(完結)閃の軌跡0   作:アルカンシェル

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128話 命の――日

 

 

「あった……」

 

 広大な共同の墓地の中からその墓石を見つけてひとまずリィンは安堵する。

 《レニ・ヘイワース》

 刻まれた享年から見てもほぼ間違いないだろう。

 

「それにしても……」

 

 リィンも経験があるが、生きている人の墓石を見るのは複雑な気分だった。

 ユミルに帰ったあの時はリィンの墓石を見てレンは茶化していたが、果たして彼女はこの墓石を見たら何と言うだろうか。

 

「どうするかな……」

 

 物を確認してリィンは改めて考える。

 レンは両親が忘れようと言っていたと主張している。

 だが、ハロルドはわずかな目撃証言だけでリベールに来たり、遺体がないにも関わらず墓を作っている。

 それにまだ墓参りの形跡はないが、手入れが行き届いた様子から考えると定期的に訪れていることは分かる。

 レンが聞いた言葉は何だったのか、ハロルドは何を思っているのか。

 《識》の力を持ってしても人の心まで見通すことはできない。

 

「それが君が探していた人のお墓かい?」

 

「ロイドさん……どうしてここに?」

 

「兄貴の墓参りだよ……あの時の指輪のことを報告しにね」

 

 落ち着いた様子で答えるロイド。

 あの日を境にロイドは新米警官という初々しい雰囲気は薄れ、腰が落ち着いたような安定感を見せるようになった。

 

「それに改めてリィン君には御礼が言いたくてね」

 

「御礼なんて良いですよ。本当なら見て見ぬ振りをするはずだったんですから」

 

「そうなのか……それはリィン君らしくないように思えるけど、どうして?」

 

「ルフィナさんに言われたんです……

 何でもかんでも手を伸ばしていたら、本当に大事なものを前にした時、それを掴めなくなってしまうって……

 実際に俺がガイさんにできることなんてありませんでしたから」

 

 指輪の件もリィンがそれを受け取ったところで、うまく説明して渡せたかは怪しいものだ。

 ロイドがいたからこそ得られた最良の結果であって、彼が疑うことなくリィンの話を信じてくれたからこそ丸く治まったに過ぎない。

 

「まあ、確かにどれだけ凄い力を持っていても一人でできることは限界があるだろうな……

 兄貴もきっと一人で全部抱え込もうとして、死んじまったんだと思う……

 もしもアリオスさんが警察に残っていてくれていればそんなことにはならなかったはずだって思うし」

 

「アリオスさんか……」

 

 ジオフロントで見た彼の姿を思い出す。

 未だにレミフェリア公国への出張から戻ってきていないため、詳しい話を聞けないが何か良くないことに関わっているとしか思えない。

 

「ところで体の方は大丈夫なのか? 幽霊に体を使われたのもそうだけど、兄貴の想念越しとはいえだいぶ好き勝手に叩いたけど……」

 

 あの別れの直後、ガイの想念から解放されたリィンだったが消耗が激しかったのかすぐに倒れてしまった。

 あの時は無我夢中だったが、改めて思い返すと本当に申し訳なく思う。

 

「ええ、大丈夫ですよ。慣れてますから」

 

 慣れてる。その一言で済ませるリィンにロイドは何とも言えない表情を作る。

 

「リィン君がそれでいいならそれでいいけど……それで目的のお墓が見つかったのに浮かない顔をしているけどどうしたんだ?」

 

 話題を戻すような問いかけにリィンはすぐに答えず、空を仰ぐ。

 ヘイワース家が墓参りをするということで、もしかしたらと思って探してみた結果は予想通りだった。

 

「いや……まあ実際にあったから今後、どう動くか考えているんです」

 

