル城に来ていた。

 

「はいこれ、リィンからお姫様にって」

 

「リィン君からですか?」

 

 渡された小さな小箱と添えられた手紙にクローディアは首を傾げる。

 

「えっと……」

 

『クロスベルで白ハヤブサが刻まれた金耀石でできたリベール王家の指輪を見つけたので贈ります……

 本物だとは思いますが、そちらで鑑定してみてください。リィン・シュバルツァー』

 

「…………え?」

 

 クローディアは慌てて小箱を開いて中の指輪を確かめる。

 

「うわ……もしかしてそれって本物?」

 

 その手元を覗き込んだジョゼットはクローディアに尋ねる。

 

「え……ええ……おそらく……」

 

「何でリベール王家の指輪がクロスベルに流れているのさ?」

 

「実はクーデター事件の前にデュナン公爵の放蕩が過ぎて手放してしまったそうなんです……

 買い戻すために探していたんですが、こんな形で戻って来るなんて……よかった……おばあ様に早く知らせないと、ジョゼットさんすいません。失礼します」

 

「あー……うん。女王陛下によろしくね」

 

 ジョゼットに見送られてクローディアはアリシア女王の下に急ぎ、王家の指輪が戻ってきたことを伝える。

 その場にはカシウスもいて――

 

「ふむ……何も言及していないのならここでミラのことを持ち出すのは無粋でしょう……

 どうですかね、女王陛下?

 実は私の手元にはかつてユン老師がカルバードの秘境で拾ったという七耀石の結晶がありましてね……

 ざっと見積もっても一千万ミラ相当の結晶だと思うので、指輪を買い戻した金額には足りるでしょう。それを御礼としてリィン君に贈るのは?」

 

 

 

 …………………

 ……………

 ……

 

「かはっ……」

 

 後日、返礼の品として贈られてきた七耀石の結晶にリィンは思わず胃を押さえて蹲った。

 

 

 




 知る人ぞ知る小ネタ
 リベール王家の指輪。
 零1章アルモリカ村から戻った後に裏通りのアンティークショップ・イメルダで、イメルダとの会話に出てくるものです。
 白ハヤブサが刻まれた指輪でリベール王家のデュナン公爵が放が過ぎて手放したものらしいです。



 いつかの帝都ヘイムダルIF

 宝飾店《サン・コリーズ》

 スタッフ一同整列して
「「「いらっしゃいませ、リィン・シュバルツァー様」」」

エリオット
「ええええええっ!?」

フィー
「すごいVIP待遇」

ラウラ
「うむ……私たちは盗難事件について聞きに来たはずだったのだが」

マキアス
「貴族か、やはり成金の貴族だったのか!?」

リィン
「あ……あはは……」




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