 ヘイワース家を見つけてから何度かレンを誘って訪ねようとしたことがあるのだが、レンはあからさまに話題を逸らしたり、グノーシスの情報を小出しにしてそこから逃げる。

 真実を確かめることに臆病になっていることは分かるのだが、このままでは何の進展もないままに時間だけが過ぎてしまうだろう。

 そしてこのことに関しては頼りになるルフィナの助力は望めない。

 責任を持って自分の力だけで解決しなさいと、ありがたい御言葉を貰ってしまった。

 

「どう動くって……その子の幽霊に何かを頼まれたんじゃないのか?」

 

「やっぱりそう思いますよね……だけどそうじゃないんです。この子はまだ生きているんです」

 

「え……?」

 

 意外な答えにロイドは目を丸くして、墓石に刻まれた名を読む。

 

「レニ・ヘイワース……もしかしてレンちゃんが?」

 

「鋭過ぎないですかロイドさん?」

 

 自分とレンが人形工房で世話になっていることを知っているロイドはあっさりと真実を言い当てる。

 

「ジオフロントに一緒に降りた時に、まったく物怖じしなかったから普通の女の子じゃないっとは思っていたんだ。だけど、そうかハロルドさんの娘さんだったのか……」

 

 レンの抱える事情を想像してロイドは呟く。

 

「レンは捨てられて、その後に忘れようという両親の言葉を聞いているんです……

 だけど、実際はこうしてお墓があったり、死んだはずのこの子の目撃情報だけでリベールに来たりしていたんです」

 

「そうか……」

 

 ハロルドの心情を想像することはできる。

 だが、それも絶対ではない。

 

「リィン君はどうしてここを調べようと思ったんだ?」

 

「……先週の木曜日にちょっとした事があって、ハロルドさんが今週にお墓参りをすると聞いてしまったんです」

 

「先週の木曜日……みっしぃの日か」

 

「ぐふっ」

 

 ロイドが漏らした呟きにリィンはお腹を押さえて蹲る。

 みっしぃの日。

 それはクロスベルで生きたみっしぃが確認されたことから記念日に認定するか議論が交わされている新しい祝日の名称。

 その真実を知っているリィンからするとやめてくれと叫びたいのだが、声を上げることができない案件でもある。

 

「どうかしたのか?」

 

「な、何でもありません。それでそれがどうかしたんですか?」

 

「……お墓を見た限り、まだそのハロルドさん達が来た形跡はない。ならばできることはある」

 

「できることですか? それは俺も考えましたが、ハロルドさん達がいつ来るか分からない以上あまり現実的ではないと思います……

 それにレンはハロルドさん達を避けていますから」

 

「そこは俺に任せてくれるかな? 何と言っても張り込みは警察官の得意分野だからな」

 

 

 

 

「パパ、ママっ! はやくはやくっ!」

 

 黒い服を着た男の子がはしゃいだ様子でその家から飛び出して、両親を呼ぶ。

 

「こら、コリン。良い子にしなさい」

 

 困った顔をして窘めるのは赤い髪の女性、ソフィア・ヘイワース。

 子供の様子から見ると、父親の休日のお出かけとも取れるが、両親もまた男の子と同じように黒い服を着込んでいる。

 ただのお出かけだと思って楽し気な子供に対して、二人の様子は何処か沈んでいる。

 その服の色の意味と、彼らの表情を見れば自ずとその目的は分かる。

 

「それじゃあ行こうか」

 

「はい……」

 

 ハロルドは緊張した面持ちの妻を促して歩き始める。

 直接、共同墓地に行くのではなく花でも買いに行くつもりなのか、クロスベル市街の方へと向かっていく。

 その背中を二人の少年が見送り、金髪の少年が通信機を取り出した。

 

「こちら金みっしぃ、ホシが動き出しました。今日が例の決行日と見て間違いないでしょう。オーバー」

 

「こちら水みっしぃ、了解……市街での尾行は赤みっしぃと銀みっしぃが引き継ぎます……

 二人は尾行に気を付けて速やかに本部に帰投せよ。オーバー」

 

「了解、通信終了」

 

「クリス……」

 

 真面目な顔をしながらも、何処か楽しんでいる様子のクリスにクルトは肩を竦める。

 

「普通に報告すればいいのに、だいたい僕達に尾行する相手もいないと思うんだが」

 

「そう言わないでよ。せっかくコードネームも決めたんだし、クルトだって一度くらいはこういうことをやってみたいって思ったことくらいはあるだろ?」

 

「それは……まあ……」

 

 帝国で言えば憲兵隊。

 悪者を尾行してそのアジトを突き止めて一網打尽などはよくある物語のネタでもある。

 もっとも、自分たちが張り込んでいた相手はマフィアでも阿漕な貿易商でもない、善良な一市民でしかない。

 そんな善良な市民に張り込みをしていた理由は――

 

「こんなことで本当にリィンさんの役に立っただろうか?」

 

「難しく考え過ぎだよクルト――いや青みっしぃ」

 

「その呼び方はやめてくれ」

 

 

 

 

「レン……今日、俺はハロルドさん達と会うよ」

 

 繋がった通信に応える声はない。

 しかし、リィンは構わずに続ける。

 

「前に言った通り、ハロルドさん達は《レニ・ヘイワース》のお墓参りをするつもりでいるはずだ……

 君が聞いた言葉と矛盾している行動だ……

 たぶんこのタイミングを逃したら聞き出すことはできないと思うから俺は行くよ」

 

 やはり返事はないが、荒い息遣いは通信越しでもよく分かる。

 

「もしも勇気が出せたなら、テーブルの上に《レニ》のお墓の位置を書いたメモを置いて来たから、来てくれ……それじゃあ……行ってくるよ」

 

 結局最後までレンは何も話すことはなかった。

 

 

 

 

 

「おや……君は……」

 

 ハロルドは共同墓地の前で見覚えのある少年とばったりと会った。

 

「……お久しぶりです。ハロルドさん」

 

「あ……ああ、そうだね……えっと……」

 

 リベールで出会った遊撃士の少年。

 娘によく似た女の子のことを教えてくれた少年だとすぐに思い出せたが、名前が出て来ない。

 

「リィン・シュバルツァーです。あの時はどうも」

 

「……あなた、あの時って? それにリィン・シュバルツァーって確か遊撃士協会の新人さんでしたよね?」

 

 口ごもるハロルドにソフィアは首を傾げる。

 アリオス・マクレインの弟弟子と、一躍有名になっているリィンと夫の繋がりに不安を感じてしまう。

 

「御安心くださいマダム。決して彼が犯罪に手を染めて事情聴取に来たわけではありません……

 今回は遊撃士としてではなく、個人的な理由で、そもそもハロルド氏と会うことが目的で自分はクロスベルに来たようなものですから」

 

「あ……はい……」

 

 ソフィアから見ればまだまだ年若い少年が、気品を感じさせる柔和な笑みに毒気を抜かれるようにリィンの存在を受け入れる。

 

「……ソフィア、コリン。すまないが先に行っていてくれるか?」

 

 妻とリィンが話している間に何とか平静を取り戻したハロルドは何とか絞り出すように二人を促す。

 腑に落ちないものを感じながらもソフィアはそれに従って、コリンと一緒に霊園を歩き出す。

 

「こんな日にすみません。ただこの日でないとあの時の質問に答えてくれないと思って」

 

「あの時の質問か……私も君には実は聞いておきたかったことがあったんだよ」

 

「俺に聞きたいこと?」

 

 冷静さを取り戻したハロルドの意外な切り返しにリィンは聞き返す。

 

「君は確か、捨て子だったんだよね?」

 

「ええ……吹雪の雪山に捨てられたところを今の父に拾われて育てられました」

 

「雪山……それは良く生きていたものだね」

 

 想像を超えて壮絶だった生い立ちにハロルドは絶句する。

 

「ハハ、まあそのことに関しては少し文句を言いたいですけどね、それで?」

 

「あ……ああ……君は君を捨てた両親を恨んでいないのかな?」

 

「俺を捨てた両親ですか……」

 

 半ば予想できた言葉をリィンは繰り返す。

 ハロルドは不安に満ちた表情でリィンの答えを待つ。

 

「特に恨んだことはないですね」

 

「本当かい?」

 

「貴方の御息女と比べると、俺は普通の子供ではありませんでした……

 だから捨てられたのは当然だと思っていました。正直、恨んでいるというよりも普通の子供として生まれて来なかったことに申し訳ないと思っていたくらいです」

 

「それは君のせいではないんじゃないか?」

 

「ええ……でも、思い出せた言葉があるんです……

 その言葉には確かに俺への愛情があって、何か複雑な事情があったんだと今は思えます」

 

「そう……ですか」

 

「ハロルドさんが聞きたいこととは違うと思いますが、貴方はどうなんですか?」

 

「どう……とは?」

 

「結果的に捨ててしまった御息女に貴方は何か残せなかったんですか?

 それとも御息女の事は不幸な出来事だったと済ませて、あんな空っぽなお墓を作って勝手な理由で自分たちを慰めているだけですか?」

 

 リィンの罵倒とも聞こえる質問にハロルドは俯いてしまう。

 はっきり言えば部外者であるリィンに言われる筋合いはないと、ハロルドは拒絶することができた。

 しかしそんなことを微塵も考えず、ハロルドはむしろありがたいと言わんばかりにリィンの言葉を受け止める。

 

「今日この日に君が会いに来てくれたのは、もしかしたら女神の導きかもしれないですね」

 

 その言葉にリィンは少しだけ罪悪感を覚える。

 たまたま彼らの墓参りを知り彼女の墓石を確認し、特務支援課の手を借りてこの偶然を演出してみせた。

 ハロルドにとっては偶然でも、リィンにとっては必然の再会。

 もっともそれをおくびに出さずに穏やかな顔になったハロルドの言葉の続きを待つ。

 

「聞いていただけますか、私たちが犯した罪を……」

 

 そうしてハロルドの懺悔が始まった。

 かつてヘイワース家には女の子の娘がいた。

 八年前、駆け出しの貿易商だったハロルドは拡大するクロスベルの市場で大きな失敗をしてしまい、多額の債務を負うことになった。

 幼い娘を連れながら債権者に追われる日々に限界を感じたハロルドは旧い友人に娘を預けて、債務を整理することに全力を費やした。

 死に物狂いに働いて、一年で多大な借金は返済することに成功し、娘を迎えに行ったがそこには焼けた家屋しかなかった。

 どんな悪魔の偶然か。

 当時、共和国方面で頻発していた放火強盗事件に友人宅も被害にあった。

 友人の家族はもちろん、預けていた娘も火事で全員が亡くなった。

 何にも替えがたい大切な宝物を永遠に失い、借金を返せた達成感さえも虚しく徒労に感じた絶望に、夫妻二人で心中をしようかとも考えた。

 しかし、妻がコリンを……あの子の弟を身篭っていたことで踏み止まることが出来た。

 その事実で生きる気力を取り戻し、少しづつ立ち直ることができた。

 

「最初はただコリンの存在を理由に私たちは目を逸らしていたんです……

 自分たちの不甲斐なさのせいで娘を亡くしてしまった痛みから逃げていたんです」

 

「…………そんな事があったんですか……」

 

「ですが、あの子が大きくなり、娘の面影を次第に見せるようになるにつれて……

 いつしか私たちは罪悪感に苛まれるようになりました。あの小さな手を手放さなければよかった……

 苦しくても、辛くても親子で一緒にいればよかった……

 そんな後悔ばかりするようになっていったんです」

 

「それは仕方がないかと思います。仮に貴方達と一緒だったとしても不幸な事故が起きなかった保障なんてないんですから」

 

「確かにそうですね……でも今は少し考えを改めたんです……

 コリンを授かることができたのは亡き娘と女神が導いてくれたから……

 だからこそ私たちの一家は絶対に幸せにならなくてはならない。それが娘に報いる事ができる唯一の方法なのだと……

 身勝手なのは百も承知しているんですが」

 

「それじゃああのお墓は?」

 

「リィン君が言った通り、中身のない空っぽのお墓です……

 自己満足だとは分かっていても、あの子が生きた証をちゃんとした形で残しておきたいと思ったんです」

 

「その気持ちは少し分かります……俺も……俺のせいで死なせてしまった子がいますから」

 

「そう言ってもらえると心が軽くなります……

 実は今日はあのお墓を作って一年になるんです……

 実際の命日も調べれば分かるんですがそれをする気にもなれなくて……そもそも一ヶ月に一度は必ず来ていますから」

 

「そうだったんですか」

 

「それでリィン君。改めて聞いて良いですか?」

 

「まだ俺に聞くことが?」

 

「ええ……私の話を聞いて、君の率直な気持ちを教えてもらえないでしょうか?」

 

「……御息女の代わりに……ですか?」

 

「そう取ってもらって構いません……

 こんなことを言うのは変だと思いますが、私には君があの子が遣わしてくれた代弁者に思えてならないんです」

 

「はは、そんなまさか」

 

「それにコリンも先日不思議なことを言っていたんです」

 

「不思議なことですか?」

 

「ええ、リィン君も知っていると思いますが、先週みっしぃが現れた時、コリンはみっしぃを追い駆けて街道に出てしまったんです」

 

「……え……?」

 

「その時、コリンはスミレ色の髪のお姉ちゃんがみっしぃを助けるのを見たと言っていたんです……

 他の子供たちは見ていないと言っている中で、コリンだけがそう言っていて……亡くなった娘も私と同じスミレ色の髪をしていたんです」

 

「そ……そうですか……」

 

 内心で冷や汗を掻きながらリィンは誤魔化すように笑う。

 

「まあ、話してもらった手前、構いませんが」

 

 咳払いをして意識を切り替える。

 その変化した雰囲気にハロルドは気を引き締め、どんな罵倒も受け入れるという覚悟を固める。

 むしろそれを望んでさえいるハロルドの顔にリィンは苦笑する。

 

「それなら……言わせてもらいます」

 

 佇まいを直してリィンは改めてハロルドに向き直る。

 

「わたしはあなたたちを許さない……」

 

「っ……ああ」

 

「だから、ちゃんと幸せになって……そしたらいつか女神の元で会える日が来るかもしれないから」

 

「…………ああ……そうだな」

 

 泣きそうな顔でハロルドはその言葉に頷く。

 

「パパーッ!」

 

「少し長く話し過ぎてしまいましたね」

 

 ハロルドを呼ぶ、コリンの声にリィンは振り返る。

 

「そうですね……」

 

 それに釣られて視線を移したハロルドは我が子の元気な姿に今の幸せを噛み締める。

 

「そうだ……リィン君はこれから時間はありますか? もし良ければ君にもレニを紹介させてもらってもいいかな?」

 

「いえ遠慮しておきます。奥方にはリベールに行ったことは内緒にしておきたいんですよね?

 なら、ここで別れた方が良いでしょう」

 

「……お気遣いありがとうございます」

 

 ハロルドはリィンに頭を下げる。

 

「こちらこそ、ありがとうございました」

 

 リィンもまた頭を下げて、ハロルドに背を向けて歩き出す。

 そのまま霊園の出口に向かわずに、リィンは区画を回り込む。

 

「レン……」

 

 ハロルド達から死角となる場所にレンは膝を抱えて、スカートに顔を埋めていた。

 

「…………勝手なことし過ぎよ……リィン……」

 

 そのままの姿勢でレンは涙の気配がする声で非難する。

 

「そうかな? 何だったら今から訂正に行こうか?」

 

「…………」

 

 リィンの言葉にレンは沈黙を返す。

 そんなレンの態度にリィンは苦笑する。

 

「そういえばレン、この間のお詫びに一つだけなんでも言うことを聞いてくれるんだったよな?」

 

「そうだけど、ここで?」

 

「ここで、ではないけど、誕生会でもやらないか?」

 

「誕生会……?」

 

「あの人達にとっては今日がレニ・ヘイワースの命日だけど、それならレンの誕生日でもあるだろ?

 準備をしたいから日を改めるとして、できればアネラスさんやティータ、それにレーヴェも呼んで盛大にお祝いしようかと思うんだ……

 エステルさんには1アージュ以内に近づけないとか暗示を掛けることを参加条件にしてもいいからさ」

 

「…………フフ……それは楽しそうね」

 

 リィンの提案にレンは顔を上げて、涙をにじませた顔で笑って立ち上がる。

 その笑顔は年相応に晴れやかな無垢な笑顔だった。

 

 

 

 





 その後 ダイジェスト

マクバーン
「よう、来てやったぜ」

ヴァルター
「何だ酒はねえのかよ」

シャロン
「御自重くださいヴァルター様。今日はレン様の誕生会なのですから」

ヴィータ(グリアノス越し)
「というか、何で貴方達まで来るのよ。確かに私が仲介したけど執行者はもっとドライな関係だったはずよね?」

アリアンロード
「それはやはりリィンの人徳というものではないでしょうか?」

ブルブラン
「はは……違いない」

ティータ
「レンちゃんお誕生日おめでとうっ!」

エリカ
「くっ……話には聞いていたけど確かに可愛いじゃない」

アガット
「元気そうじゃねえか……ま、俺はティータ達の付き添いだけどな」

リシャール
「やあ、レン君。久しぶりだね。出張のついでに立ち寄らせてもらったよ」

アネラス
「レンちゃん久しぶりっ! ぎゅ~っ!」

エステル
「ぐぬぬっ……」

レーヴェ
「すまなかったなレン。あの時俺が真実を追及していれば、こんな回り道をさせずに済んだというのに」

ヨシュア
「ねえ、リィン君……どうしてレーヴェに近づけない暗示を僕にも掛けているのかな?」

リース
「ケビンは来れませんでしたが、その分も含めて私が祝福に来ました……もぐもぐ」



レン
「なによみんなして……ばかみたい……」







 おまけ

リィン
「会場の場所代と料理。それからレンへのプレゼント……
 それに協力してくれた支援課の人達は参加を辞退したけど、代わりにミシュラムのレストランを予約しておいた……
 よし。これで紅耀石の代金は使い切った」

アネラス
「そういえば弟君、カシウスさんから指輪の御礼でこんなものを預かったんだけど……
 昔、お祖父ちゃんがカルバートを旅していた時に見つけた七耀石の結晶なんだって」

リース
「リィン君。遅れましたがこちら、アルテリア法国からの謝罪の品になります。何でも昔、女神の聖獣に頂いた七耀石の結晶だとか……
 これを友好の証として、そして七耀教会が貴方にしたことを不問にしていただきたいそうですので、どうかお納め下さい」

リィン
「………………」

 呆然とするリィンの肩をブルブランは良い笑顔を浮かべて叩くのだった。





アリサ
「あ…………あの、ヨシュアさん。あの時はありがとうございました」

ヨシュア
「君は……ツァイスで会ったアリサ・ラインフォルトさんだったね……
 ごめんね。あの頃は立て込んでいて君が送ってくれた手紙の返事を返せなくて」

アリサ
「い、いえ……そんな……」

シャロン(隠形中)
「お嬢様、頑張ってください」



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